バーディー 5年ぶりのニューアルバム『Young Heart』 ジョニ・ミッチェルやニック・ドレイクの世界に触れることで新たなインスピレーションを得た 儚げで美しいポートレイト

2021年03月29日 (月) 18:30

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バーディー 5年ぶりのニューアルバム『Young Heart』 ジョニ・ミッチェルやニック・ドレイクらの世界から新たなインスピレーションを得た儚げで美しいポートレイト

12歳でレコード契約を手にし、15歳でアルバムデビュー。ボン・イヴェールの楽曲をカヴァーしたシングル「Skinny Love」で一躍名を轟かせ、そのピュアクリスタルヴォイスで本国イギリスだけでなく世界を虜にした、深窓のシンガーソングライター、バーディーが約5年ぶりとなるニューアルバム『Young Heart』を完成させた。

前作『Beautiful Lies』をリリースした時は19歳。当時そのサードアルバムを “私の成人 (マイ・カミング・エイジ) の記録” だと語っていた彼女。今回リリースされる最新作は、現在24歳となった彼女にとって20代最初のアルバムであり、グラミー賞へのノミネート、絶え間ないツアー、2012年のロンドン・パラリンピック開会式への出演など、様々な経験を経て大人へと成長したひとりのシンガーソングライターの記録でもあるのだ。

5年ぶりということで、一見長いブランクがあったように思われるが、バーディーにとって、それは成長に必要な時間だったという。その間彼女は、足を止め、ナッシュヴィル、そしてLAへと向かい、ジョニ・ミッチェルやニック・ドレイクといった先人シンガーソングライターの世界に触れることで、新たなインスピレーション、そして言葉を得たという。

「いままで聴いたことがなかったジョニ・ミッチェルを聴くようになったの。年齢のせいかどうかは分からないけど (笑)。でも聴いた途端、これ、もう最高!って。それこそ自分で曲を作るのが難しくなるぐらい聴きすぎて、これぐらい素晴らしいものができないんだったら作る意味ある?って思ってしまうほどだったわ」。LAへ向かったきっかけについて彼女はそう語る。

そして偉大なるシンガーソングライターたちが次々と音楽を生み出した街を訪ねたことにより、彼女は自分の内なる音世界の外へと踏み出したのだ。「LAという大きな街で、自分の小ささを思い知った。大きな都市があり、その背後には山並みがそびえていたりと、とにかく広かった。ただいるだけで、全然違うところに来たという感じがしたの」。



Surrender [Official Video]


Loneliness [Official Lyric Video]




次に彼女が向かったのは、息をするように音楽を生み出し、互いに切磋琢磨しているミュージシャンやソングライターがあらゆる場所に暮らしているアメリカンミュージックの聖地、ナッシュヴィルだった。失なわれた恋や愛の悲しみを歌った曲が数多く生まれたその街で、バーディーはソングライターとして大きな刺激を受けたようだ。「ナッシュヴィルで曲作りをするのは、これまでとは全く違う体験だったわ、周りの人たちは皆同じミュージシャンだったから。彼らは皆プロだし、本物のストーリーテラーだった。だからこそ、私のことも理解してくれた。自分で曲を作っている時、大体音楽が先にできて、なかなか歌詞が浮かんでこないの。自分の曲で描きたいもの、伝えたいことは、感覚としてあるんだけど、誰かに言葉を引っ張り出してもらえるのも良いと思ったの。これを言いたかったんでしょって、正解が出るまで繰り返し聞いてくるような人が必要だったのかも知れない」。

そうして完成したバーディーの4thアルバム『Young Heart』は、2015年の前作『Beautiful Lies』のドラマティックなサウンドに比べるとフォーキーでシンプルなプロダクションに仕上がっている。「前作はもっとシアトリカルだった」。そう彼女は表現している。「色々なことが入っている、壮大なプロダクションだった。それに比べると今作は全体的に削ぎ落されている。必要ないものは入っていない。装飾はなにもないの」。

『Beautiful Lies』をおとぎ話と例えるなら、『Young Heart』は、若き悩めるアーティストのリアルな肖像だと言えるかもしれない。アルバムの幕開けを飾る「Voyager」は相手がまだ知らない状況で恋愛関係に終止符を打つ痛みを美しく綴った曲であるが、その後に続く楽曲も、不和や孤独、まだ愛している人への愛惜、愛と失恋の中心に哀しみがあるのを知ること、旅にあこがれつつも、よく知る家の温かさにひかれるなど、光と影、広大な空間と家の中、隠れたいと思う気持ちと新たな場所へ逃れたいと思う気持ち、様々な対比と葛藤が描かれている。

美しくも儚げで、それでいて壮大な空気を感じさせるシングル「Surrender」を聴けば、今作での彼女で描きたかったものを垣間見ることができるだろう。

「このアルバムはとってもパーソナルな作品なの。この5年間で私はすごく成長したし、自分の世界に対する理解を形作るような新たな経験もしたし、それによってアーティストとしての自分自身への理解も深まった。このアルバムは私にとって大きな意味を持っているの― そこを大切にしたかった」。

温かい家を離れ世界へ飛び出し、恋のよろこびと愛の厳しさを知り、手放すことを覚え、それでも自分がまだ立っていることに気づく。少女から大人になったひとりの若きシンガーソングライターの繊細で美しいポートレイト。それが本作『Young Heart』なのかもしれない。


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