『やがて海へと届く』公開記念!中川龍太郎監督インタビュー

2022年04月15日 (金) 11:00

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岸井ゆきの×浜辺美波が親友役で映画初共演

彩瀬まるさんの小説『やがて海へと届く』を詩人としても活動する中川龍太郎監督が映画化。主演に岸井ゆきの、出演に浜辺美波を迎え、実写映像にアニメーションを加えた幻想的な世界をスクリーンに宿す。

(インタビュー・文/高畠正人 Photo/植田真紗美)

 2011年3月11日。真奈の親友・すみれは突然いなくなる。“海に行く”と言い残して――。彩瀬まるさんの小説を読んだ中川監督は、自分がこの作品を撮る必然性を感じたという。

「原作と出会ったのは『静かな雨』が完成した次の日。プロデューサーの和田(丈嗣)さんから“この小説を映画化しませんか?”と紹介されたのがきっかけです。自分自身、大学時代に震災を経験し、大学生活と震災が繋がっていることもあり、自分にとっての集大成的な作品として表現したいという気持ちになりました」

 岸井ゆきのさん演じる真奈と浜辺美波さん演じるすみれの物語。テーマは“喪失と再生”だが、中川監督はふたりのラブストーリーとして描きたかったと語る。特にふたりの出会いのシーン。大学のキャンパスで真奈が地面に落ちているネコのポーチを拾い上げるシーンは印象的だ。

「真奈は遠くは見えないけど、足元はしっかり見えている女性で、すみれは足元は見えないけど、遠くは見える。お互いを補うことでひとつの存在でいる素敵な関係。だけど、すみれは突然いなくなってしまいます。それ以来、真奈は自分の足りないことも受け入れて生きていかなければいけなくなる。そこから、どう生きていくのか? その葛藤を描いた作品です」

 真奈とすみれは共にいることが当然で、ふたりの距離感やバランスは重要。だが、中川監督が岸井ゆきのさんと浜辺美波さんをキャスティングした理由は明快だった。

「真奈はすごく生命力が必要な役だと思っていました。自分に自信はないんだけど、深い部分でパワーがあってどんな境遇でも生きていける人。それを今、演じられるのは岸井ゆきのさんだろうと。そして、すみれのそこにいるようでいない存在感を出せる人は誰だろうと思い浮かんだのが浜辺美波さんでした。ふたりとも話し合いながら作ることができる方たちだったので、それはすごくいい時間でした」

 本作でもっとも驚かされるのは、すみれが体験したであろう世界をアニメーションで表現していること。手掛けるのは『進撃の巨人』などを制作するWIT STUDIOで、監督は『とつくにの少女』の久保雄太郎さんと米谷聡美さんだ。

「すみれ側から見た世界。つまり、すみれ自身が波に飲み込まれていくなかで感じる時間を実写で表現するのは難しい。生と死が混じり合う瞬間はある種、アニメだからこそ表現できるのではないかと思い取り入れてみました」

 実写とアニメーション。作り方も違えば、制作過程も大きく違う。アニメーションパート作りは特別な方法でおこなわれた。

「すみれにどういうことが起きたか? どういうことがそのシーンで描かれるのかをまず“詩”で書きました。そこからおふたりにイメージボードを作ってもらって、そこにまた僕が意見を重ねてということを繰り返してアニメーションパートは作っていったので、実写の演出とは明確に違いましたね」

 物語の後半、真奈はすみれが最後に旅した場所へと向かう。東北でのシーンは原作にはないが、中川監督にとって東北でカメラを回すことは本作においてどうしても欠かせないことだった。

「原作者の彩瀬さん自身は被災されているので、真奈が東北に行かなくても読者には伝わります。だけど僕は直接ダメージのあるカタチで被災はしていません。やっぱり作品のなかでしっかり震災と向き合う必要があるんじゃないかと。物語としても、すみれがいなくなった場所で真奈は海と対峙する必要があると思いました。現地の方がお話してくださるシーンは僕がカメラを回しているのですが、いちばん緊張しました。喪失体験が今を生きている人たちに凄く影響を与えている。それはこの話の根幹なので、必要なシーンだったのです」

 真奈は一歩を踏み出したことですみれの不在と向きあっていく。中川監督が当初、用意した台本にはセリフが書かれていなかったシーンもある。映画を作りながらセリフを作っていく中川監督ならではの演出だ。

「最後のシーンは、撮りながら考えていきたいという気持ちがあったので、岸井さんと撮影の3日くらい前から話し合いをして作っていきました。決して暗い話ではないので、ラブストーリーとして見てもらいたいなと思っています」

映画『やがて海へと届く』作品情報

映画『やがて海へと届く』について

「ちょっと海を見に」と言葉を残し、突然いなくなった親友・すみれ(浜辺美波)。彼女との想い出と、親友がいなくなった理由を探す旅に出る主人公の真奈(岸井ゆきの)が重なり合う映像で綴られる。すみれを見つめながら一筋の涙を流す真奈。「わたしたちには世界の片面しか見えてないと思うんだよね」と語るすみれのミステリアスな言葉の意味とはー?

映画『やがて海へと届く』ストーリー

親友がいなくなって5年。
忘れたくない思い出と、知らなかった親友の秘密― 私は、本当の彼女を探す旅に出る。

引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈は、自由奔放でミステリアスなすみれと出会い親友になる。しかし、すみれは一人旅に出たまま突然いなくなってし まう。あれから5年―真奈はすみれの不在をいまだ受け入れられず、彼女を亡き者として扱う周囲に反発を感じていた。ある日、真奈はすみれのかつての恋 人・遠野から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには、真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた...。真奈は もう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう。

  • 監督・脚本:中川龍太郎
  • 原作:彩瀬まる
  • アニメーション:久保雄太郎、米谷聡美
  • 脚本:梅原英司
  • プロデューサー:小川真司、伊藤整
  • キャスト:岸井ゆきの、浜辺美波、杉野遥亮、中崎敏、鶴田真由、中嶋朋子、新谷ゆづみ、光石研

原作小説はこちら

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価格(税込) : ¥704

発行年月: 2019年02月

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