このアルバムは、カエターノにとってもガルにとっても初めての録音だったと思う。
収録曲は、バイーア出身の盟友ジルベルト・ジルの2曲、そのジルやミナス出身のミルトン・ナシメントとほぼ同時期に脚光を浴び始めたMPBの雄エドゥ・ロボの1曲、トニーニョ・オルタ等が参加したという1974年のアルバムが有名なシヂネイ・ミレールの1曲、そして、残り8曲がカエターノのオリジナルとなっている。
カエターノはファーストにして25歳にして、どうやってこのクオリティの曲を作れたのか。「Um Dia」や「Onde Eu Nasci Passa Um Rio」、「Coracao Vagabundo」「Domingo」「Remelexo」などに耳を傾けて欲しい。本当に凄いから。
全てのジャンルで考えても、このアルバムに並ぶものは数えるほどもない。
変な話し、ロック・ファンでもこれはまいってしまうと思う。
僕もあなたもせっかくこの世に生まれてきたわけだし、これは手に入れたほうがいい。
そういうわけです。
最後に紹介するのは、先にも触れたアストラッド・ジルベルト。
ボサノヴァのお洒落な感じを気軽に楽しみたいなら、この人から入るのも良いのかなと思う。
スタジオ録音盤で数えると、1965年の1st『The Astrud Gilberto Album』や2nd『The Shadow Of Your Smile』、4枚目にあたるワルター・ワンダレイとの共同名義盤『A Certain Smile, A Certain Sadness』あたりがお薦め。
1st『The Astrud Gilberto Album』は、アルバムのサブ・タイトルに〈With Antonio Carlos Jobim〉とあるように、ジョビンの曲がほとんどで、中でも「Photograph」や「So Finha De Ser Com Voce」あたりはジョビンの作曲の技巧が光っていて、個人的に大好きな曲。「Once I Loved」「How Insensitive」「Meditation」「Dindi」「Dreamer」あたりの有名曲も、ボサノヴァの基本的なコード進行を抑えたような曲で、そういう意味でもこのアルバムはボサノヴァ入門にぴったりかもしれない。因みにピアニストであるジョビンは、ここではギターでの参加だそう。
2nd『The Shadow Of Your Smile』だと、「The Gentle Rain」や「Manha De Carnaval」などルイス・ボンファの静かで哀しい旋律の曲が光っている。タイトル曲、「The Shadow Of Your Smile」や「Fly Me To The Moon」のボサノヴァ・アレンジもかなりはまっている。特に「Fly Me To The Moon」のメロディーはボサノヴァ的だなぁなんて思ったものであった。「Non-Stop To Brazil」もボサノヴァらしい旋律を持った曲で、良い曲だと思う。アルバム全体を見ると、選曲を含め、ボサノヴァ色が濃い1stより少しだけポップス寄りになっていて、全体的に聴きやすくなっているかもしれない。
4thの『A Certain Smile, A Certain Sadness』は、何と言ってもワルター・ワンダレイのオルガンが全面に入っていることが特徴的だ。
ボサノヴァと云えば、まずガット・ギター。場合によってはピアノ。そして時にオーケストラ。そう考えると、ボサノヴァにオルガンを持ち込んだワルター・ワンダレイの功績は大きいのかも知れない。
マルコス・ヴァーリの「So Nice (Summer Samba)」やエドゥ・ロボの「Goodbye Sadness (Tristeza)」などの有名曲が聴けるのも嬉しい。
全体的には、ワルター・ワンダレイのオルガンの刻みが細かくなるようなテンポが速い曲が多く、しっとりと聴かせる曲がたまに入る構成で、気持ちよくさらっと聴けてしまう。
ワルター・ワンダレイのソロ・アルバムも悪くないのだが、やはり、それと同時に、可愛らしい素人、というか恐ろしき素人アストラッド・ジルベルトの歌が聴けてしまうこのアルバムはボサノヴァの魅力をわかりやすく伝えるであろう好企画盤だと思う。
以後、入門盤としてはマニアックなので読み飛ばして欲しいのだが、アストラッド関連でいうと、クインシー・ジョーンズのサントラ『The Deadly Affair』収録の「Who Needs Forever」が良いので、ついでに書いておく。これはちょっと不気味でかなりかっこいい曲。こういう曲を作りたいな、と思う。
ちなみに、この曲以外はアストラッドの参加はなく、インストなので、そこは注意して欲しい。
それともう一つ、Stan Getzとのライブ盤『Getz Au-Go-Go』等に収録されている「It Might As Well Be Spring」も良い曲・良いテイクなので、是非聴いてみて欲しい。
最後になるが、ボサノヴァを聴き進めていく上で、必ず感銘を受けるであろう曲がある。
ざっと、羅列すると以下の通り。
「Chega De Saudade(想いあふれて)」
「Desafinado(ディザフィナード)」
「The Girl From Ipanema(イパネマの娘)」
「Felicidade(フェリシダーヂ)」
名曲とは誰のどんな演奏でも感動できてしまうもの。
ボサノヴァ初心者には、とりあえずはどのアーティストでもいいので、上に挙げた曲が入っているアルバムを買うことをお薦めしたい。
ボサノヴァと云われる中でも、メロディーとハーモニーが素晴らしい曲はもっともっと沢山あるのだけど(「Caminhos Cruzados」とか「Surfboard」とか「Por Causa De Voce」とか色々ね)、まあ、あまり話しを膨らませ過ぎちゃっても良くないので、今回はここら辺で終わりにします。