このディスクを単に「DG録音による気軽な現代吹奏楽集」と侮ってはいけない。ディスクをトレイに載せ最初の音が出た瞬間から、これがとんでもない誤解であることに気付き、聴き進むにつれ、これが究極のデモンストレーションディスクであるという大きな確信に変化していく。尤も最初に録音クレジットを確認してさえいれば、このモンスター級のサウンドが容易に想像つくわけで、プロデューサーはトーマス・モウリー、バランスエンジニアはマーク・オウボールという、録音界の名人同士の一期一会の邂逅によって生みだされた夢のような録音である。ここでモウリーとオウボールは、イーストマン吹奏楽団の高度な演奏技術と一糸乱れぬアンサンブルを、録音会場のシャープなアコースティクとクールなレゾナンス共々、最小限のマイクで空間ごと切り取ってリスナーの前に提供してくれる。原寸大のサウンドステージを俯瞰する広角のパースペクティブは実にスペクタクルであり、個々の楽器は、隣り合う奏者の左右前後の関係が間違いようもない正確さでピンポイントに定位する。そしてバスドラムやティンパニの一撃は地を穿ちリスニングルームをぶるぶると揺らす。三曲はどれも非常に高度なテクニックを要求するシリアスな音楽だが、様々な楽器と多様な奏法が生み出すカラフルな音響は本当に魅力的だ。本ディスクがこれまで巷で優秀録音として取り上げられ称賛された例を筆者は知らないが、ハイファイオーディオ再生に少しでも興味がある人にとっては挑戦し甲斐のある、まさにマストバイの一枚だ。