ロバート・ディーン・スミスの『オテロ』全曲
2014年11月26日 (水)
ヴェルディ:『オテロ』全曲(2CD)
ディーン・スミス、ハイダー&オビエド・フィラルモニア、オルフェオン・ドノスティアラ合唱団
ワーグナー歌手として知られるアメリカのロバート・ディーン・スミスがオテロに挑戦。ディーン・スミスは、ワルキューレのジークムント役の「ヴェールゼー」の部分を強烈に伸ばすことでも有名で、来日公演では18秒も引っ張ったといいますから驚きですが、それだけに、体力の求められるオテロ役にはぴったりといえるかもしれません。
このアルバムはセッション録音のため音質が良いのも大きなポイントで、ヴェルディ随一の管弦楽法が導入されたオケ・パートの鳴りもよく、弦の刻みや低域が豊かに響くため、作品の個性を特徴づける各動機の刻印力も必要十分。一方、ライヴ録音では混濁しやすい合唱もここでは細部までクリアーに聴きとることができ、独唱・重唱・合唱がドラマティックに効果的に絡み合う作品の魅力を十分に感じることができます。
こうした楽譜情報の明確化に寄与する特質は、独立アリアを廃し、ワーグナーのような劇と音楽の一体化に成功した『オテロ』の演奏にはふさわしいとも考えられます。
ワーグナーも歌うテノールによるオテロ歌唱といえば、近年ではヨハン・ボータやサイモン・オニールによるものが印象的でしたが、ロバート・ディーン・スミスの歌唱も実に立派なものです。
なにしろオテロ役は、歴戦の英雄でありながらも、恋愛感情には疎く、そのためイアーゴに騙されて疑い悩むこととなり、やがて強い思い込みの果てに妻を殺して自分も死んでしまうというきわめて難しい役づくりが要求されるキャラクターです。
つまり英雄的に立派なのは第1幕だけという人物でもあり、リリカルからシニカルまで幅広い表現を得意とするロバート・ディーン・スミスの歌唱は、そういったオテロ像描出に大きく貢献しています。第1幕での英雄らしい振る舞いに、第2幕幕切れの勇猛なニ重唱、そして第3幕のオテロのモノローグや第4幕幕切れオテロの死での心理描写も実に見事です。
そのオテロを陥れるイアーゴ役を歌うのは、ルーマニアのバリトン、セバスティアン・カターナ。上司を騙せるだけの説得力を感じさせる美声による端正な歌唱と、オペラの独白表現ならではの狡猾さをにじませる歌唱の双方を巧みにこなしています。
デズデーモナ役を歌うのはイタリアのソプラノ、ラファエラ・アンジェレッティ。世間知らずの純真さで、腹黒い計略に巻き込まれて殺されてしまう悲運の役どころをピュアな情感で歌い上げ、柳の歌〜アヴェ・マリアも聴き映えのする仕上がりとなっています。
合唱は、正確な歌で定評のある「オルフェオン・ドノスティアラ」。アバドのマーラー『復活』やパーヴォ・ヤルヴィのマーラー『復活』、プラッソンの『アルルの女』、「ヴェルディ:レクィエム」などでもおなじみのバスク地方、サン・セバスティアンに本拠を置くこの合唱団は、ここでも聴き慣れた作品から意外な響きを引き出して楽しませてくれます。
指揮はオーストリア人のフリードリヒ・ハイダー。エディタ・グルベローヴァの夫でもあるハイダーは、夫人の伴奏者としてまず有名になり、現在はイタリア・オペラの経験も豊富なオペラ指揮者として活躍。
オーケストラは、スペイン北部の古都オビエドに1999年に設立された「オビエド・フィラルモニア」。ハイダーは2004年から2011年までこのオーケストラの音楽監督を務め、2007年には来日公演もおこなっていました。(HMV)
【収録情報】
● ヴェルディ:歌劇『オテロ』全曲
オテロ:ロバート・ディーン・スミス(テノール)
デズデーモナ:ラファエラ・アンジェレッティ(ソプラノ)
ヤーゴ:セバスティアン・カターナ(バリトン)
カッシオ:ルイス・ダマソ(テノール)
ロドリーゴ:ヴィセンス・エステベ(テノール)
エミーリア:マリフェ・ノガレス(メゾ・ソプラノ)
ロドヴィーコ:クリスチャン・モイスニク(バス)
モンターノ:ミヒャエル・ドリース(バス)
使者:エンリケ・サンチェス(バリトン)
オルフェオン・ドノスティアラ(合唱)
ホセ・アントニオ・サインス・アルファーロ(合唱指揮)
ロス「ペクス」デル・レオン・デ・オロ(児童合唱)
ホセ・アントニオ・エレナ・ロッソ(合唱指揮)
オビエド・フィラルモニア
フリードリヒ・ハイダー(指揮)
録音時期:2007年8月22日〜9月8日、2009年8月18-26日
録音場所:スペイン、オビエド、アウディトリオ・プリンシペ・フェリペ
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
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