タバコフのショスタコーヴィチ交響曲第13番『バビ・ヤール』
2016年12月11日 (日)
ショスタコーヴィチ:交響曲第13番『バビ・ヤール』
エミール・タバコフ&ブルガリア国立放送交響楽団、ウラディミール・ペトロフ
GEGA NEWが進めるエミール・タバコフ指揮ブルガリア国立放送交響楽団によるショスタコーヴィチ交響曲全集シリーズの最新録音。これまでに第4、8、7、11番の順でリリースされ、そのいずれもがコアなファンから熱烈に支持されてきました。
今回はショスタコーヴィチ後期の最高傑作との呼び声高い『バビ・ヤール』。自らが優れた作曲家でショスタコーヴィチやシュニトケの影響を受けた作品を精力的に発表するタバコフはここでも作品を緻密に分析した上で自らと作品を同一化させ、作曲者と共に泣き、吠えるといった熱狂的な演奏を繰り広げます。ウィーンやシカゴ、ロンドンなどの一流オーケストラの洗練度には到底及ばないものの、東欧のオーケストラでしか表現できない、ゴリゴリとした手触り、土の香りを思わせる独特の音色はショスタコーヴィチの表したかったものに最も近いはずだ、と言っても言い過ぎではないでしょう。指揮者、オーケストラ、声楽陣ともに作品に対する愛と共感にあふれた熱演です。
これまでと同様、スタジオにおける丁寧なセッション録音。全てのショスタコーヴィチ・ファン必聴です。(輸入元情報)
【収録情報】
● ショスタコーヴィチ:交響曲第13番変ロ短調 Op.113『バビ・ヤール』 [62:29]
第1楽章『バビ・ヤール』 [15:31]
第2楽章『ユーモア』 [8:25]
第3楽章『商店で』 [13:04]
第4楽章『恐怖』 [12:32]
第5楽章『出世』 [12:54]
ウラディミール・ペトロフ(バス)
ブルガリア国立放送男声合唱団
ブルガリア国立放送交響楽団
エミール・タバコフ(指揮)
録音時期:2012年11月
録音場所:ブルガリア国立放送スタジオ1
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
【交響曲第13番『バビ・ヤール』】
ショスタコーヴィチの13番目の交響曲は、その歌詞内容を巡って初演当初から大きな反響をよんだ作品です。膨大な打楽器群を伴う大編成のオーケストラに男声合唱、バス独唱を要し、1時間にも及ぶこの問題作の焦点は、第1楽章のテキストであり、作品全体のタイトルともなっている詩「バビ・ヤ-ル(バービイ・ヤール)」にあります。
エフゲニー・アレクサンドロヴィチ・エフトゥシェンコ[1933-]の手になる詩「バービイ・ヤール」は、1961年9月19日に「文学新聞」紙上で発表されました。当時28歳、新進気鋭の若手詩人によるこの詩は、第2次大戦中、ナチス・ドイツによってキエフ郊外のこの地でおこなわれた周辺ユダヤ人の大虐殺(2日間で33,771人)を直接のテーマとしながら、ロシアで帝政時代から根深く続いていた、そして当時のソヴィエトにあっては事実上蔓延していたとされる、反ユダヤ主義の告発を主眼とする、いわば、ソヴィエトの恥部を暴くような内容だったのでした。
このような詩が、公式筋からの猛烈な批判を浴びつつも熱狂的な支持を生んだ背景には当時のソヴィエト政府が「雪どけ」といわれる緩和政策のさなかにあったことが第1に挙げられます。スターリンの死後、「思想から経済へ」と踏み出し、西側諸国との平和共存をうたった共産党政権の転換は、ヴァン・クライバーンのチャイコフスキー・コンクール制覇や、オイストラフ、リヒテル、ギレリスらの渡米公演など、多くの文化的な功績も残しましたが、一方で、そうした自由な空気の流入は国内言論の緩和という形であらわれ、自由な論説を展開する「雪どけ派」といわれる知的言論人を生み出してもいたのでした。エフトゥシェンコは、そうした言論人の急先鋒でした。
ショスタコーヴィチが、いつこの詩を自らの題材に選んだのかは明らかではありませんが、1955年にバービィ・ヤールを実際に訪れたことがあったという彼が、この若い詩人の作品に心を惹かれなかったはずもなく、詩が発表されて約半年後の1962年3月には、後に第1楽章となる『バービイ・ヤール』が完成、当初は合唱付きの交響詩として完結する考えだったようですが、持病の右手神経症治療で入院中(同年7月21日まで)に、エフトゥシェンコの詩集「両手をふりあげ」から素材を探し、最終的に全五楽章の大作へと発展したのでした。異なる素材を選び出し、有機的に関連付けていったショスタコーヴィチの文学的センスは、この頃にはショスタコーヴィチと親しくなっていたエフトゥシェンコ本人をも驚嘆させたそうですが、さらに驚かされるのは、第一楽章以外の四章がすべて入院中に完成されたことで、記録によると、最終楽章「出世」が完成したのは退院の前日、7月20日とされています。
この年の秋、ショスタコーヴィチは友人数人を自宅に招き、その13番目の交響曲を披露しています。持病のため以前のようには達者とはいかなかったようですが、ショスタコーヴィチは声楽の主要な旋律を歌いながら全5楽章をピアノ演奏、それぞれの楽章の前にはエフトゥシェンコが詩を朗読したそうです。限られた招待客には、作曲家仲間のハチャトゥリアンとヴァインベルク、歌手のガリーナ・ヴィシネフスカヤ、そして、この作品の初演を担うこととなるキリル・コンドラシンの姿があったとされています。
初演は1962年の12月18日、コンドラシン指揮のモスクワ・フィルその他によっておこなわれましたが、ただちに当局の非難にさらされます。国家のタブーに触れた詩作、それを用いて新作を書いた国際的にも著名な作曲家という取り合わせは、いかに「雪どけ」のソヴィエトにあっても見過ごされることはなかった、というべきでしょうか。この頃には「雪どけ」の行き過ぎた緩和政策を見直す気運が共産党政権内で次第に高まっており、同年10月に終結をみた“キューバ危機"を「アメリカに対する政治的敗北」とする意見の台頭もあり、自由な気風は急速に去りつつあったようです。初演当日のバス歌手のエスケイプや、当初、初演の指揮をレニングラードでおこなうはずだったエフゲニー・ムラヴィンスキーが不可解な理由から指揮を断った背景に、政治的な圧力をみる意見もあります。そしてそのことは、ショスタコーヴィチとムラヴィンスキーの長年にわたる友情に最終的な終結をもたらしたともいわれています。
初演後、第13交響曲は共産党政権から歌詞の一部改定を指示され、1963年2月に改訂歌版で再演、その後1965年にも同じく改訂歌詞で演奏されますが、その後は長く封印されてしまいます。初のレコーディングは、初演、再演とも指揮を務めたコンドラシンによって1967年におこなわれますが、原典歌詞の復活を求めた関係者の努力もむなしく、改訂歌詞での録音となりました。ソ連におけるこの原典歌詞による録音の解禁は、1985年のロジェストヴェンスキー盤まで待たねばなりませんでした。ソヴィエト以外では、当然ながら、1970年1月のオーマンディ指揮によるソ連国外初演&初録音から一貫して原典歌詞が用いられています。
交響曲最新商品・チケット情報
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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