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2011年2月16日 (水)

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第28回

「コンヴィチュニー演出《サロメ》に大期待」

 来週(2月22日)より、東京文化会館で東京二期会の《サロメ》が上演される。先日、縁あって通し稽古を見学してきたのだが、さすがペーター・コンヴィチュニーの演出、猛烈に感激してしまって、ここしばらくは《サロメ》の音楽がアタマから離れない。いや、あと最低2回は見て、すべてをアタマに焼き付けておきたいくらい。

 コンヴィチュニーの演出は、その音楽と密接に連動する。いかに奇抜なことが舞台で行われていたとしても、それは作品の本質を引きずり出すためのもの。逆にいえば、その作品や音楽の意味をクローズアップするためなら、どんな破天荒なことだってやってしまうということだ。

 二期会では、3年前にコンヴィチュニー演出で《エフゲーニ・オネーギン》を上演したが、この第3幕の舞踏シーンは思い出すだけで泣けてくる。華やかな舞踏会シーンの音楽に、孤独な心情が潜んでいたことを見せ付けられたときの驚愕。コレって、まさしくチャイコフスキーの音楽の本質を言い当てているではないか。

 振り返れば、コンヴィチュニーの演出には、ずいぶん目を潤ませてきたものだ。《蝶々夫人》の「目隠し」、《ドン・カルロス》の「エボリの夢」、《ばらの騎士》の「ショーウインドウ」などなど、見てない人にはサッパリわけがわからないだろうけど、思い出すだけで胸が熱くなっちまう。今でも、そのオペラが自分のなかで上演され続けているんじゃないかという気持ちになる。

 登場人物の描き方は、とにかくエグい。コンヴィチュニーは、とくに女性の心理状態については恐ろしいまでにそれを表面化させる。今回も、サロメは生首を抱いて血まみれエクスタシーに浸るモンスターではなく、われわれ誰もが共通して持っている心情を共鳴させる存在として描かれている。わたしたちの心の奥底にあるものを言い当ててしまうからこそ、その描き方がエグいと感じてしまうのだ。

 具体的な演出については、あまり詳しく書くとネタバレになってしまうが、一言でいえば「ところどころエロいけど、肝心なところはエロいどころか心を震わせるシーンになっており、最後は爽やか」と述べるに留めておこう。

 コンヴィチュニー演出のオペラを見るには、前もって対訳に目を通し、録音を聴いておいたほうがより楽しめる。彼の演出はすべてスコアから導き出され、それに密接すぎるほど関わっているからだ。もちろん、そんな「予習」などしなくても十分楽しめることは間違ないのだけれど、これだけ複雑に人物が動くと、字幕を確認するのがもったいなく思えてしまう。しかも、《サロメ》の台本はオスカー・ワイルド。これだけの傑作を用いたオペラ作品は存在しないといっていい。

 ところが、《サロメ》に関しては、意外なことに決定的といいたくなるようなディスクが思い浮かばない(《エレクトラ》は色々思い当たる演奏があるのに)。ベーレンスがタイトルロールを歌ったゴージャス・サウンドなカラヤン盤、あるいはシュトルツェのヘロデ王が最高にたまらないショルティ盤がわたしがもっとも好んで聴いた録音なのだけれど……。DVDでは、マクヴィカーの色彩的かつフロイト的な演出がなかなか楽しめた。サロメを歌うナージャ・ミヒャエルの体当たり歌唱もすばらしい。

 CDに関しては、新しい録音がもっと出ていいのではないか。ヤニク・ネゼ=セガンやアンドリス・ネルソンスあたり新鋭指揮者が絡むプロジェクトに期待しよう。もっとも、昨今はオペラのスタジオ録音なんてほとんど無くなり、ライヴのみのリリースになってしまうのは仕方がないにしても。
 そんなことを思っていたら、当のネルソンスが、アルプス交響曲とのカップリングで、《7つのヴェールの踊り》を来月リリースするではないか。ネルソンスは今のところ、当たり外れが大きい指揮者ではあるけれど、以前出ていた《ばらの騎士》組曲がすばらしく精妙かつ躍動感に富む演奏だった。このディスクにも期待していい。

(すずき あつふみ 売文業) 


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アルプス交響曲、『サロメ』より「7つのヴェールの踊り」 ネルソンス&バーミンガム市交響楽団

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アルプス交響曲、『サロメ』より「7つのヴェールの踊り」 ネルソンス&バーミンガム市交響楽団

シュトラウス、リヒャルト(1864-1949)

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