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フォアグラ さんのレビュー一覧 

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     2022/06/14

    チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルの実演に接した時は「凄い演奏を聴いた」という感激ひとしおだった。ところが没後出たCD、BDからあの感動は得られない。スケールは大きいがどこか間延びした演奏に聴こえるのだ。思うに、チェリビダッケは場、空間を支配する天才だった。単にオケのピッチが合っているという話ではなく、これから凄い演奏をするぞという圧のようなものがあり、聴き手はその空気にのまれてしまった。パルシファルの聖杯の儀式みたいなものだ。録音ではその空気感が伝わらない。いつのまにかチェリビダッケ/ミュンヘン・フィルのワーナーセットは激安となり、更に中古も一杯という状況だ。さて、今回のシベリウス。そういう前提を差し引いてもかなりの出来だと思う。鈴木淳史氏が「異形のシベリウス」とさかんに書いているが、全然異形ではない。テンポは遅いが驚くほどではないし、シベリウスから離れた部分は全くない。ミュンヘン・フィルの上質なサウンドでスケール大きい5番が楽しめる。そして、その演奏はチェリビダッケが批判して止まなかったカラヤン/ベルリン・フィルのEMI盤に似ている。オーラが抜けると両者は意外に芸術性が近い部分があるのかもしれず、チェリもそれを悟り録音の発売を頑なに拒んだのかもしれない。

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     2022/06/07

    カピュソン兄弟、エベーヌらのエラート盤を絶賛して10年、フランスの次の世代によるフォーレ室内楽集が登場した。先のエラート盤が伸びやかで洗練された演奏だったのに対し、今回のフシュヌレ、ザヌイらの演奏はもっと親密で内面的なものになっている。フシュヌレはポルタメントも使い音楽により深く没入しようという姿勢が感じられ、カバーのおちゃらけた雰囲気とは全く違う真摯さだ。その印象は録音の違いによるかもしれない。エラート盤はマイクが遠く音像がぼやけ気味だったのだが今回はオンマイクであり、各奏者の生々しい息遣いが捉えられている。こうなると好みの問題なんだが、私はフシュヌレ、ザヌイ盤に軍配を上げたい。それにしてもフランスからは素晴らしい奏者が次々出てくる。コロナ前にドイツに行った時、一般のドイツ人は全然クラシックに興味がないな、とつくづく実感したが、今はフランスの方がもしかして盛んなのかも。クラシックの真髄ともいえる室内楽で名演奏が多数フランスから出ているのもそれの表れか。

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     2022/05/28

    ビッグバンドジャズとしてこれほどの熱狂をもたらすものを私は他に知らない。パーディー、カウエル、ナナ・ヴァスコンセロスらの強力リズム陣にのっての見事なブラス・アンサンブルの中、ガトー・バルビエリのテナー・ソロが白熱、絶叫する27分に及ぶ「スイス組曲」はもう何度聴いても興奮せずにはおれない。

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     2022/05/27

    ブラジルの作曲家といってもヴィラ=ロボスしか知らないけど、ナクソスが100曲も取り上げるんだったらちょっと聴いてみようかと手にしたグアルニエリ。これがなかなかいいのだ。ショーロは実質コンチェルト形式で書かれているのだが、神秘的であったり新古典主義的であったりするものの最後はブラジルならではのノリで締めくくられるのが楽しい。演奏も大変優秀。ソリストはサンパウロ交響楽団のメンバーだそうだが、皆上手いしオケも本場の良さがある。録音もいいのでお勧めしたい。

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     2022/04/28

    ミトロプーロス/NYPの「ファウスト交響曲」リハーサル映像がある。ミトロプーロスは指揮棒もスコアも持たない手ぶらで現れ団員とにこやかに挨拶してリハーサルを開始。譜面台すらない。ある程度進めたところで「では、練習番号〇番に戻って」と指示、団員は慌てて譜面をめくる。「ファウスト交響曲」を完全暗譜して挑む指揮者なんて他にいるだろうか。この超人的指揮者待望のコンプリートがやっと出た。ソニーの装丁は素晴らしく、更に今回は解説の日本語訳も付いている。40年代の録音は音が良くない。同時期のコロンビアでもライナー/ピッツバーグ、ロジンスキ/NYPと比べてかなり劣る。皮肉なことにミトロプーロスが自費で録音したマーラー1番だけ優秀録音。ミネアポリス響もミトロプーロスの激烈な指揮についていくのが精一杯であり、どこか雑な感じが残るのも残念。それでも先のマーラーやシューマン2番、フランク、ショーソン、「死の島」は聴きものだ。50年代はニューヨーク・フィルが格段にレベルが高く録音も良くなるので聴きごたえ十分な演奏が並ぶ。チャイコフスキー5番、6番など鳥肌が立つしオペラもいい。ただ、当時盛んに演奏していたベートーヴェン、ブラームス、マーラー、Rシュトラウスが殆どないのは痛恨だ。ミトロプーロスとしてはそうしたレパートリーより新ウィーン楽派やガンサー・シュラー、ピーター・メニンを録音することが使命と考えていたのだろう。ちなみにシュラー、メニンも面白い曲なんだが。あとヘルマン・ウーデによる「ヴォータンの告別」のスタジオ録音があるはずだが何故か漏れている。なんにせよ64歳の死は早すぎた。あと10年、せめて5年生きてくれればヨーロッパのレーベルでステレオ録音をウィーン・フィルあたりと少なくない数残したに違いないのだから。

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     2022/04/03

    待望のビシュコフ&チェコ・フィルによるマーラー交響曲全集第1弾。ペンタトーンの録音が大変いい。デッカのチャイコフスキー交響曲全集とは格段の差。やっぱりメジャーはもうだめだな。優秀録音によってチェコ・フィルの美しさが際立つ。自慢の弦だけでなく近年のチェコ・フィルは木管も優れており第1楽章のファゴットの優しさなど魅力的だ。ビシュコフは特別目新しいことはしないが、音楽が瑞々しくクオリティが高い。ライスのソプラノも美しく万全の出来。後続が楽しみだ。

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     2022/03/24

    ベッリーニ26歳の力作。ただし、3年後のベッリーニ傑作の森「カプレーティとモンテッキ」「夢遊病の女」「ノルマ」と比べるとベッリーニならではの旋律美がいささか足らず、それがあまり上演されない原因になっていると思う。今回ベッリーニ生地カターニアでの録音はヒロインを歌うラトヴィアのソプラノ、マリナ・レベカが自らプロデュースしたセッション録音。わざわざ「これはライヴではありません」と書かれている。それだけ用意周到に行われたものだけあって驚くべき高水準な演奏になっており、作品の欠点を吹き飛ばす。レベカもド迫力だが、メキシコのテノール、カマレナの高音連発も凄い。他の歌手も皆大変優れており、カターニアのオケ、合唱も文句なし。優秀録音。20年くらい前、イタリアの地方でのオペラ録音は一人優れた歌手がいて、あとはそれなりののんびりしたものが多かったが、今はレベルが違う。更に、装丁、対訳付きのブックレットも大変結構で、制作者のCD愛に満ちている。ベルリン・フィル制作盤のような高額でもないし。こういう素晴らしいCDをすぐ廃盤にしないことはできないだろうか。

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     2022/03/20

    メジャー・レーベルへの録音が殆どなかった幻の名匠ホーレンシュタイン。彼の音楽はスケールが大きく豪胆。それはCD1のマーラー3番から明らかだ。クライマックスの作り方も見事で聴き手の予想のさらに上をいく。さすがにオケは終楽章でバテているがそれでも感動的な出来であり、10年後のユニコーン盤より優れている。続く1番でもホーレンシュタインは畳み込むことは一切せず雄大に音楽を鳴らす。ブルックナー8番も非常な名演。造形が揺るがずしかも白熱した演奏。マーラー1番で技術的な問題のあったウィーン・プロムジカ管弦楽団もこちらは安定している。「エロイカ」では遅めのテンポと強烈なティンパニの打ち込みが印象的。歴史的名演であるレーケンパーとの「子供の死の歌」も必聴。「スコットランド幻想曲」での濃密で情感深い表現も素晴らしく思わず涙ぐんでしまう。ここまで書いて思い当たったが、ホーレンシュタイン、オイストラフともにウクライナの出身だ。この二人の豪胆さはここからきているのか。ホーレンシュタインはヒトラー、オイストラフはスターリンという暴君に人生を左右された。今ウクライナが暴君によって蹂躙されるのを二人は草葉の陰からどのように見ているのだろう。プロフィールの復刻は問題ないが装丁はお粗末。今時ベリッと剥がす白の紙袋にCDを入れるなんてみたことない。表記ミスもある。「画家マチス」はフランス国立放送管ではなくパリ放送交響楽団(弦フランス放送フィル)である。正直こんなにいいならヴェニアスを買えばよかった。その点が心残りだ。

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     2022/03/17

    ベームの厳しい造形の基に築かれた演奏は安定度抜群。モーツァルトの初期交響曲も実に立派に鳴り響く。最高の職人芸。「ハフナー・セレナード」「ポストホルン」もいい演奏だなあ。ベーム人気に火が付いたのは75年来日からだが、それ以降にLPで発売されたブラームス交響曲全集、ブルックナー、ドヴォルザークなどは気力の減退を感じ失望した覚えがある。しかし今聴きなおすと決して悪くないのだ。私の耳が肥えたというより私が老いたのだろう。それでも50年代から60年代の造形はびくともしないながら頑丈な骨格からはみ出すばかりの充実した音楽が鳴る演奏こそベームの真骨頂だと思う。管楽器もガンガン鳴らすし。最後に一言苦言を。オリジナルジャケットは嬉しいのだが、詰めが甘い。モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトが交響曲全集の均一ジャケットしか使われていないし、レコード番号、ステレオ表記はあったりなかったり。マゼール初期録音集のジャケット復刻は完璧だったのだからどうしてこんなことで手を抜くのか。ほんとユニヴァーサルはわからない。

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     2022/03/04

    ロバート・ワイズ監督の61年版を観たのは70年代中学生の時。衝撃だった。今回のリメイク版はいろいろ言われているが心配ご無用。素晴らしい出来栄えであり、61年版が好きな人でも十分満足できるだろう。個人的には序盤リタ・モレノが出てきて(90歳!!)涙腺崩壊だったが、体育館のダンスの迫力も演奏も61年版を大きく凌ぐ。ジョージ・チャキリスのベルナルドのほうがよかったという声を聞くが、チャキリスはギリシャ系白人である。リメイク版はプエルトリコ人は皆ヒスパニックの俳優が演じる。ここはやはり重要だと思う。レイチェル・ゼグラーのマリアもナタリー・ウッドよりはるかにいい。歌も本人
    が歌っているし。驚いたのは時代設定、ストーリーを全く変えてないこと。スピルバーグのオリジナルへのリスペクトであるし、60年後もこのドラマが突きつける問題がそのままであることを訴える意味もあるのだろう。娘を連れて観たのだが、ゲーム世代の娘の心にも刺さったようでシアターを出てから会話が止まらなかった。サウンドトラックも申し分ない。「マンボ」で有名になったドゥダメルの指揮はさすが抜群のノリ。オケもNYP、LAPだから61年版より上手いし厚みもある。歌もみな大変上手く感動的。このミュージカルが好きな方はオリジナルキャスト、61年版とともにスピルバーグ版も必聴だろう。

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     2022/01/22

    ニールセン没後100年に出たパーヴォ・ヤルヴィ、ギルバート、ストゥールゴールズらがいずれも気に入らず、バーンスタインの爪の垢でも煎じて飲めと書いたのだが、本命デンマーク人ダウスゴーを忘れていた。もう全然違う、2曲とも抜群の出来だ。切れ味鋭くニールセンの楽想に切り込み、爆発的な部分と牧歌的な部分の描き分けも見事。こういうニールセンが聴きたかったんだ。さらに録音最優秀、シアトル交響楽団も素晴らしい。アメリカでビッグ5なんて言われたのは昔の話、今地方オケとの実力差はほぼない。これは世界的な状況であり、おかげで有名オケの録音が出なくても全然気にならない。ダウスゴーのニールセンはまだ5番、6番が出ていないが、じっくり取り組むつもりなのかコロナのせいなのか。全集完結を望む。

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     2022/01/20

    大阪での「ワルキューレ」がとてもよかったので、シッパーズのコンサート演目も聴いてみたくなり購入。シッパーズはオペラ以外の録音少ないんだな。さて、このシベリウス、非常な名演ではないだろうか。とにかく痛快極まりない。切れ味鋭く音楽が進むので、よくこの曲に言われる大衆性、通俗性が強調されない。決して勢いだけの演奏ではなく、オケのバランス(弦と管がユニゾンで演奏するときの)も充分気を配っている。同じNYPを振って3年後に録音したバーンスタインよりはるかに出来がいいと思う。やはりシッパーズは優秀な指揮者だったんだ。シンシナティ交響楽団と本格的にコンサート演目を録音していくはずががんで急逝。シッパーズの遺産はシンシナティ響に寄付されることが遺言でわかり楽団員が涙したという記事を読んだことがある。日本での評価は高くないが見直すべき人。

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     2022/01/19

    1944年マグネトフォン録音のブラームスが驚異の音質だ。50年代後半の録音と言われたら信じてしまう。余程テープの保存状態が良かったのだろう。フルトヴェングラーのマグネトフォン録音は残念ながらここまでのものはない。演奏も推進力に溢れた聴きごたえのあるもの。しかし、このセット最高の聴きものはクナッパーツブッシュ、ベルリン・フィル戦後初登場である50年のものだ。どれも名演揃いだがとりわけポピュラー・コンサートは超ド級。「花のワルツ」「こうもり」「ピツィカート・ポルカ」と体がぶっ飛びそうになる。そしてトリにオハコの「バーデン娘」。演奏が終わる前に大拍手と歓声。観客と団員の笑顔が見えるようだ。1950年2月ベルリン市民はまだ過酷な冬を過ごしていたことだろう。これは「俺たちゃこの程度でへばるタマじゃねーだろ。笑い飛ばしちまおーぜ」というクナのベルリン市民への音楽によるメッセージであり、同じ年の「未完成」のとてつもない深刻さ、切実さとはコインの裏表なのだ。宇野がクナを真似て指揮したものが冗談音楽にしか聴こえないのは、この時代背景からくる真実性が欠落しているからだと思う。クナのベルリン・フィル客演は57年で終わってしまったそうだが、そりゃカラヤンとしては嫌だったに違いない。57年に振った「悲愴」は録音が残っていないのだろうか。

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     2022/01/08

    ユダヤ系ハンガリー人アブラハムは1920年代後半からベルリンでオペレッタで成功、ナチス政権誕生の33年からは逃避行の生活になりパリを経てアメリカに。この経歴はクルト・ワイルにとても似ている。だが、ワイルはアメリカで成功したがアブラハムはそうはいかなかった。アブラハムの作風は毒のないワイルという感じで、これはこれで十分聴けるもの。ワイルはアメリカで作風を大きく変えたが、アブラハムはそれができなかったのだろう。「サヴォイの舞踏会」は32年の作で多分アブラハム最後の成功作と思われる。フォークス・オペレッタはオケが20人。小劇場でミュージカルを聴く雰囲気一杯だ。歌手陣は歌も芝居も上手く、台詞もたっぷり入っているので音だけでも楽しめる。アメリカのエンタメ層の厚さを痛感する。各地にあるライト・オペラもコロナで大変だろうが頑張ってほしいものだ。

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     2021/12/07

    クラフトのウェーベルン全集が聴ける日が来るとは思わなかった。私がクラシックの雑誌を熱心に読んでいたのは70年代で、この時にはこの全集はとっくに廃盤。当時の作曲家、評論家の話題には上るのだが褒められたためしがない。「音符を音にしただけ」という評価であった。さらに三浦淳史氏のコラムにクラフトのスキャンダルが取り上げられた。ストラヴィンスキーの晩年のコンサート批評はクラフトが書いたもので、ストラヴィンスキーはそのコンサートに行ってもいないというのだ。これでストラヴィンスキー後年の執筆自体が疑われることになり、クラフトの動向も聞かなくなった。しかし、捨てる神あれば拾う神あり、コッホ=シュヴァンでクラフトは復活。これがウェーベルン全集再発の契機にもなったのだろうが、正直怖いもの見たさで購入となった。さて演奏だが、これが悪くない。演奏者は誠心誠意ウェーベルンに取り組んでおり、デッドな音質もあって今音楽が誕生しているというヒリヒリした緊張感が伝わってくる。今のウェーベルンはもっと情感豊かに演奏されるし、この演奏に生硬なところがあるのは否定しないが、聴けてよかったとつくづく感じる。それにしてもコロンビアがシェーンベルク、ストラヴィンスキー、ワイル等50〜60年代に大量に録音したのは素晴らしいことだ。社長のリーバーソンの方針だったのだろうが、メジャーでこれほど現代ものに利益を還元した会社はなく、後世への影響も計り知れない。クラフトのシェーンベルクも是非オリジナルジャケットで復活してほしい。

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