【コラム】Akira Kosemura第27回 細い糸に縋るように Akira Kosemuraへ戻る

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2011年10月11日 (火)

連載コラム『細い糸に縋(すが)るように』
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小瀬村 晶 / AKIRA KOSEMURA

1985年生まれ。東京在住の音楽家、音楽プロデューサー。
これまでに国内外の音楽レーベルから作品を発表しているほか、TVやWEBのCM音楽、ファッションブランドのサウンドデザインなど、様々な分野で活動を展開。
2007年より自身が手掛けるレーベルSCHOLE RECORDSを主宰し、これまでに数多くの若手音楽家を発掘、作品のプロデュースも行っている。
2011年4月に自身5枚目となるソロアルバム「how my heart sings」を発表。



ポケットのなかにはビスケットがひとつ
ポケットをたたくとビスケットがふたつ
もひとつたたくとビスケットはみっつ
たたいてみるたびビスケットはふえる
そんなふしぎなポケットがほしい
そんなふしぎなポケットがほしい

きっと皆が知っているこの歌。
今朝はなぜだかこの歌が頭のなかで時々鳴っている。
歌詞がうまく思い出せなかったのでインターネットで調べてみて、こんな歌詞だったのかと知った。

初めて自分の人生についてぼんやりと眺めるようになったのは、たしか小学生の頃だったと思う。
当時は横浜のはずれの団地に住んでいたのだけれど、ある時、学校から帰ると僕の住んでいた棟のエレベーターホールに友達のお父さんがいた。
友達のお父さんはつなぎの服を着て、頭に鉢巻きをしてエレベーターホールのペンキを塗り替えていた、と思う。
帰ってきた僕に、「おお、お帰りー!」と気持ちの良い挨拶を掛けてくれたのをなんとなく覚えている。

その時に、僕はなんだか少し驚いてしまったのだ。つまり友達のお父さんは仕事をしていたわけなのだけれど、知っている大人が仕事をしている姿をみたのはそれが初めてだったからだ。

それからぼんやりと、僕も将来、なにか仕事をすることになるのだろうか、と考えるようになった。

小学生の頃は、中学生がとても大人に見え、中学生の頃は高校生が眩しかった。
高校生の頃は大学生に憧れて、いよいよ大学生の頃になると、突然、自分の将来の事を考えさせられるようになる。これが日本という国の教育システムの一部分である。

小学生の頃に僕のなかにぼんやりと植え付けられたその感覚は、心の隅っこで少しずつ膨らんでいき、大学生の頃になると、その膨らみが段々と心のなかの表舞台に広がっていく。
幸運な人は、その過程のどこかで自分の将来について、もちろん不安はあるけれどなにか進むべき道を見つけて、それに向かって努力できる。
だけれど、そういう人はきっと極僅かで、多くの若者は道に迷うわけではなく、道を見つけることができない。
僕もその一人で、世の中にはいろいろな生き方が溢れているけれど、僕はそのどれにも興味が持てなかった。


人生はポケットのようなものだと思う。
小学生の頃のポケットは、ほんとうはその、ふしぎなポケットだったのではないだろうか。
きちんと叩けば、どんな種もきっとポケットのなかに現れて、それを育てていくことができる。幸運な人はきっと、それを知っていたのだと思う。
僕の場合、ポケットを持っていたけれど、使い方がよく分かっていなかった。
いつのまにか僕の手元に巡ってきたものをひとまずそのポケットに入れておいて、あとはそっとしておいた。

よく音楽家という仕事をしていると、少し特殊な仕事だと思われているせいか、僕は夢が叶った幸運な人だと思う人がいるようだ。
それについて全てを否定するつもりはない。はっきりいって、僕は自分でも幸運だと思う。自分の境遇に感謝しない日はない。
だけれども、人生について考えるとき、僕は音楽家になりたいと思ったことは本当に一度だってなかった。夢にも思わなかった。
何にもなりたくなかった、というのが正直な気持ちで、どうせ決断するのはずっと先のことだし、その頃になったら考えればいいと思っていた。
本当に、殴ってやりたいくらい無責任な話だと思う。でもそれが本音だった。

しかし人生というのは不思議なもので、その時になると不思議と帳尻合わせのようなことが起きるのだ。
人はそれを運命と呼んだりするのだと思うけれど、ある時、僕にもそれが起こった。
そしてその時に、僕は否応無しに自分のポケットの中身を確認することになる。すると、僕のポケットにもそれなりに人生で巡り合わせたものが詰まっていた。僕はそのなかかから自分にしっくりくるものだけを選んだ。
いや、選んだというよりも、残ったというほうがしっくりくる。

そのときに気付いた答えが、ああ、僕は音楽家になるのか、という理解だった。

勘違いしないでほしいので言っておくけれど、僕は音楽が本当に大好きだ。
ある時それに気付いてから、僕は人生の多くを音楽に費やしている。いや、費やしているというよりも、捧げていると言ったほうが正しいくらい、音楽という存在に感謝さえしている。
しかし、それほど音楽を愛していても、その時までは、僕は一度も音楽家になろうとは思わなかった。

その答えを理解してからは、勉強の連続だし、悩むことも多いけれど、相対的にみて、人生は楽しいものだと思う。この先、もしかしたらまた別のきっかけがきて、違うことをすることになるかもしれない。それは僕にだって分からない。

いまになって思えば、人生はいつだってふしぎなポケットなのかもしれない、とも思う。
叩いていく度に、自分に必要なビスケットが増えていく。
そのビスケットをどうするのか、それはどうにも自分次第、そんな風にも思える。

最近、また一つのきっかけができて、僕の人生は大きな変化を迎えたと思う。
それは妻ができたということなのだけれど、妻をビスケットに例えると怒られそうなので、この話はこのへんで。




  http://www.akirakosemura.com/
  http://www.scholecultures.net/

※現在scholeでは東日本大震災支援プロジェクト『SCHOLE HOPE PROJECT』が発足。
 詳しくはレーベルサイト http://www.scholecultures.net/にて。




 Akira Kosemuraの「今月のオススメ」
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    [ 1971年(オリジナル) 発売 / 通常価格 ¥1,890 (tax in) ]

妻が好きで、朝によく掛かっている音楽。








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  Akira Kosemura  『how my heart sings』

    [ SCH018 / 2011年04月11日 発売 / 通常価格 ¥2,310(tax in) ]





音楽は歌うように。
小瀬村晶、ピアノアルバム。

これまでに発表してきた4枚のソロアルバムを始め、様々な音楽家とのコラボレーション、TVやWEBなどへの楽曲提供、ファッションブランドへのサウンドデザインなど、小瀬村晶はデビュー以降、様々な手法で自身の音楽と向き合い、それを発信し続けてきた。
今作「how my heart sings」は、そんな彼が最も愛する楽器である「ピアノ」と向き合い、昨年の春から秋に掛けて、歌うようにして紡いできた音楽の記録である。
秋の夕刻、鈴虫が歌う初秋に、大倉山記念館にて録音された本作品には、昨年春のピアノコンサートツアーのために書き下ろされた楽曲やコンサートアレンジに加え、荒木真 (saxophone) と白澤美佳 (violin)を演奏家に迎えた楽曲、そしてツアー後に自宅スタジオで作曲された楽曲が収録されている。
この作品はなによりも、小瀬村晶という一人の人間が、自分の心に映っては消えていく旋律をピアノという楽器を用いて歌うようにして紡いできた、とてもプライベートな音楽である。そして時折、心を寄り添うようにして演奏される二人の音楽家によるハーモニー。

芽吹の春から、静謐な秋へ。音楽は歌うように。

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  mamerico   『minuscule』
    [ SCH019 / 2011年09月13日 発売 / 通常価格 ¥1,995 (tax in) ]

schole records より、瑞々しくてほんのり甘酸っぱい "歌と音楽" が潮風の匂いに乗ってやってくる。 関西在住、maya(作曲・ギター・歌)と、kazuma yano(作詞・デザイン・プロデュース)の2人による、極上"うたたね ゆるゆる" ユニット、mamerico(マメリコ)。 スウェーデン人のSSW、ヨハン・クリスター・シュッツ をプロデューサーに迎えたデビュー作『minuscule』は、なんとも穏やかな、ヨーロッパか、日本か、はたまた国境を超えて誰もが握りしめる、日常のほのかなノスタルジア。
音楽は maya のはなうたから生まれ、音色へと彩る yano の言葉に、そしてまた"音と言葉"は maya へと舞い戻る。 そんな方法で出来上がる mamerico の楽曲は、ジャズを基調にした穏やかなアコースティックワールドに、ブラジル音楽・ラテン音楽などが丁寧にブレンドされた透明感溢れるサウンドに仕上がっている。

ガーリーな言葉がワルツの中に散らばる「waltz for hulot」は(フランスの映画監督でコメディアン "ジャック・タチ" に捧げる曲)、まるでパリでのバカンスのごとくキュートでユニークな表情を浮かべ、「okiniiri」ではラテンパーカッションのリズムが清々しく、「snowdrop」ではジャジーにピアノがたゆたう。そしてボッサ調にはじかれるギターが心地よい響きの「a border」や、真水の様に透き通ったメロディが印象的な「tricolore」「natsu no stole」。 それはどれもシンプルなアレンジかつ無添加サウンドで、より一層、柔らかにそよぐ maya の歌声を染み渡らせる。

ラテンジャズが持つ清涼さに、日本情緒の素朴な香りで味付けした様な彼らの音楽。 まさに、mamerico が掲げる "ヨーロッパ的シエスタ感と日本的週末感"が、今作ではたっぷりと漂っている。 そしてアルバムタイトル「minuscule」=【小文字・小さなもの】を意味するが如く、 過ぎてはまた巡る、すきまだらけの日々を小さなスプーンでそっとすくい取った様な、愛おしくてたまらない色彩や匂いの欠片たちが、音楽となって、そっと、ここに。



次回へ続く…(11/10更新予定)。


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