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2009年4月8日 (水)
連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第10回
「草食系ブルックナーと肉食系ブラームス」
拙著『愛と妄想のクラシック』が出たとき、ある若い男性から「鈴木さんって、遊び人だったんですね」と言われたのはショックだった。書物というものは、そうした多様な解釈を許容するものだとはいえ、現実のあたくしは、つねに受動的な「遊ばれ人」に過ぎず、どちらかといえば、草食系男子により近い存在なのではと自己評価を与えていたからだ。まあ、目標とするのは、食虫植物系なんだけれどもさ(なんのことやら)。
しかし、こちらのほうは、間違いなく草食系である。今回リリースされたへレヴェッへ指揮ブルックナーの交響曲第5番だ。
ヘレヴェッへの振ったブルックナーの交響曲は、第4番と第7番がすでに出ているのだけれど、こちらはわたしはイマイチ楽しめなかった。もともとこれらの曲が、「歌を優先してしまう」ヘレヴェッへの流儀に適っていたせいもあって、目新しさを感じなかったということもある。
しかし、今回は第5番。ブルックナーのゴツゴツした音楽が堪能できる作品だ。特徴的なそれぞれの主題が、強引な手つきで併置される不格好さに惚れ惚れしてしまう曲なのである。
もちろん、ヘレヴェッへはそんな作品でも、極めて滑らかにそれぞれの主題のあいだを繋ぐ。そして、ピリオド楽器特有の、しなやかで、瑞々しい響き。こう書くだけで、コアなブルックナー・ファンはげんなりしてしまうかもしれないが。
ヘレヴェッへの解釈が面白いのは、旋律を重視し、流れるような音楽を作り出しているのに、オーケストラのバランスは、妙に階層化されていて、曖昧な響きを作り出さないところにある。つまり、横軸はアナログなのだけれど、縦軸は思いっきりデジタル思考なのである。
だから、ドロドロの歌謡音楽になることもなければ、縦線がピシッと決まることもない。なにせ、この二つは、いわば「オトコの幻想」みたいなもの。ヘレヴェッへは、そうした幻想から抜け出し、もっとユルやかな美を求めるというわけだ。
そのような草食系美は、第4楽章で最大限に発揮される。この楽章、冒頭からブルックナーはマトメにかかるぞ、総括しちゃうぞ、と意気込んでいる。ヘレヴェッへは、その意気込みをいなすかのように、流麗に音楽を進めていく。第2主題のヴァイオリンの対抗配置から生まれる旋律の掛け合いが、まことに眩しい。
展開部は、必要以上にのたうち回るのことなく晴朗な印象だし、コーダに繋がるあの輝かしいクライマックスも、過度に金管を強調することだってなく、爽やかな印象のうちに締めくくる。植物が胞子をまき散らしているかのような、鮮やかさで。
一方、肉食を思わせるような鋭い緊迫感を伴って聴かせるのは、アルカント四重奏団のブラームス。バルトーク以来の待望の新譜だ。
チェロのケラス、ヴィオラのツィンマーマンなど、ソリストとして活躍中の奏者が、それぞれ自分の個性を十二分に発揮しているのに、全体の音楽として恐ろしく調和している。個人技だけで、押しまくれるだけのメンバーなのに、それに徹することもなく、さらに、その勢いを殺すこともなく、一つの音楽を作り上げる。サッカーでいえば、中盤がどんどんパス交換しながら、ラインを押し上げ、ゴール前に次々に飛び込んでくるスタイル。
活力みなぎるフレージングと柔軟なアゴーギグで、圧巻というべき起伏感。このスキの無さ、まさに肉食系。
(すずき あつふみ 売文業)
評論家エッセイ情報
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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輸入盤
交響曲第5番 ヘレヴェッヘ&シャンゼリゼ管
ブルックナー (1824-1896)
価格(税込) :
¥3,457
会員価格(税込) :
¥3,009
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販売終了
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輸入盤
弦楽四重奏曲第1番、ピアノ五重奏曲 アルカント四重奏団、アーヴェンハウス
ブラームス(1833-1897)
価格(税込) :
¥3,399
会員価格(税込) :
¥3,127
-
販売終了
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