まずは、スコットランド出身のドノヴァン。彼の1966年のアルバム、『Sunshine Superman』。
ドノヴァンは、ビートルズとも交流があったし、当時けっこう売れていたようで、名前くらいは知っているという人も多いと思う。時代に上手くフィットし、ヒッピー・ムーヴィメントの恩恵を受けた一人だった。
彼は、インドの導師マハリシ・ヨギの教えを受けるため、68年かな、インドに赴いたのだが、そのインド滞在をホワイトアルバム制作前のビートルズと共に過ごしたんですね。その時、ビートルズのメンバーにスリー・フィンガー・ピッキングを教えたそうで、そこから、「Julia」や「Blackbird」、「Dear Prudence」「Happiness Is A Warm Gun」が生まれた。のだと思う。そう考えると、ドノヴァンはすごい。そして、こんな名曲を作ったジョンとポールはもっとすごいな。
僕の場合、映画で使われていた「Season Of The Witch」という曲がかっこよくて気になり、『Donovan's Greatest Hits』というベスト盤を購入したのがきっかけとなった。高校の頃だったと思う。その後、少しずつアルバムを聴いていった。
アルバム単位で考えると、サイケな曲が飛びぬけて良い『Hurdy Gurdy Man』や、エレキトリック・サイドとアコースティック・サイドの2枚組大作『A Gift From A Flower To A Garden』なども大好きだが、トータルで考えると『Sunshine Superman』が一番、ということになる。このアルバムは、収録曲のバランスも良く、ドノヴァンの入門盤としてもうってつけのアルバムではないだろうか。
収録曲の中で、特に好きなのが、「Ferris Wheel」。イントロからもうなんとも言えない気持ちになる。展開もなく単調で、そういう意味ではなんてことない曲なのだが、僕はなぜだかこれが一番好き。
室内楽のような管弦楽器のアレンジ響きがたまらない「Legend Of A Girl Child Linda」やバート・ヤンシュに捧げた?少しジャジーな「Bert's Blues」もかっこいい。
アルバムを通してインド楽器が積極的に使われているのも、雰囲気を出すのに一役買っている。
次、行きます。
ピンク・フロイドの1stアルバム『The Piper At The Gates Of Dawn』。
これは文句なし。全ての60年代ロックファンを虜にする作品。
当時、在籍していたシド・バレットの音楽性が色濃く出たアルバム。この人の歌声がとにかくかっこいい。
僕は、このアルバムを聴いたのはけっこう最近なんですね。プログレ時代のイメージから、ピンク・フロイドっていうだけでどうも手を出せずにいた。
そんな僕が言うのも何だけど、超重要作品です。
僕は多分、ピンク・フロイドというよりシド・バレットの音楽が好きなんだと思う。
この音楽を上手く説明できないけど、サイケデリック・ロックといえば、これ。
音がぐわんぐわん言ってます。曲を飛ばすことなんてまずない。
関係ないけど、シド・バレットのソロ・アルバムはプログレ・コーナーに置いてほしくないなぁ。お店のジャンル分けのコーナーの話しです。おかげでシド・バレットの音楽に出会うのが遅くなった。参加メンバーを考慮してのことだと思うけど、音楽の内容からすれば、SSWファンの方が飛びつくでしょ。
次は一転して、明るく爽やかなマーク・エリック、1969年リリースの『A Midsummer's Day Dream』。
聴けばわかりますが、サイケ感ゼロです。
しかし、アルバムタイトルは「真夏の白昼夢」とサイケな雰囲気。時代性を意識してなのかわからないけど、良いタイトルですね。昨夏の『八月の詩情』を出そうと思ったとき、この『A Midsummer's Day Dream』という言葉と勝手に通じ合っていました。
内容は、『Pet Sounds』を作る前の明るいビーチ・ボーイズの音楽の質を高め、さらにポップに仕上げた感じ、かな。
魅力はとにかくそのポップ度。非常に気に入っています。
コーラスやホーン、ストリングスが多いのもすごく良いんだ。
冒頭の「California Home」からラストの「Lynn's Baby」まで、お楽しみいただけます。
次はビートルズの『Abbey Road』について。
もうこの頃のビートルズには、サイケな雰囲気はほとんどなくなっている。
メンバーのファッションもそれまでとはがらりと変わって、今から考えれば、70年代に向かい始めていた。もっと意識が別のところに向かっていたんでしょうね。
このアルバムの制作時期にはメンバー同士が不仲になっていたはずなのに、この音楽から感じられる一体感と充実感、そして、この完成度は一体何なのでしょうか。
このアルバムを作って本当に良かったと思う。
まず、僕が良かった。
さて、1969年9月リリースのこのアルバム、明らかに他のバンドの同時期の作品とは違う70年代っぽい音を出している。それに、それまでのビートルズの音とも違っていて、アルバム自体の完成度がもう感動的なほど凄すぎるんだけど、コーラス・ワークという面から見ても、充実した作品だと思う。
「You Never Give Me Your Money」のコーラスアレンジ、多分その場でぱっと歌ってハモっているんだと思うけど、それがすごくきれい。
「Because」や「Sun King」でのコーラス多重録音、これにはうっとりします。これが可能になったのは、きっと「1969年だから」なんでしょうね。どちらも本当に大好きな曲。こういう時間や空間の彼方に連れて行ってくれる音楽は、人生で一番大切。
そして、コーラスという面で一番好きなのが、「Polythene Pam」から「She Came In Through The Bathroom Window」のコーラス。ふわふわと抑揚がすごい。こんな風に出来たら良いねなどと、僕らもレコーディング最中に聴き返したりしていた。「Octopus's Garden」の掛け合いコーラスにも同じようなものを感じます。
もうね、これ出してビートルズが解散して、この後、世の中はどうなるんだろうって、寂しくなるわけですよ。
ラストの「The End」で「おれたち10年間、色々あったね」って、こっちも涙が出そうになるんです。
次は、シンガー・ソング・ライター、ニック・ギャリーの1969年の『The Nightmare Of J.B. Stanislas』。
この人もはじめに紹介したドノヴァンと同じスコットランド出身のミュージシャンで、音楽からも都市グラスゴーの匂いがします。と言いつつ、グラスゴーがどんなところかよく分からないんですけど。でも、そんな感じではある。
内容は、フォーキーなサイケ・ポップ〜ソフト・ロックといった感じ。録音はフランスで行われたそう。
とにかくメロディが良くて、ものすごくポップ。それでいてサイケな雰囲気があるからもう言うことなし。そして、何より声と曲が良い。当時、マイナーなアーティストで売れなかったそうだけど、ちゃんと宣伝して売ったら、売れるよ。これは。
個人的には、冒頭のタイトル曲の他、「Can I Stay With You?」「Ink Pot Eyes」「David's Prayer」辺りのメロディアスで切ない曲が特に好き。
一人で過ごす夕刻あたりに聴くと、何ともいえない気分になります。
最後はペルーのウィー・オール・トゥゲザーというバンド。1972年の1st、その名も『We All Together』。
これだけ欧米のバンドじゃないし、60年代後半の作品じゃないし、どういうこと、って思いますよね。
いや、この内容があまりにも素晴らしいサイケ・ポップで、60年代後半としか思えないサウンドだから、上記作品と一緒に紹介してしまうわけです。
このバンドを初めて聴いた時は、本当に衝撃を受けた。
こんな良いアルバムがあったんだ。しかも南米のバンドだ。という感じで。
全ビートルズ・ファン必聴の作品。
音を聴けば、すぐに、メンバーが大のビートルズ・ファンだとわかる。実際、ポール・マッカートニーやバッド・フィンガーのカヴァーも収録されているし。
ビートルズ本位で、ラトルズとかエミット・ローズとかユートピアとかスタックリッジとか聴くなら、ウィー・オール・トゥゲザーを聴いて欲しい。
逆に、「なんだカヴァーなんか収録しているのか」と残念に思う向きもあるかもしれないけど、内容が良過ぎて、聴いている内に、ビートルズ・フォロワーとかカヴァーとか、そういう部分がどうでも良くなって来ます。僕がそうでした。
単純に、内容が良いので、サイケ・ポップ・ファンにもお薦めします。
彼等の2nd「We All Together 2」(1974年)は、この1stをさらに進化させた形で、全てオリジナル曲で占められている。こちらもお薦め。