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「ベルリン・フィル・ラウンジ」第82号:ラトル、新シーズンのプログラム構成について語る(前半) ベルリン・フィル・ラウンジへ戻る

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2013年9月13日 (金)

ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

ヴィンフリート・シュトレーレが定年により退団
 カラヤン時代から42年にわたってベルリン・フィルで活躍した、ソロ・ヴィオラ奏者のヴィンフリート・シュトレーレが、8月23日のシーズン開幕演奏会をもって定年退職しました。
 シュトレーレは、バーデン・ヴィルテンベルク州ショルンドルフの出身。エミール・ケッシンガー、ウルリヒ・コッホ、ティボール・ヴァルガに師事した後、ベルリン・フィルに入団しています。ラトルは演奏会の後で挨拶し、シュトレーレを「オーケストラの心」と呼び、称えました。

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シーズン開幕演奏会は、モーツァルトの3大交響曲
2013年8月23日

【演奏曲目】
モーツァルト:
交響曲第39番
交響曲第40番
交響曲第41番

指揮:サー・サイモン・ラトル

 ベルリン・フィルの2013/14シーズンは、サー・サイモン・ラトル指揮によるモーツァルトの「3大交響曲」で幕を開けました。
 モーツァルトの最後の3つの交響曲の作曲動機は、音楽学者のアルフレート・アインシュタインによれば、「依頼でも直接的な目的でもなく、永遠性への哀願だった」。音楽史に残る交響曲の傑作を書き上げたいと望んだモーツァルトが、永遠に「神に愛でられし者」になったという美化されたイメージは、今も一般に根強く残っています。
 しかし、フリーメイソンの盟友ミヒャエル・プフベルクに宛てた手紙で言及しているように、彼はこれらの交響曲を3つの「カジノのアカデミー」のために作曲したようです。いずれにしろ確かなことは、モーツァルトが古典派交響曲の最高傑作を作り上げたことで、この3つの作品には編成も含めて際立った相違が見られるように、彼はそこに自分のあらゆる作曲技法を注ぎ込んだのです。
 第39番変ホ長調は、驚くべき輝きと生気に溢れた一方で、薄暗くデモーニッシュな表情を持つことから、E・T・A・ホフマンは「冥府の深みへと導く音楽」と評しました。人気の高い第40番ト短調は、建築のように調和の取れた傑作として知られ、ドラマチックな短調の楽章に挟まれた叙情的なアンダンテは、聴き手につかの間の休息をもたらします。そして、形式的にも作曲技法的にもあらゆる名人芸が駆使された第41番《ジュピター》は、18世紀の器楽音楽の真髄と言えるでしょう。

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アーティスト・イン・レジデンスのゲルハーヘル、マーラーを歌う
2013年9月8日

【演奏曲目】
ルトスワフスキ:交響曲第2番
マーラー:《さすらう若人の歌》
ヤナーチェク:グラゴル・ミサ

ソプラノ:リューバ・オルゴナソヴァ
メゾソプラノ:藤村実穂子
テノール:スチュアート・スケルトン
バリトン:クリスティアン・ゲルハーヘル
オルガン:クリスティアン・シュミット
ブルノ・チェコ・ フィルハーモニー合唱団(合唱指揮:ペトル・フィアラ)
指揮:サー・サイモン・ラトル

 ベルリン音楽祭の一環で行われる当演奏会では、中欧を代表する3人の作曲家の作品が取り上げられます。1970年3月、ベルリン・フィルがヴィトルト・ルトスワフスキの交響曲第2番を演奏した際、聴衆からはブラボーとブーイングの嵐が吹き荒れました。ここに聴かれる異色の響きは当時、聴衆の広い理解を得るには至らなかったのです。この作品は2部構成で、ためらうようで挿話的な前半に対し、後半ではせき立てるように音楽が進みます。
 グスタフ・マーラーの《さすらう若人の歌》は、ソプラノ歌手ヨハンナ・リヒターとの自身の失恋を素材にした歌曲集。1896年3月、ベルリン・フィルによるオーケストラ版の初演では、マーラーが自費でオーケストラを借り入れ自作を紹介しようとしたものの、この演奏会への関心が低かったのと同様、批評も芳しいものではなかったようです。「マーラー氏に才能がないと否定はしない。ただ、狂わんばかりに奇抜さを追い求めなければいいのにと思う(「音楽時報」)」
 これら2作品とは対照的に、レオシュ・ヤナーチェクのグラゴル・ミサは1927年の初演で大成功を収めました。ヤナーチェクは教会スラヴ語の典礼文に曲を付けましたが、このミサは古風でも反動的でもなく、ドラマと生命力に満ちあふれています。作曲家のヒューマニズム、汎スラヴ主義の世界観を表したものといえるでしょう。サイモン・ラトルはかねてよりこの作品を得意としており、ベルリン・フィルでの演奏は13年ぶりとなりました。

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 これからのDCH演奏会

ギルバートの東欧音楽プロ。ヤナーチェクのヴァイオリン協奏曲のソロは、ツェートマイヤー
日本時間2013年9月15日(日)午前3時

【演奏曲目】
ルトスワフスキ:交響曲第4番
ヤナーチェク:ヴァイオリン協奏曲《魂のさすらい》
バルトーク:バレエ音楽《かかし王子》

ヴァイオリン:トーマス・ツェートマイヤー
指揮:アラン・ギルバート

 現在ニューヨーク・フィルとロイヤル・ストックホルム・フィルの音楽監督を勤めるアラン・ギルバートがベルリン・フィルにデビューしたのは、2006年2月のこと。急病のベルナルド・ハイティンクの代役としてでした。その公演で大きな成功を収めたギルバートは、その後2009年、2011年と続けてベルリン・フィルに招聘されています。
 今回のプログラムには、中欧の国々の音楽的アイデンティティに根ざして創作活動をした3人の作曲家の作品が並びます。第2次世界大戦後のポーランドを代表する作曲家ヴィトルト・ルトスワフスキは、当初バルトークやストラヴィンスキーに傾倒し、後にはジョン・ケージの影響も受けました。ルトスワフスキの交響曲第4番は、彼がドビュッシーの影響下にあったことをも示しています。
 ハンガリー人のベラ・バルトークは、民族音楽のメロディーやリズム、ハーモニーを作曲上の重要なインスピレーションの源としました。バレエ音楽《かかし王子》は、バルトークの作品の中でも特に色彩感の豊かさで知られ、男女間に内在する悲劇の問題を扱っています。その間に演奏されるのは、チェコ人作曲家レオシュ・ヤナーチェクのヴァイオリン協奏曲《魂のさすらい》。彼の名声が頂点に達した1926年に構想されましたが、作品は断片の状態で残され、初演されたのは数十年を経た後のことでした。極めて表情豊かな作品で、ヤナーチェクは最後のオペラ《死者の家から》の序曲より重要なテーマを引用しています。トーマス・ツェートマイヤーの独奏でお楽しみください。

生中継:日本時間2013年9月15日(日)午前3時

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 アーティスト・インタビュー

ラトル、ベルリン・フィルの新シーズン・プログラムを語る(前半)
「2013/14年シーズンでは、フィルハーモニーの50周年が祝われます」
年間記者会見より

 8月23日、ベルリン・フィルの新シーズンがスタートしました。ここでは、5月の記者会見でサー・サイモン・ラトルが語ったプログラムの解説をご紹介します。前半では、シーズンのコンセプト、とりわけフィルハーモニーの開場50周年に触れ、それに関するプログラム上の創意について談話しています。

サー・サイモン・ラトル(談)
 私たちにとって、この素晴らしいコンサートホールの建造50周年を祝うにふさわしいプログラムを組むことは、栄誉であると同時に、チャレンジでもありました。人々は、このホールが50年前、どんなに革命的であったかを忘れがちです。それは、多くの建築家によってコピーされたからでもあります。フィルハーモニーは、現代のホールの規範となったのでした。
 同じことは、音響についても言えます。私たちがピーター・セラーズと《マタイ受難曲》を演奏した時、ピーターは「合唱団員をホールの遠い所に配置しよう」と提案しました。その際私は、彼に「お願いだからやめてくれ」と頼んだのです。しかし彼は、「今回だけだから、やってみよう。ホール全体が合唱のように響くようにしたい」と言ったのです。そして結果は、彼が言ったとおりでした。このホールでは、舞台に立っていると、まさに聴衆に囲まれ、抱かれているような気がします。客席の全員に触れることができるような気持ちになるのです。
 私には、これこそがこのホールの50周年を祝う、理想的なコンセプトだと思いました。Raumklang(響きの空間・空間の響き)というテーマは、このホールの可能性を名指しするだけでなく、空間の利用の仕方を示唆するものです。今シーズンのプログラムには、オーケストラが聴衆を囲い込むように配置された曲が沢山あります。ヴェネチアのサン・マルコ大聖堂のことを思い起こしてください。その空間のために書かれた作品のことを連想すれば、我々が何を考えているかお分かりでしょう。10月の50周年記念コンサートは、ガブリエリの多声金管コラールで始まります。いわばオマージュです。シーズン中に演奏される曲のなかには、例えばモーツァルトの、4つのオーケストラを使ったエコー付きセレナーデ、舞台上のハープがホールに分散された3本のイングリッシュホルンと対話する、バートウィスルの《ディナーとニックの愛の歌》です。マグヌス・リントベルイは、若い頃ベルリンに住んでいましたが、彼は最初のオーケストラ作品《力》を、この町とフィルハーモニーにちなんで作曲しました。それはベルリンに潜むエネルギーを表現したもので、巨大なオーケストラを要求します。山ほど打楽器が必要で、ホールはまさに楽器で満たされるでしょう。この曲は、何と今回がベルリン初演となります。
 もうひとつ重要なテーマが、バッハです。我々はセラーズと共演した《マタイ受難曲》を再演するだけでなく、《ヨハネ受難曲》をも彼の演出で上演します。また、シェーンベルクの《グレの歌》も上演されます。この作品の上演は稀で、お金も掛かりますが、演奏するに値する素晴らしい作品です。フィルハーモニーの音響を最大限に生かすことができます。それと同時に、《マタイ受難曲》では、テノールと通奏低音だけ、という編成が核となるのです。フィルハーモニーでは、その両方が生きます。
 2014年は、リヒャルト・シュトラウスの生誕150周年にも当たります。彼は指揮者としても作曲家としても、ベルリンと強いつながりを持っていました。シーズンの後半では、彼の中心的な作品を演奏します。個々のコンサートを紹介するのは難しいのですが、ひとつだけ強調したいことがあります。ロリン・マゼールが長年の不在の後、ベルリン・フィルに戻り、オール・シュトラウス・プロを指揮するのです。
 シーズン最後の演奏会では、アイヴズの《答えのない問い》が演奏されます。それはシーズン前半のモットーを集約するものとなるでしょう。すなわち、弦はホールの上部に配置され、(問いを送り、しかし答えを得ることのない)トランペットと木管楽器は、ホール全体にちりばめられるのです。これは続くシュトラウスの《メタモルフォーゼン》のテーマへとつながります。(戦争による破壊と悲惨さを表現した)この作品は、私にとっては「答えのない問い」だからです。同じ演奏会では、ダニエル・バレンボイムとの共演50周年を祝います。彼はプログラムの最後の作品として、ブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」を弾くのです。ベルリン・フィルのシーズンを終えるに当たって、これほど素晴らしい組み合わせはないでしょう。
 50年と言えば、さらにベルナルド・ハイティンクも、デビュー50周年を迎えます。彼は今回、2つ特別な希望を出してくれました。つまりブルックナーの《ロマンティック》と、エマニュエル・アックスとの共演を望んだのです。彼の望みならば、どんな大編成の、お金が掛かる曲でも良かったのですが(笑)、彼はとても謙虚な方で、我々が全然困らない、喜んでかなえられる曲を選んでくれました…(後半に続く)。

演奏会の一覧はこちらから

 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

オペラリア声楽コンクールの優勝者は、ロシア人と中国人
 プラシド・ドミンゴの声楽コンクールとして知られるオペラリアの優勝者は、ロシア人ソプラノのアイーダ・ガリフリーナ、中国人バスバリトンのアオ・リに決定した。ふたりは、3万ドルの賞金を獲得したという。第2位には、フランスのソプラノ、ジュリー・フックス、イタリアのバリトン、シモーネ・ピアッツォラが入賞した。第3位には、ソプラノのカスリン・ルウィーク、テノールのザク・ボリチェフスキーが受賞している。

次号の「ベルリン・フィル・ラウンジ」は、2013年9月20日(金)発行を予定しています。

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