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2009年5月11日 (月)

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第11回

「アーノンクールの過激な原点」

 毎度毎度聴き切れないほどの録音てんこ盛りでセット発売する、コンセルトヘボウのアンソロジー。第五弾は1980年代篇で、以前のものと比べると、多少ラインナップが地味な印象もあるけれど、アルゲリッチのベートーヴェンの協奏曲、コンドラシンのラフマニノフ、ジュリーニのウェーベルンなど、なかなか興味深いものも入っている。

 そのなかでも、まあやはり、というべきか、とりわけ衝撃的だったのが、アーノンクールが指揮したベートーヴェンの交響曲第3番なのだった。
 前衛音楽。そんな言葉がピッタリ来ちまう、やたらにトンガったベートーヴェンだ。1988年の録音だというから、アーノンクールのベートーヴェンとしては最初期の演奏ということになろう。
 とにかく激しいアクセント。最近では、アクセントだけが強いシンプルな古楽器演奏も少なくないが、さすが本家本元のアーノンクールは一味も二味も違う。第1楽章展開部では、聴く者を威嚇せんばかりにドぎつい和音を意図的に作り出したかと思えば、突然の弦楽器にテヌートを指示するといった目まぐるしさ。そして、二つのヴァイオリン・パートが主題を掛け合い、そこにホルンの合奏が絶妙に重なり、次にトランペットの信号音が強烈なクレッシェンドで入ってくるコーダの大胆極まりないバランス感覚。

 後年のヨーロッパ室内管との録音の解釈と大きな違いはないのだけれど、体感的ドぎつさでいえば、このコンセルトヘボウ盤、かなり強力なのである。たとえば、弦楽合奏のなかから木管が明瞭に浮き出てくるのは、ヨーロッパ室内管のときよりも際立って聴こえるといったように。
 それゆえ、第二楽章は、木管のソロが雄弁に聴こえてくる。そして、金管によるかなりキツめのアーティキュレーション。さらに激しいデュナーミクが駆使されるので、まあ、とにかくやかましいアダージョであることは確かである。嫌いな人がゲッソリする顔が浮かぶようだ。
 ともあれ、アイディア満載のベートーヴェン。その瑞々しいリズム処理は絶品といっていいだろう。

 アーノンクールといえば、以前は新譜が出るたびにケチョンケチョンに酷評されたものだったが(重度のファンになると、こういう評が実に爽快になってしまうのだ)、最近ではすでに彼も巨匠扱いで、出れば推薦盤みたいないささか退屈な状況になってしまっている。彼の音楽は相変わらず、えげつないくらい鋭いままななのだけれど、録音のほうが巨匠風のアダルトな音質にシフトされてしまったようで、多少の寂しさを感じることもある。そんなときにゃ、アーノンクールの原点の一つともいえる、このビックリ演奏を聴いて、彼ならではの過激さを再認識してみるのもいい。
 現在でも留まることを知らないアーノンクールなのだけれど、今夏のシュティリアルテ音楽祭で挑戦する演目は、ガーシュインの《ポーギーとベス》という、またもや意表を突くレパートリー。同じ音楽祭で、ヘンデルのテ・デウムと《イェフタ》も指揮してしまう組み合わせが妙だけど(そしてそれが妙にならないのが、彼のガーシュイン解釈なのだろう)。昨年はストラヴィンスキーの《放蕩者のなりゆき》公演を成功させたし(体調不良で一部キャンセル報道があったときはドキリとさせられたが)、来年には再び来日するという噂さえ聞こえてきた。

(すずき あつふみ 売文業) 


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