【特集】 金澤寿和解説　和製ライト・メロウの傑作 “TIME FIVE” 邦楽オススメ再発・CD化作品へ戻る

TIME FIVE 『翼を下さい』『Gentle Breeze』解説　（金澤寿和）

　日本のコーラス・グループと言えば、いま真っ先に名前が挙がるのはゴスペラーズだろうか。その系譜にはラッツ＆スター、ハイ・ファイ・セットやサーカス、さらにはダーク・ダックスのような合唱スタイルのコーラス・グループがあった。
　今回紹介する、タイム・ファイブは同志社大学軽音楽部出身の男性5人組で、米国のコーラス・グループ、フォー・フレッシュメン好きの先輩後輩が集まって1968年に結成された。彼らの魅力はポップスの親しみやすさとテンションを駆使した高度なハーモニーを併せ持つところ。よりジャズ・ヴォーカルへの傾倒が顕著で、ライヴでは楽器をプレイしながらハモるのも珍しい。しかも、オリジナル・メンバー5人（田井康夫、野口鎮雄、勅使河原貞昭、吉村晴哉、杉江浩平）は、結成からまったく変更ナシというからビックリ！ テレビやラジオへの出演以外に、これまで1000曲以上のCMソングを歌ってきたことも偉業のひとつである。
　そんな長く豊富なキャリアを有するタイム・ファイブが、時代の音と最も密接な関わりを持ったのが、70年終盤から80年代初頭にかけて。いわゆる、シティ・ポップスやソフト＆メロウと呼ばれる洗練された都会派サウンドが台頭した頃で、そんな中、タイム・ファイブの『翼を下さい』『ジェントル・ブリーズ』も生まれた。

■ 『翼を下さい』

　プロデュースは、まさにハイ・ファイ・セットやサーカスを手掛けたトニー有賀こと有賀恒夫。エグゼクティヴ・プロデューサー村井邦彦、アレンジ、ボブ・アルシヴァーという構図はまさにハイ・ファイ・セット『ザ・ダイアリー』（77年）の東京エディション。参加ミュージシャンも村井〜有賀ラインに連なる売れっ子セッションメンばかり。タイム・ファイブがこの時何を演ろうとしていたかは、こうしたキャスティングや収録曲のチョイスを見れば一目瞭然である。そこから彼らの思いを慮ってみていただきたい。以下一部を紹介しよう。

01. 「麗しのローリー （Oh！ Lori）」
ボーンズ・ハウのプロデュースで76年にデビューしたニューヨークの美形兄弟デュオ、アレッシーのセカンド・シングル曲。AORファンにも人気のスウィンギン・ポップ名曲。

02. 「懐かしきハイスクール」
新進ソングライターとして注目を集め始めていた林 哲司の作品。彼が竹内まりや＜セプテンバー＞、松原みき＜真夜中のドア＞などでブレイクするのは、翌79年のことである。

07. 「雨の樹の下で （Laughter in the Rain）」
本作2曲目のニール・セダカのナンバーで邦題は＜雨に微笑みを＞。伊東ゆかり、南佳孝、崎谷健次郎、ソウル・ボッサ・トリオなど数多くの日本語カヴァーがあるが、若い世代にはMONDO GROSSOで有名。ボブ・アルシヴァーのアレンジが冴え渡り、タイム・ファイブの持ち味がよく表れている。

■『ジェントル・ブリーズ』

　次に起用されたのがすっかり『ルパン三世』のサントラで有名になった作編曲家／ジャズ・ピアニスト、大野雄二。メンバーのオリジナル作品の全編曲を手がけて鮮やかな彩りを配した。作曲面でも彼らをサポート、ふわり舞い立つオープニング・チューン＜恋のハプニング＞と、ラストのアーバン・メロウなミディアム・スロウ＜サイレント・ナイト＞を書き下ろした。更に、大野とは切っても切れない縁を持つサンパウロ生まれのボサノヴァ・シンガー：ソニア・ローザが、＜シュヴァ・ヴェイン＞と＜カーニバル＞の2曲を提供、デュエットと言っても差し支えないほどの歌声を聴かせている。メンバーのオリジナルも高いクオリティーで、アンニュイな艶っぽさを醸し出す＜めぐりくる季節＞や＜秋へと続く恋＞、タイトルに違わず温もり感を運んでくる＜暖かなひととき＞は、優しいメロディと繊細なヴォイス・タペストリーが、タイム・ファイブならではの世界観を創っている。まさにジェントル・ブリーズ。彼らと大野それぞれの歩みと時代の音が次第に接近し、そして見事に交叉した瞬間の輝きをダイレクトに刻んだ奇跡的作品、それがこの『ジェントル・ブリーズ』なのである。

金澤寿和 推薦　TIME FIVEと一緒に聴きたい10枚

和製ライト・メロウの最高峰の一角、タイム・ファイブのディスコ・メイト・レーベル時代の作品が遂にCD化