宇野誠一郎作品集III

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2014年2月4日 (火)

10年ぶりのリリースとなる宇野誠一郎作品集の第3弾を、アーカイヴァー/ライターの鈴木啓之氏が解説！

ARTISAN DE LA MUSIQUE 宇野誠一郎作品集 III

　今思えば、昭和の子供はなんだかいじらしい。パソコンも携帯もコンビニさえもなかった時代を無邪気に楽しく過ごしていたのだ。それでもなぜか気分が満たされていたのは、日々優れたテレビ番組や音楽が潤沢に供給されていたからにほかならない。幼い時分、多感な時期に聴いた音楽は決して忘れない。正しく体が憶えるという感覚だろう。テレビから毎週流れるテーマソングや毎日流れるコマーシャルソングは知らず知らずに口ずさめる様になり、ドーナツ盤やフォノシートはポータブルプレイヤーで針とびしたり擦り切れたりするまで繰り返し聴いたものだった。
　そんな昭和のテレビっ子にとって、作曲家・宇野誠一郎はあまりにも大きい存在である。さすがに小さい頃は作家を意識せずに歌を覚えていたけれども、少し大人になって複数の好きなメロディが同じ作者によるものだと判った時、驚きとともに、ちょっと嬉しい気持ちになる。例えば『ムーミン』と『さるとびエッちゃん』の歌は同じ人が作っていたのか、道理でどちらも素晴らしい…などと、ひとつのパズルが解けたような充足感。自分の好みが一貫している、ブレていないということの証明のように思えたりもした。その時点ではただの自己満足に過ぎないのだが、そこからその作家の作品を追いかけるようになると、音楽を聴く楽しみが倍増してゆく。宇野誠一郎はそんな探究心を人一倍扇動させてくれる稀有な作曲家のひとりなのである。

　2004年に第1集と第2集が編まれてから10年ぶりとなる第3弾。その間、2011年に宇野は惜しくも他界してしまったが、生前から交流があったアンソロジストの濱田高志が今回も監修を手がけ、氏が遺した作品を纏め上げた。1・2集でメインの仕事は大概紹介されたものと思っていたが、3集にも重要な作品が網羅されており、密度の濃い仕事ぶりに改めて感心させられる。朝日ソノラマからソノシートが出されていた『おそ松くん』の曲が4曲あり、内3曲の作詞は「ひょっこりひょうたん島」と同じく井上ひさしと山元護久の名が並ぶ。少し時代は下るが、劇場用アニメ『長靴をはいた猫八十日間世界一周』のテーマソングも同じ布陣によるもの。なべおさみの歌手としての仕事はもっと評価されていい。
　ソノシートの絵を藤子不二雄が描いていることで知られる『もぐっちょちびっちょ大冒険』の3曲は井上ひさしの作詞。『ひょっこりひょうたん島』がスタートした64年に出された盤で、歌手も黒柳徹子、熊倉一雄らというところに興味をそそられる。後年、宇野が主たる活躍の場をテレビから舞台へと移してから、宇野と井上のコンビがさらに密接になることから鑑みても、この辺りの共同作業は見逃せない。井上ひさしの作詞では「インセクトマンのうた」の収録も嬉しい。学研の科学と学習誌に親しんだ中でもごく一部の世代にしかわからないだろうが、「1年のかがく」の付録シートに収められていたもので、昆虫をテーマにしたヒーローもの『かめんにんげんインセクトマン』のテーマであった。懐かしさに落涙している輩がきっといるはず。
　「おはよう！こどもショーのテーマ」は66年の作だが、これまでテレビ関連のコンピレーションに収められていた宮崎尚志作曲によるテーマソングとは別の曲で、相当レアな逸品である。びんちゃん（楠トシエ）とキューピーちゃん（石川進）の名前が並ぶと、それだけで当時子供だった僕らはときめいてしまうのだ。石川進といえばオバQ、オバQといえば曽我町子。というわけで、『バッテンロボ丸』の挿入歌「お風呂でピカピカ」を歌う曽我町子の声がどう聴いてもオバQそのものでまた泣けてくる。この中では最も新しい82年の作品だが、それでも30年以上前である。思えば遠くへきたもんだ。他にもドラマ主題歌や劇伴など貴重な音源が目白押しで、これはなんとしても濱田氏による詳細な解説を読みながら聴かねばなるまい。涙腺が弛みっぱなしの30余曲。よくぞ纏めてくれた。

- 鈴木啓之 -

『宇野誠一郎作品集III』
　[2014年02月05日発売]

宇野誠一郎が遺した珠玉のメロディと痛快なサウンド。未発表曲を含む作品集第3弾が遂に完成！前作『宇野誠一郎作品集 II』から10年を経て完成した作品集第3弾となる本作は、ソノシート音源を中心に企画盤やアニメ主題歌、舞台音楽などから初音盤化曲を複数収録。幻の名盤『ハダシとハダカ』や“劇団うりんこ”の舞台音楽、さらには“テアトル・エコー”による舞台版「ブンとフン」（「それからのブンとフン」）の楽曲まで、宇野節が炸裂した楽曲を豊富に収録。ファン待望の作品集です。

■ TVエイジ・シリーズ／最新デジタル・リマスタリング
■ 監修・選曲・解説：濱田高志／イラスト･デザイン：宇野亜喜良

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収録曲

01. ハダシとハダカ（ハダシとハダカ） / 江守徹、増山江威子、斉藤昭子、東映児童合唱団
02. おそ松くんのうた（おそ松くん） / 松島みのり、山本圭子、黒柳徹子、佐藤智子、三田村智野
03. 宿題帳のうた（もぐっちょちびっちょ大冒険） / 川久保潔、黒柳徹子、松島みのり
04. スザンナのうた（長靴をはいた猫八十日間世界一周） / 増山江威子、なべおさみ
05. おそ松くん音頭（おそ松くん） / 松島みのり、山本圭子、黒柳徹子、佐藤智子、三田村智野
06. ほんとかしら / 松島トモ子
07. ガンバとカワウソの冒険 M-1 （ガンバとカワウソの冒険冒険者たちパート2）
08. ジャンケンカーニバル（バッテンロボ丸） / こおろぎ'73、コロムビアゆりかご会
09. おそ松くんかぞえ歌（おそ松くん）
10. おはよう！こどもショー　テーマソング（おはよう！こどもショー） / 楠トシエ、石川進
11. だん! だん! だん! （もぐっちょ　ちびっちょ大冒険） / 黒柳徹子、熊倉一雄、新道乃里子、松島みのり
12. のらくら分隊（「のらくら南方作戦」主題歌） / 友竹正則、ボニー・ジャックス
13. アルプスの少女 / ヴォーチェ・アンジェリカ
14. それだけがおねがいなのママ / 松島トモ子
15. 八十日間世界一周のテーマ（長靴をはいた猫八十日間世界一周） / なべおさみ、こおろぎ'73
16. かぜひき時計（バッテンロボ丸） / 津島隆文
17. ブンチャッチャ（それからのブンとフン）
18. 検事のテーマ（検事） / ポリドール・オーケストラ
19. オカリナポポポ（ハダシとハダカ） / 増山江威子
20. 田の久わらい旅 M-16 （田の久わらい旅阿波の一座の物語）
21. おそ松くんボクサーマーチ（おそ松くん）
22. インセクトマンのうた（かめんにんげんインセクトマン） / 堀絢子
23. カッチン・コットン・ボーン（うたのえほん） / 水谷玲子、ボーカル・ショップ
24. ネクラゲのうた（バッテンロボ丸） / 上野博樹、松本知子
25. 海賊ロック（もぐっちょ　ちびっちょ大冒険） / 黒柳徹子、熊倉一雄、松島みのり
26. 女検事の歌（検事） / 丘野美子
27. 冒険者たち M1 T-2 （冒険者たち）
28. お風呂でピカピカ（バッテンロボ丸） / 曽我町子、石井由美
29. おっちょこちょ医 M-23 T-1 （おっちょこちょ医）
30. なかよしマーチ（ハダシとハダカ） / 江守徹、増山江威子、斉藤昭子、若草児童合唱団
31. よみがえれブッダ　M-1 （よみがえれブッダ）
32. ブンのテーマ（それからのブンとフン） / 熊倉一雄　※ボーナス・トラック

【鈴木啓之（すずきひろゆき）プロフィール】

アーカイヴァー。1965年東京生まれ。テレビ番組制作会社勤務、中古レコード店経営を経て、ライター＆プロデュースを手がける。主に歌謡曲・テレビ・映画などについての雑誌への寄稿や、CDやDVDの監修・解説など。著書に「王様のレコード」(愛育社)、「昭和歌謡レコード大全」（白夜書房）ほか。ラジオ番組『週刊メディア通信』(ミュージックバード)、『ラジオ歌謡選抜』（FMおだわら）にレギュラー出演中。