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2015年2月2日 (月)

ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

サー・サイモン・ラトルが60歳に!記念公演のシベリウス全曲ツィクルスは、レコーディングも

 サー・サイモン・ラトルが、2015年1月19日に還暦を迎えました。ラトルは1955年、英リヴァプールに生まれ。少年時代よりドラムを叩き、ピアノを弾くだけでなく、LPに合わせて指揮していました。才能の片鱗が見えたのは、2歳の時。父親がジャズ・ピアノを弾くのに合わせて、拍子を取っていたそうです。
 ラトルは、音楽的な環境のなかで育ちました。父親は貿易会社の取締役で、後に教師を務めましたが、同時にジャズ・ファンでもあり、ピアノを演奏。また母親は、結婚する前に楽器・楽譜店を営んでいました。サイモン少年は打楽器、ピアノ、ヴァイオリンを習ったほか、7歳でベルリオーズの管弦楽法を読み、現代音楽に関心を示したと言います。その後、15歳で自ら企画した慈善演奏会で初めてオーケストラを演奏。翌年には、ロンドン王立音楽院に入学しています。
 その後の活躍は、よく知られる通り。1987年11月14日には、ベルリン・フィルにデビューし、マーラーの交響曲第6番を指揮しました。2002年には、ベルリン・フィルの首席指揮者に就任しています。教育活動を大々的に行い、ベルリン・フィルの新時代を開きました。
 ベルリン・フィルではこの1〜2月に、ラトルの指揮でマーラーの《復活》とシベリウスの交響曲全曲を演奏します。シベリウスのツィクルスは、彼のたっての希望であり、ベルリン・フィル・レコーディングスでのリリースに向けて、ライブで音声収録されます。また、2月に行われる還暦記念ロンドン・ツアーでも、演奏される予定です(写真:©Archiv der Berliner Philharmoniker)。

ベルリン・フィル公式サイトの記事を見る



ラトル指揮「シューマン交響曲全集」のパッケージ・デザインに使われたKPMの創作磁器花瓶「シューマン」が日本橋三越で展示販売開始!

 昨年発売されたベルリン・フィル・レコーディングスのタイトル第1弾「シューマン交響曲全集」のジャケットで使用された創作磁器花瓶「シューマン」が、日本でも販売されることになりました。これは、ベルリンを本拠とするKPM(プロイセン王立磁器製作所。1763年にフリードリヒ大王が設立)が、ベルリン・フィルとのコラボレーションにより特別に製作したもの。1月28日より、日本橋三越本店本館5階の洋食器売場で展示販売されています。
 花瓶の形状とデザインは、シューマンが活躍した19世紀中頃に由来します。形状は、KPM の陶芸家ユーリウス・ヴィルヘルム・マンテル(1820〜96年)デザインによる「中国風大型花瓶」。柄は、KPMの磁器画家と美術史研究家が、ロマン派後期に典型的な花のモチーフを選択しています。花々は四季の移り変わりを象徴し、4つのシンフォニーとの関連を示唆します。

 特徴的なのは、美しいフォームと花柄の間に、へこみや歪み、淀んだ暗い色彩が織り込まれていること。これはシューマンが作曲時に体験した、苦悩や精神状況をイメージするものです。可憐な花々をあしらった正面がシューマンの繊細な美を表現するのに対し、枯れ朽ちた花弁を描いた背面は、彼の内面に潜む狂気を象徴。表面の美しさだけでは分からない、作曲家の心の闇を表現しています。
 考案に関わったベルリン・フィルのソロ・チェロ奏者兼メディア代表、オラフ・マニンガー氏は、次のように語っています。「透明で清らかなテクスチュアを持つ磁器は、シューマンの繊細な感性を表現する素材としてぴったりです。しかし、そのもろさ、壊れやすさは、同時に彼の傷つきやすい精神も示唆しています。KPMの花瓶は、作曲家の内面の葛藤を、美しく、心に訴えかける形で表現しています」
 ベルリン・フィルが自主レーベル・スタートのために意趣を尽くした作り上げた磁器花瓶。日本橋三越にお出かけの際は、ぜひ展示にお立ち寄りください!

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 最新のDCHアーカイブ映像

ティーレマンの《英雄》
2015年1月17日

【演奏曲目】
リスト:交響詩《オルフェウス》
ヘンツェ:《夢のなかのセバスティアン》
ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン

 2015年1月には、クリスティアン・ティーレマンが2週続けてベルリン・フィルの定期演奏会に登場しました。今回取り上げられたのは、文学、あるいは神話とつながりのある3つの作品。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《夢の中の聖セバスティアン》は、ゲオルク・トラークルの詩をもとにした作品で、2005年にマリス・ヤンソンス指揮のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団により初演されました。2012年に死去したヘンツェはトラークルの愛読者で、繰り返し彼の詩に曲をつけていることで知られています。
 当夜はそのほか、古代の神話世界に基づいた2つの作品が演奏されています。ヘンツェの作品のちょうど150年前に作曲されたリストの交響詩《オルフェウス》、そしてベートーヴェンの交響曲第3番《英雄》です。ベートーヴェンはこの作品の第4楽章に、1801年に初演されたバレエ音楽《プロメテウスの創造物》の旋律を取り入れています。彼がヨーロッパの啓蒙主義の象徴として、人間に光をもたらしたとされる古代の女神プロメテウスを用いているのは決して偶然ではありません。かのゲーテが後に語ったところによると、ナポレオンは人びとに「光、つまり道徳的な啓蒙も」もたらした(ベートーヴェンが当初、この交響曲をナポレオンに捧げようとしていたエピソードはよく知られています)。交響曲の歴史において画期的な意味を持つ《エロイカ》をティーレマンの指揮でどうぞお聴きください。

ティーレマンの《英雄》をDCHで聴く

ティーレマンの 「ドイツ・レクイエム」
2015年1月24日

【演奏曲目】
ブラームス:ドイツ・レクイエム

ソプラノ:シュヴォーン・ステック
バリトン:クリスティアン・ゲルハーヘル
ベルリン放送合唱団(合唱指揮:ギース・レーンナールス)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン

 19世紀の偉大な交響曲作家であるヨハネス・ブラームスは、管弦楽作品だけでなく、合唱の分野でも多くの傑作を残しました。その代表作は1869年に初演された「ドイツ・レクイエム」でしょう。この輝かしい成功によって、ブラームスは一夜にして同時代の代表的な作曲家の仲間入りを果たしたのです。長年に渡って合唱団の指揮し、また先達のア・カペラ作品を徹底的に研究したことは、彼の作品に豊かさをもたらし、フーガ、モテット、合唱、リートなどのさまざまなジャンルを彼は一つの全体にまとめようと試みました。
 プロテスタントの信者だったブラームスは、一般的なレクイエムにおけるラテン語の祈祷文ではなく、ドイツ語訳の旧約と新約聖書から自ら選んで作曲しました。来世の救済だけでなく、残された者の慰めも主題にしているのが特徴的です。彼らの悲しみと心の痛みに寄り添うように、ブラームスはドラマチックかつ内面に訴えかける作品を書き上げました。
 カラヤン以降、「ドイツ・レクイエム」をベルリン・フィルと共演した指揮者は、ジュリーニ、アバド、アーノンクール、ハイティンク、ラトル、ラニクルズ。今回の演奏会で指揮するティーレマンが、このリストに加わりました。ティーレマンは大規模な合唱作品にも造詣が深く、2009年にはベルリン・フィルとブラームスの「悲歌」、「運命の女神の歌」及び「運命の歌」を共演し、絶賛を博しています。

ティーレマンの「ドイツ・レクイエム」をDCHで聴く

 これからのDCH演奏会

ラトルのマーラー《復活》、再び!
2015年2月1日(日)日本時間午前3時

【演奏曲目】
ラッヘンマン:《タブロー》
マーラー:交響曲第2番《復活》

独唱:ケイト・ロイヤル、マグダレーナ・コジェナー
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル

 サー・サイモン・ラトルが、ヘルムート・ラッヘンマンとグスタフ・マーラーの代表作を指揮します。1935年生まれのラッヘンマンは、現代ドイツを代表する作曲家の一人。今回演奏されるオーケストラのための《タブロー》は、音の生成と消滅、ノイズとフォルムの間を揺れ動く作品で、1989年に初演されました。ラトルはマーラーとラッヘンマンの音楽の親和性に注目し、2011年11月のベルリン・フィルの定期演奏会において初めてこの2人の作曲家を並べて演奏しました。今回は《タブロー》とマーラーの交響曲第2番《復活》のカップリングで、この2人の作曲家の解釈上の対話を深めます。マーラーはかつて自分の音楽について「こん棒で床に叩きつけられたかと思うと、次の瞬間には天使の翼の高さにまで引き上げられる」と記しましたが、その表現の振幅の激しさはラッヘンマンの音楽にも当てはまるところがあります。
 後半のマーラーの《復活》は、言うまでもなくラトルの十八番の演目。彼自身「指揮者になりたいと思ったのは、12歳の時に同曲に出会ったことがきっかけなのです」と語っているほど、この作品に対しての思い入れは強く、バーミンガム市響時代からキャリアの節目で取り上げてきました。ソリストのケイト・ロイヤルとマグダレーナ・コジェナーは、2010年のベルリン・フィルとのライブ録音でも起用されており、今回も息の合った共演が期待できます。

ラトルの《復活》をDCHで聴く

ラトルのシベリウス・ツィクルス第1夜
2015年2月6日(金)日本時間午前4時

【演奏曲目】
シベリウス:交響曲第1番
交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル


サー・サイモン・ラトルは、バーミンガム市響の音楽監督時代からシベリウスの交響曲を熱心に取り組んできました。まとまったレコーディングを残さないラトルとしては珍しく、1981年から87年の早い時期に、バーミンガム市響と交響曲全曲を録音しています。ベルリン・フィルとは2010年に交響曲ツィクルスを行い、今回3日間の連続演奏会で円熟した成果を再び披露することになりました。
 シベリウスは民俗叙事詩「カレワラ」に基づく交響詩で試みた技法を生かし、これらの作品を特徴付けるラプソディー風の基本性格を交響曲に転用しました。当初、伝統的な4楽章形式に固執したシベリウスは、1899年、極めてメロディックで、劇的な表現力を持つ交響曲第1番を作曲しました。「カレワラ」の歌を連想させるような即興的で、悲しみの表情を持つクラリネット・ソロにより、曲は始まります。チャイコフスキーの《悲愴》交響曲に啓発されたかのような、後期ロマン派に特有の濃厚な作風を持ち、実際この2曲の作曲時期は数年ほどしか違いません。続く交響曲第2番は、シベリウスの交響曲の中でもっともポピュラーな作品と呼べるでしょう。「カレワラ」の典型的な抑揚の影響にありながら、親しみやすい旋律を持ち、第4楽章では壮大なクライマックスが形成されます。1902年に作曲家の指揮で行われた初演は大成功を収め、すぐに追加公演が行われたほどでした。

ラトルのシベリウス・ツィクルス第1夜をDCHで聴く

ラトルのシベリウス・ツィクルス第2夜
2015年2月7日(土)日本時間午前4時

【演奏曲目】
シベリウス:交響曲第3番
ヴァイオリン協奏曲
交響曲第4番

ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル

 サイモン・ラトルのシベリウス・ツィクルス第2夜では、交響曲第3番と第4番が演奏されます。最初の2つの交響曲を書いた後、シベリウスは4楽章形式と決別し、3つの楽章から成る交響曲第3番を作曲しました。スケルツォを排したものの、舞踏的な語法は残されており、先の2つの交響曲と同様に、音楽は明確にフィナーレに向かって進みます。1907年、シベリウスはモスクワに客演した際、このフィナーレを「混沌からの思考の純化」と書き記しました。音楽の「原始状態」から賛美歌風のメロディーが立ち上がり、背後の金管楽器に導かれて、音楽は絶え間なく高揚していきます。
続く交響曲第4番は、シベリウスが「同時代の音楽への抵抗」の意志を込めて書いた作品です。当時主流だった巨大な編成の音楽に比較すると、古典寄りであり、室内楽的な透明な筆致によって内面的に純度の高い作品が生まれました。作曲家自身、「これは私のもっとも超俗的な作品だ」と語っています。この2つの交響曲の間に挟まれて、シベリウスのヴァイオリン協奏曲が演奏されます。ロマン派の協奏曲の伝統を引き継ぐこの人気作品のソリストは、レオニダス・カヴァコス。現代を代表するヴァイオリニストの一人であり、2012/2013シーズンには当団の「アーティスト・イン・レジデンス」を務めました。カヴァコス自身、この作品とは縁が深く、1985年、ヘルシンキで行われたシベリウス・ヴァイオリン国際コンクールに弱冠18歳で優勝しています。

ラトルのシベリウス・ツィクルス第2夜をDCHで聴く

ラトルのシベリウス・ツィクルス第3夜
2015年2月8日(日)日本時間午前3時

【演奏曲目】
シベリウス:交響曲第5番
交響曲第6番
交響曲第7番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル

 シベリウスの交響曲第5番は、偉大な自然の賛歌で終わりますが、シベリウスは、英雄的調性である変ホ長調を用い、朗々とした音調に回帰しています。フィナーレは極めて効果的であると同時に、シベリウス自身が「白鳥のリズム」と呼んだ管のモチーフを基盤としています。「今日、10時50分に、16羽の白鳥を見た。私の人生でも、最も偉大な体験だ。第5交響曲の終楽章のテーマ:トランペットのレガート!」これに対して第6交響曲は、シベリウスに特有のラプソディックな断絶と対比がなく、協奏的な要素を多く示しています。作品は、溢れるようなメロディーに支配され、唐草模様のような旋律線が強い印象を与えます。ロマンティックな調子はフィナーレで「高潮し、そのなかで主要主題が溺れるような様相を持つ」。そして全曲は、メランコリックな弦の合奏で、収束するのです。
 シベリウスが伝統的な交響曲の形式を離脱したことは、とりわけ1楽章形式の第7交響曲に現れています。この作品は、交響的幻想曲として初演されましたが、サー・サイモン・ラトルは、第6交響曲に続いて合間なしで演奏します。始まりは、マーラーを思わせるアダージョですが、それは様々な展開の後、運命的な頂点を迎えます。そして最初の詠嘆的な調子に回帰し、ゆっくりと終結するのです。交響曲第5〜7番の上演は、ラトルとベルリン・フィルのシベリウス・ツィクルスのフィナーレであり、頂点と言えるでしょう。

ラトルのシベリウス・ツィクルス第3夜をDCHで聴く

 アーティスト・インタビュー

アンドレアス・ブラウ&エマニュエル・パユ対談(後半)
「ベルリン・フィルの響きは、最近はむしろカラヤン風に暗くなってきたと思います」
2014年3月22日

【演奏曲目】
ライネッケ:フルート協奏曲ニ長調
マーラー:交響曲第4番

フルート:アンドレアス・ブラウ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヤニック・ネゼ=セガン

 ベルリン・フィルのふたりのソロ・フルーティスト、アンドレアス・ブラウとエマニュエル・パユの対談後半です。ここでも、カヤランの話題がたびたび登場します。興味深いのは、45年の団歴を誇るブラウが、「近年のベルリン・フィルの響きは、アバド時代と比べて、カラヤン風の暗い響きに戻ってきている」と語っていることです。たしかにベルリン・フィルは、透明で明晰な演奏をする一方で、重厚な深みを感じさせる演奏も多くなっています。一昨年の日本公演におけるブルックナー「第7」などは、流麗さと音色の深さが合一していましたが、一種のネオ・カラヤニズムが生まれつつあるのかもしれません。

エマニュエル・パユ 「カラヤン時代と比べると、今のベルリン・フィルはレパートリーも広く、様々な様式を演奏しています。オーケストラは、よりフレキシブルになったと思いますか」

アンドレアス・ブラウ 「カラヤンは、ベルリン・フィルの響きに極めて大きな影響を与えました。彼ほどオーケストラをしごきあげ、自分の思うサウンドを徹底して作り上げた指揮者は、その後いないと思います。もちろん、それは彼の独自の美学でした。今日、様々な人々に批判され、また、理解されていないと感じることもありますが、当時は絶大な成功を収めたのです。ベルリン・フィルは、そのスタイルを血肉としていたので、他の指揮者が来て別のアイディアを盛り込もうとしても、まずはカラヤンのスタイルで弾きました。今日ではそういうことはなくて、新しい指揮者が独自のアイディアで来たら、それにフレキシブルに応えますね」

パユ 「ベルリンの住民は、もともとのベルリン人と、他のドイツの町から来たドイツ人と、トルコ人と、外国人のミックスです。その意味で、非常にインターナショナルな町だと言えますが、ベルリン・フィルも、とても外国人の多いオーケストラですね。今では、半分がドイツ人で、あとの半分は外国人でしょう。その意味で、オケの響きは変わったと思いますか。それとも、カラヤン時代からの響きが継続し、維持されていると思いますか」

ブラウ 「それについては、いつも驚くのです。私はベルリン・フィルの音色について、しばしば考えます。カラヤン時代は、柔らかく、暗い響きだったと思いますが、それはアバド時代に入り、若い同僚が入ってきた時に、少し明るい方向に変わりました。現在は、むしろ暗い響きに戻っていると思います。不思議だと思うのは、メンバーが世界中の様々な場所から来ているのに、最終的にはベルリン・フィルの響きに馴染んでいることです。もっと言えば、皆が同じ“精神”で弾いているのですが、それが特別だと思います。皆が丸く、豊かな響きを作ろうとしていて、華やかな“アメリカ風”な響きにはなりません」

パユ 「45年のベルリン・フィル生活で、すぐに思い浮かぶハイライトは何ですか?」

ブラウ 「演奏会の思い出はたくさんあります。私は最初から参加していたわけではありませんが、ザルツブルク・イースター音楽祭での《リング》、《トリスタン》は、本当に圧倒的でした。これはすぐに思い浮かびますね。それから、当時スタートしたブルックナーのツィクルス。これも素晴しかった。ツアーで演奏した《英雄の生涯》は、ミッシェル・シュヴァルベのソロも見事で…。
 アバドの場合は、何と言っても《ランスへの旅》です。演奏の全体が素晴しかったということもありますが、私には20分にわたるバスのアリアのオブリガート・フルートを吹く役割があったからです。その際、フィルハーモニーの舞台で一緒に“演技”して、バス歌手と受け答えしました。ものすごく難しいカデンツァがあるところを、舞台の前方まで出て行って…。特別な体験でした。映像収録されましたが、DVDで出ていないのが残念です。
 ラトルも、数え切れない素晴しい思い出があります。最近演奏した《ヨハネ受難曲》も素晴しかったです」

パユ 「今、ラトルの後継者の問題が大きな話題となっています。あなたは、我々のオケがどのような指揮者を選んだらいいと思いますか。また、新しいソロ・フルート奏者には、どのような資質が求められると思いますか」

ブラウ 「ベルリン・フィルの首席指揮者というのは、特別なポジションだと思います。これは単に演奏会に来て作品を指揮し、その後帰る、というような役割ではありません。ベルリン・フィルの方向性を担い、新しいアイディアを持たなければならない。ラトルは教育プログラムでそれを示しました。我々は、プログラムの多彩さという点では、ものすごく恵まれている言えるでしょう。ラトルが広範なレパートリーを持ち、様々な曲を取り上げているからです。新しい指揮者は、この点でも自分自身のやり方を示そうとするでしょうね。今の段階では、“この人だ”とはっきり言えるような人はいません。メンバーは喧々諤々の議論をすることになると思います。簡単なチョイスではありません。
 ソロ・フルートということについては、フルートがオケのなかでどのような役割を担うか、という問題と関わってきます。私はコンクール等で、素晴しい能力を持ったフルーティストをたくさん聴いてきました。皆がものすごくうまくて、技術的な限界はゼロといった感じです。しかし我々のオケでは、むしろテクニックの問題ではない気がします。ベルリン・フィルの響きのなかに溶け込めるかということの方が重要なのです。一方では自分を抑えて、室内楽的にバランスの取れた精妙な演奏ができることが大事。しかしもう一方では、ソリストとして自分を打ち出すことができなければなりません。どのような人が選ばれるのか、とても関心を持っています。
 実は私は、ベルリン・フィルのオーディションの仕方には満足していません。協奏曲とオーケストラ・スタディ、あるいはソロの小品が演奏されますが、それだけで2年間の試用期間に送り出すのは無理があると思います。他のオーケストラでは、オケのなかで演奏させて、様子を見るようです。他のメンバーとうまく合わせられるか、状況にフレキシブルに反応できるか、オケのなかに溶け込める響きか。そういう点を見定めることが重要だと思うのです」

パユ 「カラヤンは、重要なソリストのオーディションには同席したそうですね」

ブラウ 「彼は、私がオーディションした時、フルートがピアノで低音を吹くのは難しいと考えていたようです。きっとオーボエと取り違えていたのでしょう。“低音をそっと吹いてくれませんか”と言われたので、“お安い御用ですよ”と答えたら、彼は“おお、それは素晴しい”と非常に感じ入ってくれました(笑)」

パユ 「ラトルがフルートのオーディションに来るといいですね」

ブラウ 「それはとても重要です。ぜひ来て欲しいです」


ブラウの演奏会をDCHで観る
DCHのカラヤン・アーカイブを観る

 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

ヴァルデマール・クメントが死去
オーストリアのリリック・テノール、ヴァルデマール・クメントが86歳で亡くなった。クメントは、1929年ウィーン生まれ。ウィーン音楽アカデミーで学んだ後、ウィーン・フォルクスオーパーで《3つのオレンジへの恋》の王子役を歌い、デビューした。カール・ベームの目に留まり、ほどなくしてウィーン国立歌劇場に登場。その後、2006年に《ナクソス島のアリアドネ》の執事長で引退するまで、79の役で計1480公演歌った。モーツァルトの諸役、《フィデリオ》、《売られた花嫁》、《ホフマン物語》等で国際的名声を博している(写真は、Orfeoのウィーン国立歌劇場ライブ・シリーズのソロ・アルバム)。

次号の「ベルリン・フィル・ラウンジ」は、2015年3月13日(金)発行を予定しています。

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