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「ベルリン・フィル・ラウンジ」第2号:ベルリンの批評家は、ラトルのブラームスをどう聴いた? ベルリン・フィル・ラウンジへ戻る

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2009年8月29日 (土)

ドイツ銀行 ベルリン・フィル
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 ベルリン・フィル関係ニュース

エマニュエル・パユ(Fl)、マリー=ピエール・ラングラメ(Hp)に仏勲章授与
 エマニュエル・パユとマリー=ピエール・ラングラメに、フランス政府より芸術文化勲章が贈られた。6月5日の授与式(ベルリンの仏大使館)では、在独仏大使ベルトラン・ド・モンフェランが、両者のフランス音楽に対する貢献を称えている。式典には、この時期ベルリン・フィルに客演していたピエール・ブーレーズも臨席した(写真:Jérémie Jean / Französische Botschaft)。

『レコード芸術』が、デジタル・コンサートホールのフリー・チケットを読者全員にプレゼント
 『レコード芸術』9月号(8月20日発売)では、デジタル・コンサートホールの演奏会が1回鑑賞できるフリー・チケットを、読者全員にプレゼントします。ユーザー登録後、誌面に掲載されているコードを入力すると、ライヴまたはアーカイヴの映像が無料でご覧いただけます(おひとり様1回限り)。有効期間は8月20日から9月30日まで。

ベルリン・ムジークフェスト09開幕
 9月3日から21日まで、秋恒例のベルリン・ムジークフェストが開かれる。今年のテーマは「ショスタコーヴィチ・クセナキス・ハイドン」で、ショスタコーヴィチの交響曲が一斉上演される。機軸となるラトル&ベルリン・フィル(第4番&ハイドン《四季》)のほか、ハイティンク&シカゴ響(第15番)、ゲルギエフ&ロンドン響(第11番)、ヤンソンス&コンセルトヘボウ管(第10番)等が客演する予定。


 次回のデジタル・コンサートホール演奏会

ハイドン・イヤーのハイライト、ラトルの《四季》
(日本時間9月9〜10日の深夜)
 ラトルは、ハイドンほど心から惹かれる作曲家は少ないと語っている。若い頃、初めてハイドンの作品に接したとき、彼はこの作曲家にすぐに「惚れ込んでしまった」のだという。この出会いは、今日ラトルの演奏において、豊かな実りを見せていると言えるだろう。英レコード誌『グラモフォン』は、彼とベルリン・フィルのハイドン解釈(交響曲のCD)について、次のように記している。「“ベルリン・フィルのハイドン”と聞いて怪訝に思う人は、この録音を耳にして驚かされるに違いない。この重量級のオーケストラは、ここでピリオド・アンサンブルの軽い響きを無理に真似ることはしない。ラトルの指揮のもと、彼らは軽妙で敏速な足取りを見せ、強弱やニュアンスを実に繊細に表現してみせるのである。」同じようなアプローチは、今回の演奏会で取り上げられる《四季》についても言える。大きな広がりを持ち、朗らかな調子に満ちたこの作品は、すでに就任直後の2003年3月に取り上げられている。当時『ヴェルト』紙は、この演奏会をラトルのファースト・シーズンにおける「現時点までのベスト」と賞賛した。今回の上演には、当時ソロを担当したふたりの歌手、クリスティアーネ・エルツェ(S)とトーマス・クヴァストホフ(Br)が再び参加する。一方ジョン=マーク・エインズリー(T)は、この曲では初登場となる。

【演奏曲目】
ハイドン:オラトリオ《四季》

独唱:クリスティアーネ・エルツェ(S)
ジョン=マーク・エインズリー(T)
トーマス・クヴァストホフ(Br)
合唱:ベルリン放送合唱団(合唱指揮:サイモン・ハルシー)
指揮:サー・サイモン・ラトル


放送日時:9月10日(木)午前3時(日本時間・生中継)

この演奏会をデジタル・コンサートホールで聴く!

 アーティスト・インタビュー

グスターボ・ドゥダメル
3月5〜7日定期演奏会
ラフマニノフ:交響詩《死者の島》
ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲(独奏:ヴィクトリア・ムローヴァ)
プロコフィエフ:交響曲第5番
聞き手:エディクソン・ルイス(ベルリン・フィル、コントラバス奏者)

ルイス 「今日は私の友であり、音楽上の兄弟であるベネズエラ出身のグスターボ・ドゥダメルにインタビューします。彼は素晴らしい指揮者で、世界中、またベネズエラで大変な人気を博しています。私たちは今、フィルハーモニーのステージの上にいるところです。グスターヴォ、2度目のベルリン・フィル登場へようこそ」

ドゥダメル 「ありがとう」

ルイス 「ここは君にとって、家に居るようなものだよ。皆君のことが大好きなんだ。指揮者たち、つまりサイモン(・ラトル)やクラウディオ(・アバド)も君を慕っていて、とても敬意を払っている。賛美しているんだ。オーケストラは君に大変な親近感を抱いている。ここの雰囲気はとても暖かで、迎え入れるような雰囲気があるけれど、オーケストラは君が送ってくる音楽のエネルギーにとても感動しているんだ。これはそんなにあることではないと思う。もちろんハイティンクとか、偉大な指揮者から学ぶことはたくさんあるけれど、君と演奏することも素晴らしい体験なんだ」

ドゥダメル 「僕にとっても、たいへん光栄なことだよ。夢が現実になった感じだ。ある夢を抱いていると、いつそれが叶うかのと、いろいろ思い悩むものだよね。もちろん一生懸命勉強することは大事だけれど、一番大切なのは音楽そのものへの愛情を保ち続けることだと思う。僕たちふたりは、とても特殊なバックグラウンドを持っている。システマ(ベネズエラの音楽教育プログラム)でアブレウ先生に学び、シモン・ボリバール・オーケストラの仲間と育ってきた。青少年オーケストラという背景だけれど、それは僕たちに特別なエネルギーを与えてくれたと思う。そして今、僕はベルリン・フィルの前に立っている。もちろんこれは大きなチャレンジだけれど、それ以上に非常にエモーショナルな瞬間なんだ。素晴らしい才能を持った音楽家たちと一緒に演奏できるなんて。ベルリン・フィルのメンバーは、演奏をすべてを注ぎ込む。彼らにとっては、音楽は仕事ではなくて、人生の一部なんだ。(ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲では)ヴィクトリアはものすごいエネルギーで弾いてくる。すると彼女の気が伝わって、僕たちに波及する。それは時間をも超越するようなマジックに溢れている。そのマジックこそが、僕たちがオーケストラでやろうとしていることなんだ。音楽のエネルギーを受け合い、与え合うこと。指揮者は与えるだけではない。ボスのように突っ立っているだけではないんだ。音楽家同士のコミュニケーションを可能にする動脈のようなものであって、様々な方向から流れる血を響きによってまとめ上げるんだよ」

ルイス 「前回のコンサートが終わった後、何人かの仲間が“この曲は本当に難しかった!”と言ったんだ。“2日でマスターするのはたいへんだったよ”と」

ドゥダメル 「準備する期間が短かったんだね」

ルイス 「君がスコアを配って、2日後には完璧に弾かなければならない。でも皆、その曲を全然知らなかったんだ」

ドゥダメル 「でも出来は素晴らしかった。もちろん時には自己批判的であることも必要だけれど、あの日はオーケストラはチャレンジを受けて立って、一瞬のうちに難しいラテン・アメリカの作品をマスターした」

ルイス 「オーケストラとの関係には、最初から全然壁がなかったね」

ドゥダメル 「それは今ちょうど話していたことと関係する。リハーサルで生まれる音楽家同士のつながり、エネルギーのぶつかり合い……。指揮台に立って様々な指示を与えるのは、理由があるからなんだけれど、音楽をする上では実はあまり重要ではない。指揮者とオーケストラが歩み寄り、お互いを知り合ってゆくことが大事で、それが1回目の共演だった」

ルイス 「前回の演奏会が、君のベルリン・フィルにおける1ページ目だったとすれば、今日は2ページ目に当たるね」

ドゥダメル 「そうだね。今日が最初のリハーサルだったから」

ルイス 「今回はオール・ロシア・プロだけれど、どうしてこういう選曲になったの?」

ドゥダメル 「 う〜ん。はっきりとした理由があるわけではないけれど……。ベネズエラにはロシアやロシア音楽への強いつながりがある。ひょっとすると、アブレウ先生がショスタコーヴィチやチャイコフスキーといった作曲家を愛していたからかもしれない。彼はロシア音楽全体が好きだった。僕もそうだけれど、さらに僕には“交響曲第5番”に特別なジンクスがあるんだよ。コンクールに優勝した時から5年間、ずっと第5番ばかり指揮してきた。マーラー5番、ショスタコーヴィチ5番、プロコフィエフ5番、シベリウス5番、ベートーヴェン5番……」

ルイス 「プロコフィエフ5番ね」

ドゥダメル 「そう、プロコフィエフ。それとチャイコフスキー5番」

ルイス 「素晴らしかった。つまり5は、君にとっては魔法のナンバーなんだ」

ドゥダメル 「そう。何を演奏するか話し合っているときに、自然とそうなった」

ルイス 「しかしどうしてロシアのプログラムを、ベルリン・フィルでやることにしたの?どうしてドイツものや、フランスものでなかったのかな?」

ドゥダメル 「いやあ、将来ドイツものやフランスもののプログラムを頼まれれば、もちろん喜んでやるよ。それはともかく、このオーケストラには、エポックメイキングなレパートリーがいくつかある。例えばプロコフィエフの5番は、カラヤンが圧倒的な名演を残した。ベルリン・フィルとの録音は、あらゆる指揮者、音楽家にとって記念碑のようなものだよ。小澤征爾もこのオーケストラと、第5番を含むプロコフィエフの交響曲を録音した。この作品は、プロコフィエフのキャリアにとってキー・ワークであり、現代音楽史に大きなインパクトを与えた。クーセヴィツキーは、アメリカ初演に際してこの曲を、“現代音楽の最大の功績”と呼んでいる。第5番は、叙情的な作品だね。叙情的であり、リズミカルで、繊細であると同時に大きなパワーを持っている。パワーとの対比を作るために、非常に親密な瞬間がある。この作品は、オーケストラを完璧にするようにできていると思う」

ルイス 「プロコフィエフは、この作品で何を言いたかったのだと思う?」

ドゥダメル 「彼はこの作品について、“人間の理想”を表現したかったと言っているね。“人間精神の偉大さ”みたいなことを……。作品そのものについては、僕の知る限り、特定のメッセージがあるわけではない。標題音楽ではないんだ。しかし彼は、この作品を自身の最も重要なシンフォニーだと考えていた。実際彼の交響曲のなかでは一番有名で、代表作となっている。スターリン時代、プロコフィエフの作品の多くは上演禁止にされていた。でも第5番は上演され続けた。なぜならこの作品が、自然な美しさと大きさを持っているからだと思う。僕は第5番が、重要な機会に演奏されるにふさわしい作品だと考えている。そして今回の演奏会は、僕にとっては重要な機会なんだ。というのはベルリン・フィルで、ラテン・アメリカ音楽の以外のプログラムを初めてやらせてもらえるのだから。海を隔てた、本場ヨーロッパのロシア音楽だよ!プロコフィエフの5番は僕の人生にとって意味深い作品だし、これをこの機会に指揮するのは、とてもぴったりなんだ」

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 ベルリン・フィル演奏会批評(現地新聞抜粋)

定期演奏会(2008年11月12〜14日)
曲目:ブラームス 交響曲第3&4番

指揮:サー・サイモン・ラトル

(略)ラトルはあまりにも長く「ドイツの響き」を避けてきた。カラヤンやアバドが得意としたベルリン・フィルの中心的レパートリー、つまり古典派からロマン派にいたる交響曲を避けて通り、正面からアタックすることがなかった。しかし今回は、彼のブラームスをツィクルスで聴くことができる。3回の演奏会に分けて、14日間の間にである。(略)演奏は、ラトルが就任6年目にして、ようやくオーケストラと真の理解に至った、と感じさせるものであった。演奏する団員の顔には笑顔が溢れ、皆がブラームスの伝統を引き継いで行くことを楽しんでいる。その際、ブラームス演奏の継承は、このオーケストラにとって核心的なことなのである。(略)第4交響曲の演奏は、現代のオーケストラ技術、反応の鋭敏さ、ディティールの理解とモチーフのコミュニケーションにおいて、最高のものであった。そうしたすべての要素を、恍惚的なまでに完璧に実現していたと言える。とりわけパッサカリアの終楽章は、響きの洗練、和声の繊細さにおいて、奇跡的な素晴らしさを示していた。ラトルは、ベルリン・フィルの手綱を操る術を、ついに手中に収めたのである。(2008年11月21日付け『ベルリナー・モルゲンポスト』/マヌエル・ブルク)

(略)このコンサートでは、第3、第4交響曲がプログラムに載っていた。それだけで、他の曲は一切ない。しかしこれだけでも、一生涯取り組むにふさわしい曲目と言える。そして演奏会は、ラトルがベルリン・フィルの音楽監督に就任して以来、最も強い印象を与えるものとなった。(略)「響きの重々しさ」とは、今日のブラームス演奏においては大時代的な紋切り型だと言われている。ガーディナーは現在、そうした因習的な重さを振り払うために、ピリオド楽器による演奏を試みている。しかしラトルは、この重さを真っ向から捉える。つまり習慣化した重さではなく、密度の結果としての重さを引き出そうとするのである。(略)第4交響曲で最も胸をえぐったのは、終楽章の長いフルート・ソロである。そこでは死を前にした人間が、自分の生涯について反芻する孤独なモノローグが現前していた。(2008年11月14日付け『ベルリナー・ツァイトゥング』/ヤン・ブラッハマン) 

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 ドイツ発最新音楽ニュース

ムーティ、ローマ歌劇場の芸術監督に就任
 リッカルド・ムーティが、ローマ歌劇場の芸術監督に就任することが決まった。APA(オーストリア通信社)によると、ローマ市長ジャンニ・アレマンノは、ザルツブルク音楽祭に出演中のムーティを尋ね、就任を依頼。ムーティは2010年12月に就任することで、オファーを受諾した。契約は、年間最低2本のオペラと2回のコンサートを含む。ローマ歌劇場は数年来経営困難に陥っており、ムーティは運営の建て直しに協力するかたちとなる。なおローマ市は、ムーティのシカゴ響音楽監督就任(2010年より5年間)には、支障がないとしている(写真:ザルツブルク音楽祭の記者会見におけるムーティ。©Wolfgang Lienbacher)。

ティーレマン、ミュンヘン・フィル留任を希望
 クリスティアン・ティーレマンが、ミュンヘン・フィル音楽総監督に留任したい意向を再度明らかにした。彼は『ミュンヒナー・メルクーア』紙のインタビューで、「この件はまだ終わっていない」と発言し、ミュンヘン市と再度交渉する意志を示している。これに対しミュンヘン市は、「これ以上条件を議論する余地はない。しかしティーレマン氏が現状のままの契約書にサインするのであれば、延長してもいい」と譲歩しないコメントを発表。ちなみに交渉時の争点は、ティーレマンが(本来インテンダントの権限である)客演指揮者のプログラム決定権を要求したことであった。


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