【インタビュー】和田誠 ジャパニーズ・ポップス・インタビューへ戻る

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名盤復刻 再発ストア

2015年5月8日 (金)

 “TV AGE”シリーズからこの度新たにリリースされた『和田誠ソングブック』『いずみたくPRESENTSブラックレコード大全』『日曜娯楽版大全』は、それぞれに密接な関連性を持つ作品集であり、この意義深い復刻3タイトルが奇しくもほぼ時を同じくして完成したというところにまた価値が高まる。自身の作品が集められた『和田誠ソングブック』はもちろんのこと、他のタイトルにも欠かせない人物である和田誠さんにお話を伺うことが出来た。本業であるイラストレーションのほかにも、映画監督、エッセイストなど様々な分野で活躍する才人のひとつの側面である作曲の仕事。ジャズや映画音楽に造詣が深いことで知られる氏が、これまでに手がけた200曲を超える楽曲から、自らのセレクトで纏められたのが『和田誠ソングブック』である。詳細なセルフライナーに加え、ジャケットも描下ろし。ほとんどの曲のアレンジを担当した八木正生の果たした役割は何より大きいだろう。



-- 企画された濱田(高志)さんによれば構想5年のアルバムとのことでしたが。

和田 誠(以下、和田): 自分ではそんな構想はなかったんだけど(笑)。デューク・エイセスが僕の作った歌を何曲か歌ってくれていて、それを纏めたものは既にあったんですね。あと、岸洋子さんでLPを作ったり。ほかにもいくつかそういうものはありましたけど、それでひとつのCDを作ろうとかいう野望はなかったんです。以前、濱田さんと雑談をしているうちになんとなくそんな話になって、彼の方から「ぜひ作品集を作りましょう」と言ってくれた。それが5年位前だったんでしょうかね。そんな話が出てきた段階で、どうせならこれも入れたい、あれも入れたいという思いはありました。それでも許諾の関係でどうしても入れられなかった曲もいくつかあって、その辺はちょっと残念でしたけどね。

-- 今回は選曲も自らなさったそうですが、どれくらい候補を挙げられたのでしょうか。

和田: 最初に選んだのは30曲くらいでしたかね。そこから物理的にむずかしいものを削っていって、この数(24曲)に落ち着いたんですね。ここに入っている曲の中では寺山修司絡みのものが最も古い音源でしょうか。『初恋・地獄篇』というLPで寺山修司の作詞で僕が曲をつけたものがあるんですが、その辺から始まった。もともとは羽仁進さんが撮った映画があったんですけど、寺山修司としては映画だけじゃ物足りなくて、自分の台本でラジオドラマの様なLPを作りたいということで、何曲かの詞に曲をつけてよと依頼されました。それで、まだ小椋佳という名前になる前の学生時代の彼が数曲そのLPのために歌ってくれたんですよね。たまたま手元に当時の音楽テープを保管していたことで、ここにはLPとは違う、台詞や波の音がかぶっていない音源が収められています。

-- そもそも、作曲家が本職ではない和田さんに寺山さんが曲を依頼されたのはどんな経緯があったのでしょうか。

和田: 彼が審査員をやって、新しいミュージカル女優を見つけて育てようという企画が立ち上がった時に、彼はそのためにわりと短いミュージカルを書いたんです。それが『怪盗ジゴマ・音楽篇』だったんですよ。その中に彼女に歌ってもらいたい詞の何編かに曲をつけてと頼まれたんです。もっと遡ると、「天井桟敷」という劇団を彼が始めて、その一回目くらいの『大山デブ子の犯罪』っていう劇がありました。芝居全体がお祭りみたいなものだと彼が言うので、それだったら音楽はデキシーランド・ジャズがいいなと僕が言って、薗田憲一とディキシー・キングスに交渉して演奏してもらった。その時に何曲か書いたんです。それが始まりでしたね。それより以前、ぼくがライトパブリシティというデザイン会社に勤めている時に仲の良かった同僚の山下勇三が遊びで詞を書いて、それに曲をつける遊びをやっていたんです。五線紙の書き方も知らなかったのを、誰に習うでもなく自己流で覚えていったんですね。

-- 作曲はピアノでなさるのでしょうか。

和田: そうですね。といっても両手では弾けないから一本指で。そのうちに英語の詞の歌も作りたくなって、自分で作詞・作曲していた。それで、僕はもともとジャズが好きでライブハウスなんかによく行ってましたから、ジャズ・シンガーの人たちとも少しずつ顔見知りになっていって、「今こんなの作ってるんだ」なんて譜面を見せたりしていたんですね。それが八木(正生)さんの耳に入って、しばらくして会った時に「曲作ってるんだったら譜面持って来いよ」と言われて持っていったんです。そうしたらあの人はピアノの名人だから、その場でバーッと弾いて聴かせてくれた。演奏者がいいと、素人が作った曲なのにすごくいい曲に聴こえるんですよ。だから八木さんの存在っていうのは当時のぼくにとってすごく大きかったです。

-- もちろんメロディがあってこそですけれども、どれも素晴らしいアレンジですよね。

和田: ええ。アレンジの過程は判らないけれども、出来上がったものを初めて聴くわけでしょ。その場で弾いてくれただけでもわーっと思うのに、それがオーケストラの音になったらものすごい感激ですよ。それを最初に感じたのが『初恋・地獄篇』でした。それから岸洋子さんのアルバムの時も。これは「17の子守唄」っていう絵本みたいな曲集を自費で作ってあったんです。岸さんはわりと近所に住んでらしたから、よく道で会ったりしていてね。それである時お茶を飲みながら「こんな本を作ったんです」って見せたら、彼女は芸大の声楽科出ですからその場ですぐ小声で歌ってくれて、「いつかこれ、ちゃんと歌ってあげましょうか」「ぜひお願いします」ってことで、ずいぶん経ってから打診してみたら、専属だったキングレコードの方に紹介してくれた。ところがそれで大物ディレクターに会いに行ったら、「岸洋子はうちの専属の大物歌手だから、素人が作った歌なんて歌わせられません」って断られちゃった。仕方がないので「自費でもいいから作りたいんです」ってことでお願いしたんですが、キングレコードのマークを使うのも許してくれなかったんですよ(笑)。正真正銘の自主制作盤。自分では売ったりはしないで、知り合いにあげたりしてたかな。このジャケットはデザインを大先輩の山城隆一さんにお願いしたんです。自分でやりたい気もあったんだけど、どうせなら大物に頼みたいと思って。岸さんは喜んでくれましたよ。出来上がったのはちょうど「希望」が大ヒットしていた頃で、忙しい中、公演先で倒れて酒田の病院に入院していたんですね。それを聞いて病院にレコードを送ったらとても喜んで、主治医の先生たちに聴かせたりしていたそうです。

-- デューク・エイセスさんとの出会いについてお聞かせください。

和田: デュークの結成15周年の時、あれは大阪フェスティバルホールだったかな。永六輔さんと中村八大さんのコンビでデュークのために歌を作るというコーナーがあったんですよね。それがシュバイツァー博士をテーマにした曲で、ステージの上でシュバイツァーのポートレイトを出したいからと絵を依頼されたんです。実際それがすごく拡大されて使われるから観に来て下さいっていうので出かけると、ステージの上でデュークのみなさんに紹介されて。それ以来のご縁ですね。その時もポスターを描いたかもしれません。それから「筑波山麓合唱団」の時に4人の蛙を描いたり。その後もアルバムのジャケットを描いていますし、僕の作った曲ばかりを歌ってもらったアルバムもあります。長いお付き合いになりました。

-- 今回のアルバムを聴かせていただくと、どれも独特な浮遊感というか、不思議な魅力があって。いい意味で計算されていない、自然なメロディが心地よい。曲調はトーチソング的なものが多いような気がします。

和田: 計算は出来ませんからね(笑)。そういえば、曲を作り始めた頃に、黒鍵を少し使うと自分で気にいったメロディが出てきたりすることがありました。好きなジャズやポピュラーの影響も少なからずあるのかもしれません。トーチソングっぽいというのは、詞に影響されていると思います。寺山修司の詞もそういうところがありますね。「呼ばないで」とか。僕の場合はまず詞ありきで、それに曲をつけていくというのがほとんどですから。とにかく自己流で作ってきたものがこうして形になって、僕自身が本当に嬉しいんですよ、これは。

 作曲家のいずみたくプロデュースの下、72年に発足したのが<ブラックレコード>であった。テイチクレコードが自社の演歌・歌謡曲のイメージを一新する意図で立ち上げられたという。そのアートディレクションを全て手がけたのも和田誠氏である。いずみたくの会社であるオールスタッフ音楽出版の原盤制作で、先行した<ガーリック>レーベル同様に、実験的で斬新な作品が次々にリリースされた。その初期の2年間に集中して出されたシングル25枚から48曲がCD2枚組に収められたのが『ブラックレコード大全』。当時の売り上げはあまり芳しくなかった様だが、少々時代を先駆け過ぎていたであろう楽曲は面白いものばかりで、再評価に値する内容である。作曲はいずみたくだけでなく、後にビーイングを興す長戸大幸や、「およげ!たいやきくん」の佐瀬寿一がその名を高める前の時代の仕事は興味深く、既にヒットメーカーとして活躍していた川口真や、意外なところでは大野雄二の名も見られる。作詞陣にも、岩谷時子、山上路夫、山川啓介ら、いずみたくと縁の深い錚々たるメンバーが名を連ねる中、寺山修司作詞、和田誠作曲による「老人探偵団/かじれガリガリ博士」は異色盤の最たる一枚といえる。

-- 『ブラックレコード大全』も和田さんが今回またジャケットを描き下ろされて。

和田: ガーリックとかブラックのレーベルをいずみたくさんが作り始めた時は僕はもう知りあっていたから、「マークを作ってよ」なんて言われて作ってたんですよ。ピンキーとキラーズのリサイタルのポスターも作ったりですとか、オールスタッフ(いずみたくの事務所)の歌手を集めたステージの構成なんかも頼まれたりしていた中で、ブラックレコードはすべてのデザインをやることになるんですよね。ジャケットに関しては特に注文はなくて、勝手にやっていましたね。本当にしょっちゅう描いていた記憶があります。絵を描く手間も当然あったわけだけど、それよりもレコーディングが大変だったでしょうね。

-- 作家陣は有名な方ばかりですが、歌手はほとんどが無名の方ばかりでしたね。

和田: そうですね。僕も描いていて、この人も知らない、この人も知らないばかりでしたよ。後半になると、いずみたくシンガーズが多いですね。「手にハンマーを」とかはいずみたくさんが自分でも歌ってたんじゃないかな。作詞家は岩谷時子さんにしても山上路夫さんにしても、やっぱりいずみたくさんと縁の深い方が多い。そんな中で「老人探偵団」とかぼくの曲もありますね。『老人探偵団とガリガリ博士の犯罪』というLPがあって、そこからのシングル。これも寺山修司がいて出来たものでした。

 いずみたくはもともと三木鶏郎が主宰した<冗談工房>出身に参加し、鶏郎グループの一員であった。「冗談音楽」「コマソン」の開祖として、戦後まもなくから大活躍した三木鶏郎は、自身の才能はもちろんのこと、氏の下から多くの後進が育った功績も大きい。今回、生誕100年記念盤となる『日曜娯楽版大全』は、戦後間もない1947年にスタートした『日曜娯楽版』が52年から『ユーモア劇場』となり、54年に終了するまでの約7年間に生み出された楽曲の数々が収められている。社会風刺を効かせながらも常にユーモア精神に満ちた傑作揃い。和田誠氏にとっても三木鶏郎は大きな存在であり、氏がプロデュースを手がけた由紀さおりとデューク・エイセスによる『三木鶏郎ソングブック』も、先頃20年ぶりに再CD化されたばかりである。

-- 三木鶏郎さんの精神が和田さんのお仕事に影響を及ぼした部分はありますか。

和田: かなりありますね。『日曜娯楽版』は子供の頃、相当聴いてましたから。想い出深い曲はいっぱいあります。「南の風が消えちゃった」もそうだし、「秋はセンチメンタル」も。その辺りは『三木鶏郎ソングブック』にも入れましたよ。僕が小中学生の頃、三木鶏郎さんは大スターでした。ラジオだけじゃなくて、『日曜娯楽版』をステージにしたものもあったでしょう。日劇ですとか。まだテレビの時代じゃなかったから、顔まではなかなか見られなかったですけれども。『三木鶏郎ソングブック』を作ったのもずいぶん前になりますが、デュークと由紀さおりさんに歌ってもらってね。アルバムが出来上がった時に、鶏郎さんがすごく喜んでくれました。その中に入っている「ブギウギ列車」なんかもモダンでいいんですよね。その前に笠置シヅ子の一連のブギがヒットしてましたけど、鶏郎さんの「ブギウギ列車」の方がずっと新しいと、子供心に思ってたんです。

(2015年3月31日 和田誠事務所にて 聞き手・文 鈴木啓之)



V.A.『和田誠ソング ブック』
 [2015年04月22日 発売]

祝・生誕80年!イラストレーター・和田誠が作曲家として提供した楽曲を自ら選曲した作品集。 カルメン・マキやピンキーとキラーズなどの話題曲や寺山修司作詩の未CD化作品なども収録。 ブックレットには和田誠によるイラスト入り全曲解説も収録!
たばこのパッケージや村上春樹の書籍の装丁、挿絵などを手がける人気イラストレーター、和田誠。クラシックからジャズ、シャンソンまで無頼の音楽好きとして知られる和田は200曲以上の楽曲を提供している。そんな彼の楽曲の中から作曲家として提供した作品を自らがセレクト。「僕は恋してる/小椋佳」、「ペルソナ/カルメン・マキ」などの寺山修司の天井桟敷関連作品や、初CD化となる『NHKみんなのうた』より坂本九「4人目の王様」、自主制作アニメ「怪盗ジゴマ 音楽篇」(1988)収録の「木の葉に書いたラブレター/由紀さおり」など初音盤化曲も収録。
全楽曲解説をイラスト付きで書き下ろしした豪華ブックレット付。和田誠ファンはもちろん、ヴォーカル・ファン、60s〜70sサブカルファンまで幅広く楽しめる必携の一枚と言えるでしょう。


■ 最新デジタル・リマスタリング
■ 企画・監修:濱田高志(TV AGE)

収録曲

  • 01. 恋のサンポラレ島 / ピンキーとキラーズ
  • 02. 小さいタネから / 森山良子
  • 03. ラブレター / 小椋佳
  • 04. 僕は恋してる / 小椋佳
  • 05. 海太郎子守唄 / デューク・エイセス
  • 06. おまえのうまれた日 / 岸洋子
  • 07. どうして / 平野レミ
  • 08. 青空はぼうやのもの / 岸洋子
  • 09. 木の葉に書いたラブレター / 由紀さおり
  • 10. ペルソナ / カルメン・マキ
  • 11. 再会 / 木の実ナナ
  • 12. 4人目の王様 / 坂本九
  • 13. 呼ばないで / 由紀さおり
  • 14. 眠らないの 眠れないの / 伊集加代子、光井章夫
  • 15. しかられた夜のうた / 中山千夏
  • 16. ねむりのおふね / 平野レミ
  • 17. ママはうたうの / 岸洋子
  • 18. ゆき ゆき ゆき / デューク・エイセス
  • 19. 俺も飛べるさ / デューク・エイセス
  • 20. りんごの木 / 岸洋子
  • 21. 誰でも誰かが / 平野レミ、清水ミチコ、阿川佐和子、石川セリ
  • 22. ライラック通り / デューク・エイセス
  • 23. クリスマスソング / 中山千夏、平野レミ
  • 24. ゆうやけ / デューク・エイセス


【和田誠 プロフィール】


和田誠
1936年生。多摩美術大学図案科卒業。1959年デザイン会社ライトパブリシティに入社。1968年よりフリーランスのデザイナー、イラストレーターとして活躍。たばこ「ハイライト」のパッケージ・デザイン、『週刊文春』の表紙イラストレーション、星新一の著作の挿絵、数多くの書籍の装丁、また映画『麻雀放浪記』『怪盗ルビィ』の監督など、長年に渡って幅広く無数の仕事を手がけている。『いつか聴いた歌』『Coloring in Wadaland和田誠カラー作品集』など著作も多い。








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