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うーつん さんのレビュー一覧 

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     2019/09/30

     1998年11月14日収録の「After The Fall」がキース復帰初戦の記録で、1999年収録の本作はそのあとの収録だそうな。 両方聴いたが「After The Fall」が少し確かめながら、探りながら演っているような印象。それに対し本作「Whisper Not」はライヴを楽しんでいるような雰囲気が満ち満ちている。キースのドラマ、ドキュメンタリーとして聴くなら「After The Fall」、ライヴの醍醐味、メンバー間の掛け合いやジャズの楽しさを聴くなら「Whisper Not」かな? そして、「キース達3人のライヴが好き」なら両方かな?

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     2019/09/28

       私個人の考えとして「今、もっとも聴いておくべきピアニスト」の最右翼にいるA.シフ。数回コンサートに行ったことがあるが、どれもグッと心に残っている。

       圧巻だったのは2017年、ハイドン・モーツアルト・ベートーヴェン・シューベルトの「最後のソナタ」「最後から2番目のソナタ」を奏するリサイタル。天上から降るかのような美しいピアノの響き、特別なことも訳ありなアクションするわけでもないのに心の奥のにスーッと沁みてくる演奏の妙。しかも休憩なしで!  何でこんなことができるのだろう、といまだに思い出す夜だった。   その秘密の「ほんの少し」が文章によってつまびらかにされたのがこの本だろう。ちなみに本で読めるのはほんの少し。残りの大半は実際にコンサートで体感すべきであろう、チケットを入手できる幸運に恵まれたのならば・・・。


        前半の対談(インタビューの質問が少し表面的に見える気がするものの)でも、後半のエッセイ集でも「作曲家と作品に奉仕する」気概と研鑽、そしてそれを支えるための探求にいそしむピアニストの一面を知ることができる。同僚ピアニスト、更に政治や自らの出自・アイデンティティに関する問題に対しても率直な(または辛辣な)意見を表明し、音楽芸術の使徒(そして一人のの人間として)正面を見据えて正道を歩もうとする強烈な意志を感じる。


        バッハ作品をペダルなしで弾くことについて、反面教師的に同僚ピアニストの奏法を例に出しつつ根拠を述べるところや、ベートーヴェンのソナタ全集についての所見 −全曲揃えるまでの研鑽の様子、リサイタルに出す際に作曲した順に弾く理由、使うピアノの選定へのこだわり、ライブ録音を行うまでの取り組み方− は実に勉強になった。 こういう思索からあの演奏とディスクが世に問われたと考えるとCDを聴くときも心して聴かねばと考えるほどだ。


        発した次の瞬間から無の中に消えていく宿命を持つ音楽という芸術表現においては、それを記憶にとどめられるのはほんの一部かもしれない。この本は、やがて静寂に包まれていく音に想いを馳せ、そして静寂から音楽を紡ぎだしていこうとするアンドラーシュ・シフの人柄、ここまでの道のりと決意表明を知る端緒となることであろう。


     
       最後に付け加えると、このピアニストは我々聴衆にも容赦はない。「コンサートの聴衆のための十戒」と題した一文も載せている。音楽を娯楽的・刹那的に消費するのでなく、ピアニストと共に音楽の探求に対して「共同作業」を求めている。 ここに書いてある我々へのメッセージは大いに共感できる。演奏中にもかかわらず携帯音鳴らしたり(切り方わからないなら家に置いておくかクロークに預けるべき!)、ガサガサ探し物(飴玉?)を始める人、プログラムをバサッと落とす人(眠気に襲われましたか?)、派手にくしゃみする人(せめてハンカチ使うのが最低限のマナー)、音の響きが消え入る前にバチバチ手を鳴らしブラヴォーを叫ぶ闖入者(論外)・・・。  それらがいない状態で、シフに代表されるような匠の手で奏でられた芸術作品を匠と一緒にホールで共有出来たら・・・これほど幸せなことはないだろうと考えながら本を読み終えた。 またしばらくしたらはじめから読み返すだろうと思う。いや、読み返したい、何度でも。

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     2019/09/22

     余談から始まるが、これを書いている2019年9月にアンドラーシュ・シフの本(「静寂から音楽が生まれる」春秋社 刊 シフへのインタビューとエッセイをまとめたもの。ISBN 978-4-393-93602-3)が出版された。こちらも薦めたいがここはCDレビューの場なので自粛。

       前述の本の中でシフ自身が言及している「作曲の順番に演奏し、それをライヴの感興をなるべく忠実に残しつつディスク化する」という明確な意志の下で作られた全集の第3巻。目立った有名曲はないものの、のびのび・きびきびとし、颯爽とした快演と思う。知情意ともに中身があり、弛緩・ミスタッチがないこのディスクがライヴ収録とは恐れ入る。シフがいかにベートーヴェンのソナタを自らの血肉としているかの証左であろう。

       来年(2020年)の聖年に、有名曲は次々に演奏されるだろうが、このプログラムでコンサートホールを満席にできるか、そもそもこの曲目でコンサートは開かないであろう(この巻にレビューがないのもその辺の原因もあるのだろうか)。しかし、もしもシフが演るなら必ず行くべきである。このCDを聴けばそう思うはず。悲愴にない晴朗さ、月光にない明るさ、熱情にないのどかさなど、ベートーヴェンの素顔のひとつをのぞくことができる。私について言うなら、シフの全集のうち、最初に買ったのがこの巻。ここで聴いてその演奏の鮮烈さと豊かな響きに魅了され他の巻も次々にそろえた記憶が今も残っている。

       蛇足ながらシフの別の巻にある悲愴・月光・熱情などの有名曲もやはり名演です。別に3大ソナタをはじくつもりはないので。

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     2019/09/07

     ピリスの他のディスクでもレビューしたが、ここでも同様に「凛とした」演奏と評させてもらう。その言葉がピリスの演奏に一番合うと私は確信している。

       他の奏者によるノクターンと異なり、聴いているうちに何か胸がしめつけられるような、心の震えを呼び起こすような「真っ直ぐさ」を感じてしまう。単なる「ノクターン」でなく、「夜に想う真摯なつぶやき」を聴かされるような…。  単なるイメージ先行的な甘くて美しい夜想曲と一線を画す、心の深淵をのぞきこむような演奏と思う。

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     2019/08/22

     宮田まゆみの笙による10世紀以前の音楽が奏され、そこから続くかのように始まる21世紀の音楽『エテリック・ブループリント三部作』。さながら「現代音楽的雅楽」に感じた。  楽器や奏法・語法は時代の違いを表わすものの、その根幹となる思想を「自然に存在するエネルギーの音表現」と考えるなら時代を超えて共通するものになる…と解釈した。   実際に作曲者が意図したことを理解しているとは思えないが、ライナーノーツを読むと自然や不可知のものへの探求とその音楽表現が望月京のテーマとなっているように思える。

      「盤渉調調子・双調調子」の雅楽から「4D」への「空気」のうつろいはごく当たり前に感じたし、「ワイズ・ウォーター」は水が生まれ、変遷し、大気へと立ち昇るイメージの変奏曲にも思える。「エテリック・ブループリント」では透明でありながら響きが続く楽器の使用や空気を吹き込む形式の楽器などで、空気の存在感を耳で体感させ、そこに思いを馳せさせるような面白さを感じた。


       少なくとも雅楽と『エテリック・ブループリント三部作』のカップリングに違和感は感じず、むしろ雅楽が前に置かれたことで自然観が前置きされ興味深く愉しむことができた。もっと聴きこんでいけば彼女が潜ませてある新しい音を「音楽の大気」の中から発見できるかもしれない。

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     2019/08/14

      聴いていつも感じるのは「わびさび」。なぜか分からないが、いつもそう感じる。チェンバロによるゴールドベルクとしては鈴木雅明のゴールドベルクではそうは感じない(こちらも好きな演奏で、華やかな明るさと軽妙さを感じたいときはこちらを聴いている)し、、A.シュタイアーのゴージャスで重厚な響き(チェンバロの機能のすべてを駆使した演奏と言えばよいだろうか)とも異なる。

      少しざらっとした肌触りを感じ、磁器というよりはむしろ陶器に近い土の質感(?)を聴くと想像してしまう。演奏のすばらしさ、楽器の音質などは前出のレビューの方が十分に論じられているので、「どのゴールドベルクを聴こうか」と考えている方の参考材料に。

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     2019/06/22

     オーボエの名手にして、作曲・指揮など理論と実践の両面を極めているホリガーの面目躍如たる一枚として面白く聴けた。そういえばシューマンもピアノ演奏・作曲・理論・文学・評論・出版など多方面に明るかったのでその意味でも両者には共通する部分もあるのだろうか。


        ホリガーが深く傾倒しているシューマンを軸に自作や編曲交えシューマンと対話するかのようなプログラムはかなりマニアック。渋めの小品からオーボエが豊かに歌いはじめ、Op.94に移ろいロマン的な香りを漂わせていき、ホリガーの自作へガラッと染まる。   シューマンへのオマージュというかシューマンの人生への考察を音楽にしたのだろうか。やがて狂気にむしばまれていくシューマンの内面を現代音楽として表現したものと解釈している。決して聴きやすい曲とは思えないが、これが中心にあることで前後の曲に「ただのロマン派の作曲家ではない」というメッセージが加わり、曲にも深みと苦みが添えられていく。 妻・クララや盟友J.ヨアヒム、シューマン夫妻と深いつながりを持つにいたるブラームスの影(影も”灰”色と言えるだろうか?)が垣間見え、シューマンの人生の絵巻を1枚にまとめたようなディスクとしても聴こえる。


        ”灰”と”灰色”が違うのは承知しているが、聴いた感触として、天真爛漫な明るい”白”でもなく、救いようのない暗い”黒”でもない。どちらの性質を持ちつつ、そのどちらでもない”灰色”に包まれたディスクにも感じる。  オーボエが好きな方、シューマンが好きな方、ホリガーに興味を持つ方はもちろんだが、音楽の”精神の系譜”を考えてみたい方にもおすすめしたい。

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     2019/06/22

     柔らかく温かなフルート(フラウト・トラヴェルソ)の音色。これを盛り立てつつ包み込むチェンバロの涼やかな音色。ヴァイオリンやヴィオラ・ダ・ガンバも魅力的。  主役であるフルートの特性や材質、ピッチの違いもあるのだろうが、グイグイ耳に攻めこんでくる感がなく、どちらかというと和室でしずかに聴きたくなるような風合いがあり、聴いていると何やらみやびな落ち着きをもたらしてくれるディスクだと思う。
     
        内容はもちろん申し分ないが加筆するなら、このシリーズ全般のジャケットデザインに使われている有本利夫の時間が静止したような美しい絵が音楽の方向を物語るようでとても気に入っている。絵なのだから静止は当然のことだが、氏の絵はおそらく動画であっても動く気配が想像できない。その独特な時代性と環境の中で永遠に留まっているような不思議な一瞬が切り取られているように思える。 私はなんとなくこのジャケットを見たら「こんな演奏なんだろうな」と誘われたように購入した気がする。

        蒸し暑いこの季節にはこんな音楽を感じたくなる。推薦。

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     2019/06/18

     今年(2019年)4月、「東京・春・音楽祭 2019」内のコンサートで同6曲の演奏会に参加する機会を得た。ヴァイオリンとチェンバロの掛け合い、または対話(おしゃべりの時もあり)であったり、信仰告白にも近い場面など様々なドラマがあり、それこそがこの曲の面白さと感じたものだ。   

    そしてこの盤。自然ではつらつとふたつの楽器が鳴り響く。個人的な感覚で悪いが、うますぎて鮮やかすぎるあまり、興ざめしてしまうことが稀にあるファウストのヴァイオリンがここでは全然気にならない。ただ、そこに音が響き、音楽が伝わってくるとしか言いようがない。バッハの曲が技術性を超越しているのか、ベズイデンホウトのチェンバロが中和しているのかは判らない。   いずれにしても音楽に浸れる悦びを感じられる。実に自然ではつらつとしたヴァイオリンとチェンバロの音が織りなすバッハの宇宙を他の方にも感じてほしい。推薦。

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     2019/06/01

     1999年、ハノーファー現代音楽祭におけるライヴ収録とのこと。細川俊夫の作品も作曲されたのがたまたま現代というだけで、伝統楽器のために作られ、演奏されると「ゲンダイオンガク」に聴こえないのが面白い。ほかの収録曲も新鮮で、現代音楽祭の聴衆にも「フレッシュな音楽」として聴こえるのだろう。   
     日本では絶滅危惧種的なローカルな音楽になっており、かく言う私も進んで聴きに行くとは言えない。これらの曲もこのようにして聴くと、なるほど実に面白い。三味線でも琴などの伝統楽器による音の粒立ち、強靭さにも感心させられる。

       現在の日本でほとんど聴かれない音楽、使われない楽器と唄を聴くために海外の現代音楽祭に行かないと耳にできないというのは日本人として少し考えさせられる。「新しい」「古い」というカテゴリーで区切り、「古い」から聴かない・目を向けない考え方に反省を促す教材でもある気がする。たとえ作られた時期が古くても、それは「作品が古い」と同義にはならない。当盤の演奏後、聴衆が送った拍手がそれを物語っている。  個人的な意見だが、今のニホンで「最新のミュージックシーン」として湯水のごとく流されていく音楽よりも音楽が締まっており、メッセージは強いとさえ思う。

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     2019/05/23

     24番 K491は思うにプレヴィンが最も好んでいるモーツァルトのピアノ協奏曲なのではないだろうか。他のディスクやDVDでもこの曲を取り上げ、NHKsoとのコラボでも数回弾いている(そのうちの一つはディスクで登場済み)がこの盤がコンディションでは最良ではと思う。いわば自家薬籠中の作品で、モーツァルトで「おしゃべり」ができる気心知れたウィーン・フィルとの共演なのだから、楽しくないわけがない。

      悲劇的であり、にもかかわらず典雅な空気に包まれたこの曲を、それほど悲劇ぶらずに、ほのかな憂いをまとわせつつ涙ぐみながらも微笑みを漂わせるような雰囲気が曲全体で伝わってくる。急ぐことなく、じっくりと弾き振りするプレヴィンとオケの呼吸がぴったり合っていてとても安心して聴くことができる。 

      カデンツァは数ある同曲のカデンツァの中でも特に優れたものではないだろうか。ほんのりジャズにおけるImprovisationの香りを私は感じる。おそらくそれこそプレヴィンらしさなのだ。

      他の盤で書いたかもしれないがプレヴィンの演奏を一言で表すなら「中庸の美」と言えるのかもしれない。このディスクにもまぎれもないその「美しさ、温かさ」があり、それが他の音楽家と一線を画す資質と思える。 彼のモーツァルトの中でも、というより彼の持ち味をすべて味わえるのがこのK491(もちろんカップリングのK453も美しく潤いを持った素晴らしい演奏)だと思う。ゆえに未聴の方(そして音楽を愛するすべての方々)にお勧めしていきたい。     …音楽に愛された音楽家、アンドレ・プレヴィン氏の冥福を祈りつつ、レビューをしておきます。

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     2019/05/01

     レビューにもある2018年サントリーホールでの公演で感銘を受け、購入。 2018年の公演では「Preludes to a lost time」と銘打ってアンタナス・ストクスの写真をスライド上映しながら1時間弱、求道的に当盤の作品紹介にあたっていた。満員のサントリーホールで我々には耳慣れたとは決して言えないヴァインベルグのソロ演奏で勝負をかけ、しかも会場の空気を支配してしまうクレーメルの力量と企画力に脱帽した記憶がよみがえってくる。



      先に言っておくが、聴いてすぐに「あ、いいね、コレ」と言えるような内容ではない。しかし、訴えかける情感は尋常でなく軽い気持ちでは聴きとおせない「秘曲」の類。24の各曲が統一したテーマを持っているとか関連性があるようには思えず、それぞれにしのばされた感情や場面、光景を自分なりにイメージしながら聴くのがお勧めだと思う。


       ひとつ注文を付けるならストクス氏の写真作品をもう少し加えてみた方が内容的には良かったのではないかと思う。当盤の内容はパトスの発露とでも言ったらいいのだろうか、ヴァインベルグが見聞きし体験した人生から得たものを音に込めたものである気がする。そのヒント、もしくはインスピレーションの源となりそうな光景が2018年公演時のスライド上映ではいくつも観ることができた。  まあ、写真のことは措いておいても曲・演奏はおすすめです。

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     2019/04/30

     おりしも改元フェスティバルの感すらある平成最後の買い物のひとつ。他に買ったシューベルト:ピアノ・ソナタ 第19・20番ほか(A.シフ ECM)、ヴァインベルグ:24の前奏曲 Op.100(G.クレーメル Accentus Music)も楽器や作品の思想背景に「時代」が関連してくるものを選んでしまったのは偶然か深層心理がはたらいたのか。



      いずれにしてもこの「巨人」も、作曲・初演当時の空気や息吹きを感じることができたことで「時代」というキーワードに共通するようだ。楽器編成の前知識あってこそだが、とても新鮮な気持ちで聴くことができた。決定稿が作曲者の最終決定だからそちらの価値も認める一方で、このように新鮮で才気と気概に満ちた演奏を聴くと、様々な版での録音も愉しめるというものだ。音の見通しは当盤も十分だが、ブーレーズの同盤(版はもちろん異なる)に感じられる「すべての音が見渡せる」気持ちよさと少し違い「初演した会場の空気や雰囲気、マーラーの時代の始まり」を見渡せるような気持ちよさが当盤の特徴だろうと思う。個人的な感想として、「花の章」の一見のどかなメルヒェンの中にほんのり狂気というか恐ろしい「異質な何か」が萌芽としてみられるような気がした。

      第一楽章の明るい靄の中から朝日が森や平原を次第に照らしてゆくような空気感はまさに時代の始まりを予感させるような清々しさをも感じさせる。ロトが今後マーラーを全集にまとめるのかは定かではないが、それを期待させる素晴らしい出来栄えと思う。

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     2019/04/30

     平成という時代の最後に購入したディスクのうちの一枚はこれ。数年前にリリースされたソナタ18番&21番の続編で後期ソナタ集の完結編ともいえるディスク。前回同様、1820年ごろ製作といわれるフォルテ・ピアノでの演奏は魅力であふれた内容となっている。



       いつものことながらシフの弾くピアノ(ピアノフォルテでも)、特にシューベルトにおいては(ほかの演奏者と比較して)控えめな表現であるのに、心情がそのまま心に沁みこんでくるような独特の情感がある。 今回のフォルテ・ピアノでの演奏はその最たるもので、その時代の香りすら感じさせるといったら言い過ぎだろうか。目を閉じて現代の視覚情報をシャットダウンして聴いてみることをお勧めしたい。  演奏自体はあっさり通り過ぎていくのに、そのあとにくるほのかな苦みと寂寥感や心の震えはシューベルトの晩年の作品であるがゆえか、それともフランツ・ブロードマン製の楽器の音色の魔法ゆえか。



       おそらくこのディスクはシューベルト初心者でも聴きやすいと思う。が、はじめ「きれいな曲」とだけ思えたものが、聴きこんでいくうちにその魔力、もしくは深みから離れられなくなり、その中で悶え苦しんでいくような「シューベルトの毒」を放ってゆく事になるであろう。 ピアノ・フォルテでの演奏は他にも多くあるが、シフの奏するディスクほど音の佇まいがあり、なおかつ演奏者の存在を超越して音楽そのものが伝わるのは少ないであろう。



       シフのこの演奏は永く聴きこめる滋味深い内容でどなたにもお勧めしたい。 平成・令和などの時代の変化があろうと、はたまた現代とシューベルト在りし時代の変遷が激しくなろうと、良い作品は残りつつ更に輝きを発し、それを最善の方法で伝えようとする人物も絶えることはない。そう信じてみたいものだ。

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     2019/04/03

     曲目は決して万人受けするとは思えない。一見するとバラバラな選択とも思える。また、演奏もみんなが嬉しがるものとも思えない。もっとかっこよく弾く人もいるだろうし、もっとスマートに弾く人も星の数ほどいることだろう。そんな中にこの曲目をこの演奏で自分の人生の信仰告白として発表するアファナシエフの矜持たるや…。 だからこそ、聴いて受けとめる価値があるのではないだろうか。そんな作品集だ。



        TESTAMENTというと何かいわくありげなタイトルだが、その後のインタビュー記事などを見ても「これでおしまい」でないのは嬉しいところ。演奏者自身のマイルストーンとして、今までの人生の歩みへのオマージュとしてこの6枚が作られた様子だ。


       どの曲も一筋縄ではいかない晦渋な音の運び、そうは言っても昔ほど驚くほどのテンポ設定はないので純音楽的にじっくり聴いていきたくなる内容。 音の隙間(行間とでも言ったらいいのか)に、この演奏者特有の「味」が出ている。 




        音楽が作曲者の人生や思想を表わしたひとつの形態であるのと同じ意味でこの曲集が、アファナシエフという「ピアノを使う、ある思想家」のアルバムとなっていることではほかにあまり類を見ない表現形態と思う。曲についての感想やレビューはおそらく必要ない気がする(それでは音楽レビューにならないのは承知しているが)。音楽というフィルターを通して何を思い、何を考えるか…そこにこのアルバムの醍醐味があると私は思う。

      

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