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2008年7月11日 (金)
連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第4回
「黄昏ショスタコ&鮮烈プーランク」
ショスタコーヴィチといえば、過剰なまでにヒリヒリした音楽。ショスタコ好きは真性のマゾヒストだ、などといわれたものだが(わたしが勝手に言っていただけかもしれない)、最近ではヒリヒリしないショスタコーヴィチ演奏だって少なくない。
ダニエル・ミューラー=ショットのチェロ、ヤコフ・クライツベルクがバイエルン放送響を振って録音したこの演奏も、確実に非ヒリヒリ系である。ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲といえば、ロストロポーヴィッチとスヴェトラーノフによる、ヒリヒリどころか、傷口に塩塗りたくって、オホーツクの寒風にさらしてしまったような、壮絶極まる演奏を大喜びで聴いて育ったわたしとしては、まことに穏やかでたおやかな演奏なのである。
だから、つまらない、ということでは決してない。それどころか、マゾヒストとしては三流のわたくしめにとっては、これが最高に心地よい音楽なのである。まず、ミューラー=ショットのチェロの、黄昏を感じさせる音色がすばらしい。決してゴリゴリと濁らせず、一つひとつのフレーズを柔らかに歌い上げる。
クライツベルクの木管の扱いはかなりユニークだ。まるでマーラーを思わせるかのような、クラリネットの突出もあるが、その音色表現では世界一のバイエルン放送響。ソリストとオーケストラとの絡みは官能的ですらある。ベラボーに優美でアダルトなショスタコーヴィチなのである。
とくに、第2番の丹念な演奏には、正直驚かされた。漆黒ではなく、黄昏の空気がたちこめる。少なくとも、この曲がこれほどまでに複雑なニュアンスをもって演奏された例はないはず。最終楽章は美しすぎて、聴いていると自ずと視線が遠くなる。うん、おいらもこういう演奏を聴いて育ってみたかったよ、おっかさん。
オルフェオの新譜からもう一枚。今度はガラっと雰囲気が異なる。アラベラ・美歩・シュタインバッハーのヴァイオリンとロベルト・クーレックのピアノによるフレンチ・アルバムだ。シュタインバッハーは、ミューラー=ショットのチェロとはまったく正反対、キリキリと突き上げるようなソリッドな音楽が持ち味。ムターを思わせる、キョーレツな表現力を持ったヴァイオリニストでもある(ちなみに、ミューラー=ショットもシュタインバッハーも、ムターと縁の深い演奏者だ)。
プーランクのソナタがいい。このソナタ、これまではリリカルに弾かれすぎていたと思う。しかも、まんべんなくリリカルさを漂わせるため、全体としては茫洋な印象が拭えなかった。しかし、シュタインバッハーは、目を剥かんばかりの鮮やかなコントラストで、スパイスをガツンと効かせまくった新古典主義的フォルムをそこに実現させる。鮮やか。これぞ、プーランクじゃよ。
必要と判断すれば、汚い音を出すのも少しも躊躇せず、果敢に攻めまくるシュタインバッハー。メニューインあたりのノドカな演奏を聴き慣れた耳には、第3楽章の異様な世界は、ちょっとしたショックだろう。
そんな彼女の奔放なヴァイオリンを支えるのは、クーレックの柔軟なピアノだ。一緒に高揚したかと思えば、一方では俯瞰した立場からの包容力も発揮、その絶妙なバランスがすばらしいアンサンブルを生む。
ラヴェルのソナタとツィガーヌは、そんなアンサンブルの妙が際立っている。ただ、フォーレの場合、彼女の威勢の良い奏法だと、ちょっとやり過ぎなのではなかろーか感が勝ってしまう。作品の優美な流れが消されてしまうので、点描音楽の気配も。「フォーレなんて甘ったるくて」という人には喜ばれること間違いなし。
(すずき あつふみ 売文業)
評論家エッセイ情報
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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