最近、私は「Never Too Much」と「Forever, For Always, For Love」ばかり聴いている。個人的にこの2枚はルーサーの最高傑作だと信じている。ソロになってからの初のリーダー・アルバムとなる「Never Too Much」。この作品から放出されるルーサーのエネルギーは尋常ではない。80sR&Bの持つワクワクするような高揚感のあるメロディ、ルーサー節と呼ばれる抑揚のある歌い方、そして後も長い付き合いを続けたMarcus Millerの跳ねるベースとNat Adderley Jrの美しいキーボード、全てが見事に溶けあい、聴くものを幸福感200%にさせてくれる。
82年の「Forever, For Always, For Love」もルーサーの代表作の1枚だ。「Never...」同様、ルーサーは全曲セルフ・プロデュースをしており、アレンジ、ミキシングまで手がけている。完璧なバック・サポートを得て完成したこのアルバムは、ライトなミディアム・ダンサーな曲からお得意のバラード・チューン、さらにはSam CookeやTemptationの名曲でさえも、鮮やかな魔法のようにルーサーはモノにしてしまっている。
Luther Vandrossは日本では想像つかないほど、アメリカではトップ・スターであり音楽シーンに多大な影響を与えたアーティストとして認知されリスペクトされている。彼は今までグラミー賞を5回受賞、“最優秀男性R&B ヴォーカル・パフォーマンス”部門にて"Here And Now"(R&Bチャート1位 /全米ポップス・チャートTop 10)、"The Power Of Love /Love Power"、"Your Secret Love"で3回受賞。両面シングル"The Power Of Love /Love Power"で“最優秀R&B楽曲”部門にて2曲分受賞している。2000年にはBET (=Black Entertainment Television) の特別賛辞で殿堂入りし、賞賛に値するコンサート活動を褒め称えられた。
ショウは毎年ソールドアウトとなる程の高い評価を受けている。そして何といってもルーサーは「発売した13枚のアルバムがプラチナ・ディスクを獲得した、初のアフロ・アメリカン系男性ヴォーカリスト」なのである。また、Janet Jacksonとのデュエット"The Best Things In Life Are Free"や、Mariah Careyとのデュエット曲"Endless Love"などでもわかるように、トップ・アーティストたちがこぞって共演のオファーを望む数少ないシンガーの1人だ。
1975年ルーサーは自身のヴォーカル・グループ、Lutherを結成、アトランティック・レーベル傘下のコチリオン・レコードから76年の「Luther」、77年の「This Close To You」の2枚のアルバムを発表しているが、こちらもオリジナル盤はかなりの高値で取り引きされている(このLutherでのアルバムは後に彼自身、まだCD化の時期は様子を見ているとインタビューに答えていた)。
86年「Give Me the Reason」から"Stop to Love"がポップチャートでも大ヒット。続くGregory Hinesとのデュエット"There's Nothing Better Than Love"スマッシュ・ヒットとなった。
88年「Any Love」発表。タイトル曲がシングルヒット。89年2枚組ベスト「The Best of Luther Vandross」をリリース。全米でダブル・プラチナを記録する一方R&Bトップ10シングル"Here And Now"が生まれた。この曲でルーサーは初めてのグラミーを最優秀R&B男性シンガーで受賞。
翌年アルバム「Power of Love」がシングル"Power of Love"とともに大ヒットとなり、この年のグラミーで最優秀R&B男性シンガーの他最優秀R&Bソングも受賞した。
91年9月から92年1月までLisa FisherとSounds Of Blacknessと共に全米ツアー。NYのマジソン・スクエア・ガーデンを4夜ソールドアウトにしてトータルで1500万人という驚異的なオーディエンスを動員。
93年「Never Let Me Go」(愛はミラクル)リリース。94年初の全曲カバー・アルバム「Songs」発表。95年にはクリスマス・アルバム「This Is Christmas」、96年「Your Secret Love」を発表。
コンスタントにアルバムを発表する傍ら、ルーサーはソウル・トレイン・ミュージック・アワードのホストを勤め、Janet Jacksonとのデュエット"The Best Things In Life Are Free"がトップ10入り。
93年夏にはロバート・タウンゼンドの映画「The Meteor Man」ではついに俳優でもデビューした。
最近のルーサーは、酒もタバコもせず、次の日にステージがある日は極力パーティーにも出席しない程、咽に細心の注意を払っていたという。しかし天はルーサーを見放してしまったのだろうか、2003年6月にリリースする最新アルバム「Dance With My Father」の発表を前に、4月16日脳卒中で倒れ、治療のため歌手の命である気管切開を余儀なくされた。2003年5月13日現在未だに意識不明の状態が続いている。