LINKIN PARKのあの日、あの時 17

2012年10月27日 (土)


チェスター・ベニントンの別バンドDEAD BY SUNRISE、ついにベールを脱ぐ!!
文●有島博志(GrindHouse)

 3枚目『MINUTES TO MIDNIGHT』発売後少ししてから、チェスター・ベニントン(vo)はLINKIN PARKの活動と並行して自身の別バンド、DEAD BY SUNRISEとしての音源制作も本格化させた。DEAD BY SUNRISEはチェスターが2005年頃から構想を持ち、その後あくまでも個人レベルでちょこちょことデモ音源を作っていた、という黎明期がある。その頃チェスターは10年近く連れ添った妻サマンサと離婚するなど、相当精神的にまいっていた。

「もともとはDEAD BY SUNRISEじゃなく、SNOW WHITE TANって言っていたんだ。
だけど本当に多くの人たちにSNOW WHITE TANのバンド名の意味を訊かれてさ。“音楽のことよりバンド名のことばかり質問されるのはヤだなぁ”となり、DEAD BY SUNRISEに変更したんだ(笑)。2005年当時の俺は完全に夜型人間で、夜になるとスタジオ作業に入っているか、酒を飲んで自分自身を忘却の彼方へと押しやっていた。つまり、当時の自分のライフスタイルを反映させたバンド名なんだよ(苦笑)。最高のヴァイブがあると思ったし、あの頃の俺の気持ちをまさにピンポイントで捉えた、ベストなバンド名だと思った。“明朝、俺はちゃんと生きてるかな”っていうところまで絶望的な気持ちに陥った日もたくさんあったし、あの頃の俺にピッタリなバンド名だったんだ (笑)」
とチェスター。

 その答えを受けて、チェスターにこう念を押した。「夜型生活ばかり送っていたから、“夜明け前に死亡”(=DEAD BY SUNRISE)だと?」。

「うん、そういうこと(笑)」とチェスター。

 マイク・シノダ(vo,g,key)が別グループ、FORT MINORを動かしたときの動機、経緯と、チェスターがDEAD BY SUNRISEを始めたときのそれらが真逆だと言えるくらいに違う。連載第10回に書いたとおり、マイクは『COLLISION COURSE』(2004年)でコラボ・マッシュアップしたリスペクトして止まない大御所ヒップホップ・アーティスト、JAY-Zに背中を押され、それで自信を持ち、FORT MINORをやり、『THE RISING TIDE』(2005年)を発売した。それに比べてチェスターは、そのとき陥っていた自らの決してよくはない精神状態からの逃避、脱却がことの始まりだった。

「うん、確かにDEAD BY SUNRISEの出発点はそんな感じだったよ。だけど、それから長い歳月を要したものの、その間俺がDEAD BY SUNRISEに対して興味を失わず、常々“作品を完成させ、みんなに聴いてほしい” という強い気持ちを持ち続けることができて、とにかく嬉しいんだ。その間オフをとっていたわけじゃなく、LINKIN PARKとしての活動もあったからね。作品を完成させ、そして今『OUT OF ASHES』というタイトルで発売できるというところまでこれて、今はものすごくハッピーだよ!(笑) 。ここまでの道のりがものすごく長かったぶん喜びもひとしおだよ」

 作品を制作し、発売後にはツアーにも出るというアイディアの下、チェスターが選んだパートナーが、ライアン・シャック(g)とアミアー・デラク(g,synth)だ。アミアーは“ヘア・メタル”が全盛だった80年代中盤に登場し、“中堅バンド”としてその名を知られたROUGH CUTT(当時メジャー・レーベルから『ROUGH CUTT』など2作品を発売し、'86年には来日経験もあり)の出で、90年代後半にライアンやジェイ・ゴードン(vo)らと組閣したORGYでブレイクした、というキャリアを持つ。ORGYはKORN主宰のElementree Records所属で、NEW ORDERのカヴァー「Blue Monday」がスマッシュ・ヒットし、デビュー作『CANDYASS』('98年)が本国アメリカだけで100万枚以上売れ、見事プラチナ・ディスクに輝いた。その後もう1枚『VAPOR TRANSMISSION』(2000年)を出し、本国のみで50万枚以上売れ、ゴールド・ディスクに輝いたもののElementreeより離脱。しばらくしてD1というスモール・レーベルに移籍し、9曲入りのミニ・アルバム『PUNK STATIK PARANOIA』(2004年/日本盤未発売)を発売した。が、しかし、それ以降長いこと活動休止状態にあった。ダンサブルなエレクトロ・ビートを率先して取り入れ、フューチャリスティックなイメージを濃厚にした未来型ヘヴィ・ロックを得意とする。チェスターが言う。

「ライアンやアミアーとは、LINKIN PARKの『HYBRID THEORY』(2000年)の制作中に知り合ったんだ。 偶然ORGYも同じスタジオのほかの部屋にいて、それで話すようになったんだ。それ以来、2人とはずっといい友達でさ。昔からORGYは大好きなバンドだったから友情関係を築くことができて嬉しかったよ。で、ある日DEAD BY SUNRISEの楽曲を聴いてもらったところ、気に入ってくれたんで一緒にやることになったんだ。そんな感じでなんとなく始まり、俺が作ったデモ音源に2人が独自のヒネリを利かせてよりよいものにしてくれたりして、最終的にバンドになったんだ。俺がやりたいようにやり、それをライアンとアミアーが上手くプロデュースしてくれる、っていうのがDEAD BY SUNRISEの基本的なやり方なんだよね(笑)」

 デビュー作『OUT OF ASHES』は2009年9月に日本先行発売された(US盤発売は同10月)。プロデューサーはMY CHEMICAL ROMANCEHOOBASTANKほかとの仕事で高名なハワード・ベンソンだ。その年のサマソニ2009にLINKIN PARKが参戦したのだけど、作品発売が間近に迫る時期だったということもあり、加えてほかのメンバーの配慮と応援もあったのだろう。アンコール1回目でチェスターが歌い、LINKIN PARKが演奏するという形で、DEAD BY SUNRISEの楽曲3曲「Crawl Back In」「Fire」「My Suffering」が日本で初披露されたというサプライズがあったことは記憶に新しい。DEAD BY SUNRISEの音楽は、いくらチェスターが歌っているとは言え、LINKIN PARKのそれとはまるで方向性も世界観も違う、ラウドで内向性の強いロックだ。

「実は非常にパーソナルな作品でね。すべて自分に関係している内容を歌っている。作品収録曲を書いていた時期は、俺の人生においてまさに大きな過渡期だった。ネガティヴなものが美しいものへと変化をとげていた最中で、それは今作から感じ取ってもらうことができると思う。ダークだね、全体的に。ダークな曲調って昔から大好きでさ。DEPECHE MODE、THE CURE、ALICE IN CHAINSなどから影響を受けているから。彼らの楽曲に存在するダークで憂鬱な曲調のヴォーカルやコード進行ってすごくいいって今も思うもの。とにかく自分の経験を基に楽曲を作り、その自作楽曲をみんなが聴いてくれたり、一緒に共有したりとラッキーだよ」

 DEAD BY SUNRISEは『OUT OF ASHES』発売から4ヵ月後の2010年1月に単独ツアーで来日し、東京のみで2公演やり、ソールドアウトにした。このときの対面取材で、チェスターは初めてLINKIN PARKの通算4枚目『A THOUSAND SUNS』について語ってくれた。次回はこのときの話から始めよう。

 余談だけど、長らく活動を休止していたORGYが、今年に入ってからジェイ主導・先導でライアンとアミアー抜きの新布陣でツアーに出たりしている。


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■■■ 有島博志プロフィール ■■■

80年代中盤よりフリーランスのロックジャーナリストとして活動。積極的な海外での取材や体験をもとにメタル、グランジ/オルタナティヴ・ロック、メロディック・パンク・ロックなどをいち早く日本に紹介した、いわゆるモダン/ラウドロック・シーンの立役者のひとり。
 2000年にGrindHouseを立ち上げ、ロック誌GrindHouse magazineを筆頭にラジオ、USEN、TVとさまざまなメディアを用い、今もっとも熱い音楽を発信し続けている。
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チェスター・ベニントンの別バンド

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こちらはマイク・シノダの別グループ

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