―― この商品を企画されたきっけについて教えてください。
田中フミヤ: 2年くらい前だったと思うんですけど、自分がブログに「フロアーにレコードが選ばれる」というようなことを書いたことがあったんですよ。でもある人からは「自分はフミヤさんのかけてたレコードとは違うものがかかるべきだと思った」というような内容のことを言われたことがあって、それならプレイ中に考えていることを言葉にしてみることで、何かしらそこの認知の差を埋めれる、きっかけになるひとつのトリガーをひけることができるんやないかなっていうようなことをブログで書いたのが最初ですね。企画当初はミックスCDにつけるおまけというかノベルティーみたいなものとして始まっていったんですけど、やっていく中で、これをきちっとした形で映像作品としても成立させることが、DJやテクノの広がりを表現できるひとつの姿なんやないかっていうところに、やっていく中でも導かれていって、作品として形つくっていきました。
―― 作品の中で特に【低音】といったキーワードが多く出てきていましたが、フミヤさんがDJプレイするにあたり、ポイントとなる部分ということでしょうか?
田中フミヤ: そうですね。このプロジェクトを進めてみて、実際にレコーディングしたDJ中の言葉を自分で聞き直してみても【低音】とか【展開】といった言葉が多いなって改めて思いましたね。これは僕がDJをするうえで大切にしているところですし、言い換えればテクノの重要な部分だと思います。ただそういった音楽的な事だけではなくて、クラブの現場ではお客さんや照明や、その時の雰囲気だったりというような安定することのないたくさんの要素のなかで「いま何がかかるべきレコードなのか」っていうようなことは常に変化していくので、それら全ての情報を総合的に判断して、自分なりにその都度「何をプレイするのがベストなのか」ということをひたすら模索し続けてプレイしています。
―― この『via』はかつて無かった画期的な試みの作品だと思うのですが、実際にプロジェクトを進めてみて、苦労された点などありますか?
田中フミヤ: これは制作過程の中でスタッフともいろいろと話し合っていたんですけど、自分が持ってるアイデアを、どう映像作品として具体的な形で成立させていくかってところは苦労しましたね。オリジナルアルバムやミックスCDとは違って、これ自体映像作品として成立させたいというところは前提としてあって、もともとのアイデアを映像作品として変換し直す作業にそれなりに 時間がかかりました。一時期、アイデアを変換していく作業の中で、映像やコメントにより広がりを持たせたいと思って、より説明したり、より内容を事細かに広げていくっていう「説明していく」方向に向かっていった時期があったんですけど、その作業の中で、スタッフととことんまで作業を突き詰めていった結果、音楽って変に意味付けしたり、それが個別で美的意識を持つものでもないし、見たり聞いたりした人それぞれによって、ものすごい価値を持つ物であったり、そうでなかったりするものであるっていう、音楽がもつ基本的な最初の出発点にふと立ち戻れた時間があって、その時点でこの作品が転がっていくべき方向が決まっていったというか、広がりのあるものとして成立させたい時に、より説明したり、より内容を事細かに広げていくっていう方向ではなくて、直接的な言葉そのまま、シンプルにそのままを形にすることが、自然じゃないかって、見た人の誤解も含めたいろんな見方で、最終的に広がりを持たせられるんやないかって、あえて多くの説明を必要としない「説明していかない」方向に向かっていったときに一気に作品としてまとまっていった流れでした。
―― 見ている人にはどんな風に楽しんでもらいたいですか?
田中フミヤ: 僕としては、シンプルに見たままを楽しんでもらえればと思っています。リラックスして見てほしいですね。僕らが考えるテクノの楽しみかたっていう要素はこのDVDの中に含まれていると思うけど、見る人によったらいろんな角度から音楽的に分析できるのかもしれないし、また違う人がみたらDJの『How Toもの』のようなものにも見れるかもしれない、いろんな見方があっていいと思うし、それぞれが思うように見てもらえればいいと思う。音楽ってもっといろいろな表現手段や、視点があっていいと思うし、いろんな勘違いも含めて、それが音楽のダイナミックさやと思うから、そういった意味でも見せられるカメラアングルや、画像カット、喋ってることなど、生のまんまでほとんどの情報を曝け出してるので、そこにはたくさんの情報があると思うし、個別の解釈や見方でいいと思う。隠すものなんてないし、喋ってるところだけでなく、むしろ喋ってないところにもたくさんのヒントや仕掛けがあるし、そういうところも見てくれたらと思います。見てくれた人からどんな感想が出てくるのか、単純に興味あるし、見た人が僕の喋ってるものまねをやってる人もいるっていう話も聞きました。
―― この『via』に先だってリリースされたミックスCD『mur mur – conversation mix』はこの『via』の中の一部が収録されているんですよね。
田中フミヤ: 『mur mur / conversation mix』は今年3月24日の西麻布YELLOWでのカオスでのDJプレイの一部を切り取ったものです。この日は平行して『via』の映像撮影もやっていて、『via』の内容を成立させるというのがまず優先してありました。『via』として成立させられる内容のものを、この日は撮影当日に撮れたのではないかっていう判断がDJの直後にスタッフからあって、それが成立してる時点で必然的にこの日のDJの中からミックスCDになるものが出てくるという流れでした。『via』ではプレイ中のしゃべりの部分にフォーカスをして編集をし、それを凝縮した形でまとめていったので、その音も含めたところで映像として成立させていく内容になってるんですが、『mur mur / conversation mix』に関しては、当日の時間のながれ、プレイのながれ、お客さんの変化あるリアクションなど、鳴ってる音を通じていろんなことをイメージしたり、音そのものを自然に楽しんでもらえるように、当日のお客さんのリアクションの音量を多くいれたり、現場の臨場感がより伝わるような内容にしています。
―― 『via』もDVDとミックスCDとの2枚組になっていますが、このミックスCDはどのようにして制作されたのですか?
田中フミヤ: 『via』に同梱されているミックスCDはDVDの中でミックスしている曲だったり、自分の新曲だったりというようなものを曲単位というよりはキックやハイハットなどパーツごとに一度分解して、構築しなおしたものになっています。スタジオミックスですね。作業の中で、それぞれを分解して構築し直している作業をしてたんですけど、それぞれのパーツが予想を超えてかなり多くなってしまって、それをひとまとめに構築しなおす作業は思ったより時間がかかって、作業として単純に大変でした(笑)。『via』のサウンドトラックのようなイメージで捉えてもらえるといいと思うんですけど、ライブ・ミックスCDとはまったく別の方法で、ミックスCDを作ってみたかったところで、このスタジオミックスCDは成立させたいなと。『via』で喋ってること、『低音のグルーヴをキープ』というようなことをスタジオワークで成立させるという。
―― こういったタイプの作品を今後もリリースするようなことは考えていますか?
田中フミヤ: 今回の作業をやってみて、おもしろかったし、いろいろな改善点やもっとこんなふうにもできるっていうようなアイデアはまた出てきたんですけど、またやってみたいっていうようなことをスタッフに言うと何も返事はなくて(笑)、二度とやりたくないって思ってるんかな。次はカラフトでやろうなんて冗談を言ってます(笑)。
―― では最近お気に入りのアルバムを紹介して頂けますか?
田中フミヤ: Melchior Productions LTD 『No Disco Future』、Bruno Pronsato 『Why Can't We Be Like Us(Hello Repeat)、Ricardo Villalobos 『FABRIC 36』ですね。
―― 今後のスケジュールについて教えてください。
田中フミヤ: 半野喜弘さんとのプロジェクト、Dartriixのアルバムがop.discより11月10日にリリースされます。レギュラー・パーティー「CHAOS」は大阪SUNSUI、東京YELLOWでやってます。その次の「CHOAS」では『via』リリースパーティーということで12月21日大阪SUNSUI、12月22日東京YELLOWでひとりでロングプレイをやります。あとは来年から新しいレーベルを始める予定。オリジナルアルバムも制作中です。詳しいことはホームページ
www.fumiyatanaka.comでチェックできます。
―― ありがとうございました!