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2009年7月13日 (月)

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第13回

「豊満にして颯爽 ネシュリング&サンパウロ響のベートーヴェン」

 ネシュリング率いるサンパウロ交響楽団の来日公演が、特に話題になることもなく告知され、「こいつは僥倖」と勝手に胸を高鳴らせていたものの、突然、やはり特に話題になることもなく中止の憂き目にあった昨年。さらに、今年に入ってからは、ネシュリングがサンパウロ交響楽団の常任指揮者を解任されたという情報が入ってきて、これまた落胆。聞いた話によるとネシュリングが楽団のお偉方と喧嘩してクビになった、ということらしい。まあ、これもブラジルらしいというか、まるでサッカーのクラブみたい。後任がヤン・パスカル・トルトゥリエということなので、ちょっと期待はしているのだけど……。

 南米のオーケストラと言うと、「ちょっとゲテモノくさくない?」とか「熱いラテンの血が騒いだ演奏でしょ」みたいな反応が返ってくるのは悲しいことだ。ゲテモノといえば、わたしたちがよく耳にしている日本のオーケストラだって、その「無表情な装い」といい、「ペッタンコな音響」といい、その素質は十分にあるのだけど、それはさておき、南米のオーケストラがラテンの血が騒ぐような熱狂演奏をする、と決めつけてしまうのはちょっとコピーに踊らされすぎ、と思うことがある。
 もちろん、トップ・ギアに入ったときの彼らは、手のつけられないような熱狂を巻き起こすのだけど、そうでないときは、肩の力を抜いた、涼しげな、やけに美しい音楽になる。透明感があって、楽器バランスも独特だ。ドイツのオーケストラのように、ガッチリと低音から積み重ねるようなことはまるでない。
 ただ、指揮者のコントロールが効かないときは、もうヘナヘナにトロピカルというか、楽団員総シエスタ状態、ユルーい音楽を聴かせてくれる。そのユルささえ、また美しいのではあるけれど。


 ネシュリング指揮サンパウロ交響楽団のベートーヴェンが何枚かリリースされている。ブラジルのレーベルということだろうか、日本への供給が不安定なこともあって、かつては店で見つけたら即購入を心がけてきたが、最近はそうでもなくなったらしい。ただ、第九番はミンチュクが振った録音がすでにあり、第三番はなかなかリリースされないままネシュリングが楽団を離れてしまったので、全集には発展しない可能性が高いのがちと残念だ。
 手始めに聴くなら、第1番がいい。ゆったりとした序奏から、主部に切り替わる鮮やかさ。快速であるけれど、ピリオド系のようにメカニカルに飛ばすわけではない。音響も豊満だ。それでいて、引き締まったリズムに乗って颯爽と進んでいく。ネシュリングの情熱的な指揮のおかげなのか、オーケストラがヘナヘナにトロピカルになる瞬間もない。
 第5番も、最近では珍しい重厚感のある音楽。こういう演奏をヨーロッパのオーケストラがやっても、出来不出来は別として、もう時代がかった、アナクロまたはノスタルジックな印象から逃れられない(だって、オーケストラのほうが、古めかしい解釈だなあと思いながら奏でているのが伝わってくるのだもの)。しかし、サンパウロ交響楽団の場合は、そうした屈託さとは無縁のようだ。
 何よりも、全体から愉悦感が香り立っている。これが一番大事だといわんばかりに。最初に統制があるのではなく、様々なものが集まってそれが緊張を生むといった具合だ。法律があるから従うのではなく、必要になったから法律が作られる。かつては当たり前のことだったものが、ここではまだ当たり前のように行われている。

 南米のオーケストラからは、いにしえのヨーロッパの響きがする。たとえば、アルゼンチンのオーケストラが、SP録音でしか聴けない、戦前のヨーロッパのひなびた響きを感じさせてくれるように。このネシュリングの演奏も、ヴィヴラートは抑え気味だが、それは昨今のピリオド派の流儀というよりも、20世紀初頭のヴィヴラート大流行以前の時代を思わせる。
 この何でもない弦楽器のトリルが、痺れるほど美しいのは何故なのだろうと思いつつ、古き良きヨーロッパを聴くなら南米に行かねばのう、楽しいサッカーも堪能せねばのう、と決意を新たにするのであった。

(すずき あつふみ 売文業) 


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