イアン・ボストリッジの、歌詞の裏の内容まで突き詰めた表現による
知られざるバロック・アリア集
オペラはルネサンス末期にフィレンツェで生まれ、バロック期にヴェネツィアで発展し、ナポリへと移って行きました。悲劇的オペラも多いにせよ、バロック後期にはオペラ・セリアというジャンルが確立されていきました。ここに収録された作品は、ナポリでのそれ以前の悲劇的なオペラからのものを中心としています。数多くのロマン派のリートなどで、その歌詞の裏の内容まで突き詰めた表現を表すボストリッジですが、かなり前よりモンテヴェルディの『オルフェオ』や、ヘンデルやバッハの作品、18世紀のテノール歌手たちのためのアルバムなど、時代をさかのぼった作品へも興味を抱き挑戦しています。
「イタリアのテノール」の現代的な認識は、19世紀から20世紀初頭のオペラと演奏の実践によって形成されていますが、ボストリッジは、このアルバムに収録されているアリアのような、17世紀半ばから18世紀半ばにかけてのイタリアのオペラもまた、テノールにとって重要な位置であると示しています。これは、カストラートの時代とよく似た関係にあると考えられています。イタリア・オペラの「重心」が、そのジャンルの起源であるヴェネツィアからナポリに移ったのはこの時でした。またナポリ楽派のオペラは、その基礎がシチリア生まれのアレッサンドロ・スカルラッティ[1660-1725]にあるとされていることが多く、18世紀の間に非常に影響力を持つようになりました。ナポリで多くを学んだ指揮者リッカルド・ムーティは「モーツァルトは確かに天才ですが、ナポリ楽派がなければ、それは無かった。まったく異なる才人です」と述べています。
ボストリッジは、約10年ぶりのバロック作品のソロ・アルバムということで、歌詞の内容や、当時の歌唱法や表現法、楽譜の研究をおこなうにあたって、歴史に埋もれた知られざるイタリア、ナポリのバロック音楽を追い求め続けるアントニオ・フローリオと長い時間をかけてリハーサルを行っています。フローリオ率いるピリオド楽器アンサンブル「カペラ・ナポリターナ」をバックに、新たなナポリ・バロック探求そして発展をたどったアルバムとなっています。(輸入元情報)
【収録情報】
● アントニオ・サルトリオ:歌劇『オルフェオ』〜シンフォニア
● フランチェスコ・カヴァッリ:歌劇『エリオガバロ』〜Io resto solo?...Misero, cosi va’
● アレッサンドロ・ストラデッラ:歌劇『コリスペロ』〜Soffrira, sperera
● アントニオ・チェスティ:歌劇『イル・ティート』〜Berenice, ove sei?
● アントニオ・チェスティ:歌劇『アルジア』〜シンフォニア
● クリストフォロ・カレザーナ:歌劇『信仰の冒険』〜Tien ferma Fortuna
● フランチェスコ・プロヴァンツァーレ:歌劇『復讐のステッリダウラ』〜Deh rendetemi ombre care
● フランチェスコ・プロヴァンツァーレ:歌劇『妻の奴隷』〜シンフォニア
● フランチェスコ・プロヴァンツァーレ:歌劇『妻の奴隷』〜Che speri o mio core
● ジョヴァンニ・レグレンツィ:歌劇『トーティラ』〜シンフォニア
● レオナルド・ヴィンチ:歌劇『ペルシア王シローエ』〜Se il mio paterno amore
● レオナルド・ヴィンチ:歌劇『ペルシア王シローエ』〜Gelido in ogni vena
● ニコラ・ファーゴ:オラトリオ『水に沈んだファラオーネ』〜シンフォニア
● ニコラ・ファーゴ:オラトリオ『水に沈んだファラオーネ』〜Nuove straggi e spaventi
● アントニオ・ヴィヴァルディ:歌劇『ファルナーチェ』〜Gelido in ogni vena
● 作者不詳(ナポリ民謡):ル・カルディロ
イアン・ボストリッジ(テノール)
カペラ・ナポリターナ(ピリオド楽器アンサンブル)
アントニオ・フローリオ(指揮)
録音時期:2020年9月
録音場所:ナポリ、カリタ
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)