行方不明になっていたピアノ大作の世界初録音
ソラブジ:トッカータ第3番
アベル・サンチェス=アギレラ(ピアノ)
どの流派にも属さずにピアノ音楽のひとつの頂点を示したイギリスの作曲家、ソラブジ[1892-1988]の作品の多くは、異様なまでに高密度で複雑で技巧的で長大という特徴を持っていますが、その音楽には独特の美しさも含まれ、カルト的な人気を得ていることでも有名です。
今回、半世紀以上も行方不明だったトッカータ第3番の楽譜が発見されたことを受けてクリティカル・エディションが作成され、レコーディングまでおこなわれたことはピアノ音楽好きに歓迎されるところです。ブックレット(英文)には、校訂もおこなったピアニストのサンチェス=アギレラによる解説が掲載されています。
トッカータ第3番
曲は10の部分で構成され、バッハに因むパッサカリアは48分かかる大規模なものとなっています。ソラブジ63歳の1955年に作曲されたものの行方不明となり、ソラブジの死後31年が経過した2019年に自筆譜が発見。ソラブジ・アーカイヴがサンチェス=アギレラに連絡を取ったことで、自筆譜からクリティカル・エディションを作成し、2022年7月にオランダのスヘルトーヘンボスで世界初演、2022年7月に世界初録音が実現することになりました。
ソラブジ
1892年、イングランド東部エセックス州に誕生。父はゾロアスター教徒の土木技術者で、母はイギリス人。生涯の多くをイングランド南西部ドーセット州のコーフ・キャッスル村で過ごしたという異端の天才。もともとはレオン・ダドリー・ソラブジですが、父親の影響で、ゾロアスター教由来の名であるカイホスルー・シャプルジ・ソラブジという名前を使用していました。
アルカンやブゾーニ、シマノフスキ、レーガー、バッハなどの影響を受けたソラブジは、演奏至難な曲をたくさん作り、さらに当時の聴衆や演奏者の態度に腹を立ててそれらの作品の公開演奏を40年ものあいだ禁じたこともあってなかなか普及しませんでした。
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演奏者情報
◆ アベル・サンチェス=アギレラ (ピアノ)
アベル・サンチェス=アギレラ(アベル・サンチェサギレラ)は、1977年にマドリードに誕生。マドリード王立音楽院で現代音楽に関する修士号を取得して1999年に卒業したのち、ボストンのニューイングランド音楽院で2年間学んでいます。
生化学と分子生物学の博士号を取得
音楽と並行して医学の研究もおこない、2006年に生化学と分子生物学の博士号を取得。2011年にボストン小児病院での研修を終えたのち、マドリードの国立心臓血管研究センターで血液幹細胞と白血病の研究に取り組んでいました。
コンクールでも活躍
ピアノの練習も欠かさす、2011年6月に第6回ボストン国際ピアノ・コンクールで第1位と聴衆賞を獲得。2011年8月にはモーツァルテウム音楽大学と楽譜出版社のウニヴェアザールが開催する現代音楽の解釈のためのコンクール「ムジーク・デア・エクストラクラッセ」で第1位。2015年にはアレクサンダー・スクリャービン・コンクール(ザルツブルク)で第1位などと高い評価を得ています。
教授とピアニストとしての活動
2009年リオデジャネイロ、2010年ニース、2011年ブダペスト、2012年サンクトペテルブルク、パリなどこれまでにリサイタルでヨーロッパとアメリカの12カ国を訪れており、2015年にはパリでスクリャービンのソナタ全曲公演も開催。
現在はマドリードの「ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス」音楽院の教授を務めながら、主に現代音楽の領域で活動をおこなっています。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
カイホスルー・シャプルジ・ソラブジ [1892-1988]
◆ トッカータ第3番 KSS76 (1955) 125:48
CD1
1. I: モヴィメント・ヴィーヴォ 13:28
2. II: アダージョ 7:43
3. III: パッサカリア 48:31
CD2
1. IV: カデンツァ 2:58
2. V: クワジ・フガート 11:57
3. VI: コッレンテ 3:20
4. VII: ファンタジア 16:51
5. VIII: 間奏曲 4:29
6. IX: カプリッチョ 8:53
7. X: エピローゴ〜コーダ・ストレッタ 7:38
アベル・サンチェス=アギレラ(ピアノ)
録音:2022年7月、マドリード、コルメナール・ビエホ、エストゥディオ・ウーノ
Track list
KAIKHOSRU SHAPURJI SORABJI 1892-1988
TOCCATA TERZA (1955)
CD1 69:44
Toccata terza
1. I: Movimento vivo 13:28
2. II: Adagio 7:43
3. III: Passacaglia 48:31
CD2 56:10
Toccata terza
1. IV: Cadenza 2:58
2. V: Quasi fugato 11:57
3. VI: Corrente 3:20
4. VII: Fantasia 16:51
5. VIII: Interludio 4:29
6. IX: Capriccio 8:53
7. X: Epilogo – Coda Stretta 7:38
world première recording
Abel Sánchez-Aguilera piano
Critical edition from the autograph manuscript by Abel Sánchez-Aguilera
Recording: July 2022, mixed and mastered March-May 2023, Estudio Uno, Colmenar Viejo, Madrid, Spain