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2012年2月20日 (月)

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第34回

「ロトの常任指揮者就任で南西ドイツ放送響はどう変わる?」

 長いフライトを経て帰国した日ならば、わらわらと家さ帰って猫と寝転び、旅の疲れをほっこり癒してえよなと願うものだけど、その日の夕方は南西ドイツ放送響(SWR交響楽団バーデン・バーデン=フライブルク)の来日公演。南西ドイツ放送響といえば、わたしにとっては、ベルリン・フィルとウィーン・フィルを足したよりも重要なオーケストラ、といえば少し、いや、かなり大袈裟に聞えるやもしれぬけど、少なくともこの二つのオーケストラよりも我が思考および生活に重大なる影響を与えたオーケストラとして、この希少性高い来日公演に足運ばねえわけにはいかないのだった。

 今回の来日公演(ちなみに、「前回」は20年以上前になるよね……)には、新しい常任指揮者であるフランソワ=グサヴィエ・ロトが帯同。一昨年、この指揮者が常任に決まったときには、その知名度の低さに一瞬戸惑いを覚え、というより、自分がよく知らない名前が出たのでその反応に困っただけであるけれど、当楽団の常任指揮者の必要条件である現代曲演奏も得手とし、さらにピリオド系のオーケストラを自ら結成するなど、なかなか意欲的な若手指揮者であることもわかって、期待をこそこそと高揚させておったのだった。

 ロトが結成したオーケストラ、レ・シエクルと共演したディスクは、いくつかリリースされている。弦楽器の絡み合いが濃厚で、まるで方向性を失うわせるかのように進むベルリオーズの幻想交響曲。しなやかだけど、アグレッシヴなバランス感覚も魅力なサン=サーンスのオルガン付き交響曲。闊達で弾力性のあるリズムで描かれるビゼーとシャブリエの作品集。いずれも、昨今のバロック・アンサンブルを聴いているような、キビキビとした機動性、親密なアンサンブルが持ち味だ。

 極め付けは、ストラヴィンスキーのバレエ音楽《火の鳥》を中心とした、最新盤だ。このディスクは、ロシア・バレエ団の初演時(1910年6月25日)と同一の選曲がなされており、《オリエンタル》と名付けれた、グラズノフやアレンスキーなどの小品の組み合わせメドレーを併録、そして、それらは例によってすべてオリジナル楽器による演奏という、好奇心をたまらなく刺激する一枚なのだ。ついに、ストラヴィンスキーをピリオドで聴く時代がやって来たってわけか。
 冒頭のコントラバスのラインがここまでクッキリとわかる演奏を聴いたのは初めてだった。曲が進むにつれ、この作品を初めて聴いたときの新鮮な気持ちが蘇る。ギトギトに派手な色彩はない代わり、すべての輪郭が明確に描かれる。色彩を含め、表現がより細やかに聴こえてくるのだ。これまで仰ぎ見てきた油彩の大作、それと同じモチーフの素描を観たときのような気分。

 そして、南西ドイツ放送響との最初の録音も発売された。マーラーの交響曲第1番は、10年近く前にギーレンとの録音も同じレーベルから出ており、その比較も面白そうだ。
 ロトのマーラーは、一言でいえば、聴かせ上手。第3楽章のトリオへの入り方、最終楽章の第2主題の提示の仕方など、その筋道を作るのが巧妙なのだ。クライマックスへの持って行かせ方にも、ふっとフレーズを緊迫させた後、うまく間合いを作るなどして、エネルギッシュながら唐突さを感じさせないような工夫がある。
 実演で聴いたマーラーの交響曲第5番でもそうだったのだが、低弦をガッツガツに刻ませ、打楽器を盛大に打ち鳴らすような、実に風流極まりない盛り上げ方をしているのに、それがやりすぎ、品がないと思わせないような、流れの良さがある。ダッセえアクセサリーなんか付けてんのにさ、全体的なコーディネートは意外にこざっぱりしてるように見えんだよねえ、といったセンスだ。凡人はなかなか真似できぬ。

 それにしても、マーラーといえば、このオーケストラの前々任者ギーレンの十八番のレパートリー。前任者のカンブルランだって、「マーラーを演奏したくても、やはりギーレンがいたからねえ」と遠慮していたっけ。最初のディスクに、ロトがこのマーラーを持ってきたということは、新しいマーラー像を提示する自信があるという意気込みの証だろう。良か良か。
 確かに、ギーレンの演奏と比べれば、さらに自由闊達で、健康的なマーラーだ。この曲の第4楽章の主題提示で、両サイドに分けられたヴァイオリンが神経質なまでに明確に裏メロを刻むのが実にヘンタイ的、いやいやこういう対位的表現はバッハからの伝統なんだよねえ、なんて無駄に主張したくなる、ギーレンの演奏のほうが個人的には好みなのだが、ロトのほうが手際よくまとめられ、かつ自由なマーラーであることは間違いない。
 まあ、いずれにせよ、ロトとこのオーケストラの関係は、まだ始まったばかり。たぶん、ロトはレ・シエクルと同様、親密なアンサンブルをこのオーケストラに浸透させていきたいのだろう(来日公演では、弦パートのアンサンブルはなかなか官能的だった)。そうなったときの演奏も、さらに興味深い聴きものになるじゃろうて。

(すずき あつふみ 売文業) 


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