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「ベルリン・フィル・ラウンジ」第5号:内田光子、シューマンのピアノ音楽を語る ベルリン・フィル・ラウンジへ戻る

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2009年9月26日 (土)

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 ベルリン・フィル関係ニュース

ショスタコーヴィチ・ファン垂涎!ラトルの「第4番」、ドゥダメルの「12番」が、デジタル・コンサートホール(アーカイヴ)にアップ!
 ベルリン・ムジークフェストの枠で行われたふたつの演奏会が、デジタル・コンサートホールのアーカイヴにアップされました。
 まずラトル指揮の回(9月13日)では、ベルク《ルル》組曲より<アダージョ>、デッサウ《声》、ショスタコーヴィチ「交響曲第4番」が上演。現地紙『ターゲスシュピーゲル』は、「ラトルの指揮のもと、ベルリン・フィルは“世紀の大音声”とでも呼ぶべき作品(ショスタコーヴィチ)を、美麗かつ懸命に演奏。ホールには大喝采が溢れた」と評しています。一方、ピアノ・ソロ付きカンタータの《声》では、来日が実現していない幻のソプラノ、アンゲラ・デノケの美しい歌声が聴きものです。予想外に耽美的な曲調は、後期ロマン派ファンにも歓迎されるでしょう。
 続くドゥダメル指揮の回(9月19日)では、ショスタコーヴィチ「交響曲第12番」が絶賛を博しています。「ショスタコーヴィチのスコアは、スターリン死後の内面の窮状を表現している。そうした複雑な作品の核心に、28歳のドゥダメルが入り込んでゆく姿はまったく驚嘆に値する(『ターゲスシュピーゲル』紙)。」グバイドゥーリナ《グロリアス・パーカッション》の好演も含め、ドゥダメルはベルリンで最も熱いアーティストとして、早くも認知されつつあるようです。なおここでは、樫本大進が第1コンサートマスターとしてデビューを飾っています。

ラトル指揮演奏会のハイライト映像(無料)
ドゥダメル指揮演奏会のハイライト映像(無料)
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 次回のデジタル・コンサートホール演奏会

バレンボイム、ショパンのピアノ協奏曲を2曲連続演奏!
(日本時間10月4〜5日深夜)
 ピアニストとしては、ベートーヴェンやモーツァルトで高い評価を得ているダニエル・バレンボイムですが、今回はなんとショパンのピアノ協奏曲でベルリン・フィルに客演します。しかもホ短調とヘ短調の2曲を、ひと晩で演奏。ベルリンでは、ピアノ・ソナタ第2番、舟歌、幻想曲などを含むショパン・リサイタル(10月18日、国立歌劇場)も予定されていますが、コンチェルトではどのような解釈を見せるかが大いに気になるところです。共演は、かつてバレンボイムのアシスタントを務め、とりわけオペラ指揮者として活躍しているアッシャー・フィッシュ(デビュー)。シマノフスキ、ストスラフスキというポーランドを代表する作曲家を集めたプログラムは、レパートリー的な関心からも興味深いものとなっています。シマノフスキの「演奏会用序曲」は、R・シュトラウスの《ドン・ファン》を連想させる後期ロマン派的作風、ルトスラフスキの「弦楽器のための序曲」は、新古典主義的なスタイルを示すものです(写真:©Sheila Rock)。

【演奏曲目】
シマノフスキ:演奏会用序曲ホ長調
ルトスラフスキ:弦楽器のための序曲
ショパン:ピアノ協奏曲第1&2番

ピアノ:ダニエル・バレンボイム
指揮:アッシャー・フィッシュ


放送日時:10月5日(月)午前3 時(日本時間・生中継)

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 アーティスト・インタビュー

内田光子
「シューマンを真に理解し、弾けるようになるまでには、非常に時間が掛かりました」

聞き手:サラ・ウィリス(ベルリン・フィル、ホルン奏者)

 今年2月、シューマンのピアノ協奏曲で客演した内田光子は、ドイツでもたいへんな人気を博しています。現在最も評価の高いピアニストのひとりと呼んでも、間違いではないでしょう。先シーズンは、ベルリン・フィルの「ピアニスト・イン・レジデンス」として室内楽演奏会にも出演し、ソロ、歌曲伴奏(《女の愛と生涯》、《架空庭園の書》他)、室内楽の3ジャンルで大活躍しました。コンチェルトと同じ週には、シューマンのピアノ5重奏曲の圧倒的な名演も披露しましたが、インタビューではチャーミングな人柄、ユーモアに満ちた語り口が大きな魅力となっています(映像をぜひご覧ください)。

ウィリス 「シューマンのピアノ協奏曲は、天真爛漫な雰囲気が支配していると言われますね」

内田 「第3楽章がそうです。そこでは本当に心が沸き立っている感じがします。シューマンの場合、作曲された時期が作品に大きく関わってきますよね。彼は特定の時期に、特定のジャンルを集中して書く傾向がありました。例えば1840年には、あの素晴らしい歌曲群を作曲しています。逆にそれ以前の時期には、ピアノ曲しか作曲していません。背景には、シューマンがピアニストとしてキャリアを築こうととしていた、ということがあります。もちろんその過程で指を痛めてしまい、夢が潰えるわけですが……。一般にシューマンは、優れたピアニストであり、それゆえにピアノの傑作をものにしたと言われています。しかしそれは当たっていません。本当に優れたピアニストだったのは、彼ではなくクララだったのです。ショパンやベートーヴェン、モーツァルト、バッハは天才的な鍵盤奏者でした。しかしシューマンはそれほどブリリアントなピアニストではありませんでした。しかし彼は、非常に独特のイマジネーション、ファンタジーを持っていたのです。面白いことに、20世紀、そして21世紀の一部の作曲家は、シューマンの思考のあり方、作曲の技法を、自分の作品のインスピレーションにしています。これはたいへん興味深いことです。というのは私自身、シューマンを真に理解し、弾けるようになるまでには、非常に時間が掛かったからです。例えば特定の個所では、まったく予想できない不協和音が出てきます。だから覚えにくいし、勉強するのに時間が掛かるのです。その意味でたいへん変わった作曲家だと言えます。ちなみにこのコンチェルトにおいては、隠されたテーマはクララです。クララというのはClaraと書きますけれども、冒頭の第1主題そのものがC(ハ)とA(イ)で構成されています。この主題です(C−H〔ドイツ語読みのロ〕−Aの第一主題を弾き、歌う。シューマンは、クララのイタリア語形Chiaraからこの主題を導き出したと言われる。内田はここでは煩雑さを避けて、Hが入る理由を省いている)。シューマンの作品には、クララへの愛情が表れているものが多いわけですが、このコンチェルトにはそれが特に言えるでしょう。もともとは管弦楽伴奏の幻想曲として構想されたのですが、それが最終的に協奏曲の形で完成されました。《交響的練習曲》ほどではありませんが、この曲も版の成立には紆余曲折があります。シューマンの最終的意図が不明確で、印刷用に浄書された総譜が消失し、間違いのあるスコアが流布するなど、問題があったのです。しかし今日では、信頼に値する楽譜が出版され、我々はそれを使って演奏できるようになりました」

ウィリス 「作品を演奏する上で、歴史的な背景、シューマンの思考のあり方も考慮されるのですね。クララは当時の女性としては、スーパーウーマンでしたが……」

内田 「そうです。しかし彼女は、まずは何と言っても素晴らしいピアニストでした。シューマンは非常に複雑な作曲家で、彼の最高傑作の一部(《謝肉祭》等)は、クララと恋愛関係になる前に書かれています。ですからちょっとデリケートな問題なのですが、彼女という女性がシューマンの生涯、音楽において最も重要な存在だったことは間違いありません」

ウィリス 「内田さんは、25年前ベルリン・フィルにデビューされた時には(とってもお若いので、そんなに昔とは信じられませんけれど)《トゥーランガリラ交響曲》を弾かれました」

内田 「そうなんです。メシアンは、エクゾチックな作曲家でしょう?」

ウィリス 「あなたがメシアンを弾かれるというのは、ちょっと意外な感じがしますが」

内田 「そんなことはないですよ。私のレパートリーは、ちょっと特殊なのです。もちろん大部分はご存知のようにドイツものです。バッハに始まって……。でもバッハはジャケットのなかにしまいこんで、他人には見せませんけれど(笑)」

ウィリス 「お家では、バッハを弾かれるんですか?」

内田 「ええ、とてもたくさん弾きます。この頃、ちょっと外に出すようになりましたけれどね。実際、ここでのデビュー・コンサートも、前半は《ブランデンブルク協奏曲第5番》だったのです。ピアノでバッハを弾くのは好きですし、問題ないと思っています」

ウィリス 「コンサートで弾くことはないんですか」

内田 「実は、最近ちょっとずつやっているんです(笑)。今、クルタークとコンビにして演奏しているところです」

ウィリス 「それは素晴らしいコンビネーションですね」

内田 「そうでしょう?これは、クルターク自身もやっていることです。で、そのバッハの他に、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、そしてブラームスを中核にしています。ただしブラームスは、ソロというよりは室内楽を通してですが。そして新ウィーン楽派。これと平行してフランスもののレパートリーがあります。ショパン(というのはショパンは、フランス楽派に数えることもできますから)、ドビュッシー、ラヴェル、そしてメシアンです。あと、ブーレーズの曲も弾くんですよ」

ウィリス 「内田さんは、ベルリン・フィルではモーツァルト、ラヴェル、バルトークのコンチェルトを演奏されてきました。私にとっては、6年前にモーツァルトの《ピアノと管楽のための5重奏曲》を一緒に演奏したのが楽しい思い出です」

内田 「あれは、クルト・ザンデルリングの90歳記念コンサートでした。今彼は、96歳半というご高齢でいらっしゃるけれど、とってもお元気です。素晴らしい方です」

ウィリス 「ベルリン・フィルとは、モーツァルトでの共演が圧倒的に多いように思いますが」

内田 「モーツァルトについては、最近ちょっと変わってきました。実はこの頃は、大きなオーケストラとモーツァルトの協奏曲を弾くことは稀なのです。でもベルリン・フィルからやってほしいと言われると、イヤとは言えないでしょう?だからなのです(笑)。しかし来シーズンは、まったく違うものをやります。ベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を、サイモン(・ラトル)と演奏するのです」

ウィリス 「それは素敵なプログラムです」

内田 「でしょう?私も、今から楽しみにしているのです」

ウィリス 「いずれにしてもお客さんは、デジタル・コンサートホールでも演奏を観れますね」

内田 「あーっ、それはちょっと怖いです。素晴らしいと同時に、怖い気がします。普通はホールのお客さんと演奏を共有するという感じですが、それが同じ瞬間に世界中に中継されているとなると……」

ウィリス 「それは私たちも同じですよ。今回私たちホルンのメンバーは、《コンツェルトシュトゥック》を勉強しているわけですが、ホールのなかで演奏するのはともかく、生中継されている考えると上がってしまいます」

内田 「ああそうでした。あなたもソロを吹くんですよね。でもこれはプロの仕事の一部だと思っています。ところで私は、すべてのものがあらゆる場所で手に入る、ということには必ずしも賛成しません。というのは生演奏は、ある特定の瞬間に特定の場所で経験するものだと思うからです。それがレコーディングとの違いでもあります。もちろん録音も特定のシチュエーションから生まれてくるのですが、聴衆との直接的なふれあい、一期一会の感覚は、コンサート独特のものでしょう」

ウィリス 「デジタル・コンサートホールは、最新のテクノロジーで配信されますが、優れた画質・音質で、生の雰囲気を少しでも感じ取っていただきたいと思います。ユーザーの意見も聞いてみたいですね。例えば(なかなか実演に接することのできない)日本やアジアの聴衆からも」

内田 「日本の聴衆は、朝4時に起きないといけませんね。大変!」

ウィリス 「でもライヴで観る熱烈なファンの方は、絶対にいますよ」

内田 「そうだといいですね」

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 ベルリン・フィル演奏会批評(現地新聞抜粋)

定期演奏会(2008年12月18〜21日)
曲目:マーラー:交響曲第3番
独唱:リオバ・ブラウン(A)
合唱:ベルリン放送合唱団、テルツ少年合唱団
指揮:ズービン・メータ

 メータは、ベルリン・フィルに毎年客演する指揮者のひとりですが、当演奏会では、何と4晩ホールを満席にするという人気を見せています。批評は、日頃手厳しいベルリンの批評家たちからは想像もできないほど好意的なものです。ソリストには一貫して批判が見られますが、メータに関しては絶賛に近い評価が並んでいます。とりわけ『ベルリナー・ツァイトゥング』紙が、大御所たる彼の演奏を「独創的で新種の解釈」と評していることには、驚きさえ覚えます。

「72歳のメータの指揮ぶりには、老いはまったく感じられない。タクトを振る調子には切れ味があり、明確な指令が出される。しかもその姿には、自己陶酔や虚栄心はまったく存在しないのである。メータは、マーラーが要求する表現を一小節ごとに追い、そこに全身全霊を傾け、高い密度を織り込んでいた(2008年12月22日付け『ベルリナー・モルゲンポスト』紙/クラウス・ガイテル)」

「メータは、器楽楽章において、聴衆に作品の真価を感得させることに成功していた。しかしこれは、必ずしも声楽楽章には当てはまらず、リオバ・ブラウンのソロにはニーチェの歌詞の神秘性が欠けていた。(略)しかしメータは、終楽章で再び見事なまでに大きな孤を描き出した。それは弦による、交響的で恍惚的な賛歌とでも呼ぶべきものであった(2008年12月21日付け『ターゲスシュピーゲル』紙/ジビル・マールケ)」

「他ならぬメータが、マーラーの第3交響曲できわめて独創的で新種の解釈を生み出すことになるとは、意外であった。というのは一般的に彼は、心理的・分析的な意味で整理された演奏をするからである。しかしここで聴かれたマーラーは、過剰なまでの強調に満ち、エッジが掛かった挑戦的なものであった(2008年12月23日付け『ベルリナー・ツァイトゥング』紙/ペーター・ユーリング)」

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 ドイツ発最新音楽ニュース

本コーナーでは、ドイツおよびヨーロッパの音楽シーンから、最新の情報をお届けします。

コーミッシェ・オーパーの新しい《リゴレット》は、凄惨なホラー映画仕立て
 ベルリン・コーミッシェ・オーパーのシーズン最初のプレミエは、バリー・コスキー演出による《リゴレット》であった。コスキーは、同劇場の主要演出家のひとりとして活躍しており、ドイツでは高い評価を得ている。2012/13年シーズンよりは、アンドレアス・ホモキの後任として、インテンダントに就任することから、今回のプレミエは広い注目を集めていた。各紙批評はどちらかというと判断を急がぬ印象だが、ホラー映画を思わせるピエロたちが跋扈する《リゴレット》は、道化の「笑いのない」側面を描き出して、凄惨な印象を与えるものであった(9月20日。写真:©Iko Preese)。

アン・デア・ウィーン劇場、《ヴェニスに死す》プレミエで、カート・ストレイト(T)が絶賛
 現在ウィーンで最も生きのよいオペラ・ハウスとされるアン・デア・ウィーン劇場で、《ヴェニスに死す》のプレミエが行われた。音楽的に優れた上演で、美青年タッジオに魅了される初老の作家アッシェンバッハを演じたカート・ストレイト(沖縄生まれのアメリカ人。玄人筋で人気上昇中)に、賛辞が集中している。『スタンダード』紙は、「主人公の抑圧された情念を、奔流のように吐露した」と絶賛。指揮のドナルド・ラニクルズも好評だが、裸の美青年が多数登場する演出(ラミン・グレイ)については、意見が分かれている(9月17日)。

シュトゥットガルト国立劇場、次期インテンダントがヨッシ・ヴィーラーに決定
 シュトゥットガルト国立劇場の次期インテンダントが、演出家のヨッシ・ヴィーラー(58)に決定した。同劇場では、2006年以来現職のアルブレヒト・プールマンの契約が非延長となり、後任をめぐって状況が混迷していたが、シュトゥットガルトにつながりの強いヴィーラーの選出は、「今年のオペラ・ハウス」賞に輝いたクラウス・ツェーエライン時代を継承するものと見られている。就任は2011/12年シーズン。

美人ソプラノ、ナディア・ミヒャエルが、演出家としてデビュー?
 ドラマティック・ソプラノのナディア・ミヒャエル(40)が、演出家としてデビューするという。しかし詳細はまだ公開されておらず、場所は「ドイツ以外のヨーロッパのある国」で、演目は「スタンダード・レパートリー」になる予定とのこと。ライプツィヒ出身のミヒャエルは、女優なみの美貌、半裸も厭わぬ体当たりの演技、ワイルドな歌唱で、ヨーロッパでは旬のスターとみなされている。

ウィーンの長老指揮者エルンスト・メルツェンドルファーが、88歳で死去
 ウィーン国立歌劇場およびフォルクスオーパーで長年カペルマイスターを務めてきたエルンスト・メルツェンドルファーが、9月16日に88歳で死去した。メルツェンドルファーは、国立歌劇場で42演目計414公演を振り、《カプリッチョ》のアメリカ初演を指揮したという。最後の公演は、今年5月23日、フォルクスオーパーでの《魔笛》であった。


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