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2013年6月14日 (金)
連載 許光俊の言いたい放題 第222回「女王対決の勝敗は?」
6月頭に行われた東京のヴァイオリン女王対決、想像以上にすごかった。久しぶりに復活したチョン・キョンファは、もしかしたらかつて以上ではないかという凄みのある演奏を聴かせた。何しろ超弱音が多く、客席まで音を飛ばそうなどとは微塵も考えない内省的な音楽なのである。10列目でも遠すぎるのではないのかというほどだ。私は幸いほとんど最前列に近い座席を確保していたので、そのあまりにも微妙かつ徹底的な響きのコントロールにしびれた。これはもはやヴァイオリンの音ではない。人声による語りだ。一般的にヴァイオリンの魅力と目される艶やかな響きをあえて完全に封印している。ことに、ブラームスの甘美なソナタを完璧なつや消しで弾いてのけたのには驚いた。次回のコンサートは絶対に小さな会場でやったほうがよい。
それにしても、ブランクというのはやはり消しがたいものであるらしい。特にコンサートの最初のほうのチョンはずいぶん神経質そうだった。ステージに登場し、満員の東京文化会館を見渡している姿を見て、これほどの名演奏家をもってしても、舞台で弾くことは生半可なことではないのだと痛感させられた。願わくば、このまま定期的にコンサートを行ってほしいものだ。
精神そのもののようなチョンの翌日に聴いたムターが、まったく聴き劣りしないことも驚くべきことだ。チョンが渋みにうまみの本質がある極上の中国茶だとしたら、ムターは甘口ワインの最高峰である。この日ムターが弾いたシューベルトの幻想曲は、最近発売されたチョンの東京ライヴCDにも収録されている。その違いたるや、呆れるほど大きい。はるか彼方に吸い込まれそうなチョンに対し、これでもかとゴージャスできれいなのがムターだ。なんだか、本来ショボい風貌のシューベルト(ごめんね)がやたらお金持ちになったような違和感があったが、音楽の密度に文句はつけられない。アンコールの「タイスの瞑想曲」は、まさしく現在のムターのやり方の完璧なサンプルで、うならされた。ツヤツヤ、ヌラヌラ、強弱伸縮自由自在。叶姉妹的人工美の極致だ。まさしくカラヤンの後継者と呼ばれるにふさわしい演奏家である。カラヤンはもしかしてムターの中に、自分と同質の音楽性を発見していたのだろうか。すなわち、音楽の内面ではなく外面でもって勝負するという。精神性も内面性も唖然とするほど欠落しているが、しかしこの外面の見事さは侮れるものではない。ムターがチョンを意識していたかどうかはわからないが、ここ何度かの来日の中では一番よかったことは間違いないと思う。それとも、翌日コンサートが行われるヴェンゲロフを意識したのか。
ちなみに、ムターの日のサントリーホールは、演奏家の要望ということで冷房をギンギンにきかせていた。私のような暑がりには実にありがたい。むやみと節電ばかりが叫ばれる昨今だけに溜飲を下げた。これくら下げなくては、北国の音楽なんてやれないよ。それにしても、一番湿度が高い6月に名ヴァイオリニストが続々と来日するのはどうしたことか。ムターの以前の来日公演もこの季節だったことがある。
いずれにしても、このふたりは、自分が何をやるべきかを完全に知っている。そして、それをやっている。あらゆる音を統制下に置いている。自分のスタイルを極めている。これらは一流演奏家に不可欠の条件である。実際のところ、現代においてこのふたりの女性ヴァイオリニストに匹敵する境地に達しているのは、他にはツェートマイアくらいしかいないのではないか。
ところで、世の中には女流ヴァイオリニスト好きが多いようだが、私は別に男女はどうでもよい。どうせ誰が弾いてもほとんど見ていないので。
しかし、雰囲気やらも含めて女流に入れあげるのは趣味の問題で、それはそれで結構なことである。少し前に発売されたローラ・ボベスコの日本ライヴCDは、ファンの思い入れがぎっしり詰まっていて、微笑ましい。そもそもはファンの熱意が来日を促したのだという。実際、演奏も当時熱心な聴衆を獲得したのが理解できるだけの魅力がある。格別の技巧家ではないが、間違いなく音楽的なのである。流れが自然なのだ。当たり前に身に備わった美意識があるのだ。本来は、このような演奏こそがまともな演奏と評されるべきである。思い返せば、さまざまな地域の音楽家が輩出される昨今、こういったタイプの人もいなくなった。懐かしさを感じつつ聴いた。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
評論家エッセイ情報チョン・キョンファ検索
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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チョン・キョンファ 1998年東京ライヴ第1夜〜シューベルト、シューマン、バッハ(2CD)
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カルメン幻想曲 ムター(Vn)レヴァイン&ウィーン・フィル
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