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「ベルリン・フィル・ラウンジ」第88号:ハーディング、マーラー「第10番」を語る(前半) ベルリン・フィル・ラウンジへ戻る

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2013年12月13日 (金)

ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

2013年のジルベスター・コンサートは、ラトル指揮ラン・ラン独奏

ブラームス:ハンガリー舞曲第1、3番
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番
ヒンデミット:交響的舞曲第3番
ドヴォルザーク:3つのスラブ舞曲
ハチャトゥリアン:《ガヤネー》より4つの舞曲

ピアノ:ラン・ラン
指揮:サー・サイモン・ラトル

 ベルリン・フィル、ジルベスター・コンサートは、今年も舞踏音楽をテーマとしています。お馴染みのブラームス、ドヴォルザークの舞曲集に加え、ヒンデミットの交響的舞曲、そしてハチャトリアンのバレエ音楽《ガヤネー》より、有名な〈剣の舞〉を含む4つの舞曲が演奏される予定です。指揮は、首席指揮者のサー・サイモン・ラトルが担当します。
 一方スペシャル・ゲストは、スター・ピアニストのラン・ラン。ラトル&ベルリン・フィルとのCDがリリースされた、プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」での登場となります。技巧性の高い作品だけに、ラン・ランの持ち味が存分に発揮されるでしょう。
 日本では、1月26日(日)深夜に、NHK・BSプレミアムのプレミアムシアターで放送される模様です(写真:© Harald Hoffmann)。

ベルリン・フィル公式サイトのコンサート告知

2015年2月に、ラトルの還暦を記念するロンドン・レジデンシー(ツアー)が開催
 ベルリン・フィルでは、2015年2月にラトルの還暦を記念するロンドン・レジデンシーを開催します。会場は、バービカン・センターとサウスバンク・センター。2月10日から14日に4回のシンフォニー・コンサートが行われるほか、教育活動、室内楽演奏会も併催される予定です。
 シンフォニー・コンサートでは、シベリウスの交響曲全曲とヴァイオリン協奏曲(独奏:レオニダス・カヴァコス)、マーラー「交響曲第2番《復活》」、ラッヘンマン《タブロー》が演奏されます。シベリウスの交響曲は、ラトルの最愛のレパートリーのひとつで、今回の選曲は彼が特に希望したものと言われます。詳細は、以下のサイトをご覧ください。

ベルリン・フィル ロンドン・レジデンシー公式ウェブサイト

年末年始12ヵ月チケット特別キャンペーン
デジタル・コンサートホールの12ヵ月チケットを買うと、特典DVDが付いてくる!
ラトル指揮ベルリン・フィルによる「モーツァルト後期三大交響曲」

 デジタル・コンサートホールでは、年末年始キャンペーンとして、12ヵ月チケットをお求めのお客様全員に、DVD「モーツァルト後期三大交響曲」をプレゼントいたします。演奏者は、サー・サイモン・ラトルとベルリン・フィル。この演奏は、2013/14年シーズンの開幕コンサートの模様を、そのまま収録したものです。当DVDは、一般のCDショップでは購入できない、このキャンペーンだけのスペシャル・エディションとなっています(先着限定1000セット。単品発売予定なし)。ベルリン・フィルの最新のモーツァルトを、この機会にぜひお楽しみください。
 プレゼントを受けるためには、12ヵ月チケット(クーポン券)を、デジタル・コンサートホール上で2014年1月5日までにお申し込み下さい。先着1000名様限定となっておりますので、お早めのご購入をおすすめいたします。

デジタル・コンサートホール
12ヵ月チケット+特典DVD「モーツァルト後期三大交響曲」:
149ユーロ(消費税込み・送料別途)

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シャイーがリストの「ファウスト交響曲」を指揮!
2013年11月29日

【演奏曲目】
ワーグナー:ファウスト序曲ニ短調
リスト:ファウスト交響曲

テノール:ニコライ・シューコフ
ベルリン放送合唱団男声団員(合唱指揮:サイモン・ハルシー)
指揮:リッカルド・シャイー

 現在ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督を務めるリッカルド・シャイーがベルリン・フィルにデビューしたのは、1980年1月、弱冠27歳のときでした。演目はシェーンベルクの室内交響曲第1番とチャイコフスキーの交響曲第4番。シャイーは当時を振り返って「ずっしりと重く、それでいて温かい響きは、私にとって本当に衝撃的でした」と語ります。その後間もなく、彼はベルリン放送交響楽団(現ベルリン・ドイツ交響楽団)の首席指揮者となりますが、「それと平行して、私はベルリン・フィルを指揮する機会も与えられ、カラヤンとのつながりを深めることができたのです」(シャイー)。
 シャイーはこの11月の客演で、上演される機会が珍しいワーグナーのファウスト序曲と、リストのファウスト交響曲を指揮しました。ファウスト交響曲の第1楽章で、リストはファウスト序曲の主題をパラフレーズしています。続く第2楽章〈グレートヒェン〉は情緒的な音楽。リストの伝記を書いた音楽評論家のリヒャルト・ポールは、「反リスト派の者も、ここでのグレートヒェンの魔力から逃れることは不可能だった」と賞賛しています。不気味な第3楽章〈メフィストフェレス〉では、ファウストの主題がゆがめられ、パロディー化されますが、その手法はベルリオーズの幻想交響曲から影響を受けています。ゲーテの《ファウスト 第2部》の最後の詩に作曲した合唱付きの終幕部分では、輝かしいハ長調となって大団円を迎えます。

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ドゥダメルのベートーヴェン!
2013年12月6日

【演奏曲目】
ストラヴィンスキー:小管弦楽のための組曲第1、2番
シューベルト:交響曲第4番
ベートーヴェン:交響曲第4番

指揮:グスターボ・ドゥダメル

 グスターボ・ドゥダメルには、2人の対照的なアイドルがいます。ヘルベルト・フォン・カラヤンとレナード・バーンスタインです。「カラヤンはその規律ゆえに、バーンスタインはリスクを引き受け、深い感情を持っているから」と彼は理由を語ります。その指揮の正確さと感情表現から、すでに世界的な名声を持つベネズエラ出身のドゥダメルは、クラウディオ・アバド、ダニエル・バレンボイム、サイモン・ラトルといった彼の師からも才能を絶賛されています。「私が知る中で、もっとも才能に溢れ、魅力的な指揮者だ」とラトルは評しました。
 今回の客演で、ドゥダメルはストラヴィンスキーの小管弦楽のための組曲第1番と第2番のほか、2つの交響曲を取り上げます。シューベルトの交響曲第4番は、作曲家がハイドンを手本に立ち返り、ベートーヴェンの交響曲とは一線を画そうとして書いたものです。いつまでも続くかのような美しい旋律に溢れた抒情楽章は、シューベルトの面目躍如といえるでしょう。
 最後に演奏されるのは、ベートーヴェンの交響曲第4番。シューマンはこの作品を「2人の北欧神話の巨人(つまり第3番と第5番)の間にはさまれたギリシアの乙女」と評しました。「ギリシア的」と言うからに、古典的な造形美に貫かれた作品と呼べるでしょう。ベートーヴェンの全交響曲の中でも最小の編成で書かれており、とりわけ木管楽器の繊細な扱い方は室内楽を思わせます。若きドゥダメルの颯爽とした指揮でお楽しみください。

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ベルリン・バロック・ゾリステンのクリスマス・コンサートは、樫本大進の《四季》
日本時間2013年12月13日(金)午前4時

【演奏曲目】
コレッリ:
オラトリオ《エステ家の聖ベアトリーチェ》へのシンフォニアニ短調
弦楽と通奏低音のための4声のソナタト短調
トランペット、2つのヴァイオリンと通奏低音のための4声のソナタニ長調
2つのヴァイオリンと通奏低音のための室内トリオ・ソナタト長調
合奏協奏曲ト短調op. 6 No. 8《クリスマス協奏曲
ヴィヴァルディ:《四季》

ヴァイオリン:樫本大進
リコーダー:スザン・ゼーガース、サスキア・フィケンチャー
指揮:ベルンハルト・フォルク

 ベルリン・バロック・ゾリステンが、コレッリとヴィヴァルディからクリスマスにふさわしい演目のコンサートをお届けします。前半は有名な合奏協奏曲《クリスマス協奏曲》を含むコレッリの作品集。《クリスマス協奏曲》は弦楽と2本のリコーダーと通奏低音による1725年版で演奏され、サスキア・フィケンチャーとスザン・ゼーガースという2人のリコーダー奏者が華を添えます。
 後半のヴィヴァルディの《四季》では、ベルリン・フィル第1コンサートマスターの樫本大進がヴァイオリン・ソロを担います。古今東西の協奏曲の中でももっとも有名な作品の一つである《四季》は、〈春〉から〈冬〉までの各楽章にソネット形式の詩が付けられているのが特徴。自然や人間、動物の描写は細部にまで及び、改めて詩を読み直してみると新鮮な発見があること請け合いです。樫本のソロにもどうぞご期待ください。

生中継:日本時間2013年12月13日(金)午前4時

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教育プログラムのクリスマス・コンサートは、「ストリングル・ベルズ!」
日本時間2013年12月16日(月)午前0時

【演奏曲目】
ストリングル・ベルズ!

ベルリン・フィル弦楽器・打楽器奏者
司会:サラ・ウィリス

 クリスマスシーズンにふさわしいファミリー・コンサートが今年もフィルハーモニーにて開催されます。すっかりお馴染みとなったベルリン・フィルホルン奏者サラ・ウィリスによる司会とその同僚たちによる演奏。今回はベルリン・フィルの弦楽器奏者と打楽器奏者をゲストに迎え、大人も子供も楽しめるプログラムをご用意しています。ぜひご覧ください。

生中継:日本時間2013年12月15日(月)午前0時

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ハーディングがシューマンの『ファウスト』からの情景を指揮!
日本時間2013年12月16日(月)午前4時

【演奏曲目】
シューマン:『ファウスト』からの情景

ソプラノ:ドロテア・レッシュマン
バリトン:クリスティアン・ゲルハーヘル
バス:ルカ・ピサローニ
指揮:ダニエル・ハーディング

 ゲーテの『ファウスト』の音楽化は、これまで多くの作曲家によって行われてきました。その一つ、1844年から1853年にかけてローベルト・シューマンが作曲したゲーテの『ファウスト』からの情景は、今日に至るまでコンサートで上演される機会が稀で、いまだその真価が認められているとは言いがたい作品です。シューマンは当初オペラとして作曲するつもりでしたが、原作の巨大な内容からそれを断念。実に9年をかけて完成させたのは、劇音楽とカンタータ、世俗的オラトリオの要素を併せ持つ類のない大作でした。
 この公演を当初指揮する予定だったニコラウス・アーノンクールは、シューマンの『ファウスト』からの情景を「音楽史でもっとも偉大な作品のひとつ」と賛辞を惜しみません。残念ながらアーノンクールは当公演をキャンセルせざるを得なくなり、代わりに10月の定期演奏会でマーラーの交響曲第10番を成功に導いたダニエル・ハーディングが指揮を担います。ハーディングは、すでにこの曲を振った経験のある数少ない若手指揮者のひとりで、先シーズンにはバイエルン放送響で取り上げました。 今回の上演では、ファウスト役にアーティスト・イン・レジデンスのクリスティアン・ゲルハーヘル、グレートヒェン役にドロテア・レシュマン、メフィスト役にルカ・ピサローニという万全のキャスティングが揃いました。どうぞご期待ください。

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ネルソンスのブラームス「第4」
日本時間2013年12月22日(日)午前4時

【演奏曲目】
ヴァスクス:弦楽のためのカンタービレ
エブラハムセン:《レット・ミー・テル・ユー》(初演)
ブラームス:交響曲第4番ホ短調
ソプラノ:バーバラ・ハニガン
指揮:アンドリス・ネルソンス

 2013年最後の定期演奏会は、アンドリス・ネルソンスの指揮で行われます。デンマーク出身の作曲家ハンス・エブラハムセンは、1970年代のドイツで「新しい単純性(ノイエ・アインファッハハイテン)」と呼ばれた、ミニマリズム、新古典主義、新ロマン主義的な作風を持つグループの代表的人物です。1982年3月、ベルリン・フィルが委嘱した彼の管弦楽作品《夜とトランペット》は、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ指揮のベルリン・フィルにより初演されました。今回初演されるエブラハムセンの《レット・ミー・テル・ユー》は、英国人作家ポール・グリフィスの同名の小説を元にした作品で、ソプラノのバーバラ・ハニガンに献呈されます。もう1曲、北ヨーロッパの作品として、ラトヴィア出身の作曲家ペテリス・ヴァスクスの弦楽のためのカンタービレを、同じラトヴィア出身のネルソンスがどのように聴かせるかも注目されます。
 後半は、ブラームスの交響曲第4番。1885年10月25日にマイニンゲンで行われた初演には、当時ハンス・フォン・ビューローのアシスタントを務めていた21歳のリヒャルト・シュトラウスも居合わせていました。彼は父への手紙の中で、「偉大な作品です...。この作品が内包する壮麗さを言葉で表現するのは難しい。ひとたび聴いたら、ただもううっとりするしかありません」とその興奮を伝えています。1886年2月1日のベルリンでの初演後、ヨーゼフ・ヨアヒムも「彼の4つの交響曲の中で、私はこのホ短調の作品が一番好きです」と書き記しています。ネルソンスとベルリン・フィルでは初となるブラームスの交響曲の共演にご期待ください。

生中継:日本時間2013年12月22日(日)午前4時

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ラトル指揮のレイト・ナイトは、バーンスタインほか
日本時間日本時間2013年12月22日(日)午前6時30分

【演奏曲目】
バーンスタイン:前奏曲、フーガとリフス
ストラヴィンスキー:エボニー・コンチェルト
ゴロホフ/グラウ:《ナザレーノ》

ピアノ:カティア&マリエル・ラベック
ベルリン・フィル団員
指揮サー・サイモン・ラトル

 第1回レイト・ナイトは、ラテン・アメリカ、アメリカの音楽をテーマとしています。バーンスタインの「前奏曲、フーガとリフ」は、ジャズ・クラリネット奏者ウッディ・ハーマンの希望によって書かれたものですが、ラテン・アメリカ、ジャズの影響と、ストラヴィンスキー風の複雑なリズムを融合しています。一方ハーマンは、ストラヴィンスキーが「エボニー・コンチェルト」を書いたきっかけとなった音楽家でした。今回のクラリネット・ソロは、ベルリン・フィル、ソロ・クラリネット奏者のアンドレアス・オッテンザマーが担当します。
 《ナザレーノ》は、オズバルド・ゴリロフの「マルコ受難曲」に基づいたゴンサロ・グラウの編曲版で、2台ピアノと小オーケストラによって演奏されます。ここでは、ラベック姉妹が登場し、見事な連携を見せてくれるでしょう。

生中継:日本時間2013年12月22日(日)午前6時30分

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 アーティスト・インタビュー

ダニエル・ハーディング(前半)
「マーラー第10番は、もちろんマーラーではありません」
聞き手:レイチェル・エリョール(ベルリン・フィル チェロ奏者)

【演奏曲目】
マーラー:交響曲第10番(クック補筆版)

指揮:ダニエル・ハーディング

 今回から2回にわたって、9月にマーラーの交響曲第10番を指揮したダニエル・ハーディングのインタビューをお送りします。ハーディングはベルリン・フィルに早い時期にデビューしていますが、その後はかなりのブランクがありました。しかし、このマーラーの演奏会で大きな成果を挙げ、今年12月にはニコラウス・アーノンクールの代役としてシューマンの『ファウスト』からの情景を指揮します(ライブ中継の項参照)。
 マーラー第10番は得意のレパートリーだけあって、このインタビューでも熱弁を振るっています。

レイチェル・エリョール 「あなたは21歳の時にクラウディオ・アバドのアシスタントとしてベルリン・フィルに来たのですよね」

ダニエル・ハーディング 「いや、それより前だったと思います。20歳の誕生日の一週間後だった」

エリョール 「それはすごいですね。オケ自体を振ってのデビューはいつでしたか」

ハーディング 「96年だったと思います。その時に21歳でした。はっきり言って、無茶でしたね。馬鹿げていると言ってもいい。オーケストラを振ったこと自体が、17、18歳の頃からだったわけですから。でも、アシスタントをしていたおかげで、メンバーのことはよく知っています。ベルリンには比較的長くいましたし。指揮者としてはオケをよく知っているとは言えなかったかもしれませんが、(ニヤリとして)皆さんがどういう人かは、よく分かってましたね(笑)」

エリョール 「それはそうだと思います(笑)。しかし実際に指揮するようになって、また状況が変わったでしょう?」

ハーディング 「私自身が変わったと思います…。今のベルリン・フィルは、私がいたときよりもずっと若いオケになりました。また当時の段階でも、カラヤン時代から比べたら、かなり若返っていました。そういう意味では、顔ぶれ自体は随分変わったと言えるかもしれません。でも皆のキャラクター、つまりジョークのセンスとか、反応の仕方とかは、全然変わってませんね(苦笑)」

エリョール 「今回はマーラーの交響曲第10番(クック版)がプログラムです。マーラーの作品としては、非常に特殊な曲ですね」

ハーディング 「マーラーの作品か、ということ自体が問題ですね」

エリョール 「この曲は、すでに4年前にウィーン・フィルとCD録音されています」

ハーディング 「私にとっては、特別な作品です。もちろん曲そのものが好きだ、ということもありますが、それ以上に実際的な理由からです。私は多くのティーンエイジャーと同様、マーラーの大ファンでした。ですが、若い指揮者というのは、自分で演奏会の曲目を選べる立場ではありません。大抵は、オケから“この曲をやってください”と言われて、許される選択肢はイエスかノーかだけです。ですので、私が希望として“マーラーをやらせてください”と頼んでも、“それは首席指揮者のレパートリーなのでダメです”という答えしか返ってこなかった。しかし“第10番をやらせてほしい”と言ったら、それは首席指揮者がやらないので、OKしてくれたのです。
 その結果、相当数やる機会を得ました。同時にこの曲は、何回もやればやるほど、その良さが分かるタイプの作品です。普通指揮者は、やってもせいぜい1回きりでしょう?そういう意味では、私はラッキーでした」

エリョール 「第10番は、バーンスタインもショルティも指揮することを拒んだそうですね」

ハーディング 「率直に言って、これはマーラーの曲ではありません。誰もがそれを分かっています。しかしそれだからこそ、どの部分がマーラーであって、どの部分がそうでないのかを理解することが重要だと思います。
 大まかに言って、マーラーは最初の小節から最後の小説までを、一貫して作曲しています。私は手稿のコピーを持っていますが、途中には非常にごちゃごちゃしたところがあって、思い出すのが大変なのですが、基本的にこの手稿譜を使って、ちゃんと指揮することができます。ピアノの前に座って、ぜんぶ弾けるのです。今晩演奏する曲と、同じものです」

エリョール 「すべての和声がちゃんと書かれてあるのですね」

ハーディング 「第1楽章は全部完成されています。バーンスタインも第1楽章は指揮しました。私が聞いたところでは、彼は残りの楽章には不満だったのだそうです。多くの指揮者が演奏していますが、この楽章については、OKだと見なされているのですね。
 次によく演奏されるのが、第3楽章です。これは1920年代には完成されていると見なされていたようです。それはまず短いこと、そしてテーマ的に中心的な役割を持っている、ということがあります。第2楽章は、最初フル・スコアで開始されているけれども、途中から4段だけの楽譜になります。でも、メロディー、和声、対位法、展開要素といったことは、すべて入っています。ちょっと素材が落ちる個所もあるのですが、かなり例外的だと言えると思います。第4、5楽章も似たような感じです。第5楽章でのドラムの使用や、フルート・ソロは手稿にちゃんと書かれています。そういう意味ではすべてマーラーなのです。でも、これは(作曲家自身が納得した完成度に達していない、という意味で)彼の作品ではないのです。
 ただ私はこう考えます。誰もモーツァルトのレクイエムを上演することに抵抗はないですよね。大ミサ曲ハ短調、《トゥーランドット》、バルトークのヴィオラ協奏曲もそうです。でも、これらの作品は、欠けている部分を他の作曲家が書き足したものなのです。この方が問題だと思います。マーラーの場合は、一応すべて彼が書いた音楽なのですから。これまでの大指揮者たちが取り上げた、取り上げなかった、という理由で、上演するかしないかを決定するのはおかしいと思うのです(後半に続く)」

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 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

スカラ座が《椿姫》シーズン開幕
 12月7日、ミラノ・スカラ座が《椿姫》でシーズンを開幕した。指揮はダニエレ・ガッティ、演出はディミトリ・チェルニアコフによるもので、ヴィオレッタにはディアナ・ダムラウが抜擢された。
 スカラ座の聴衆は、外国人有名歌手がイタリアもののレパートリーを歌うことに対してきわめて厳しいとされるが、ダムラウは題名役を見事に歌い、喝采を博した。第2幕第2場の舞踏会のシーンでは、ダムラウは舞台に乗るタイミングを逃し、オーケストラだけが演奏するというアクシデントも生じたが、批判はなかった。
 これに対しアルフレードのピョトル・ベチャワは、ブーの洗礼を浴びている。公演後には、フェイスブックのファンページで「私にとってキャリアで初めてのブーだ。もうイタリアでは歌わない」と宣言し、波紋を呼んでいる。ベチャワの歌唱は立派なもので、スカラ座総監督のステファヌ・リスネル、またこの日公演を観ていたウィーン国立歌劇場総監督のドミニク・マイヤーも「ブーに値するものとは思われない。理解に苦しむ」と談話している。
 チェルニアコフの演出は、ヴィオレッタとアルフレードの関係が第2幕第2場以降冷める、という設定で、アルフレードを卑怯な存在として描いている。これに対する聴衆の反応もネガティブで、同時にガッティの演奏についてもブーが飛んだ。

シャイーがスカラ座の音楽監督に確定
 リッカルド・シャイーがミラノ・スカラ座の音楽監督に就任することが確定した。これはミラノ市長ジュリアーノ・ピサピアが、スカラ座の理事会の決定の後に、発表したものという。
 シャイーは2015年の初頭に就任。現音楽監督のバレンボイムは、彼に席を譲るかたちで、本来の契約期間よりも早く任期を終了する。ちなみにオーケストラは、シャイーよりもファビオ・ルイージを支持していたといわれる。

トム・クラウゼが死去
 フィンランドのバスバリトン、トム・クラウゼが79歳で没した。クラウゼは60年代よりモーツァルトの諸役で活躍し、68年にカラヤンの指揮でザルツブルク音楽祭にデビュー。80年代以降は教職にも従事し、ハンブルク音楽大学、マドリッド・ソフィア女王音楽院で教えている。


次号の「ベルリン・フィル・ラウンジ」は、2014年1月2日(木)発行を予定しています。
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