春がとことことやってきた。
季節の匂いのなかでも、僕は春が一番好きだ。
芽吹きや、息吹の香りとでもいうのか、少し生温かくて、鼻に残るうっとりとした春特有の香りが、僕は一年中で一番好きだ。
職業柄、4月になると新入社員が入ってきて….というような世界に属していないので、僕が春を感じられるのは、おおむね、こうした些細な“匂い”でしかない。
それでも僕はこの“匂い”というものにはとても敏感なところがあって、だからか、桜の花を見つけるより前に、朝起きて窓を開ければ、それが春かどうか分かる。
春が僕のベランダにやってきていると、なんだかとても嬉しい気持ちになる。
僕にとってそれは、忘れかけていた昔観た映画のワンシーンを思い出したような感覚、に似ていると思う。
映画館の話をしよう。
映画館、僕はあの場所がとても好きだ。
渋谷にあるような、雑居ビルにある小さな映画館も悪くはないけれど、マイカルとかTOHOとかがやっている、アミューズメント的な、建物が大きくて、広い映画館がいくつも入っていて、ポップコーンが美味しい、あの映画館が好きだ。
そういう映画館は、休日の昼間や、水曜日はものすごく混み合っているんだけど、夜になると、けっこうがらがらになってしまう。
そういうほとんど人がいなくなった、だだっ広い映画館の一番後ろの席から映画を観るのが、僕はとても好きだ。
はっきりいってしまうと、どんな映画をやっているかはもうあまり問題ではなくて、その空間に座って映画を観ている行為が好きだといっても間違いはない
と思う。
僕がまだ小さな頃、横浜の映画館なんかは、一度チケットを買って中に入ると、何度でも同じ映画を観る事ができた。
だから、適当な時間に入っては最後まで観て、そのまま座っていればまた同じ映画が最初から始まるので、今度は最初から観ながら、途中まで観たら出て行く、というようなことができた。
近頃はそういう映画館が無くなってしまって、それはそれでとても悲しい。
また春の話をしよう。
春になると、なにかが始まるような気配がする、もしくはなにかを始めるにはちょうど良い気がする。
今年も春先から僕のまわりが徐々に慌ただしくなっていくような感じがあって、いつのまにか面白い話がいくつか湧いて出てくるようになった。
音楽というのは、とても流動的で、感覚的で、結局のところ気持ちに左右され易いものなので、春というのは、音楽を作ることにはとても向いているような気がする。
だからか、春が近づくにつれて、いつの間にか友人達と新しい音楽を作り始めていたりする。
音楽が生まれていく瞬間。
春の匂いがする瞬間。
気がつく頃には、終わってしまっているという意味でも、とても似ているのかもしれない。
とりとめのない4月の午後。
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