『Come Rain or Come Shine』 発売記念
福井亮司(MUZAKプロデューサー) × 山本勇樹(HMV) 特別対談
山本勇樹(以下、山本):遂にCDが完成しましたね!
福井亮司(以下、福井):いや〜嬉しいですね。こうして実物を手にすると苦労して作ったかいがありますね。というかやっぱり苦労しないと良いものは作れないですね(笑)。
山本:僕はHMV渋谷店でバイヤーをしている頃からMUZAKレーベルのファンだったので、いつかMUZAKの音源を集めてコンピが出来ればいいなと思っていました。
福井:MUZAKを始めてから今年で9年になりますけど、レーベルの音源をここまで幅広く収録したコンピは今までありませんでした。
山本:MUZAKはジャズ以外にも、ソフトロックとかボサノヴァとか色んな作品があって、どれも福井さんのセンスで選ばれて統一感がありますよね。だからコンピにすることでジャンルを越えてレーベルの個性が出ますよね。
福井:そう言っていただけると光栄です。でもコンピを作るのに一番重要なのはテーマですね。これを決めるのにかなり悩みましたね。
山本:ミーティングを重ねて色んなアイデアを出し合いました。それで福井さんから「“Come Rain or Come Shine”をタイトルにしたらどうでしょう?」って連絡をもらって迷わず賛成しましたよ。
福井:「Come Rain or Come Shine」というのはジャズの有名なスタンダードで、「雨が降っても晴れても、どんな時でもそばにいるよ」という歌詞のラヴ・ソングです。以前、友人の結婚式のパーティーでこの曲の色んなヴァージョンが流れていて、それが印象に残っていて思い出したんです。
山本:曲の歌詞も幸せな雰囲気で良いですし、「雨」と「晴れ」というシチュエーションも分かりやすいから、選曲のイメージがすぐに固まりました。雨は静かでメロウな曲、晴れは明るくてポップな曲という感じです。
福井:最初はシングルのコンピを作る予定だったから、「雨」も「晴れ」もジャケット・デザインを含めて1枚に収めようとしていたけどちょっと無理がありました。それじゃあ、いっそのことダブルにしちゃおうかと(笑)。
山本:2枚組になったことで聴きやすくなったと思いますよ。天気はもちろんですが、気分や雰囲気、時間帯によってどちらか選べますからね。
福井:そうですね。テーマも決まって2枚組という仕様も決まったから、あとは山本さんに選曲をしてもらうだけで(笑)。
山本:選曲は、MUZAKが得意のジャズ・ヴォーカルが中心となるわけですけど、さっきも言った通り、それだけではない、もっと幅広い音楽性のMUZAKの魅力も伝わるように心がけました。熱心な音楽ファンの人にはもちろん共感してもらいたいし、音楽に詳しくない人も気軽に楽しんでもらえるようなコンピを目指しました。
福井:最初に山本さんからもらった選曲リストを見た時、実はコンピにはちょっと厳しいんじゃないかなと感じた曲もあったんですよ。例えばカーリン・クローグのバカラックのカヴァー「Alfie」なんて割と地味な印象があったけど、並べて聴くとちゃんとはまっていたから驚きました。
山本:あの曲はスティーヴ・キューンのピアノのイントロが長いですからね(笑)。まあそこが良かったりするんですけど。「レイニー・サイド」でいえば冒頭のアン・バートンもこれ以上にないくらいはまりましたね。これはカーペンターズの「雨の日と月曜日」のカヴァーですね。
福井:雨といえばこの曲しかないなという感じですね。これに続くマイク・デル・フェローも意外な選曲で驚きましたけどとてもいい流れでしたね。
山本:「レイニー・サイド」には綺麗なピアノ・トリオの曲をどうしても入れたくて、例えばビル・エヴァンスとかキース・ジャレットとか好きな人にも、MUZAKにはこんな良いピアノの曲があるんですよという気持ちを込めました。
福井:この曲は珍しくオペラの楽曲をモチーフに作られていて、そこも注目してほしいですね。そしてリンカーン・ブライニーのバート・バカラックのカヴァー「雨にぬれても」もこのテーマにぴったりですね。これは彼がホーム・パーティーで録音したせいか、とてもリラックスした雰囲気がありますね。
山本:リンカーンはカヴァーの名手ですよね。あと雨に相応しいといえば、リサ・ヴァーラントの「Umbrella」ですね。
福井:これはリアーナのカヴァーで、この曲が入っているアルバムは元々タイトルもジャケット・デザインも違っていたんですけど、この曲がとても良かったから、アルバムのタイトルにして、ジャケットにはそれに相応しいように彼女に頼んで新たに傘をさした写真を撮ってもらいました。
リンカーン・ブライニー
「Raindrops Keep Fallin On My Head」
from 『Lincoln Briney』
ミスター・ウエスト・コースト。「PARTYside」は親しい友達を招いて行われたホーム・パーティーでのウォームでリラックスしたセッション。そして「CHETside」は敬愛するチェット・ベイカーへ捧げられたシアトルのジャズ・クラブで行われたトリビュート・ライヴを収録。チェット・ベイカーやジョアン・ジルベルト、マイケル・フランクスなどを彷彿とさせるソフトでジェントルなその歌声と爽やかなウエスト・コーストの空気をいっぱいに吸い込んだジャジーなサウンドが織りなす至福の一枚。
リサ・ヴァーラント
「Umbrella」
from 『Ambrella -Wowowinder』
ドイツの歌姫リザ・ヴァーラントのenjaからの2作目となる本作は完成度の高いオリジナル・ソングとリアーナ、ボブ・ディラン、サイモン&ガーファンクル、ポール・ヤングなどの秀逸なカヴァーを交えたコンテンポラリー・ジャズ・ヴォーカルの新定盤。ウォルター・ラングが全面サポートし、ヴェルヴェットのようにしなやかなハニー・トーン・ヴォイスとリリカルで躍動感溢れるピアノ・トリオがコラボレーション。
山本:「レイニー・サイド」は静かな曲ばかり入っているから、もうひとつのテーマには「夜」があって、寝る前のひと時とか本を読みながらとか、そういう時間にも合えばいいかなと思いました。それでプリシラ・パリスの「Moonglow」とか、メリッサ・カラードの「Stardust」とか月や星をテーマにした曲を選びました。
福井:それはいいアイデアですね。僕も寝る用にいつも枕元には何枚もCDを置いているんですけど、今度はこのCDを寝る前に聴いてみますよ。
山本:ヴォリュームは下げて、少し聴こえるぐらいがちょうどいいですよ。
福井:そう、隣の部屋から聴こえてくるぐらいが安心するんですよね。
山本:この「レイニー・サイド」の中で個人的に思い入れが深い曲は、ジャネット・サイデルの「Nothing To Lose」なんですよ。
福井:ヘンリー・マンシーニが、映画「パーティー」の挿入歌に書いた曲のカヴァーですよね。
山本:映画の中ではクロディーヌ・ロンジェがギターを爪弾きながら歌っていて、それがとても印象的で好きだったんです。それに「Moon River」を彷彿させるメロディにも胸がキュンとなるんです(笑)。
福井:ジョー・チンダモのピアノも雰囲気あっていいですよね。この曲が収録されたアルバムはヘンリー・マンシーニのカヴァー集で、どれもいい曲ばかりですから、そちらもぜひ聴いてほしいですね。
プリシラ・パリス
「Moonglow」
from 『Priscilla Loves Billie』
元パリス・シスターズのメイン・ヴォーカルとして知られるプリシラ・パリスが、1969年、シド・フェラーとドン・ピークの編曲・指揮によるストリングスをバックに録音したビリー・ホリディ・トリビュート。その蕩けそうなメロウ・ヴォイスで男性リスナーを悩殺してきたプリシラの美女ジャケ・マニア垂涎のアルバム。エンボス紙によりオリジナル・ジャケットの質感をコンプリートに再現。プリシラが愛したビリー、そして誰もが愛したプリシラ・・・
ブロッサム・ディアリー
「Sweet Georgie Fame」
from 『Me And Phil』
2009年2月多くのファンに惜しまれながらこの世を去ったブロッサム・ディアリーが1994年にオーストラリアのみでリリースした幻のアルバム。90年代の成熟した歌声が聴ける本作は彼女の魅力をより引き立させている。お気に入りのベーシスト、フィル・スコージーを従えて「Sweet Georgie Fame」、「I'm Hip」などお馴染みのナンバーはじめ、ジョン・デンセムが彼女に捧げた「Blossom」のセルフ・カヴァーなど珍しい曲も披露している。
山本:そしてジャネットの次はブロッサム・ディアリーしかないですよね。これはブロッサムのアイドルでもあったジョージィ・フェイムに捧げた「Sweet Georgie Fame」という曲で、そういえばジャネット・サイデルはブロッサムの大ファンなんですよね。
福井:そうですね。ジャネットはブロッサムへのトリビュート・アルバム『Dear Blossom』も録音していますからね。この後に続くドン・フリードマン! これを選んだのは驚きましたよ。「Summer's End」というタイトルどおり、過ぎ行く夏の終わりを感じさせる演奏がセンチメンタルですね。
山本:ストリングスが入っているけどデリケイトだからうるさくないですよ。むしろ心地いい。ヴォーカル曲が続いたのでこの辺でインストを入れてみました。
福井:そして冒頭でも話したカーリン・クローグの「Alfie」を挟んで、ナンシー・ハーロウの「Here Come The Sun」が来て、このくらいから雨もやんでうっすらと光が差してくる感じがしますね。
山本:そうですね。このコンピの選曲も物語みたいになれば素敵かなと思いました。オリジナルはジョージ・ハリソンの曲で、こういうジャズ・カヴァーがあるとロックやポップス・ファンも手に取りやすいかなと。
福井:雨が降り続いても悲しい気持ちでは終わらないという、それを象徴するのが「レイニー・サイド」の最後に収録されたグラディ・テイトの「Suck Full Of Dreams」。これはゲイリー・マクファーランドの作曲で、ダニー・ハサウェイもカヴァーしていて、あらためてゲイリーはすごい人だなと思いましたよ。あとグラディ自身もこの曲を気に入っていたようですね。60年代後半のアメリカの状況と歌詞の世界観を重ね合わせて涙したそうです。
山本:この曲はSKYEレーベルの『Windmills Of Your Mind』に入っていて、ソフトロックとソウルのいい部分が溶け合った絶妙なアレンジですよ。この曲で「レイニー・サイド」は終わって、もう一枚の「サニー・サイド」の架け橋になるような存在でもあります。その「サニー・サイド」は全体的に太陽の光が差すような明るい曲を集めました。
福井:それを印象付けるように、スティーヴィー・ワンダーの名曲「You Are The Sunshine Of My Life」で始まるという、しかもアイリーン・クラールというマニアックなジャズ・ヴォーカリストのカヴァーですよ。ちなみにここでピアノを弾いているのは知る人ぞ知るピアニストのアラン・ブロードベントですね。最近のポール・マッカートニーの新作にも参加していましたね。
山本:あとアイリーン・クラールはジャッキー&ロイのロイ・クラールの妹ですよね。このカヴァーは聴いた人がみんな幸せになれるような素晴らしいヴァージョンですよね。
グラディ・テイト
「Suck Full Of Dreams」
from 『Windsmile Of Your Mind』
ポップスからジャズまで幅広く活躍する名ドラマー、グラディ・テイトのヴォーカル・アルバム。ハービー・ハンコック、エリック・ゲイル、チャック・レイ二ーらが参加。日本ではヴォーカル・アルバムとしての本作で初めて名前を知った人も多かったグラディ・テイト。黒人クルーナー系の典型的なソフトヴォイスはこのアルバム・タイトル曲にピッタリ。プロデューサー、ゲイリー・マクファーランドらしい力の抜けたアルバムの典型だ。
ダイアナ・パントン
「This Happy Madness」
from 『To Brazil With Love』
カナダの妖精、ダイアナ・パントンが、そのシュガー・ヴォイスで囁きかけるブラジリアン・アルバム。映画「男と女」の印象的なシーンでピエール・バルーが歌った「Samba Saravah」のサウダージ感溢れるカヴァー、ジョビンの隠れた名曲「This Happy Madness」、カエターノ・ヴェローゾの名唱で知られるアンリ・サルバドール作「Dans mon ile」などナイスな選曲も光るジャズ系ボサノヴァ・アルバムの新定盤。
福井:雨はアン・バートン、晴れはアイリーン・クラールでスタートするというのが渋いところでもあり、ジャズ・ヴォーカル・マニアも納得するセレクトだと思いますよ。
山本: 「サニー・サイド」は休日のパーティーに流れるBGMのような雰囲気もあります。トゥトゥ・プワネの「That's All」みたいなワルツが流れるとなんだかワクワクするじゃないですか(笑)。
福井:何かいいことが始まる予感ですよね(笑)。そして続くダイアナ・パントンは、今ではジャネット・サイデルと並んでMUZAKの顔になりました。彼女のアルバムはどれも素晴らしい。気がつくとこの2年間で4枚のアルバムを出していました。そして今年の秋には初のクリスマス・アルバムの発売も控えていますので乞うご期待です。
山本:それは楽しみですね! 彼女はいい曲が多いからどれを選ぶか本当に悩みました。それでボサノヴァ・ファンの間でもフェイヴァリットに挙げる人が多い、ジョビンの隠れた名曲「This Happy Madness」を選びました。彼女の穏やかな歌声はボサノヴァにも合いますね。
福井:続くキャロル・ウェルスマンの「Don't Be That Way」もブラジリアン・リズムですね。これはベニー・グッドマンの十八番でオールド・ファンの方なら誰でも知っているジャズの超が付くようなスタンダードですけど、こういうアレンジでかなり洒落た印象に変りましたね。
山本:そしてリンカーン・ブライニーが再び登場します。これはチェット・ベイカーでもおなじみ「Do It The Hard Way」です。
福井:リンカーンはもっといろんな音楽ファンに聴いてもらいたいですね。今年の1月に彼の『Lincoln Briney's Party』というアルバムを発売して、その時の帯に書いたキャッチ・コピーが我ながら良くできたかなと(笑)。
山本:「50年代のチェット・ベイカー、70年代のマイケル・フランクス、そして今リンカーン・ブライニー」ですね。
福井:なんと9月には彼のアルバムを2枚同時発売します。1枚はスタンダード・ソングを集めた『I'M OLD FASHIONED〜リンカーンのお気に入りスタンダード編』で、もう1枚はファーストの『FOREIGN AFFAIR』に収録されたトム・ウェイツやシャーデーのカヴァーに、未発表のカヴァー曲も追加した『VISIONS〜リンカーンのお気に入りコンテンポラリー編』です。こちらも乞うご期待です。
山本:続くマデリン・ペルーがハーモニカ奏者のウィリアム・ギャリソンと吹き込んだ「The Way You Look Tonight」は、たぶんマデリンのファンにはあまり知られていない曲かもしれませんが、サンバ・リズムのとても楽しい曲です。そしてこの次が話題沸騰中のアール・オキンですよ。
福井:いやー、こんなに反響があるとは思いませんでしたよ。たぶん日本で彼のこと知っている人はほとんどいなかったからインパクトがあったかもしれませんね。あとは実はコメディアンでしかも65歳という素性も拍車をかけましたね。
山本:しかし、経歴を辿るとポール・マッカートニー率いるウィングスのツアーに同行していたすごい人物ですよね。あと作曲家としても活躍していたから、オリジナル曲がどれも良くて、この「Madrugada」なんてまさにそうですよね。
福井:リタ・エイブラムス先生の「Mill Valley」も幸福感に満ち溢れていますね。もちろん子どもたちが歌っているという理由もありますし、何よりリタが書いた曲がいいですね。発売当時はビルボードのシングル・トップ100に入ったそうです。あとプロデュースがラヴィン・スプーンフルを手掛けたあのエリック・ジェイコブセンなんです。彼もリタも日本での再発をとても喜んでくれました。
山本:僕もこの曲は大好きで聴くたびに幸せな気持ちになれますね。「サニー・サイド」の重要曲といってもいいのではないでしょうか。
エイブラムズ先生とストロベリー・ポイント小学校4年生
「Mill Valley」
from 『Miss Abrams And The Strawberry Point 4th Grade Class』
アメリカ西海岸の小さな町ミル・ヴァレーに実在するストロベリー・ポイント小学校。そこの生徒たちとリタ・エイブラムズ先生によって作られ、ビルボードにチャートインする大ヒットとなったシングル「Mill Valley」を収録した1972年発表作。子どもたちのイノセントな歌声と、エイブラムズ先生によるレベルの高い自作曲。ラヴィン・スプーンフルを手がけたことで知られるエリック・ジェイコブセンがプロデュースを担当。「You Are My Sunshine」の好カヴァーなども収録したポップスとしての完成度の高い作品。
ピート・ジョリー
「Sweet September」
from 『Sweet September』
めくるめくウエスト・コーストの快感。1963年録音による屈指の人気盤。高速ワルツ「Sweet September」で心地よく始まり、ラテン・タッチのミディアム・テンポ「Kiss Me Baby」でリラックス、うっとりするドリーミーなバラード「I Have Dreamed」、映画『地下室のメロディー』のテーマ曲「Any Number Can Win」のグルーヴ感溢れるプレーなどピアノ・ファンには堪らない一枚。2012リマスタリング・マスター使用。
福井:この後からウェスト・コースト・ジャズが続きますね。ルーシー・アン・ポークとジャズ・バンド・ボールも木漏れ日系ですね。特にジャズ・バンド・ボールのヴィブラフォンの音色は涼しげで澄んだ感じがしますね。弾いているのはテリー・ギブスというけっこう渋いプレイヤーですよ。
山本:ヴォーカル曲が続いたので、この辺でラウンジーなブレイク・タイムという感じですね。
福井:耳休めですね。その後にガツンと2曲続きますね。まずはデイブ・フリッシュバーグです。僕は以前からずっと彼のアルバム『OKLAHOMA TOAD』をMUZAKから出したくて、それでやっと発売が実現になったんですけど、なんと驚きのオマケが付いてきました。CTIから発売されたオリジナルのクリード・テイラーが手掛けた録音ミックスとは別の録音ミックスが存在していたんです。これはプロデューサーのデヴィッド・ロスナーとマーゴ・ガーヤンが行ったもので、今まで世に出たことはなかった幻の存在だったんです。
山本:聴き比べると全然違いますよね。クリード・テイラーの方はメロウでスムースな感じで、デヴィットとマーゴの方は生々しくファンキー、今回はコンピの流れからCTIミックスを選びました。そしてピート・ジョリーのめくるめくピアノが最高な「Sweet September」が続きます。
福井:ピート・ジョリーはジャズというよりもポップス的センスもあって、そこが好きなんですよ。A&Mから作品を出したりロジャニコの曲をカヴァーしていますからね。
山本:ピアノのピート・ジョリーがくれば、ギターのバーニー・ケッセルということで「On A Clear Day, You Can See Forever」ですね。これはジャズのスタンダードで「サニー・サイド」のテーマにもぴったりの曲で、実は1曲目のアイリーン・クラールもこの曲をカヴァーしていて、最初はそれを入れようかと考えていたんですけど、やっぱり彼女は「You Are The Sunshine Of My Life」の方を入れたくて。そうしたら福井さんが、このバーニー・ケッセルのヴァージョンを教えてくれました。
福井:この曲が収録されたアルバム『Autumn Leaves』はBlack Lionというレーベルから発売されていて、実はアルバム単体ではMUZAKから発売していないんですよ。そういう意味では貴重な収録となって嬉しいですね。そして嬉しいといえば次の曲の収録が一番嬉しかったりします!
山本:おお、そうですか。ハーパース・ビザールの「Speak Low」のカヴァーですよね。これはハーパースの隠れた名曲ですよね。
福井:「Speak Low」といえばゴリゴリのジャズの定番ですけど、彼らがカヴァーするとこんなに軽やかでポップに聴こえるという、奇跡のカヴァーですね。ワーナーから離れて再結成して録音したアルバム『As Time Goes By』に収録されています。でもやっぱり名盤といわれる『Secret Life of』とかに隠れて忘れられている存在ですけど、彼らの曲の中でもベスト3に入る好きな曲ですね。僕はいつもこの曲を聴くたびに心が軽くなるんですよ。
山本:まさに「サニー・サイド」ですね。ソフトロックとジャズの素敵な出会いという感じで、ラテン風味なアレンジも効いていますね。MUZAKがジャズとソフトロックの両面の魅力を持っているとすれば、この曲はそれを表現していると思います。
福井:高揚感のある曲が続いたのでカル・ジェイダーのヴィブラフォンでクール・ダウンする流れですね。この曲が収録されたバカラックのカヴァー集はSKYEレーベルを象徴するアルバムです。サウンドもアレンジもジャケットも全て完璧。
山本:ジャズやソフトロックのリスナーはもちろん、ヒップホップやクラブ・リスナーも惹きつけるミラクルなサウンドですよね。
福井:やっぱり当時のゲイリー・マクファーランドのサウンド・メイキングは何年も先を見ていたのが改めて分かりますね。だから当時はジャズ・ファンからも相手にされなくて全然売れなかったという。でも今回いろんな楽曲に混ざってSKYEの曲が入ると、今まで聴いた時とはまた違った印象があって興味深かったですね。
山本:今回2枚選曲する中でMUZAKの重要な部分でもあるSKYEレーベルの音源は何をどこでいれるかとても考えました。名曲ばかりですからね。特にゲイリー・マクファーランドは良い曲があり過ぎで悩んでもきりが無いから、単純に自分の好きな曲を選びました。
福井:そのゲイリー・マクファーランドの『Today』もカル・ジェイダーと並んでSKYEレーベルの代表格ですね。「Everybody Talkin」もゲイリーが歌えば彼の色に染まります。この曲はニルソンの歌でも有名で、ニルソンはポール・マッカートニーのセンスを感じるシンガー・ソングライターですよね。このあとに続く「Till There Was You」はビートルズのカヴァーで有名なポールが愛した曲ですね。ポールのお母さんが若い時からペギー・リーのヴァージョンが大好きだったみたいですね。
カル・ジェイダー
「Walk On By」
from 『Sounds Out Burt Bacharach』
名ジャズ・ヴィブラフォン奏者カル・ジェイダーが、ゲイリー・マクファーランド主宰の名門SKYEレーベルに吹き込んだ全曲バカラック・カヴァーによる名盤。パーカッシヴ且つラウンジ/ソフトロック寄りのサウンドは、90年代以降のフリーソウル〜レアグルーヴ・ムーヴメントをキッカケに再評価された。ダブル紙ジャケット仕様。
ジャネット・サイデル
「Till There Was You」
from 『Moon Of Manakoora』
スウィート、ラヴリー、センチメンタル、そしてジャジー。オーストラリアの歌姫、ジャネット・サイデルが全面にウクレレをフィーチャーしたチャーミングなアルバム。2005年のスイング・ジャーナル誌ヴォーカル・チャートで3ヶ月連続1位を獲得した脅威のロングセラー・ジャズ・ヴォーカル作品。母国オーストラリアでは「Winner of the Bell Award for Jazz Vocal CD of 2006 」を受賞。
山本:このジャネット・サイデルが歌うヴァージョンが収録された『マナクーラの月』はMUZAKのベストセラーですよね。MUZAKといえばまずこのアルバムが浮かびます。
福井:そうですね。個人的な思い入れも深い作品なんですよ。実はこのアルバムの企画を彼女に提案したのは僕だったんです。彼らの日本ツアーのステージを何度もみてきましたが、レギュラー・ギタリストのチャック・モーガンが時折弾くウクレレが素晴しく、これをフィーチャーしてアルバムを作ったらと思ったんです。ジャネットのジェントルな歌声とナチュラルなウクレレの音色が見事にはまりましたね。
山本:そしてラストはこのコンピのタイトルにもなっている「Come Rain or Come Shine」ですね。ダン・ヒックスやジェフ・マルダーみたいで面白いヴァージョンですよね。正直最後に入れるのに迷いましたが、これが意外によい感じで。
福井:ほのぼのとしたハッピーエンドの映画のエンディングみたいですね。この曲のレフト・オーヴァー・ドリームスというグループは仲のいい夫婦で歌っているんですよね。それもいいエピソードじゃないですか。旦那さんのトニー・マーカスはジェフ・マルダー・ジャグバンド・トリオのメンバーとして来日公演も行っていますね。
山本:あとこのコンピはジャケットとブックレットの作りにもこだわりましたよね。
福井:「雨」と「晴れ」をイメージして、それぞれ2種類作って両面仕様にしました。両A面という感じでどっちを飾ってもいいですね。コンピでこういうデザインは珍しいですね。世界初かもしれない(笑)。
山本:絵本みたいでかわいいから女性にも気に入ってもらえるかもしれません。ジャケットを気に入って手にとってもらえるだけでも嬉しいですね。そしてブックレットには収録した曲のオリジナル・ジャケットも全て掲載しています。
福井:しかもオール・カラーなので眺めるだけでも楽しいです。曲を気に入ったらぜひオリジナルのアルバムもチェックしてほしいですね。
山本:このコンピは誰かにあげるプレゼントにもぴったりということで、福井さんにわがままを言って特典まで作ってもらいました(笑)。
福井:それがこのコンピのジャケット・デザインを使ったメッセージ・カードですね。これがまたデザイン的も可愛らしいですね。このカードに一言添えてCDをプレゼントすれば、もらった人は喜ぶと思いますよ。あと、CDにはフリー・アナウンサーの山本郁さんと、映像翻訳家の岩辺いずみさんによる素敵な推薦コメントもステッカーにして貼っています。
山本:これは嬉しいですね。このコメントを読むとより音楽を身近に感じることができますね。今回、2枚組のコンピを作って感じたのは、MUZAKには古い作品から新しい作品まで年代も国も幅広いけど、どこか統一したカラーがあるというか、“らしさ”があるというか。リスナーはこのコンピを気軽に楽しみながら、収録されたアーティストや作品にも少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。
福井:僕も今回のコンピの選曲を聴いて改めて良さに気付いた曲もありましたし新しい発見もありました。MUZAKはメジャーのレコード会社に比べると米粒のように小さな会社ですが、いつの間にか一社だけでこんな素敵なコンピが作れるまでにカタログが充実したことも感無量です。これまでこういったコンピ企画にはあまり積極的ではありませんでしたが、これからは癖になりそうですね(笑)。山本さんのお陰で有意義で楽しい経験をさせていただきました。ありがとうございました!