今もイギリスの国民的歌手として幅広い人気を誇るロッド・スチュアート。サッカーとブロンド娘をこよなく愛し、米国の豪邸でスーパースター・ライフを送る、という彼のパブリック・イメージとともに...いやそれ以上に彼の個性を強烈に印象づけるのが、ほかでもない彼の声質そのものだ。それほどの音楽ファンではなくとも、TVCFなどでロッドの歌声を聴いたことがある人は結構多いだろうと思う。名前は知らなくても歌声を聴いてもらえれば、あぁあの人か、と思ってもらえるのではないだろうか。それほど彼のハスキーでセクシーな歌声は特徴的であるし、またファンに心底愛されている声なのである。

1945年にロンドンのスコットランド系の家庭に生まれたロッド・スチュアートは、中学時代にサッカー選手を目指しプロのサッカー選手として契約。しかしながら出番の殆ど皆無だった彼は、ベンチを暖めることに飽き、フォーク・シンガーのウィズ・ジョーンズと知り合い、ヨーロッパ中を二人で歌いながら放浪するという生活を送った。その後イギリスに強制送還されたロッドはR&Bクラブに顔を出したりしながら、ジミー・パウエル＆ファイヴ・ディメンションズ、ロング・ジョン・ボールドリーのフーチー・クーチー・メンなどに参加した(ロッドはハーモニカやヴォーカルなどを担当)。その後はフーチー・クーチー・メン解散後に出来たスティームパケットを経て、ショットガン・エクスプレスに参加、そしていよいよ1967年には元ヤードバーズのジェフ・ベックが結成したジェフ・ベック・グループにヴォーカリストとして参加し、名声を得ていくのだった。1969年6月までロッドはジェフ・ベック・グループで歌っていたが、その頃にソロ・シンガーとしての契約をマーキュリーと結んでいる。間もなくジェフ・ベックがベック・ボガート＆アピス結成の構想を持っていたため、ジェフ・ベック・グループは解散。ロッドは仲間のロン・ウッドとともにスティーヴ・マリオットの抜けたスモール・フェイセズに加入。フェイセズと改められたグループの看板シンガーとして、ソロ歌手として活躍した。結果的にソロとしての人気のほうが高かったロッドは1975年に税金対策のためイギリスを離れロサンゼルスに移住(アメリカ市場を中心に考えた彼のブレインの策でもあった)。活動停止を余儀なくされたフェイセズはその年の暮れに解散となり、以降ロッドはソロ一本で大きな成功を収めていくことになった。

ロッド・スチュアートのような苦みばしったヴォーカルに影響を受けたアーティストとしては、ブライアン・アダムスやジョン・クーガー・メレンキャンプ辺りの名前が挙がりそうだ。勿論二人ともブルース・スプリングスティーンの影響も強いだろうが、アメリカン・ロック的な志向性とロッドのヴォーカリゼイションのマッチングの良さも考えると、これもないわけではないだろう。またロッドというより、ルーズなＲ＆Ｒテイストを得意としたフェイセズ的な音楽性も込みで影響を受けているグループとしては、ブラック・クロウズなども挙げられるかもしれない。また日本でいえばレッド・ウォーリアーズ解散後のダイアモンド・ユカイのソロにはヴァン・ヘイレン脱退後のデイヴ・リー・ロスと ロッド・スチュアートを混ぜたような個性があって興味深かったことも付け加えておこう。

ロッド・スチュアートのバラードでの情感たっぷりの苦みばしった味、そしてロックンロールを肌で感じ取っているかのような動物的な勘を伴った瞬発力あるヴォーカル、生涯一シンガーとして生きるかのような存在感は、ロック界の中でも独特の個性として光り輝いている。