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2011年7月21日 (木)













  Lamp・染谷大陽による月イチ連載コラム
  『遥かなる夏の残響』第3回目更新です。
  いよいよ夏本番、ということで今回は…。    





夏だ!Bossa Novaだ!

というわけではないが、今回はボサノヴァについて。


ボサノヴァとは、ブラジルで生まれた音楽。
僕がこのジャンルに興味を持ったきっかけは、欧米のポップスにはない、その和声感覚にあった。
ボサノヴァは、作曲に興味を持っていた僕にとって、非常に刺激的で、且つ魅力的に響いた音楽だった。


さて、ボサノヴァって興味があるけど、どこから聴いていいかよくわからないという方に向けての入門盤を僕なりにご紹介したいと思う。

まずは、入門盤1枚目としてお薦めなのが、Joao Gilberto(ジョアン・ジルベルト)の『Getz/Gilberto』という1963年のアルバム。
これは、ジョアン・ジルベルトという男の人の弾き語りがメインになっていて、そこに、スタン・ゲッツというアメリカ人サックス・プレイヤーがソロやオブリ(合いの手)を入れる構成になっている。
まず、ボサノヴァの第一歩として、このジョアンの呟くような静かな歌声に触れてもらえたらと思う。冒頭の「The Girl From Ipanema(イパネマの娘)」から不思議な時空間に誘われると思いますので。
収録曲のうち、特にアントニオ・カルロス・ジョビンの曲のクオリティが素晴らしく、メロディーと和声において、様々な工夫が見られる。ジョビンの曲は、その魅力からか、どれも数え切れないほどのカバー・テイクを生んでいるが、このアルバムに収録されているものは、あらゆるテイクの中でも一番良いと思う。
ジョアンのテイクは、余計なアレンジがないため、ほぼ作曲者が作った形のままの曲を感じ捉えることが出来る点でもお薦め出来る。
当時、ジョアンの妻であったアストラッド・ジルベルトが2曲ほど英語詞で登場するのもこのアルバムの一つの魅力であり、かなり良いアクセントになっている。この時、彼女は歌に関して素人だったのだが、先に触れた「The Girl From Ipanema」のヒットを機に、以後、歌手として本格的に活動することになる。聴いてみると感じると思うのだが、彼女の声は本当に不思議で、独特で、それでいて、心地良い響きを持っているのだ。歌が上手いとか下手とかそういう次元ではなく、響きが凄いのだ。リバーヴの雰囲気もいい。
アストラッド・ジルベルトの歌という観点から見ても、「The Girl From Ipanema」と「Corcovado」の2曲で聴けるテイクは、あらゆるアストラッドの残したテイクの中でも、最も素人臭く、最も凄みのあるものなのではないだろうか、と思う。
また、このアルバムは、ジョアン本人の歌とギターがきれいに生々しく感じられるのも嬉しい。彼の初期の3枚に比べて長めに演奏してくれている点もまた良いのだ。
これがアメリカ録音でアメリカのマーケットに向けて作られたものだということも、入門盤として馴染み易いだろうと思う。
アルバム全体の雰囲気は、これ以上ないっていうくらい落ち着いたものだ。
軽い言い方に聞こえるかも知れないが、「お洒落で聴き易い音楽」ということになる。
それはボサノヴァ全般にあてはまるといえば、そうなのである。

ブラジル国内では、60年代中盤にはボサノヴァのブームは沈静化していたと云われているが、その後も様式的に見て、ボサノヴァと分類出来るレコードはいくつも作られた。主に海外に向けて。

次に紹介するのは、Marcos Valle(マルコス・ヴァーリ)の『Samba ’68』という1968年のアルバムである。
これもアメリカのマーケットに向けて作られたアルバムで、ジョアンの『Getz/Gilberto』以上に入りやすい作品だと思う。
アルバム全編、マルコスと妻アナマリアの幸福感たっぷりのデュエットが聴ける。幸せ度で言えば、このアルバムが一番だ。
そして、このアルバムの最大の魅力は二人のハーモニーだと思う。二人ともヴォーカル・パートを難なく熟している所為か、あまり目立たないが、音程も非常に正確で、音楽として美しく響いている。また、そのハーモニーやユニゾンは、男女デュオのヴォーカル・アレンジのお手本のようで、アルバム中、様々なアイディアに溢れている。
特に代表曲である「So Nice (Summer Samba)」、「The Answer」や「The Face I Love」で聴けるハーモニー、そして、これぞボサノヴァと言いたくなるようなメロディーとコード展開はたまらない。
音楽を作る側から見ても、こういう曲からは、学ぶべきことがかなり多いと思う。

3つ目に紹介するのは、人生で最も好きだと断言出来るアルバム、Caetano Veloso(カエターノ・ヴェローゾ)とGal Costa(ガル・コスタ)の『Domingo』。1967年の作品だ。
このアルバムについては、何かあるたびに書いている気がするな。
好きであればあるほど、言葉で説明するのが難しい。
「如何に君の事が好きか」を伝えるのが難しいのと似ている。
人生から零れ落ちそうな日曜日、仄明るい空気、若者の危うさと憂い。

流れ出る空気の不安定さと気怠さ、音楽的な質の高さとが同居している。
こんな完璧なアルバムが他にあるだろうか。

ない。

このアルバムは、カエターノにとってもガルにとっても初めての録音だったと思う。
収録曲は、バイーア出身の盟友ジルベルト・ジルの2曲、そのジルやミナス出身のミルトン・ナシメントとほぼ同時期に脚光を浴び始めたMPBの雄エドゥ・ロボの1曲、トニーニョ・オルタ等が参加したという1974年のアルバムが有名なシヂネイ・ミレールの1曲、そして、残り8曲がカエターノのオリジナルとなっている。
カエターノはファーストにして25歳にして、どうやってこのクオリティの曲を作れたのか。「Um Dia」や「Onde Eu Nasci Passa Um Rio」、「Coracao Vagabundo」「Domingo」「Remelexo」などに耳を傾けて欲しい。本当に凄いから。
全てのジャンルで考えても、このアルバムに並ぶものは数えるほどもない。
変な話し、ロック・ファンでもこれはまいってしまうと思う。
僕もあなたもせっかくこの世に生まれてきたわけだし、これは手に入れたほうがいい。
そういうわけです。

最後に紹介するのは、先にも触れたアストラッド・ジルベルト。
ボサノヴァのお洒落な感じを気軽に楽しみたいなら、この人から入るのも良いのかなと思う。
スタジオ録音盤で数えると、1965年の1st『The Astrud Gilberto Album』や2nd『The Shadow Of Your Smile』、4枚目にあたるワルター・ワンダレイとの共同名義盤『A Certain Smile, A Certain Sadness』あたりがお薦め。
1st『The Astrud Gilberto Album』は、アルバムのサブ・タイトルに〈With Antonio Carlos Jobim〉とあるように、ジョビンの曲がほとんどで、中でも「Photograph」や「So Finha De Ser Com Voce」あたりはジョビンの作曲の技巧が光っていて、個人的に大好きな曲。「Once I Loved」「How Insensitive」「Meditation」「Dindi」「Dreamer」あたりの有名曲も、ボサノヴァの基本的なコード進行を抑えたような曲で、そういう意味でもこのアルバムはボサノヴァ入門にぴったりかもしれない。因みにピアニストであるジョビンは、ここではギターでの参加だそう。
2nd『The Shadow Of Your Smile』だと、「The Gentle Rain」や「Manha De Carnaval」などルイス・ボンファの静かで哀しい旋律の曲が光っている。タイトル曲、「The Shadow Of Your Smile」や「Fly Me To The Moon」のボサノヴァ・アレンジもかなりはまっている。特に「Fly Me To The Moon」のメロディーはボサノヴァ的だなぁなんて思ったものであった。「Non-Stop To Brazil」もボサノヴァらしい旋律を持った曲で、良い曲だと思う。アルバム全体を見ると、選曲を含め、ボサノヴァ色が濃い1stより少しだけポップス寄りになっていて、全体的に聴きやすくなっているかもしれない。
4thの『A Certain Smile, A Certain Sadness』は、何と言ってもワルター・ワンダレイのオルガンが全面に入っていることが特徴的だ。
ボサノヴァと云えば、まずガット・ギター。場合によってはピアノ。そして時にオーケストラ。そう考えると、ボサノヴァにオルガンを持ち込んだワルター・ワンダレイの功績は大きいのかも知れない。
マルコス・ヴァーリの「So Nice (Summer Samba)」やエドゥ・ロボの「Goodbye Sadness (Tristeza)」などの有名曲が聴けるのも嬉しい。
全体的には、ワルター・ワンダレイのオルガンの刻みが細かくなるようなテンポが速い曲が多く、しっとりと聴かせる曲がたまに入る構成で、気持ちよくさらっと聴けてしまう。
ワルター・ワンダレイのソロ・アルバムも悪くないのだが、やはり、それと同時に、可愛らしい素人、というか恐ろしき素人アストラッド・ジルベルトの歌が聴けてしまうこのアルバムはボサノヴァの魅力をわかりやすく伝えるであろう好企画盤だと思う。


アストラッド・ジルベルトの場合、曲作りや演奏に参加しない、ただのシンガーであるし、ベスト盤から入ってもいいような気がするが、オリジナル・アルバムにはそれぞれに色があるし、どれも良いので、結局全部聴いて欲しいということになってしまう。それに少しずつ聴いていったほうが、楽しみが増えるじゃない?
といいつつ、ベスト盤から入っても魅力は十分伝わると思いますので、ありだと思いますよ。

以後、入門盤としてはマニアックなので読み飛ばして欲しいのだが、アストラッド関連でいうと、クインシー・ジョーンズのサントラ『The Deadly Affair』収録の「Who Needs Forever」が良いので、ついでに書いておく。これはちょっと不気味でかなりかっこいい曲。こういう曲を作りたいな、と思う。
ちなみに、この曲以外はアストラッドの参加はなく、インストなので、そこは注意して欲しい。
それともう一つ、Stan Getzとのライブ盤『Getz Au-Go-Go』等に収録されている「It Might As Well Be Spring」も良い曲・良いテイクなので、是非聴いてみて欲しい。


最後になるが、ボサノヴァを聴き進めていく上で、必ず感銘を受けるであろう曲がある。
ざっと、羅列すると以下の通り。
「Chega De Saudade(想いあふれて)」
「Desafinado(ディザフィナード)」
「The Girl From Ipanema(イパネマの娘)」
「Felicidade(フェリシダーヂ)」
名曲とは誰のどんな演奏でも感動できてしまうもの。
ボサノヴァ初心者には、とりあえずはどのアーティストでもいいので、上に挙げた曲が入っているアルバムを買うことをお薦めしたい。

ボサノヴァと云われる中でも、メロディーとハーモニーが素晴らしい曲はもっともっと沢山あるのだけど(「Caminhos Cruzados」とか「Surfboard」とか「Por Causa De Voce」とか色々ね)、まあ、あまり話しを膨らませ過ぎちゃっても良くないので、今回はここら辺で終わりにします。


(文/Lamp 染谷大陽)


Lamp プロフィール

Lamp

染谷大陽、永井祐介、榊原香保里によって結成。永井と榊原の奏でる美しい切ないハーモニーと耳に残る心地よいメロディーが徐々に浸透し話題を呼ぶことに。定評あるメロディーセンスは、ボサノバなどが持つ柔らかいコード感や、ソウルやシティポップスの持つ洗練されたサウンドをベースにし、二人の甘い声と、独特な緊張感が絡み合い、思わず胸を締めつけられるような雰囲気を作り出している。 日本特有の湿度や匂いを感じさせるどこかせつない歌詞と、さまざまな良質な音楽的エッセンスを飲み込みつくられた楽曲は高い評価を得ている。これまでに6枚のアルバム(韓国盤を含む)をリリース。

  オフィシャルHP
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Live情報

Easel presents その3点
■出演: Lamp、馬の骨、七尾旅人
■日程: 2011年8月22日(月) 18:00開場/19:00開演
■会場: 渋谷duo music exchange
■チケット: 前売3800円(ドリンク代別)/当日4300円(ドリンク代別)
■主催・企画・制作: Easel
■協力: NATURAL FOUNDATION/felicity
/MOTEL BLEU/o-nest
■お問合せ: 渋谷duo music exchange(TEL 03-5459-8716 http://www.duomusicexchange.com
Easel(http://www.easelmusic.jp


CM情報

佐々木希さん出演のサントリー“カクテルカロリ。”CMソング「ロマンティックあげるよ」(アニメ「ドラゴンボール」エンディング曲)をLamp の榊原香保里さんが歌っています。



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商品ページへ   Lamp  『東京ユウトピア通信』
    [ 2011年02月09日 発売 / 通常価格 ¥2,500(tax in) ]     

どこを切っても現在進行形のバンドが持つフレッシュネスに溢れている。
真っ先に"成熟"を聴きとってしまいがちな音楽性にもかかわらず、だ。
そんな人達あんまりいない--そしてそこが素敵です。

- 冨田ラボ(冨田恵一) -
前作『ランプ幻想』では文字通り儚く幻想的な美しさと、巷にあふれるサウンドとは一線を画す質感を持った世界を作り上げ、あらたなポップスのフィールドを更新する傑作を作り上げた。2010年夏に発売された限定盤EP『八月の詩情』では、夏をテーマに季節が持つ一瞬の儚さを切り取った詩とその情景を見事に表現したサウンドが一体となり、より濃密なLampの世界を持つバンドの新たな可能性を提示した。そして待望のニュー・アルバムとなる今作『東京ユウトピア通信』は、EP『八月の詩情』と同時に並行して制作され、丁寧に1年半という時間を掛けて作り上げられた作品。そのサウンドは新生Lampとも言うべき、より強固なリズムアレンジが施され、これまでのLampサウンドを更に昇華させた独自の音楽を作り出している。冬という季節の冷たさと暖かさや誰もが一度は通り過ぎたことがある懐かしい感覚、どこかの街のある場所での男女の心象風景などこれまで同様に物事の瞬間を切り取った美しい歌詞を、新しいサウンドの乗せて編み上げた8曲の最高傑作。現在の音楽シーンにの中でも極めて独自な輝きを見せる彼らの奏でる音は、過去や現在を見渡してもLampというバンドしか描けない孤高のオリジナリティーを獲得し、新たな次元に到達している。



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※次回に続く(8/20更新予定)




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