トップ > 音楽CD・DVD > ニュース > クラシック > 「ベルリン・フィル・ラウンジ」第19号:ハーディング&J・ヤンセンのダブル・インタビュー公開!

「ベルリン・フィル・ラウンジ」第19号:ハーディング&J・ヤンセンのダブル・インタビュー公開! ベルリン・フィル・ラウンジへ戻る

%%header%%閉じる

%%message%%

2010年4月7日 (水)

ドイツ銀行 ベルリン・フィル
ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

エクサン=プロヴァンス音楽祭の《神々のたそがれ》全曲が、デジタル・コンサートホールで試聴可能に
 2009年エクサン=プロヴァンス音楽祭で上演されたワーグナーの《神々のたそがれ》全曲が、デジタル・コンサートホールでご覧になれます。これはサー・サイモン・ラトルとベルリン・フィルの演奏によるもので、演出はフランスのステファヌ・ブラウンシュヴァイクが担当。歌手にはカタリーナ・ダライマン(ブリュンヒルデ)、ベン・ヘップナー(ジークフリート)、ミハイル・ペトレンコ(ハーゲン)、アンネ=ゾフィー・オッター(ワルトラウテ)が揃っています。ベルリン・フィルのゴージャスな音響は、《ワルキューレ》のDVDでも絶賛されましたが、ここでは後期ワーグナーのオーケストレーションの醍醐味がご満喫いただけます。
 この映像はまだDVDとして発売されておらず、ソフトとして視聴できるのは当面デジタル・コンサートホール上のみ。その意味でも、貴重な映像と言えるでしょう(ただし契約上の都合で、12ヶ月券、30日券では残念ながらご利用になれません)。1回券のお値段は、14.90ユーロとなっています。

《神々のたそがれ》をデジタル・コンサートホールで聴く!

ザルツブルク・イースター音楽祭2010
 3月27日から4月5日まで、ザルツブルク・イースター音楽祭が開催されました。今年はエクサン=プロヴァンス音楽祭でも上演された《神々のたそがれ》を中心に、ラトル指揮の「マタイ受難曲」、「幻想交響曲」、ヤンソンス指揮のヴェルディ「レクイエム」、ベルリン・フィル団員による室内楽が演奏されています。ソリストの顔ぶれは、マグダレーナ・コジェナー、アンネ=ゾフィー・オッター、ヨナス・カウフマン、トーマス・クヴァストホフ、クリスティアン・ゲアハーハー、イモジェン・クーパーと豪華の極み。また来年上演される《サロメ》をめぐって、演出家のシュテファン・ヘアハイムが座談会を行っています。

デジタル・コンサートホール、フリー・トライアルのプログラム変更とお詫び
 デジタル・コンサートホールでは、3月15日より4月30日まで、ラトル指揮のハイドン「交響曲第92番《オックスフォード》」の無料公開を予定しておりました。しかしこれは、契約上の理由により不可能となり、やむを得ずプログラムを変更させていただくことになりました。ユーザーおよび関係者の皆様には、たいへんご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫びさせていただきます。
 代替プログラムとしては、私どもの青少年活動「未来@ベルリン・フィル」から、ラトルがベルリンの子供たちとオーケストラ・リハーサルを行うドキュメンタリーをご紹介させていただきます。これは2008年9月26日にフィルハーモニーで行われたもので、2つの中高生オーケストラ(音楽高校などの生徒ではなく、一般の中高生)がベルリオーズの<断頭台への行進>(「幻想交響曲」)とエルガーの<ニムロッド>(「エニグマ変奏曲」第9変奏)を演奏するものです。青少年活動は我々の重要な活動の一部であり、皆様にもベルリン・フィルの努力の一端をご覧いただけますと、たいへん嬉しく存じます(子供たちを前にしたラトルの生き生きとした表情も見ものです)。なおこの他にも、青少年活動のヴィデオが無料でアップされていますので、合わせてご覧ください。
 ご視聴の場合は、こちらからアクセスし、Start filmをクリックします。

N・ヤルヴィ、ヤンソンスの演奏会がデジタル・コンサートホールにアップ!
 3月に行われた定期演奏会の映像が、デジタル・コンサートホールにアップされました。ネーメ・ヤルヴィの回では、当初クリストフ・フォン・ドホナーニの出演が予定されていましたが、急病によりプログラムが全面変更。ブラームス「大学祝典序曲」、「悲劇的序曲」、ウェーバー《オベロン》序曲の他、《ペール・ギュント》第1&2組曲(グリーグ)という、ベルリン・フィルでは比較的珍しいプログラムが演奏されました。ヤルヴィは、《ペール・ギュント》を特に得意としており、円熟の名演奏をお楽しみいただけます。またヤンソンスの回では、イースター期間の定番と言えるヴェルディの「レクイエム」が演奏されています。演奏会批評のコーナーに詳細情報および映像抜粋がございますので、そちらをぜひご覧ください(なお、下のハイライト映像は批評コーナーとは一部異なるもので、計2種類のヴィデオが試聴できます)。

N・ヤルヴィの演奏会のハイライト映像を観る(無料)
N・ヤルヴィの演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!
ヤンソンスの演奏会のハイライト映像を観る(無料)
ヤンソンスの演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 次回のデジタル・コンサートホール演奏会

ついに登場、ラトルのマタイ受難曲!
(日本時間4月12日早朝3時)


 今月最初の定期演奏会では、ラトルがバッハの「マタイ受難曲」に取り組みます。「ヨハネ受難曲」は、これまでベルリン・フィルの演奏会でも取り上げてきましたが(2002、06年)、「マタイ受難曲」は、今回が初公開。しかも最高の歌手陣が揃っており、力の入った公演になることが予想されます。直前のザルツブルク・イースター音楽祭でも演奏されていますが、ベルリンでの生中継は最も練りあがった段階でのものとなるでしょう。
 ラトルは古楽奏法にオープンな姿勢を示し、ベルリン・フィルにも多くのピリオド系指揮者を招聘してきました。ところがCDでは、そうしたスタイルを反映した録音は少なく、ベルリン・フィルとのものでは、わずかにハイドンがリリースされているのみです。当演奏会は、彼のバロックものが本格的に体験できる機会であり、古楽ファンのみならずオーケストラ・ファンにとっても注目の的となるでしょう。
 なお上演は、ザルツブルク・イースター音楽祭と同様、ピーター・セラーズにより「リチュアライズ(儀式化)」された形式となります。その意味で、演出ファンにもエキサイティングな内容となるに違いありません。

【演奏曲目】
バッハ:マタイ受難曲

ソプラノ:カミッラ・ティリング
メゾ・ソプラノ:マグダレーナ・コジェナー
テノール:トピ・レティプー(アリア)、マーク・パドモア(福音史家)
バス:トーマス・クヴァストホフ(アリア)、クリスティアン・ゲアハーハー(イエス)
合唱:ベルリン放送合唱団、ベルリン国立および大聖堂少年合唱団
演出・舞台:ピーター・セラーズ
指揮:サー・サイモン・ラトル

放送日時:4月12日(月)午前3時(日本時間・生中継)

この演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!


旬のピアニスト、A・シフで聴くモーツアルト。シンフォニーも指揮!
(日本時間4月18日早朝3時)


 アンドラーシュ・シフと言えば、今欧州で最も評価の高いピアニストのひとりです。ベルリン・フィルでは、先々シーズンより定期的に客演し、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を演奏。さらに今シーズンと来シーズンは、バッハの主要鍵盤作品を6晩にわたって取り上げます。現時点で、すべての演奏会は売り切れ。当然今回のシンフォニー・コンサートのチケットも、発売直後にソールド・アウトとなっています。
 当演奏会で興味深いのは、シフが指揮も担当することです。彼は室内オケのカペラ・アンドレア・バルカを定期的に指揮していますが、ベルリン・フィルへの登場はちょっとしたサプライズと言えます。シフがハイドンの《軍隊》や《ドン・ジョヴァンニ》序曲をどのように振るのか、興味は尽きません。
 しかし真打ちは、何と言ってもふたつのピアノ協奏曲でしょう。両曲ともニ短調で統一されていますが、いずれも菖蒲か杜若という名曲であり、円熟の名演が期待されます(写真:©Sheila Rock)。

【演奏曲目】
バッハ:ピアノ(チェンバロ)協奏曲第1番ニ短調
ハイドン:交響曲第100番『軍隊』
モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》序曲
ピアノ協奏曲第20番ニ短調

指揮・ピアノ:アンドラーシュ・シフ


放送日時:4月18日(日)午前3時(日本時間・生中継)

この演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 アーティスト・インタビュー

ダニエル・ハーディング&ジャニーヌ・ヤンセン
「アシスタントとしての立場から距離を取り、ベルリン・フィルからひとりの指揮者として認められることも重要でした」
聞き手:サラ・ウィリス(ベルリン・フィル/ホルン奏者)
(定期演奏会/2009年10月15〜17日)


【演奏曲目】
バルトーク:弦楽のためのディヴェルティメント
ブリテン:ヴァイオリン協奏曲
R・シュトラウス:死と変容

ヴァイオリン:ジャニーヌ・ヤンセン
指揮:ダニエル・ハーディング


 昨年10月のコンサートで共演したダニエル・ハーディングとジャニーヌ・ヤンセンのダブル・インタビューです。ブリテンのコンチェルトを弾いて聴衆を圧倒したヤンセンは、今旬のアーティスト。ベルリンの批評家も大絶賛を寄せています(批評はこちらをご覧ください)。対するハーディングは、7年ぶりのベルリン・フィル登場で、たいへん重要な舞台となっていました。インタビューでは、アバドのアシスタントとしてスタートした彼が、客演指揮者として認められることの難しさについて語っている点が印象的です。

ウィリス 「今日のコンサートは、デジタル・コンサートホールで中継されますが、撮影が入っていると緊張しますか?」

ヤンセン 「そうですね。私自身は、できるだけ気にしないようにしています」

ハーディング 「実は先週、アムステルダムでテレビの中継があったんですが、その時は気になりました。普通はカメラはとても目立たないところに置いてあって、大丈夫なことが多いです。ただその時は、指揮者を映すカメラが目の前にセットされていたんです。オンエアされている時には赤いランプが点くので、気になって……。いつ映っているのかが分からなければ、全然オーケイですね」

ウィリス 「デジタル・コンサートホールの場合、カメラは小型で自動操縦の上、まったく目立たないところにあります。時々方向を変えるのは分かりますが、それも大抵視界に入りません。ところで今回演奏されるブリテンのヴァイオリン協奏曲ですが、パート譜の最後に“2008年ドレスデン・シュターツカペレ/ハーディング、ヤンセン”と書いてありました」

ヤンセン 「それがダニエルとやった最初の時です」

ウィリス 「最初から理想のコンビだった?」

ハーディング 「(ニヤニヤしながら)そうだね、最初の30分はねぇ……」

ウィリス 「最初はダメだったんですか?」

ヤンセン 「あの、飛行機が遅れて、最初の5分に間に合わなかったんです。(ハーディングに向って)朝6時の飛行機だったのよ!時間通りに着こうと努力したんだから!」

ウィリス 「ああ、オケの人はそういうのは大歓迎ですよ。もう一杯コーヒーが飲めるから(笑)」

ヤンセン 「その時はもうリハーサルが始まってたんです!」

ハーディング 「皆さん真面目で(笑)」

ウィリス 「でもYouTubeなどで観ると、もう随分と共演しているように見えますが。チャイコフスキーもやっているみたいですし」

ハーディング 「そうですね。ドレスデンが本当に最初で、その後チャイコフスキーをコンサートとレコーディングでやり、ストックホルムでもブリテンをやりました」

ウィリス 「ブリテンのコンチェルトは、ヤンセンさんのお気に入りの曲だということですが、とても弾くのが難しいそうですね。ハイフェッツも、演奏不可能と断言しているとか。でもあなたが弾いているのを聴くと、そういう風には聴こえませんが」

ヤンセン 「確かに難しいところがありますね。特に第2楽章には、演奏不可能と思えるような個所があります。それはどちらかというと(正確に弾くというよりは)効果の部分があるのですが、実際相当頑張らないといけません。でも、例えばイダ・ヘンデルの録音を聴くと、彼女は第3楽章の速いパッセージをオクターヴで弾いているんですね。この個所は、単音でも非常に難しいのですが、ブリテンは最初の版でオクターヴで弾くことを求めていました。彼女はそれをちゃんと弾いているんです」

ウィリス 「あなたもオクターヴでレコーディングしたのかしら?」

ヤンセン 「私は改訂版で録音したので、単音で弾けばよかったんです(笑)」

ウィリス 「ヤンセンさんはオランダでは、“ダウンロードの女王”なんだそうですね。そのCDが出た時は、ポップスの歌手を蹴落として第1位だったとか?」

ヤンセン 「それは最初の1週間だけですよ。それだけなのに、“ダウンロードの女王”と書かれて……。次の週には、3位だか5位だかに下がってしまったんです(苦笑)」

ハーディング 「僕だったら、一度3位、5位に“下がって”みたいものだよ。それだけでも十分にすごい!」

ウィリス 「おふたりは意気投合の間柄だそうですが、指揮者とソリストは、気が合わないこともしばしばですよね。ヤンセンさんはインタビューで、“気が合わない人と合わせることも大事”と仰っていましたが」

ヤンセン 「もちろん私も、反目し合うことは好きではないです。意見が合わなくて議論になってしまうのは困りますし、最初から気が合うのが一番良いに決まっています。でもちょっと合わない時に、お互いが歩み寄ってひとつの曲を作り上げてゆくというプロセスが大事でしょう?」

ハーディング 「意見が合わないというのは、それ自体悪いことじゃありません。お互いに重要なことを言って刺激を与え合うのだから、意味があります。僕たちだって……」

ヤンセン 「チャイコフスキーの(録音の)時はあなた、結構意地悪だったわよ!」

ハーディング 「え、そうだったっけ?そうでした(爆笑)。それは13回もパッチ・セッションを繰り返して、神経が尖っていたからだったんですけど」

ウィリス 「今回の曲目は、ブリテンに加えてバルトークとR・シュトラウスですが、この組み合わせの背景は何だったのでしょう」

ハーディング 「最初は、違うプログラムをやる予定になっていたんです。昨年やる予定だったのが、後にずれることになって。当初はブラームスのハンガリー舞曲のいくつか、バルトークの(ヴァイオリンと管弦楽のための)ラプソディー、ドヴォルザークの3つの序曲(《自然のなかで》、《謝肉祭》、《オセロ》)が予定されていたのだと思います。たしか元々のプログラムにバルトークがあったので、彼を残そうとしてディヴェルティメントになったはずです。ジャニーヌは、ブリテンをやりたかったんだよね」

ヤンセン 「ドレスデンで初めてやった時、リハーサルをやった段階でとてもうまく行ったので、ベルリン・フィルでもやろうと約束したんだと思います。ダニエルに、サイモン・ラトルに相談してくれるようにお願いしました」

ハーディング 「ラトルと話した時に、あんまり長いプログラムにするのはよそうということで、色々考えたのですが、ふたりで《死と変容》がいいんじゃないか、ということになったのです。この3曲にリンクがあるかというと、どうなんでしょうね。ガイ・ブラウンシュタインは、ブリテンの冒頭で弦が入るところは、《死と変容》の最初と同じだ、と指摘していましたが」

ウィリス 「ハーティングさんは、17歳の時、ラトルのアシスタントをなさっていたんですよね。後にアバドのアシスタントにもなり、ベルリン・フィルのこともよく知っていらっしゃいます。団員とコンタクトがあることは、有利でしょうか、それとも不利でしょうか」

ハーディング 「95年にベルリンに来て、1年間アバドのアシスタントをしました。ここにも比較的長い間住んでいたんです。メンバーもよく知っていますが、指揮者として共演するにあたっては、今が丁度いい時期だと思っています。19歳の時にアシスタントをしていたわけで、現在の自分をメンバーに認めてもらうためには、どうしても時間が掛かるからです。もちろん当時からずっと親しくしている仲間もいて、その意味ではたいへん有利です。しかしアシスタントとしての立場から距離を取るということも、必要だったと思います。アシスタントというのは、重要度で言うと一番後ろに当たりますからね。それにオーケストラ団員というのは、若造にはぞんざいに接することもあります。そう言えばクリスティアン・ティーレマンも、カラヤン・アカデミーの生徒だったんですよね。彼は今ではあのように名指揮者として戻ってきているわけですから、素晴らしいことだと思います」

この演奏会のハイライト映像を観る(無料)
この演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 ベルリン・フィル演奏会批評(現地新聞抜粋)

「比類のない演奏会」、「忘れられないコンサート」〜ヤンソンスのベル・レクは、各紙諸手を挙げての絶賛
(2010年3月13日)

【演奏曲目】
ヴェルディ:レクイエム

ソプラノ:クラッシミラ・ストイヤノヴァ
メゾ・ソプラノ:マリーナ・プルデンスカヤ
テノール:デイヴィッド・ロメリ
バス:ステフェン・ミリング
合唱:バイエルン放送合唱団
指揮:マリス・ヤンソンス


 ベルリン・フィルから特に愛されている指揮者のひとりが、マリス・ヤンソンスでしょう。先シーズンはスケジュールの都合により欠場していましたが、今年の演奏会では、大曲中の大曲と呼べるヴェルディのレクイエムを取り上げています。オペラへの出演が少なく、ヴェルディともやや結びつきにくい指揮者ですが、新聞批評は全紙が言葉を尽くして絶賛。ベルリン・フィルでは、過去15年間にアバド(1995年、2001年)とメータ(1997年)だけが指揮しているレパートリーであり、ヤンソンスとしてもさぞかし力が入ったことでしょう。ソリストも有名スターではないものの、揃ってトップ・レベルの歌唱を示し、充実度満点です。

「マリス・ヤンソンスとベルリン・フィルは、バイエルン放送合唱団(素晴らしいコーラス!)を得て、ヴェルディのレクイエムに宇宙的な広がりを与えることに成功した。ヤンソンスは精悍な力と、目標に向って一心に進むことのできる集中力を備えた素晴らしい指揮者である。幸運にも彼は、ヴェルディを精魂を込めて歌うことのできるソリストたちも手にしていた。クラッシミラ・ストイヤノヴァの明晰なソプラノは、ヴェルディの祈りを感動的に歌い上げ、アルトのマリーナ・プルデンスカヤは、奇跡的な声でパートのあらゆる側面を描き出した。デイヴィッド・ロメリは、威厳ある声を備え、大テノールになる可能性を垣間見せている。またシュテファン・ミリングは漆黒の音色で歌い、全員が完璧な出来映えを示したのである。これはヴェルディを聴く喜びを満喫させてくれた公演である(2010年3月14日付け『ベルリナー・モルゲンポスト』クラウス・ガイテル)」

「比類のない演奏会である。そして上演の中核となったのは、マリス・ヤンソンスの創造的な力であった。加えてバイエルン放送合唱団の底力。彼らはクリスタル・ガラスのようなピアニッシモから絶大なフォルティッシモまで、圧倒的な響きを生み出していた(ヤンソンスはバイエルン放送響の首席指揮者として、この合唱団とも密接な関係にある)。ベルリン・フィルは以前、ヤンソンスにハンス・フォン・ビューロー勲章を贈ったことがある。今回の演奏会では、彼らはその理由を示さんとばかりに、全身全霊を傾けて演奏していた。冒頭の絹のような弦のピアニッシモ、そしてつぶやくような合唱の発音からして、演奏はほとんど実験的と呼べるような内容を示していた。しかし<怒りの日>の轟音と絶叫も、すばらしくコントロールが効いている。ここでは“曲想が宗教的というよりもオペラ的”という批判は、まったく意味を成さない。なぜならヤンソンスの解釈は、作品がヴェルディ個人の思いの発露であることを示していたからである。この日、優れたソリストたちが一同に揃ったことは、まさに奇跡であった。演奏の精妙さは、聴き手を愕然とさせ、また鳥肌立たせるのである。<我を解き放ちたまえ(リベラ・メ)>のラテン語は、まるで生きた言葉のように心に迫ってきた(2010年3月12日付け『ターゲスシュピーゲル』ジビル・マールケ)」

「忘れられないコンサートとは、最初の音が鳴る前から直感的に分かるものである。この日客席は静まり返り、ベルリン・フィルは文字通り熱く燃え上がった。ヤンソンスはオーケストラを光り輝かせ、和音を隅々まで照らし出す。そしてオーケストレーション上の難所が多いこの作品を、偉大な和声の彫像として彫りだしたのである。楽章の切れ目においてさえ緊張は途切れることなく、全体の構造のなかに収められる。ヤンソンスはミュンヘンからバイエル放送合唱団を連れてきたが、彼らは冒頭のレクイエムの祈りを、どもるような響きで濃密に表現していた(2010年3月12日付け『ベルリナー・ツァイトゥング』アルノ・リュッカー)」

この演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

オマー・マイア・ウェルバーがバレンシア州立管の音楽監督に就任
 イスラエルの若手指揮者オマー・マイア・ウェルバーが、マゼールの後任としてバレンシア州立管の音楽監督に就任することが発表された。マイア・ウェルバーは、バレンボイムのアシスタントを務めるなど、近年ヨーロッパで注目されつつある存在。スカラ座やウィーン国立歌劇場、ベルリン国立歌劇場にも登場が決まっているという。バレンシア州立管への就任は2011年。なお首席客演指揮者には、ジャナンドレア・ノセダの名前が発表されたが、本人は「契約はまだ成立していない」と語っている。

マゼールがミュンヘン・フィル首席指揮者に決定
 ミュンヘン・フィルは、クリスティアン・ティーレマンの契約不延長により、2012年からの首席指揮者を探していたが、3月下旬にロリン・マゼールが後継者に就任することが決定した。期間は3年限定で、延長のオプションはなし。現在、国際的指揮者の多くは、2010年代中頃までポストが確定しているため、2012年の段階で若手のスターを獲得することは難しい。ミュンヘン・フィルは、(本来首席指揮者職を必要としない年齢の)マゼールと契約することで、当座の橋渡しをするものと見られている。

スラトキン、メットでスコアを勉強せずに指揮
 レナード・スラトキンが、メットで完全にスコアの勉強をせずにリハーサルに臨んだことで批判されている。スラトキンは、本来コリリアーノの《ヴェルサイユの幽霊》再演を指揮する予定になっていたが、演目自体がキャンセルになったために、代替の《椿姫》の指揮を引き受けた。しかし曲やその演奏習慣をあまり知らず、練習でトラブルが起こったという。『ニューヨーク・タイムズ』紙の批評家は、「メットの《椿姫》を勉強の機会にするのは、良いアイディアとは思われない。(略)これほど指揮者と歌手のテンポが合わない公演は、筆者はほとんど観たことがない」と批判している。なおメットは、初日の数日後にスラトキンの降板を発表している。

ソニーがレイ・チェンと契約
 台湾/オーストラリア出身のヴァイオリニスト、レイ・チェンがソニー・クラシカルと専属契約を結んだ。チェンは2008年のメニューイン・コンクール、2009年のエリザベート王妃コンクールの優勝者で、日本にもすでに来日している。最初のアルバムは技巧的な小品を集めたプログラムとなるが、2011年にはヴァイオリン協奏曲のレコーディングも予定されているという。チェンは同時に、アメリカの有力マネージメントCAMIとも契約を結んでいる。

ビリャソンが舞台に復帰!
 昨年春以来声帯の手術でオフを取っていたロランド・ビリャソンが、舞台に復帰した。最初の公演は、ウィーン国立歌劇場での《愛の妙薬》(3月22日)。ヴィリャソンが登場すると、客席は暖かい喝采でカムバックを祝福したという。さらにベルリン・フェストターゲでは、バレンボイム指揮の《エフゲニー・オネーギン》(レンスキー)にも出演しており、声の調子はまずまず。『ベルリナー・モルゲンポスト』紙のインタビューでは、「休養期間中最も支えになった人は?」という問いに、「妻のルシア、そして人間的にも愛してやまないバレンボイムとドミンゴのふたり」と答えていた。


©2010 Berlin Phil Media GmbH, all rights reserved.