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2013年11月20日 (水)
連載 許光俊の言いたい放題 第225回「サヴァールと嶋護」
夏以来更新が滞っていた。書くべき材料はたくさんあるのに、十年以上懸案の本をようやく脱稿するまで、とてもじゃないが書く気がしなかったのである。
9月、早くも秋の気配が濃い札幌で聴いたサヴァールの演奏会はすばらしかった。香港公演では枯れているのに色っぽいのに驚いたが、札幌では予想外に溌剌としていた。音響抜群のKITARA小ホール、その理想的な席で聴く名手の音楽は、息をのむほど美しく、これほどのものは次はいつ聴けるのだろうと思うくらい圧倒的だった。「人間の声」というタイトルのアルバムを手に取れば、このソロ・コンサートの感じはわかる。ただ、このCDはサヴァールとしては音質が禁欲的で、この札幌でで、きるなら菅野沖彦録音で制作したら間違いなく人類の宝になったのにと惜しく思われた。実は札幌で彼が弾き出した途端にあっと驚いたのは、その音の鳴り方が、かつてこのコラムでも取り上げた、菅野録音のシュタルケルにあまりにもそっくりだったことなのである。楽器の鳴り方のイメージがそっくりなのである。
希有の名手ゆえ、サヴァールは東京公演も神戸公演も早々と売り切れ、東京では追加公演もあったようである。それも当然だろう。サヴァールの演奏は、ヨーロッパの一部では学術的には正確でないと不評のようだが、まったく馬鹿馬鹿しいことである。パリでもどこでも聴衆が押し寄せるのは、音楽的魅力ゆえであって、当たり前だが音楽家にとってそれ以上に重要なことなどあるわけがない。彼のCDはずいぶん手に入れて聴いてみたが、「夜への祈り」(Invocation a la Nuit)というアルバムが曲も演奏も音質もよくて特に気に入っている。
ところで、高音質のCDといえば『嶋護の一枚』(ステレオサウンド)という本が出た。かつて嶋氏は『クラシック名録音究極ガイド』という、LPレコードの本を出したが、今度はCDがターゲットなのでより一般的だ。取り上げられている盤は、ワルターの『巨人』のように有名なものから、ほとんど無名のものまで。それどころか、クラシック以外のジャンルも少なくない。これほど貪欲に録音で音楽を聴き続けている人もそうそういないだろうと思わせる。情熱がこもった、そして情報量も詰まった本である。嶋氏が録音の中に見た夢の世界が切々と語られている。
最近痛感するのだが、年を取るに従って、人生の中で余分なものが抜けていく。若いときはいろいろなことに興味を持って試してみるが、徐々に本当に好きなもの以外は消えていく。そういう点で、嶋氏はまさに自分の好きなこと以外には脇目もふらない、仙人のような人なのかもしれない。
嶋氏がどんな録音をすばらしいと考えているかは、これを読めばよくわかる。きわめてクリアに見渡せるような、会場の空間が再現されるようなものだ。意外なものも含まれていて、1度ならず読者は驚くのではないだろうか。え、ノイマン? ラインスドルフ? エッシェンバッハ? テミルカーノフ? そんなによかったっけ? ともう1度、私の場合なら書庫で探し回るはめになる。あ、ない・・・ということが多いのだが。
むろん嶋氏はこれらの演奏を褒めているわけだが、たまには、これは音質は極上だが演奏はつまらないという例も挙げてくれると、彼の価値観を理解するためにはより参考になったかもしれない。それとも、名録音はよい演奏とワンセットなのか。
いずれにせよ本書を読んでいて思ったのは、案外、嶋氏が褒める演奏・録音タイプ、すなわち音の直接的な美や力をことのほか喜ぶ演奏や録音は、一般の音楽ファンの好みに合っているのではないかということ。1度彼の勧めるCDをお試しあれ。なるほどと思うはず。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
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サヴァール/『夜への祈り』(アリア・ヴォックス創立10周年記念アルバム)
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サバール/《人間の声》〜無伴奏ガンバ作品集
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嶋護の一枚 The BEST Sounding CD
嶋護
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