メルドー×ジュリアナ電化コンバイン!
“メリアナ”の一大スペースオペラ!!

メルドー×ジュリアナ電化コンバイン、コンプリート！
変体“メリアナ”がつまびらかにした世界は、まさかのスペースオペラ!?

　ブラッド・メルドーの新作が届いたと喜びはしゃぐのは早計か。いくらメルドーが（伝統を踏まえながらも）新しいジャズピアノ・スタイル/サウンドの価値基準なるものを確立したレボリューショナリストとはいえ、今度ばかりは話のレベルが違う。

　何しろ新作はフェンダーローズとムーグシンセを思う存分使い倒してこさえたデュオ・アルバム。しかもそのデュオのパートナーが、ニューヨークいちの雑食漢（もはや主食はジャズではない？）にして、超凡なディープ・グルーヴを操る若き鬼才ドラマー、マーク・ジュリアナというのだから、ゼロ年代以降、ジャズの“NEW CHAPTER”に小躍りしているリスナーは気が気ではなかったはずだ。

　すでに両者によるプロジェクト「メリアナ（Mehliana）」は、「メリアナ・プロジェクト(Mehliana Project)」として2011年の夏あたりから精力的にギグを重ねており、ポストされまくっているYouTube動画をこまめにチェックしている人もきっと多かったと思われる。メルドー主導というよりは、いくらかジュリアナの趣向が色濃く反映されていると言っていいかもしれない。

　つまり、ミシェル・ンデゲオチェロとの共同制作となる『Beat Music』や“Heernt”『Locked In A Basement』(2006年)といったリーダー作品でクールに迸らせた、ジュリアナのポストロック〜エレクトロ〜インディロック、あるいはミニマリズムに対するロマンが、メルドーという“よき理解者”とのガチジョイントによってさらにスペーシーにブーストされた。そんな印象を抱かせる。そしてこのたび、想像をはるかに上回る、無限（夢幻）のパノラマ宇宙へと意識を飛ばすエレクトリック・サウンドが届いてしまった。

　ジャズ・シーンでは泣く子も黙る千両役者として、過去・現在・未来を自由に行き来する彼ら。だからといって、もちろん共同プロダクツがジャズでなければならない必要性はどこにもない。

　グラスパー・エクスペリメント、エリマージ、ブライアン・ブレイドといった、ヒップホップ/ビート革命etcとの連携プレーで時代を拓く新世紀のブラック維新軍とはまた異なる方法論で生み出された、箍の外れたジャズ・ミュージシャンによる新しいサウンド・フィギュア。 「これは何だ？」と尋ねられれば、おもむろに「スペースオペラ」と答えるのがどのみち賢明か。

『Mehliana: Taming the Dragon』 収録曲

　SFムードもグッと高まるナレーションを散りばめながら円盤は浮かび上がる。中期ピンク・フロイド、トントズ・エクスパンディング・ヘッドバンド、マーカス・ベルグレイヴ、富田勲、マニュエル・ゲッチング、オウテカ、YNQ、ラス・G、オンラ･･･壮大なスペースコロニーの住人たちに手を振って。もちろんレディオヘッド以降のオルタナティヴ群像や音響哲学にもこれ以上ないシンパシーを抱きながら。さらにタイトル曲からは、ジュリアナならではのインディ、ガレージロックへの心情三派も汲み取れるというもの。

　「Luxe」、「You Can't Go Back Now」、この圧巻の展開はどうだ。ムーグが縦横無尽に拡張しながら煌く「The Dreamer」、スペーシードローンの極北（？）「Sleeping Giant」、“ゲンズブールもやっぱり宇宙人だったか”と納得しきりの「Gainsbourg」、ベースミュージックやヒップホップとの交感怱々たるギャラクティックなビート絵巻「Just Call Me Nige」、「Sassyassed Sassafrass」など全12曲。しかしこれは、1曲たりともオミットすることができない、まさしく黄道十二宮〜十二星座のようなもの。つまりトータル71分の一大組曲なのである。

　「ジャズ星に謎のクリーチャー現る」とガチガチの古参に鼻で笑われてもどこ吹く風。いずれにしても融合変体メリアナのこのスペースオペラ、2014年シーンのバリアフリーな潮流を雄弁に物語るプログレッシヴ・ミュージックとして方々で話題になることは確実だろう。

　メセニー・グループ『Kin (←→)』同様、昨今トレンドになりつつあるCD付きアナログLPも3月にリリースが決定。スペーストラベラーDJ諸氏はこちらもお見逃しなく！

ブラッド・メルドー プロフィール

1970年8月23日フロリダ州マイアミで生まれ。本格的なクラシック・ピアノの教育を6歳からを受け、14歳でジャズ・ピアノに傾倒する。 高校時代は、バークリー音楽大学主催のコンペティションで「最優秀オール・アラウンド・ミュージシャン賞」を受賞する。高校卒業後89年にニューヨークに進出し、「ジャズの道に進むため」と、フレッド・ハーシュやジミー・コブに師事する。ニューヨークのクラブを拠点にたちまち頭角を現すと、94年にはジョシュア・レッドマン・カルテット『ムード･スウィング』のセッションに抜擢され、一躍世界中の注目を浴びる。そこでの演奏が認められワーナーブラザーズと契約し、翌95年にメジャーデビュー作『イントロデューシング・ブラッド・メルドー』を発表。「同年の最優秀ジャズ･アルバムの一つ」（ワシントン・ポスト紙）と賛辞を浴びた。

デビュー作の録音に前後して、ラリー・グレナディアとホルヘ・ロッシィとレギュラートリオを組み、「アート・オブ・ザ・トリオ」と冠したシリーズ作品を5枚リリース。ジャズ雑誌の読者投票や批評家投票で最優秀に選ばれたほか、シリーズ2作目と4作目は、グラミー賞にノミネートされるという快挙を成し遂げた。ピアノソロの作品も同時進行で発表しており、“哀歌”を主題にした『エレゲイア・サイクル』(1999年)と、東京すみだトリフォニーホールで収録された『ライブ・イン・トーキョー』(2004年)がある。また、ロックとジャズのスピリットが融合した実験的作品『ラーゴ』、作曲された場所の名前が全曲につけられた『プレイシズ』などコンセプト･アルバムも制作している。2005年11月にリリースされた『デイ・イズ・ダン』は、ロックのようなビート、現代クラシック音楽、スイングなど様々なスタイルを取り入れた意欲作。自己のアルバム以外では、チャーリー・ヘイデン、リー・コニッツ、ウェイン・ショーター、ジョン・スコフィールド、チャールズ・ロイドなどトップミュージシャン達との共演も多い。彼のレコーディング活動はジャズ界にとどまらず、カントリー・ミュージック界の大御所ウィリー･ネルソンやシンガー・ソング･ライター、ジョー・ヘンリーの作品にも参加。また、メルドーの音楽はスタンリー・キューブリック監督の「アイズ・ワイド・シャット」、ヴィム・ヴェンダース監督の「ミリオンダラー・ホテル」を含め数々の映画音楽にも起用された。フランス映画「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」のオリジナル・サウンドトラックも手掛けた。

2005年にはカーネギーホールでソプラノ歌手ルネ・フレミングと共演し、オリジナル歌曲を披露した。2006年にはジャズ・シーン最大のプロジェクトでもある夢の顔合わせが遂に実現。ノンサッチ・レーベルが誇る、ジャズ界ナンバーワン・ギタリスト、パット・メセニーとブラッド･メルドーによるスーパープロジェクト第1弾として『メセニー・メルドー』をリリース。2007年には『カルテット』をリリース。パット・メセニー、ブラッド・メルドー、ラリー・グレナディア、ジェフ・バラードが参加し、メセニーのメロウなギターとメルドーの詩的なピアノが織り成す、鮮烈かつ繊細なるモダンアートな仕上がりとなっている。トリオによるライヴ・アルバム『LIVE IN MARCIAC』や、作曲家/ピアニストのケヴィン・ヘイズ、作曲家/アレンジャーのパトリック・ジマーリなどの現代音楽アーティストとのコラボレーションも行なう。2013年には、ジョシュア・レッドマンのスタジオ・アルバム『ウォーキング・シャドウズ』のプロデュースも手掛けた。

マーク・ジュリアナ プロフィール

Modern Drummer誌に「ドラミングのエキサイティングなニュースタイルの最前線に立っている」と評された、アメリカはニュージャージー出身のマーク・ジュリアナ。ユニークで妥協を許さないドラムスタイルは、リーダーとして、また名サイドマンとして、アメリカ国内にとどまらず、世界的に高い評価を獲得してきた。
2004年に“実験的ガレージ・ジャズ”トリオ、HEERNTを結成。そのデビュー・アルバム『ロックド・イン・ア・ベイスメント』はイエス〜キング・クリムゾンの伝説的ドラマー、ビル・ブラッフォードが「これほど豊かでドラマティック、美しく、また生意気でジャンルの境界を吹き飛ばすようなものは、聴いたことがない」と語るほど。サイドマンとして、ジュリアナは長らくアヴィシャイ・コーエンとともに活動を共にしており、2003年から2008年までのツアー、そして6枚のスタジオ・アルバムでアヴィシャイの脇を固めている。さらに彼は、ミシェル・ンデゲオチェロ、ウェイン・クランツ、ジャズ・マンドリン・プロジェクト、ティグラン・ハマシャン、ジェイソン・リンドナー、マティスヤフ、ボビー・マクファーレンなど多彩なジャンルのアーティストと活動している。また2013年春にはミシェル・ンデゲオチェロとの共同プロデュースによる初ソロ・アルバム『Beat Music』をリリースしている。