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バイエルン放送交響楽団 in Japan 来日記念特別提携マガジン第3号

Friday, December 5th 2014


 バイエルン放送響がHMV ONLINEでオンライン・マガジンを展開


11月後半のツアーを機会に全3号掲載。多彩な情報をお届けします!
 11月21日から27日まで、マリス・ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団が日本公演を行います。クリスティアン・ツィメルマンをソリストに、東京、川崎、京都、西宮の4都市で開催されますが、楽団ではこの機会に、HMV ONLINE上で日本のファンのためのオンライン・マガジンを展開します。11月14日から12月11日の期間、全3号にわたり、バイエルン放送響に関する様々なニュース、ツアー・レポート、自主レーベルBR Klassik関連の話題などを発信。バイエルン放送響をより多面的に楽しむサイトとして、ぜひご利用ください。
 また11月から12月にかけてHMV ONLINEでは、BR Klassikレーベルのマリス・ヤンソンス旧譜を、セール価格でご奉仕します。この機会に、BR Klassikの名録音の数々をお楽しみください(写真:©Ackermann)。

バイエルン放送響&HMV ONLINEオンライン・マガジン第2号第1号

日本ツアー中に、ツイッターで日本語による最新情報を発信!
 バイエルン放送響では、11月中旬よりツアーの終了時期まで、ツイッターで日本語による最新情報をお届けしています。舞台裏や団員のプライベートの様子、コンサートの写真などを、リアルタイムでキャッチしませんか。演奏会当日は、現地から時間刻みで最新画像を配信します!
 アクセスは、www.twitter.com/BR__SO/から。リツイート大歓迎です!

バイエルン放送響ツアー・ツイッター(日本語)

 アーティスト・インタビュー

クリスティアン・ツィメルマン
「日本には、“私自身の聴衆”がいます。ですからここに来ることは、家に帰ってくることなのです」
(聞き手:アンネカトリン・シュヌーア/バイエルン放送協会)

 今回のツアーでソリストを務めたクリスティアン・ツィメルマンのインタビューをお届けします。東京、川崎、西宮における演奏は、彼ならではの強靭で、しかも深い打鍵が大きな感動を呼びましたが、ここではツアーでのオケとの共演(28年ぶり!)、ブラームス、日本の聴衆について、興味深い言葉を語っています。

―今回のツアーで、バイエルン放送響との共演をどのように感じられましたか?

「とても大きなサプライズでした。私は、これまでにたくさんの彼らの演奏会を聴いていますし、録音もたくさん持っています。しかし、共演がこれほど協力的で、喜びと情熱に満ちたものになるとは思ってもいませんでした。ツアー上で、演奏会が回数を重ねるごとにどんどん良くなってゆく、お互いに切磋琢磨してゆく、というのは驚きでした。同時に、“とても喜ばしい、ポジティブなことだな”と思いました。“一緒に高いものを求められるオーケストラ”が、ドイツにも存在するわけですから。バイエルン放送響の志の高さには、心からお祝いを言いたいと思います。
 今ミュンヘンでは、ホール新設が大きなテーマとなっていますが、これが実現すれば、オケにとってこれほど良いことはないと思います。昔はホールの新設は、一種の賭けのようなところがありました。良い音響になるかどうかは、実際に建ててみないと分からなかったからです。今日では、そうしたミスは避けられます。実際、カトヴィツェで新設されたコンサートホールも、素晴しい音響となりました(ポーランド・シレジア地方のこのホールは、今年10月に開場。ツィメルマンの推薦により、永田音響設計が設計している)。ミュンヘンにも、そうしたホールができればいいと思います。

―ツィメルマンさんは、「演奏会が本当にうまく行ったとき、胸が張り裂けそうになる」と仰っています。今回のツアーでそうした瞬間はありましたか?

「それはちょっと違うコンテクストで言ったのです。家で演奏するということと、ホールでお客さんを相手に演奏する、ということはまったく違いますよね。例えば家で鏡を見て、意中の人を思いながら“君を愛している”と告白の練習しても、相手がそこにいないのであれば、全然意味を成しません(笑)。お客さんの前で弾いてこそ、弾いている側にも本当の意味が生まれるのです。
 ブラームスのピアノ協奏曲第1番については、傑作だと思います。この作品は、彼が初めて書いた大規模な管弦楽作品でした。初演された時には、厳しい批判を受けましたが、この若さでこれだけの作品が書けているということは、ブラームスの天才の証だと思います。私は以前、この曲をちょっと年寄り臭く弾く傾向がありました。髭を生やした、中年男のブラース、という感じですね。でも、彼はこの曲を書いた時、まだ27歳だったのです。今はむしろ、若者の作品として弾くようにしています。コンフリクトにも果敢に立ち向かってゆくような、力強い青年のイメージです。それはオーケストレーションとも関係しています。彼は当時、まだ後年のような優れた管弦楽法を身に付けておらず、楽器の組み合わせに習熟していませんでした。楽器同士が、ぶつかってしまう個所があります。ですので、ピアニストは各パートとコミュニケーションを取り、お互いに響きを聴き合って演奏しなければならないのです。その意味でこの作品は、ある意味で大きな室内楽作品だとも呼べるでしょう」

―ツィメルマンさんが終演後、貰った花束をスコアの上に乗せたのは、とても象徴的でした。

「我々の全員が、この作品をめぐってタッグを組んで、よい演奏を成し遂げようと努めました。指揮者や管楽器のソリストなど、お互いに目配せをして、呼吸を共にして演奏したのです。実のところ、私のパートは結構“伴奏”しているところも多いんですよ。だから管楽器のソリストも、花束を貰う権利があると思ったのです(笑)」

―ツィメルマンさんがバイエルン放送響と共演したのは、1986年以来初めてだということです。今回一緒に演奏する前に、オーケストラと相性が合うか、心配でしたか。

「それについては、考えませんでした。私としては、まずはブラームスのコンチェルトを弾く、ということが重要だからです。自分ができることを出し尽くし、楽しめれば、オケとの相性は自然に付いてきます。今回演奏した場所は、素晴しい場所であり、素晴しい聴衆でした。私はこれらの場所を、皆よく知っています。毎年2回は演奏している場所も多いのです。音楽ビジネスの世界は小さいですから、私は実のところ、行く先々の人々を知っている。ですから、そのことで特に心配はしません。
 マリス(・ヤンソンス)のことは1976年3月から知っています。それはローマでの演奏会で、我々は一緒にこの街にデビューしたのです。それ以来、2、3年おきに、世界のどこかで共演しています。時の流れるのは早いもので、もう40年も一緒に舞台に立っているのです」

―ツィメルマンさんは、東京にマンションを持っているそうですね。日本にあって、ヨーロッパにないものとは何なのでしょう?

「私は、東日本大地震を身をもって経験しました。その5週間後には、演奏会もやっています。私は以前から日本人の正直さ、人々がお互いに接する時の真面目さがとても好きでした。しかし、大地震の時の彼らの態度は、本当に敬意に値するものでした。私は深く感動しました。
 私はここに居ることが非常に自分に合っていると思いますし、実際、1年のうちの3、4ヵ月は日本で過ごしています。実は今年は、日本で家族と過ごす4回目のクリスマスなんです。私にとっては、我が家の一部となっています。
 世界とは、小さくなったと思います。もちろん人間の見かけは、場所によって違うでしょう。しかし実は、人が求めているもの、つまり愛情、心の置き場所、安らぎを求める欲求、仕事への情熱といったことは、どこでも同じなのです。それはインディアンでも、ヨーロッパ人でも、アジア人でも皆同じでしょう。日本については、私は彼らの正直さに心からの愛着を抱いています。私は過去38年の間に、250回以上の演奏会を日本で弾きました。39の異なったリサイタルのプログラム、協奏曲、室内楽…。それはいつも特別な体験であり、聴衆は本当に真剣に耳を傾けてくれます。日本には、“私自身の聴衆”がいると言えます。ですからここに来ることは、家に帰ってくることなのです」

クリスティアン・ツィメルマンのインタビュー映像を観る



 ツアー・ダイアリー

11月21日(金)
日本到着翌日、川崎での初日演奏会。ミューザ川崎は、ヤンソンスをはじめ、バイエルン放送響メンバーのお気に入りのコンサートホールです。東日本大地震で破損したことは、ドイツでも広く知られていて、震災後初めての演奏となる当オケでは、興味津々でした。この映像は、ホールの方のコメントも含んでいます(日本語)。コントラバス奏者のハインリヒ・ブラウンは、「ホールのなかのフェラーリ」と絶賛。ミューザ川崎のサイトには、翻訳も掲載されていますので、ぜひご覧ください。
 この日は、ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」(独奏:ツィメルマン)と《展覧会の絵》を演奏。後者は通常のラヴェル版に打楽器が加えられ、ヤンソンス版とでも呼びたくなる個性的な解釈でした。

11月22日(土)
 日本での第2回目の演奏会は、京都コンサートホールが会場。この日は、東京のホテルから新幹線で京都まで移動し、コンサートを弾いて帰ってくる、というスケジュール。京都で一泊しないのは、スーツケースを持っての移動よりもストレスが少ないからです。ただし、京都は団員にとっては魅力的な場所。「もうちょっと長く居たかったな…」というのも、正直な感想でした。
 朝の東京駅では、新幹線が入線してくると、なぜか申し合わせたように一斉に写真を撮りまくり。別に鉄道ファンというわけではないでしょうが、やはり新幹線はカッコいいのでしょうか?ドイツ人の目の付け所は、日本人には意外で面白いです。
 ホールに着くと、お昼が支給(結構豪華で巨大なお弁当!ガイジンのお腹用?)。この日は快晴の秋日和だったため、皆がホール前の陽だまりに座って、行楽気分でした。日頃彼らは、暗く寒いドイツに住んでいるため、お日様が出ると反射的にこのように行動してしまうのです。ただ、11月下旬にタンクトップは、ちょっとやりすぎだと思いますが…。
 プログラムは、《新世界より》と《ドン・ファン》&《ばらの騎士》組曲でした。ヤンソンスはゴキゲン。

11月23日(日)
 この日は終日休日。各人が思い思いに過ごしました。日本の音楽学生を相手にワークショップを行った真面目な方もいれば、高尾山までハイキングに行った方も。よくそんな通好みなルートを調べだしたものだと、妙に関心してしまいます。人気はレインポーブリッジ渡り(嬉々としてモノレールに乗るドイツ人を想像してください!)、浅草、表参道等。もちろんショッピングも重要で、カメラやiPad等をゲットしてにんまりしている面々もいました。何しろユーロが150円近いため、お徳感が抜群だったようです。
 とは言うものの、練習は決して欠かさないのが、オケマンの性。それぞれホテルの部屋で、アンサンブルしたり、個人練習したり(ビデオ)。皆さん、真剣そのものの表情です。練習場所がないのは、いつも悩みの種ですが、ホテルの140室近くを占拠しているので、まあ、隣同士でうるさいのはお互い様でしょうか。ただ、普通のお客さんでご迷惑をお掛けした方には、どうもすみません…。

11月24日(月・祝)
 サントリーホール初日。右のビデオは、その設営の様子を高速で1分30秒にまとめたものです。ホールの設営って、このように行われるんですね。サントリーホールの準備プロセスを見られるというのは、日本人的にもなかなか興味深いものがあります。
 開演前、熱心なファンからチョコレートのプレゼント。何と、バイエルン放送響のロゴやデザインをあしらった特製パッケージです。こういうの、可能なんですね〜。
 この日の曲目は、ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」と《新世界》。終演後は、ヤンソンスが、ツィメルマンと熱い握手を交わしていました。ヤンソンスは《新世界》の後、舞台袖に戻ると、「ファンタスティックだった」と繰り返していました。
 終演後、ブラス・メンバーが渋谷に繰り出し、ドイツ・レストラン「バイエルン・グリル」で金管五重奏を演奏しました。南ドイツの民族衣装レーダーホーゼ(皮製のズボン)を着て、郷土音楽を吹きまくり。ビデオは、その光景です。団員は、このためだけに衣装をミュンヘンから持ってきたとか?ドイツ人オーナーの計らいで実現したこの企画、狭い店内にお客さんが溢れ、まるでドイツのビアホールにいるようでした。12時近くまで、ズンチャッチャと、楽しいバイエルンの調べが響きわたりました。

11月25日(火)
 サントリーホール2日目の公演は、今回のツアーの頂点と呼ぶべきものでしょう。各紙批評家が勢揃いしただけでなく、聴衆の熱気も尋常ではありません。
 公演終了後、ひとりでカーテンコールを受けるヤンソンス。日本の聴衆が凄いのは、弾き手に「ちゃんと聴いている」と実感させるところでしょう。メンバーは、「だから一生懸命弾ける」と言います。ここでのヤンソンスの表情にも、「聴衆に対する感動」が表れていると思いませんか?バイエルン放送協会のレポーターも、「とっても静かで、集中しているね〜」と驚きの表情。ドイツでは、ちょっとあり得ない静寂であり、集中力です。
 終演後、ヤンソンスがホール内でサイン会。長大な列ができましたが、マエストロは辛抱強く(?)、サインに専念。ビデオでは、人数をカウントしています。最後は何人になりましたでしょうか?
 演奏曲目は、ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」と《ドン・ファン》&《ばらの騎士》組曲でした。

11月26日(水)
 終日休日。しかし、休みだったのは団員だけ。ヤンソンスとオケのマネージメントは、日本の記者たちと懇親会、インタビューを行いました。ヤンソンスの宿泊先ホテルで行われた会談には、東京の7つのメディアが参加。ヤンソンスは、現在ミュンヘンで懸案となっているホール新設の問題、音楽教育等について熱弁を振るいました。ヤンソンスがこのような会談でこれほどゴキゲンなのは、珍しいくらいです。スタッフも仰天していました。
 一方、ティンパニーのレイモンド・カーフス、打楽器のマルクス・シュテッケラーは、東京近郊の打楽器のバチ工房を訪問しました。彼らはこの会社のアドヴァイザーを務めており、今回もバチをテスト。何でも数年前、彼らのところにバチが送られてきて、意見を求められたのだそうです。答えを送ったところ、その後、意見を反映した新作が再び郵送されてきました。今では、シュテッケラーさん曰く、「ドイツでもこれだけのものはない」というほどに。
 ただ、どの会社かは秘密。カーフスさんは、「楽器に自分の名前が付く、なんていうのは、ちょっと怖いですね」と謙遜していました。

11月27日(木)
 日本での最後の演奏会は、西宮の兵庫県芸術文化センター。曲目は、ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」と《展覧会の絵》です。東京から大阪にまず移動し、そこから西宮に向かいます。東京駅では、修学旅行の高校生と交流(?)。
 バイエルン放送協会のレポーターの悲願(?)が叶って、ツィメルマンとのビデオ・インタビューが実現しました(「アーティスト・インタビュー」参照)。ツィメルマンさんは、どんなに威厳に満ちた人かと思いきや、実際には気さくでユーモアもあり、楽しいおしゃべりとなりました。「日本人の正直さが好き。震災時の振るまいにも心打たれた」という言葉は、インタビューがドイツ語でドイツ人向きに行われたものであることを考えると、単なるリップサービス以上のものと思われます(収録は29日)。
 ツアーもラストとなると、少し寂しいもの。しかも曲目は、ある意味で「別れの曲」とも呼べる《展覧会の絵》です。最後の和音が鳴り終わると、団員の胸にも熱いものが…。西宮のお客さんの喝采も暖かく、彼らの背中にも一抹の別れの辛さが感じられるようです。

11月28日(金)
 今日は旅立ちの日。大阪国際空港から、台北に向かいます。空港での記念撮影。これで2014年の日本ツアーも終了です。4都市5公演、計9日間の密度の高い日々でした。
 今年も日本の聴衆に会えて、本当に幸せでした。演奏会に来ていただいた方、HMVのオンライン・マガジンやツイッターでフォローいただいた方、本当にありがとうございました。次回の来日公演でも、バイエルン放送響の演奏と活動に、ぜひ注目してください。よろしくお願いします!

バイエルン放送響ツアー・ツイッター(日本語)







 オケ団員一問一答インタビュー

マライエ・グレヴィンク(バイエルン放送交響楽団第一ヴァイオリン奏者)

 オケ団員って、どんな人たちなんでしょうか。ここでは、その一例として、第1ヴァイオリン奏者マライエ・グレヴィンクさんをご紹介します。彼女はオランダ出身で、少訛りのあるドイツ語で喋るチャーミングな女性。30代の半ばながら、すでに10年以上の団員歴を誇る中堅です。オーケストラ代表を務めるほか、青少年音楽活動にも積極的に関わっています(写真は東京駅〜大阪城で)。

―ご出身は?

「オランダです。デン・ハーグの王立音楽院で勉強しました」

―バイエルン放送響に入ったのはいつ?

「2003年に入団しました。でもその前に、まずここのオーケストラ・アカデミーに入ったんです。当時、できたばかりで、入れてラッキーでした」

―日本に来たのは何回目?

「6回目です」

―日本では、演奏以外は何をしましたか?

「最初の休みの日に、高尾山にハイキングに行きました。とってもお天気が良かったので。でも、ちょっと失敗。同じことを考えた人が多くて、すごい人出だったんです。でも、とても気持ち良かった」

―それ以外は?

「今日(休日)は、雨なので割とホテルでリラックスしてます。もう6回目なので、大概の場所は見ているし。でも、温泉とかに行くのも好きですよ。私は自然派なので、ショッピングというよりは体を動かすこと、体に良いことがいいですね」

―オーケストラ代表をなさっているとか?

「これは団員とマネージメントの橋渡し役ですね。両方に懸案がある時の相談役だったり、オケの意見をまとめる役割です」

―教育活動もされています。

「子供たちに音楽を伝えることは重要です。ヨーロッパでも、伝統が失われる危険があります。多くの場合、接点がないんです。でも、一度知ってくれれば、何か感じ取ってくれるかもしれない。今すぐに好きにならなくてもいいんです。いつか帰ってきてくれます」

―どうもありがとうございました。

バイエルン放送交響楽団のメンバー表(写真付き)

 BR Klassik最新タイトル・レビュー

 BR Klassikにおけるバイエルン放送響の最新タイトルを国内の音楽評論家の方々にレビューしていただくコーナーです。今回は音楽学者・評論家としてご活躍の広瀬大介さんにご登場いただきます。タイトルは、ヤンソンス指揮のR・シュトラウス《ドン・ファン》&《英雄の生涯》、ハーディング指揮《ファウストからの情景》。R・シュトラウスの専門家である広瀬さんのご意見が、気になるところです。

R・シュトラウス:《英雄の生涯》、《ドン・ファン》
バイエルン放送交響楽団(ヴァイオリン・ソロ:アントン・バラホフスキー)
指揮:マリス・ヤンソンス
BR Klassik (D) 900127/ 1 CD

 本来、交響詩というジャンルに対して、どうしてもその標題性を抜きにして聴くことは難しい。普通は、《ドン・ファン》であれば、その女性遍歴を思い浮かべ、《英雄の生涯》であれば、英雄に擬せられた男とその伴侶、敵対する評論家、という一連のストーリーを頭に思い浮かべながら聴くことになる。
 ヤンソンスが、そんな一連の標題性を無視している、というつもりは毛頭ない。だが、とりわけシュトラウス作品を折あるごとに取り上げ続けたこの指揮者は、ついに、その交響詩に対して、まったく異なるアプローチを試しはじめたように思われる。先日の来日公演でも《ドン・ファン》を取り上げたが、そこでは、このCDよりもさらに落ち着いた、地に足の着いたテンポが採られていた。勢いに任せて疾駆するドン・ファンのイメージを描こうという意図であれば、このテンポで演奏されることはないだろう。ヤンソンスは、そのような描写的内容を超えた、音楽そのものを純粋に響かせ、音楽そのものから語らせようとするアプローチをとっている。
 理想の女性をあらわすとされるオーボエの旋律はシンプルに響くかたわらで、その旋律に絡む対旋律や和声がここまでくっきり聴き取れることは少ない。見事なまでに立体的に構築された音楽において、標題がもつ官能性は背景へと退き、構築性が前面へと押し出される。このアプローチであれば、作品に過度の官能性をまとわせることはむしろ邪魔となるだろう。先に流れようとするオーケストラと、拍節をしっかり刻もうとするヤンソンスの棒は、ときに軋み、ときに火花を散らす。だが、それこそが、シュトラウスの音楽の強靱さを逆説的に、雄弁に語る原動力として機能する。シュトラウスの音楽は浅薄だ、という旧来の言説が、いかに一面的な見方であるか、ぜひこの音楽に接したうえで、シュトラウスがどれほど古典的な作曲技法にその基礎の多くを負っているか、実感してもらいたい(広瀬大介)。



R.シュトラウス:英雄の生涯、ドン・ファン ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団(2011、2014)

CD 輸入盤

R.シュトラウス:英雄の生涯、ドン・ファン ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団(2011、2014)

発売日: 2014年11月25日

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シューマン:ゲーテの『ファウスト』からの情景
バイエルン放送交響楽団&合唱団
指揮:ダニエル・ハーディング
独唱:クリスティアン・ゲルハーヘル(Br)、クリスティアーネ・カルク(S)、アラステア・マイルズ(Bs)、マリ・エリクスメン(ソプラノ)、ベルナルダ・フィンク(Ms)、アンドリュー・ステイプルズ(T)、クルト・リドル(Bs)、タレク・ナズミ(Bs)アウクスブルク大聖堂少年合唱団
BR Klassik (D) 900122 / 2

 クリスティアン・ゲルハーヘルは、もはやひとりのバリトン歌手という次元を超えた、歌う思索家、とでも呼びたくなるような風韻を帯びている。今年1月に来日し、王子ホールでシューマンの歌曲を披露した折にもいささか言葉を交わす機会があったが、シューマンという存在が、当時の音楽家の中では突抜けた教養人であり、文学に対する素養の深さが、そのまま音楽の深さへと転化している、という自説を熱く語っていたことを思い出す。
 この作品がこれまであまり演奏されなかったのは、オペラではなく、オラトリオとも素直には呼べない、どのようなジャンルにあてはめたとしても居心地の悪いその形式こそにあった、とは衆目の一致するところ。ベルリオーズやグノーのようにオペラティックに盛り上げることもなく、リストやマーラーのように崇高なイメージを敢えて付与することもない。シューマンはおそらく、ゲーテのテキストが持つ力の強さを誰よりも強く感じ取り、その言葉の力を決して妨げることがないような音楽を作ることを目指したのではないか。
 そして、その素晴らしさは、おそらくシューマンが感じていたのと同じくらいか、あるいはそれ以上に強い共感を持ってこの言葉を発することのできる歌手を得て、はじめてひとに伝わる性質のものなのだろう。いま、誰よりもその発進力を有するゲルハーヘルという歌手を得ることで、この曲ははじめてその真価を顕わにした、といっても、けっして誇張にはあたるまい。そのくらい、ゲルハーヘルは、余人をもって代えがたい歌手となり、そしていまなお、前人未踏の境地を切り拓き続けている。
 歌手に寄り添いつつ、必要なところでは前面に出てサポートに徹する、という指揮をさせるならば、ダニエル・ハーディングはまさに適役であろう。歌われている内容を慎ましやかに、だが緊張感をうしなわずに響かせるその手法は、機能的に音を構築することに長けたこのオーケストラの個性にも見事に寄り添っている(広瀬大介)。



シューマン:『ゲーテのファウストからの情景』 ハーディング&バイエルン放送交響楽団&合唱団、ほか(2CD)

CD 輸入盤

シューマン:『ゲーテのファウストからの情景』 ハーディング&バイエルン放送交響楽団&合唱団、ほか(2CD)

発売日: 2014年11月25日

カートに入れる


 BR Klassik特別プレゼント:HMVでCDをご購入の方に超レア・アイテムを!

賞品は、ヤンソンスのサイン入りCDや非売品のショスタコーヴィチ「第5」CD等!
 本オンライン・マガジンでは、HMV OnlineでBR Klassikのタイトル(新譜・旧譜不問)をご購入された方に、特別プレゼントを実施します。
 賞品は、マリス・ヤンソンスのサイン入りのBR Klassik CD(3名様。タイトルはお任せください)、ヤンソンス指揮バイエルン放送響によるCDショスタコーヴィチ「交響曲第5番」、ベルク「ヴァイオリン協奏曲(ソロ:ギル・シャハム)」(定期会員用非売品ライブ盤。5名様※)、バイエルン放送響2014/15年シーズン・プログラム(約120ページ。5名様)。
ご住所・ご氏名、BR Klassikのタイトルをご購入された際の注文番号をご記入の上、2014年12月11日までに info@amadigi.com までお送りください(メールアドレスはこのキャンペーンだけに使用されるもので、他の目的では使われません。なお、必ず実名でご応募ください)。たくさんのご応募をお待ちしております。

プレゼント応募はこちらから

 マリス・ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団来日公演スケジュール

川崎公演/ミューザ川崎シンフォニー・ホール
2014年11月21日(金)19:00
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 <ピアノ:クリスティアン・ツィメルマン>
ムソルグスキー(ラヴェル編):《展覧会の絵》

京都公演/京都コンサート・ホール
2014年11月22日(土)15:00
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 《新世界より》
R・シュトラウス:交響詩 《ドン・ファン》 作品20
同:《ばらの騎士》組曲

東京公演/サントリー・ホール
2014年11月24日(月・休) 14:00
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 <ピアノ:クリスティアン・ツィメルマン>
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95 《新世界より》

東京公演/サントリー・ホール
2014年11月25日(火) 19:00
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 <ピアノ:クリスティアン・ツィメルマン>
R・シュトラウス:交響詩 《ドン・ファン》 作品20
同:《ばらの騎士》組曲

西宮公演/兵庫県立芸術文化センターKOBELC大ホール
2014年11月27日(木)19:00
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15 <ピアノ:クリスティアン・ツィメルマン>
ムソルグスキー(ラヴェル編):《展覧会の絵》

マリス・ヤンソンス(指揮)
バイエルン放送交響楽団

実施協力:株式会社ジャパン・アーツ
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