【コラム】Akira Kosemura第25回 細い糸に縋るように Akira Kosemuraへ戻る

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2011年8月10日 (水)

連載コラム『細い糸に縋(すが)るように』
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小瀬村 晶 / AKIRA KOSEMURA

1985年生まれ。東京在住の音楽家、音楽プロデューサー。
これまでに国内外の音楽レーベルから作品を発表しているほか、TVやWEBのCM音楽、ファッションブランドのサウンドデザインなど、様々な分野で活動を展開。
2007年より自身が手掛けるレーベルSCHOLE RECORDSを主宰し、これまでに数多くの若手音楽家を発掘、作品のプロデュースも行っている。
2011年4月に自身5枚目となるソロアルバム「how my heart sings」を発表。



八月の陽射しを眺めながら、僕はこれを室内から書いています。

今年の春先から、いろいろなことがありました。
一番大きかったのはもちろん震災で、その翌月には自分のアルバムの発売、そして全国ツアーと、積み重ねてきた大切なことに一つ一つ向き合っていく日々に夢中で、あまり周りが見えていなかったのか、部屋から覗く庭の景色がいつのまにか森?のようになっていて、全国ツアーを終えた先月末に、二日掛けて庭の大改造に取り掛かりました。

というのも、毎日プランターの植物に水を差していて、ここまで気がつかないというのもおかしいというくらい(実際は気がつかないというよりは、気にしていなかったというほうが正しいのだと思う)、庭の半分はまさに森のような有様で、力強く生え渡った茎は無作為に、そして四方八方に広がり絡み合っていた!

正直なところ、僕は庭の半分が森であっても特に問題はないし、むしろそれはそれで、庭に自分だけの森があるようで、そんなに悪いものではない、と思っている。
おそらくそんな気持ちを抱いていたからか、毎日プランターに水を差しながら、視界には入っていたはずのその森に対して、殊更僕はなにかをしようとは思わなかったのだ。

そして、最初にも言った通り、庭にかまっているほど、おそらく気持ちの余裕もなかったのだと思う。
積み重ねてきた大切なことに一つ一つ向き合っていく日々に、いつ明日が終わってしまうかもしれないというような潜在的な恐怖心もあって、僕はきっと自分の生き方に自然と優先順位を付けてしまっていたのかもしれない。

なんてことをいまこのコラムを書きながら思い始めて、この推測を、もしかしたらということでこのまま進めていけば、これまたおそらく((僕の小さな森というのは、実は僕のなかに植え付けられた小さな恐怖心、体に内在し蓄積していることを知りながら手を付けられないでいるそれを示すメタファーのような役割を…))というようなことになりそうだったのでこの辺にして。

カマを使って一生懸命カットしながら少しずつ抜いていくのは、けっこうな力作業で、その後二日くらいは太腿の裏側の筋が張って痛かったくらい。
全身の力を掛けて引っこ抜こうにも、根が本当に深くまで広がっていたせいで、まったく抜けないものもあったり、驚異的な生命力とはこのことだなぁと痛感したのです。
一生懸命に手を掛けてもうまく育たなかったり、途中で枯れてしまったりするような植物もいるなかで、この森は本当に勝手気ままに育ってしまっていて、そういう意味では少し不思議でもあります。


二日ばかりだけれど、日中の間、庭で作業をしていると、毎日だいたい同じ時間にやってくる生き物がいることが分かりました。

お昼の時間には、大きな蜂が一匹、森の奥に咲いている青い色の花(もちろん勝手に生えて勝手に咲いた花なので名前は分からないんだけれど)の蜜を吸いに来るのです。
かなり立派な蜂なので、僕はそいつがやってくる度に、部屋のなかに逃げ込んでいなくなるのを待ちます。
(もちろん僕は食事の邪魔をする気はさらさらないけれど、勘違いがあっては困るし、なによりいまは森の伐採中なのでおそらく僕は敵とみなされます)

二時過ぎになると、今度はこれまた立派なアゲハ蝶が一匹やってきます。
ひらひらとその辺りを舞いながら、お隣の庭からうちの庭を行ったり来たり。
アゲハ蝶だし、特に危険はないかなと思って最初は作業を続けていたのだけれど、意外と勝ち気なやつだったのか、僕に向かって何度も体当たりしてくるので、ちょっとびっくりしてまた部屋のなかに逃げ込みました。
しばらくしていなくなったのを確認して、また作業を続けます。

二日の間、ほとんど同じ時間に、この蜂と蝶がやって来ては、おそらく食事なのか散歩なのか、彼らは彼らの日課を務めているのを知って、僕はなんだか違う世界の生活を垣間みたようで得をした気分でした。
僕の小さな森にも、それなりのドラマがあったのです。

というわけで、全国ツアーを終えてほっと一息、今回は自宅でのちょっとした出来事を書いてみました。


今年の夏は、そんなこんなでいろいろな所へ演奏しに行っては、美味しいものを食べさせてもらって楽しんでいますが、実はまだ海には行けていません。海をみたいなぁといまふと思い出して。

だけれど、8月12日からは中国ツアーです。
北京、上海、杭州、シンセン、広州と一週間で周ります。

帰ってきたら九州で二公演。それが終わると、もう夏も末。
夏はいつもあっという間。儚い季節。




  http://www.akirakosemura.com/
  http://www.scholecultures.net/

※現在scholeでは東日本大震災支援プロジェクト『SCHOLE HOPE PROJECT』が発足。
 詳しくはレーベルサイト http://www.scholecultures.net/にて。




 Akira Kosemuraの「今月のオススメ」
商品ページへ

 星野 源  『くだらないの中に』
    [ 2011年03月02日 発売 / 通常価格 ¥1,260 (tax in) ]

表題曲「くだらないの中に」は、耳に残る歌詞と美しいメロディが心を打つ楽曲。カップリングには既にライブで披露され、歌詞を掲載した広告も話題となっていた「歌を歌うときは」。新たなサウンドアプローチで聞かせる「湯気」。タムくんことウィスット・ポンニミットからの依頼を受け、マンガ『ブランコ』発売イベントのために制作し、一度だけ披露された同名曲。前作のリード・トラック「くせのうた」をハウスバージョン(家で一人で録る!)で収録した全5曲入りとなっている。

(HMVレビュー)







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  Akira Kosemura  『how my heart sings』

    [ SCH018 / 2011年04月11日 発売 / 通常価格 ¥2,310(tax in) ]





音楽は歌うように。
小瀬村晶、ピアノアルバム。

これまでに発表してきた4枚のソロアルバムを始め、様々な音楽家とのコラボレーション、TVやWEBなどへの楽曲提供、ファッションブランドへのサウンドデザインなど、小瀬村晶はデビュー以降、様々な手法で自身の音楽と向き合い、それを発信し続けてきた。
今作「how my heart sings」は、そんな彼が最も愛する楽器である「ピアノ」と向き合い、昨年の春から秋に掛けて、歌うようにして紡いできた音楽の記録である。
秋の夕刻、鈴虫が歌う初秋に、大倉山記念館にて録音された本作品には、昨年春のピアノコンサートツアーのために書き下ろされた楽曲やコンサートアレンジに加え、荒木真 (saxophone) と白澤美佳 (violin)を演奏家に迎えた楽曲、そしてツアー後に自宅スタジオで作曲された楽曲が収録されている。
この作品はなによりも、小瀬村晶という一人の人間が、自分の心に映っては消えていく旋律をピアノという楽器を用いて歌うようにして紡いできた、とてもプライベートな音楽である。そして時折、心を寄り添うようにして演奏される二人の音楽家によるハーモニー。

芽吹の春から、静謐な秋へ。音楽は歌うように。

  『how my heart sings』SPECIAL SITE




商品ページへ 【schole records最新作】

  mamerico   『minuscule』
    [ SCH019 / 2011年09月13日 発売 / 通常価格 ¥1,995 (tax in) ]

schole records より、瑞々しくてほんのり甘酸っぱい "歌と音楽" が潮風の匂いに乗ってやってくる。 関西在住、maya(作曲・ギター・歌)と、kazuma yano(作詞・デザイン・プロデュース)の2人による、極上"うたたね ゆるゆる" ユニット、mamerico(マメリコ)。 スウェーデン人のSSW、ヨハン・クリスター・シュッツ をプロデューサーに迎えたデビュー作『minuscule』は、なんとも穏やかな、ヨーロッパか、日本か、はたまた国境を超えて誰もが握りしめる、日常のほのかなノスタルジア。
音楽は maya のはなうたから生まれ、音色へと彩る yano の言葉に、そしてまた"音と言葉"は maya へと舞い戻る。 そんな方法で出来上がる mamerico の楽曲は、ジャズを基調にした穏やかなアコースティックワールドに、ブラジル音楽・ラテン音楽などが丁寧にブレンドされた透明感溢れるサウンドに仕上がっている。

ガーリーな言葉がワルツの中に散らばる「waltz for hulot」は(フランスの映画監督でコメディアン "ジャック・タチ" に捧げる曲)、まるでパリでのバカンスのごとくキュートでユニークな表情を浮かべ、「okiniiri」ではラテンパーカッションのリズムが清々しく、「snowdrop」ではジャジーにピアノがたゆたう。そしてボッサ調にはじかれるギターが心地よい響きの「a border」や、真水の様に透き通ったメロディが印象的な「tricolore」「natsu no stole」。 それはどれもシンプルなアレンジかつ無添加サウンドで、より一層、柔らかにそよぐ maya の歌声を染み渡らせる。

ラテンジャズが持つ清涼さに、日本情緒の素朴な香りで味付けした様な彼らの音楽。 まさに、mamerico が掲げる "ヨーロッパ的シエスタ感と日本的週末感"が、今作ではたっぷりと漂っている。 そしてアルバムタイトル「minuscule」=【小文字・小さなもの】を意味するが如く、 過ぎてはまた巡る、すきまだらけの日々を小さなスプーンでそっとすくい取った様な、愛おしくてたまらない色彩や匂いの欠片たちが、音楽となって、そっと、ここに。



次回へ続く…(9/12更新予定)。


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    新進気鋭のレーベル“schole”からMotohiro Nakashimaの最新作がリリース。
    暖かくて美しい極上のアンビエント・ミュージック。

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    【特集】schole records

    良質なエレクトロニカ/フォークトロニカ作品をリリースし続けるレーベル“schole(スコーレ)”。
    そのカタログタイトルをHMVスタッフが一挙レビュー。







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