「刺激的だった2つの《幻想》」
2016年10月24日 (月)
連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第65回その音楽自体は嫌いではないのだけれども、食傷気味だなと思わせてしまう作品がある。わたしの場合、ベートーヴェンの交響曲第7番と並んで、ベルリオーズの《幻想交響曲》がGEP率(胃に溜まったガスを発する率)が高い。
最近、ヨーロッパのオーケストラの来日公演プログラムが、やけに保守的というかアイディア不足でがっかりさせられること頻々なのであるが、この二曲はその残念なプログラムを飾ってしまいがちな常連でもある。
フランスのオーケストラが来日した場合には、必ずといっていいほどサン=サーンスの交響曲第3番か、この《幻想交響曲》をメインに据えることになる。しかも、演奏会前半には「人気者」との抱き合わせの協奏曲が付くので、がっかり度は半端ない。
フランスのオーケストラなら、ショーソンやデュティユーの交響曲でも持ってきたまえよ、メユール、グノーやビゼー、ロパルツにマニャールにルーセル、ほらほら良いオーケストラ曲はいっぱいあるぞよ、好きなだけ持ってこーい、なんてぬかしておると、ビジネスのシビアさに疎い奴が幻想ならぬ妄想に浸っているだけ、なんて冷笑されるのが関の山なもので、結句、近所の運河に浮かぶ夕陽を見ながら涙にむせぶのですわ。
かようなことをぬかしおるわたくしであっても、ハーディングが指揮した《幻想》の新譜が出た、といえば、やはり聴かずにはいられないわけでして。
ラモーの《イポリートとアリシー》組曲が冒頭に入っているのが、またいい。このラモーの舞曲が、ベルリオーズに繋がるというわけなんだな。
そういえば、フルート奏者のパユが「バロック期のフランスには、宮廷のバレエと軍隊の音楽しかなかった」と言っていた。その二つの音楽が幻想交響曲にはキチンと入っている(第4楽章「断頭台への行進」は、未完に終わったオペラの「衛兵の行進」という音楽を使っている)。
引き締まりつつも、躍動的なラモーの音楽の余韻をそのまま引き継ぐカタチで、ベルリオーズの音楽が始まる。長い序奏のあと、有名な主題の表情付けがエグい。ヴァイオリンの抑揚が大きく、まるで興奮するあまり声が上擦っているかのように聴こえる。
なんといっても、立体的な効果を狙ったサウンド設計にはビックリだ。対抗配置による左右ヴァイオリンの掛け合いは、やり過ぎというくらい強調されており、ベルリオーズがほくほく顔で仕掛けたアイディアを見事に実現しているといっていい。なにせ、二台のハープも左右に分かれて配置されているので、第2楽章の冒頭などでは絶大な効果を及ぼす。
この楽章の中間部での左右での弦の生き生きとしたやり取りは鮮烈そのもの(この部分は最終楽章でパロディとして示されることもよくわかる)。さらに、浮き上がりがちなコルネット・パートも、全体に溶け込ませる巧妙なバランスで聴かせる。その響きもまさしく立体的なんだなあ。
第3楽章の表現の濃さもいい。箸休め的に置かれる緩徐楽章ではなく、これから大きく展開するストーリーを予言するかのようで、断頭台への道筋がしっかりと描き込まれている。
続く第4楽章、第5楽章も、ベルリオーズの仕掛けたケレン味たっぷりの音楽が明晰まなでに表現されている。にも関らず、ミュンシュ的な野蛮さを感じないで済むのは、ハーディングならではの細やかな設計と躍動感が、その表現の濃さにダイレクトに繋がっているからだ。さらに、この演奏からは、ラモーの音楽を大幅に拡大しちゃうと、ベルリオーズになるんだよ、というコンセプトも感じられよう。
《幻想交響曲》では、もう一枚ユニークな録音が出ている。ガッディ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏だが、これがハーディングと真逆といっていいほどの方向性。
冒頭楽章の序奏部から、しっとり重たい。それが主部に入っても雰囲気は変わらず、展開部では暗い情熱を発する程度。しつこいくらいに丁寧なフレージングで、躍動感はない。もうすでに悲劇は起こったことを示す、ダウナー系だ。
第2楽章もまさしく夢のなかの舞踏会のよう。3楽章も淡く、丁寧。第4楽章も整然としていて、原曲よろしく衛兵がチャキチャキと行進しているような。最終楽章は、そりゃあ盛り上がりはすれど、熱情はなく、ひたすらロジックだけで攻めている感じ。
この落ち着き払った《幻想》を聴いて、スクロヴァチェフスキーがロンドン響を振った演奏を思い出した(CHANDOSがなかなか再発してくれない名盤だ)。スクロヴァチェフスキーは他にもザールブリュッケン放送響との録音があるが、このロンドン響盤は、冷ややかなままに進行、まったく騒がない演奏がすこぶる驚異的なのだった。
とういわけで、こういった《幻想》を来日オケ公演でも聴かせてくれるんだったら、好きなだけやってくれーい、と夕陽に向かって叫ぶのですわ。
(すずき あつふみ 売文業)
評論家エッセイ情報ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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ベルリオーズ:幻想交響曲、ラモー:『イポリートとアリシー』組曲 ダニエル・ハーディング&スウェーデン放送交響楽団
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ベルリオーズ:幻想交響曲、ワーグナー:『タンホイザー』序曲、他 ダニエーレ・ガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
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ユーザー評価 : 5点 (1件のレビュー)
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