「爆クラ+爆ショパン」 鈴木淳史のクラシック妄聴記へ戻る

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2015年1月18日 (日)

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第58回

 昨年末は、「爆クラ」というアルバムにちょいと関らせていただいた。湯山玲子の監修で「クラブ耳に贈るクラシック」というキャッチで、ただのコンピレーション・アルバムの選曲を超え、はっちゃけた内容でとんでもない分量のライナーノーツが付いている。元はと言えば、世界各地のクラブ・シーンにめちゃめちゃ詳しい湯山さんが、クラシックだってクラブ・ミュージックになり得るんじゃね? という確信から始まった企画なのだが、これがクラシック耳の皆さんにも結構お薦めなのだ。

 ハウス、テクノといったクラブ系の音楽は、フロアの客を踊らせ、忘我に至らせてなんぼの音楽。そのむき出しのリズムはすべての音楽の原点であるし、そして多様性を含んだまま何時間にも渡る構成は、まさしくマーラー以降の交響曲の世界だ。
 意外性のある位置から光を浴びせたおかげで、すれっからしのわたしもクラシックの新たな魅力に気づかされ、ついでにクラシック耳で聴くクラブ・ミュージックも結構いけるんじゃね、なんて気分にもなったのであった。
 このアルバムが縁になって、湯山さんとわたし、そしてジェフ・ミルズの三人でライヴストリーミングチャンネルのDOMMUNEに出演したのだが、テクノ界の大御所アーティストがバリバリのクラシックをどう聴いてくれるかと放送前はちょっと気掛かりだった。しかし、ジェフはブルックナーを「一つひとつが構造全体を予期している音楽」と喝破し、バルトークの作品を高く評価していた。さすが、第一人者は違う。そういえば、バルトークは民謡を収集して、それをクールな手付きで組み立てた作曲家でもある。まさしく、世界初のテクノDJだったんじゃないかとふと思っちゃったりしてさ。

 さてさて、年が明け、毎度通常営業のわたくしとしては、お屠蘇の一つも口にせぬのだけど、お屠蘇気分を猛烈な勢いで吹き飛ばしてくれるディスクが、ラルス・フォークトのショパン・アルバムだった。これが予想以上の大当たり。
 最初のバラード第1番は、主部に入ると、どんより沈殿していくような翳りが加わる。まさしく、これはシューベルトの世界ではないかっ。キラキラしたアルペッジョが弾かれ、この曲がショパン作品であったことに気づく。
 なんといっても、フォークトは、弱音へのこだわりがすごい。夜想曲などでも、ニュアンスたっぷりに何段階にも音が落ちていく様子にはゾクゾクしてしまった。

 スケルツォ第2番は、あのポゴレリチの名盤を思わせる強さと透明感がある。さすがにあれほどのエキセントリックさ、そして雄弁に踊り狂う左手はないものの、硬質な美がギンギンに迫ってくるショパンだ。
 中間部のトリオの美しさは限りない。しかも、なんという諦念の濃さなのだろう。このへんもどこかシューベルトっぽいのだわよね。その旋律が絶妙な弱音で翳りを帯びると、閃光のごとく主題動機が帰ってくるのだが、そのあたりの流れは絵画的といっていい鮮やかさだ。

 ピアノ・ソナタ第2番は、さらに強烈な世界が待っていた。まず、ルバートがカクカクしてメカゴジラ的。テンポの切り替えが鋭利で、リズム構造がスケスケ。そして、その行間から立ち上がってくるようなショパンならではの豊穣な香り。明晰さと詩情。
 最終楽章プレストは、ショパンが書いたもっとも奇妙な音楽といえるかもしれない。葬式の参列者のおしゃべりを描いたとか、枯葉が風に吹かれる様子を表わすなどといわれるこの音楽、ユニゾン三連符を強弱のメリハリをハッキリと付け、七転八倒、運命の糸がこんがらがるように弾くのが、これまでの解釈だった。そして、その糸がプッツリと切れるように明快な終和音が導かれる。
 しかし、フォークトの「糸」はそれ自身の動きをはっきりと聞かせる。抑揚なしに、純然たる線の音楽として弾かれるショパンは、バッハというか、コンロン・ナンカロウの自動ピアノなんかも彷彿とさせるほどで、ちょっとこれは何時代の音楽なのかわからなくなってしまう。どこへ向かって進んでいるか判然とせぬ音楽に耳を凝らしていると、白々とした孤独感が込み上げてくる。すっかりやられた。

 フォークトは、現代のドイツを代表するピアニストだと予てより思っているのだけど、最近はコンチェルトの用事でしか来日してないのは実にもったいのうございますな。日本でもソロ・リサイタルをやってくれよーと願っているものの、やはりシュパヌンゲン音楽祭にでも足を運ぶしかないのだろうかのう。

(すずき あつふみ 売文業) 

評論家エッセイ情報
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爆クラ! Vol.01 Classic Rave-クラブ耳に贈るクラシック-

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  • クラシック音楽 異端審問

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