前田日明インタビュー 〜不良達ヨ、覚醒セヨ!!〜 part1
2009年6月23日 (火)
若い人を発掘するシステムが凄い −はじめに、今大会開催の経緯について、お話し頂けますでしょうか? 闘技業界に32年居て、選手をやっている頃から、選手の育成を日本海外問わずやっていたんですよ。 ここへきて、年末特番をやれるような状況まできて、格闘技ブームになってきてるとは思うんですけどね。 長期のスパンでみると、格闘技業界っていうのは、基盤が弱いんですよ。 相撲とか野球はなんだかんだいって続いていくじゃないですか。 相撲業界も、一時期、大麻問題とか、日本人の衰退で観客が減ったりしていたんですけど、 やっぱりそういう事が続いていっても、基盤があるから続いていくんですよ。 アマチュアの組織が、野球然り、しっかりしているという事、 相撲っていうのは、若い人を発掘するっていうシステムが凄いですよね。 現役時代に膝のリハビリで、群馬にあるスポーツリハビリ施設の温泉病院っていう所へ行ったんですけど、 そこに、のちの関脇力士が17〜18歳で来たんですよ。 スポーツリハビリ専門のところなんで、 リハビリが終わった後にシコを二千回、鉄砲三千回、誰にも言われずにやっているんですよ。 君は、どうやって相撲業界に入ったの?って聞いたら、五島列島の出身で、秋に神社でやる奉納の相撲で、 何連勝かした時に、今の部屋の後援会の人に誘われて入ったと。 そういうのがすごくて、日本全国に後援会ってのが散らばっていて、若い人を発掘するっていうね。 更生プログラム一環として、格闘技を教える 海外のアマチュアっていうか、セミプロの人たちはですね、大小さまざまな試合が開催されるんですよ。 こういう時代なんで、安いチケットと会場代で、手軽にイベントができるし、 なにせ門戸が広いもんで、そういうことができるんですよね。 ちょっと格闘技をやっていて、自分の腕試しをしたいっていう連中や、 総合格闘技でチャンピオンになりたいっていう奴なんかもバンバン入ってくる。 その中で、素晴らしい才能を発揮させてあげられる。 海外では、もう一つのルートがあって、それは、刑務所、少年院というところですね。 更生プログラム一環として、格闘技を教えるんですよ。 ボクシングをやったり、レスリングをやったり。総合格闘技もあるんですけどね。 その中に、よもやという逸材が現れることが、すごく多いんですよ。 日本の場合、刑務所の事情は、体を動かすのは30分間だけ。 どういう運動かと言うと、走ったりとか、散歩みたいに刑務所の中を周ったりとか、運動場で野球やったりとか。 プログラムとして格闘技教えるっていうのは、とんでもないっていう話で。 一人も漏らさずに救い上げて、ちゃんとした方向に引っ張っていく 日本社会の風潮はですね、若者の犯罪者に対して、なんかちょっとね...。 凶悪犯罪については、自分も懲罰は仕方ないと思うんですけど、まぁ、それは当然だと思うんですよ。 昭和30、40年代でも、凶悪犯罪に関しては一般刑法で、 少年法の範疇を越えて、裁かれている犯例は、いっぱいあるんですよ。 敢えて「少年保護法」をどうこうするっていう以前の問題で、そういう認識が全般にあったんですけど。 18歳以上は、みんな成人にしちゃえばいいじゃないか、という意見もありますが、 どういうことかっていうと、18歳で何らかの軽犯罪をやったとして、もちろん悪いんですが、 それは、刑法適用で罪として、最初は執行猶予がつくかもしれないけど、前科一犯ですよね。 で、世間が犯罪者に寛容になったと言われていても、前科一犯になると、どこの会社に入ろうと、 問題があって調べられたら、すぐわかりますよね。 もっと厳しい会社だと、入る前に身辺調査をするんです。もうそこで終わりですよ。 そういった意味でね、社会全体が冷たくなってる。 なんか、少子化少子化って言われていて、若い人が少なくなってるっていわれる割には...。 一人も漏らさずに救い上げて、ちゃんとした方向に引っ張っていこう!っていう、社会の意識が弱いですよ。 華があるとか、カリスマ性があるっていうのは、教えられない そういうことを考えている時に、北九州で天下一武闘会っていう大会があってね、 北九州全般や、山口辺りのやんちゃな奴が出てきて、総合格闘技ルールと、K1ルールでやり合ってる。 ちゃんとルール守ってやっているんですよ。 まぁ、たまにリング上でちょっともめることがあっても、すぐに、ちゃんと治まる。 それがすっごく面白かったんですよ。 レベル的に、町の喧嘩の延長戦のやつとかですね、 ちょっと磨いたらプロになれるなっていうやつが結構居るんですよ。 でね、特に自分がショックだったのは、プロの世界っていうところは難しいところでですね、 実力だけあったら人気が出るとか、チケットを買ってくれるとか、っていうとそうではない。 実力、プラス華やかさ、カリスマ性、ていうのが無いとダメなんですよね。 華があるとか、カリスマ性があるっていうのは、教えられないんですよ。 その大会を観て驚いたのはね、第一試合で町の喧嘩の延長線上にいるような奴でも、 華やかさとかカリスマ性を持っているんですよ。で、素質のレベルがすごい高いんですよ。 北九州辺りで喧嘩しかやってないような子もいるし、ちょっと習い事でやっているような子もいるし、 まぁ、それを差し引いたとしても、このレベルでこういう技術持ってるの!?みたいなね。 北九州天下一武闘会を観ながら、「ローレベルだし、もう終わるんだなー」と思っていると、 いきなり、難しいテクニックが出たりするんですよ!凄く驚きでした。 パンチ打撃でも、ちゃんとカウンターを意識して当てられる子がいて。 いやー、ホントにびっくりしましたね。 自分が、矢吹ジョーや力石徹を捜す スポーツ興行を考えて、日本でやるなら、 日本で通用する実力に加えて、カリスマ性と華を持ったスター選手がいなけりゃ、ダメなんですよ。 ロシアだったら、ロシア人、アメリカだったらアメリカ人、そういうスターがいないとダメ。 日本人の層ってのはすっごい薄いんですよ。 だからまぁ、このアウタサイダーをやることによって、自分が、あしたのジョーの矢吹ジョーや力石徹を捜そうと。 まあ、腕試しで来たとしても、勝ったり負けたりしますよね。 そうやっていくには、努力が必要ですよ。 人間っていうのは、一番大事な素質っていうのは、 努力しなきゃいけないときに努力できるかどうかっていうのが一番大事なところですよ。 それが自然に身に付くことによって、彼らのまぁプロになるならないに関わらず、 今後の人生において、何かのきっかけになってくれればいいなあ、と。 −大会を開催したことによって、社会的反応はいかがでしたか? 大体、好意的でしたよ。ただ、会場の関係者は、ナーバスですよ。 後楽園ホールに打診したら、「とんでもないから、とりあえず一年間は様子を見る」ということになりまして。 日本の格闘技界は、後楽園ホールがNO!って言うと何処もダメで、それが基準になってますから。 不良を集めた大会をやっている中で、たまたまクローズっていう映画のプロデューサーが来てね、コラボできないかって。 映画に出てる何人かやんちゃな子たちも出たりして、クローズが公開になって、 公開記念イベントで何かやりませんか?っていう話で、両国国技館で大会をやったと。 それが突破口となって、両国でやるっていうことになると、「あの両国が!?」という形で広がって...。 両国国技館っていうのは、すごく厳しいところなんでね。 普通は、後楽園ホールが基準になるんだけど、それとは別の核で、武道館と国技館の信用がある。 その後、後楽園側から使っていいよ、と言ってきたと。 紆余曲折あったものの、まあ、社会全体の反応は、好意的ですね。 今の不良は、ちゃんと話せばわかる −今、出ている選手の世代と、前田さん自身がその世代だった時の違いは、何か感じますか? そうですね、アウトサイダーに出てる子たちは、 全く喧嘩しないような子や、プロ目指してる子や、暴走族やってて更生したような子や、色々いるんです。 今の不良っていうのは、自分の世代のやんちゃな人たちと比べると、ちゃんと話せばわかりますよ。 コミュニケーションを図れば、解かる子たちなんですよ。 意地と意地がぶつかり合った、凄い試合 −これまでの大会で、印象深かった試合や注目の選手はいますか? 今までの大会で良かった試合は、プロの試合も含めて、日本人絡みの試合で、 吉永VS佐野です。 吉永VS佐野の試合は、この4、5年の中で、一番良い試合でしたね。 ベストバウトです。色んな意味で、すごく華があって。 アウトサイダーの会場で、試合が終わった後全員が拍手してね、スタンディングオベーションですよ。 ああいう試合は無いですねー。 やれヒーローズだ、ドリームスだ、って言ってますけども、これがナンバーワンですよ。 意地と意地がぶつかり合った、凄い試合でした。 −仲間が代表で出ていることに、誇りを感じるんですね。 現代、社会で人と人の繋がりが薄くなっているんですよ。 自分らの頃だったら、気にくわないことがあったら、言い合いすればいいじゃないかと。 それでもダメなら、殴り合いでもすればいいんじゃないか。それでスッキリして。 今は、全くそういうことを抜きに、気にくわないから無視だ、ムシムシムシ...ってやってるから、みんなバラバラになっちゃう。 人と人の繋がりという部分で、「俺が仇とってやる」とか、 別に不良じゃなくても、ほんの10年、20ほど前は、そういうのがありましたけどね。 現代は、殆ど聞かないですね。 「他人」という人間がたくさん必要 −人とのつながりが希薄になっていますよね。 現代は、自分が生きるのが精一杯で、人の事なんか構っちゃいられないよ、っていう。ヘンな世の中ですよね...。 あっしには関わりのねぇ事でござんすっていうね。全員が木枯らし紋次郎になっちゃったね。 だから、団塊の世代や、60年代の人たちから言ったら、 三無主義っていうのがあって、「無責任、無関心、無感動」、まったくそうなってるんですよ。 でも、一概に若い人だけの問題じゃ無いんですよ。大人が悪いんですよ。< 人間って、社会性のある動物で、自分を知るために「他人」が必要なんですよ。 「他人」という人間がたくさん必要なんですよ、本当に。 で、その相手が居ないと、自分が分からなくて、自分を失っちゃう。 それを越しすぎると、凶悪犯罪を起こしたりとか、変な風に向かっていく。 今の教育や社会を見ても、関わらないほうがいいっていうね。 教師の暴力事件があったと、何事かと思って読んでみると、 クラスで大騒ぎしている奴を廊下に立たせて、それをPTAに密告した人がいて、 それを教育委員会に言って、教師がクビになったり、おかしな事がいっぱいあるんですよ。 自分たちが小学校5年くらいの時は、戦争から帰ってきた大人が30代後半〜40代で、 宿題を忘れただけでで往復ビンタですよ、バンバン!って。 でも、ちゃんと怒った後に、なんで怒ったのかっていうことをちゃんと言いますし、それを引きずらないんですよ。 なにかあったら正面から受け止めてくれるし。 若い頃は反抗期っていうのがあって、理解できたとしても、聞かない 自分は第二次ベビーブームの頃なんですよ。 中学校の1学年で15クラス位あって、小学校でも10クラス位ありましたし、で、1学級が45〜50人ですよ。 今なんて、20何人でしょ?多分、そういう子供たちを先生一人がみるっていうのは、大変ですよ。 昔は先生なんてピシッとこなした上で、生徒と遊んでましたからね。 自分の小学校の先生なんかは兼業農家の人で、 夏休みになったら、クラスの子を自分の家へ呼んで3、4泊まらせて、スイカの収穫とか手伝わせるんですよ。 で、みんなでスイカ食べたり、川に連れて行ってもらったり。そういうことを普通にやってましたからねー。 現代は、「教育委員会に訴えてやるからな、やれるもんならやってみろ」と、そんなことを言うガキまでいるらしくてね...。 体罰がダメっていうのは、違うと思うんですよね。 まあ、40歳位までの人は、体罰っていうのが普通にあったと思うんですけど、 その体罰を受けてトラウマになったりおかしくなったりした人がいますか? それとは逆に、今の教育の中で、なんらかのトラウマを持ったり、精神的におかしくなったり...。 若い頃は反抗期っていうのがあって、理解できたとしても、聞かないんですよ。 子供でもそうでしょ?うちの子供も2歳なんですけど、2歳、3歳で最初の反抗期っていうのは来るんですけど、 こっちが何か言っても、聞かないんですよ。 それでもおしりぴんぴんってやったら、ちゃんと聞きますからね。 放任主義ってのは無責任なものです。ダメですよ、放任主義は。 自分が若い頃の大人っていうのは、ほんとにストーカーのように、「あれはダメ、これはダメ」と言いまくってましたよ。 で、当時はまぁほんとに小うるさい大人だなぁと、 歳をとってみると、なんか、「あれって愛情がある行動だったんだな」と、そう思えるんですよね。 子供を育てるプロセスが歪んできた 海外の教育がどうかって言うと、例えばイギリスだと、ムチでピシーっとやりますよ。 韓国あたりでも、正座させたり、裸足にさせて足の裏を棒で叩くとかっていうのはありますね。 まあ...行き過ぎたり、怪我なんてさせたらとんでもないけど。ある程度は認めてやるべきですよね。 毎年、成人式で大騒ぎしてるけど、自分が20歳の頃に成人式でそんなことをしたら、 多分、場内の警備や関係者につまみ出されて、頬っぺたを2、3発張られて終わりですよ。 現代は、簡単に終わるような事でいちいち警察を呼んで、おおごとにして...。やる事が大人気ないんですよ。 小学校、中学校でも喧嘩して怪我させられたって言ったら、すぐに警察呼びますもんね。びっくりしますよね。 男子校でもね、昔だったら、しょっちゅう喧嘩があったけどね。全然喧嘩もやらないんですよね。 1人の標的を見つけて、無視してイジメるっていうね。いい年した男が、そういうことしか出来ないんですよ。 他には、会社の中でもイジメがあると言われていますが、昔だったら信じられないですよ。 そんな子供っぽい事はやらなかった。大人に成りきれていないっていうね。 なんでそうなるかって言うと、大人が関わらないんですよ。子供の生活の中に、感情の中にね。 大人が子供の感情の中に関わらないし、大人の感情が通ってこないから、大人っていう自覚が無いままなんですね。 だから、いつまでも子供のままで居ちゃう。 子供を育てるプロセスってのが歪んできた。やれ人権だとか、頭でっかちな主張がね。 −大会の中では、仲間意識というか、そういったところの強い繋がりがありますね。 交わりとか絆が深いよね。 上下関係がある社会では、下は上を立てて、上は下を育てるっていう、そういうのがちゃんとありますよ。 もちろん、一匹狼でやんちゃやってる奴もいますけど、そういう奴だって、向き合えば、ちゃんと話せますからね。 負けた時にどう踏ん張るか、諦めずに努力する姿を応援したい −今後のアウトサイダーの展望があれば、教えてください。 今回までは、65〜70kg位までのカテゴリーが一番応募者数が多かったんですね。 参加人数も多くて、そこからトーナメントをして、チャンピオンやランキング3位まで決めてやって、 今後、上下のクラスも人数が揃い次第、随時やっていこうかと。 そうやって進めながら、賞金も付けたりしていって、レベルアップしたらプロという道もね。 −では、アウトサイダーからプロの世界に入っていく選手も増えていくという事ですね? 今度、加藤がディープに出るけど、 プロでやる為に、もっとグラウンドの洗礼を懸けてやろうと思っていて、ちょっと早いかなと言う気もするんだけど...。 勝った時は良いけど、負けた時にどう踏ん張るか、諦めずに努力する姿を応援したいね。 あとは、本人次第でしょう。 【インタビュー第2弾へ続きます。】 |
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前田日明
1959年1月24日生まれ
リングス代表 ジ・アウトサイダー プロデューサー 2009年3月30日 第1回大会を開催 | |
ジ・アウトサイダー
「ジ・アウトサイダー」は、競技制のみを追求した普通のアマ大会とは異なり、日本中から「暴走族、チーマー、ギャングのリーダー、腕自慢」を集め、いわゆる「不良」の若者に格闘技を通じた更正の道を用意し、優秀な選手をDREAMやUFCといったメジャー団体を含めた大会にプロデュースさせることを目標にしている。 モデルとなったのは前田が北九州で見た、「天下一武道会」という不良や街の喧嘩屋によるアマチュア大会。「彼らの個性のぶつかり合いから、華やカリスマ性を感じた」と語る前田自身も、かつて大阪での学生時代、路上のケンカで腕を鳴らしていた。 | |
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