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橋本徹の新『音楽のある風景』対談 Page.3

2009年12月9日 (水)

interview

橋本徹

橋本徹氏によるアプレミディ・レコーズの『音楽のある風景』シリーズも待望の第4弾にてついに完結編を迎えました。このシリーズは移りゆく季節を感じながら音楽を聴く喜びと、まだ知らぬ音楽との出会いに深く感動できる作品であり、幅広い音楽リスナーが末永く楽しめる作品です。そんな『音楽のある風景〜冬から春へ〜』(心温まるクリスマス・プレゼントとしても最適です!)の発売を記念して、街がクリスマスの支度に賑わう某日、今回も渋谷・公園通りのカフェ・アプレミディにて選曲・監修をされた橋本徹氏と、『音楽のある風景』のシリーズおよびサバービア〜アプレミディのライナーの執筆を手掛ける音楽文筆家の吉本宏氏、そしてアプレミディ・レコーズの制作担当ディレクターの稲葉昌太氏を交えて興味深く嬉しいお話を聞くことができました。

また今回『音楽のある風景〜冬から春へ〜』をお買い上げいただきますと先着で、『音楽のある風景』をめぐる旅と季節をテーマにした書き下ろしエッセイやディスクガイドを含む、橋本徹氏の監修・編集による『音楽のある風景』オリジナル読本もご用意させていただきましたので、ぜひこちらもお楽しみください!

●05. All I Want / Maria Pia De Vito, Danilo Rea, Enzo Pietropaoli, Aldo Romano

吉本:イタリアのサウンドトラックのレーベルが母体となったCAM JAZZからのリリースだね。彼女も母国語ではなくキュートな英語で歌っているのがいい。

橋本:やはり「All I Want」という曲が好きで、「I've Got You Under My Skin」もそうだけど、この曲のカヴァーならジャズ・ヴォーカルに限らず何でも聴きたくなるし、この曲は今回の選曲を輝かせるためのひとつのキーでもあったね。

吉本:ジョニ・ミッチェルの「All I Want」は、アーティストや歌い方によって、力強くも切なくもなれる歌だけど、このヴァージョンはサロン・ジャズ的な軽やかな仕上がりになっているね。

稲葉:ジョニ・ミッチェルの曲は、元々の歌の中にフォークやシンガー・ソングライターからジャズまでの要素が感じられるから、表現者によってすごく歌の表情が変わることが多いという気がします。これはグルーヴィーでスウィンギーで。

山本:ニック・デカロも1974年の『Italian Graffiti』でカヴァーしていますが、この曲あたりから、木もれ陽系から光が射してきて多光感に包まれる感じになりますね。




●06. Reading Your Lips / Sigurdur Flosason Iceland Super Jazz Quartet

橋本:僕の中では北欧っぽい響きというか、イェレーヌ・ショグレンの「The Real Guitarist In The House」のようなオーロラを思わせる女声ボサ・ジャズの系譜にある曲なんだ。『音楽のある風景』の王道というか(笑)

吉本:確かにオーヴェ・ルンディーンのピアノにイェレーヌの歌声が冷たく澄んだ空気の中を疾走するような爽快感に似ているね。

稲葉:サックス奏者のシグルズール・フロサソンはアイスランド・ジャズの大立者という感じの人で、彼が本国のジャズのトップ・プレイヤーを集めてつくったカルテットです。

山本:アイスランドはシュガーキューブス、ビョークを生んだ国ですね。

橋本:ビョークの初期のアルバム『Gling-Glo』などを聴いても、ジャズも盛んな国なんだなと思うよね。




●07. Bird Of Beauty / The Joe Gilman Trio

吉本:「Bird Of Beauty」もまさに“橋本徹の好きな一曲”というイメージ(笑)。

稲葉:ジョー・ギルマンのトリオはリズム隊が黒人だというところもポイントです。

山本:スティーヴィー・ワンダーのカヴァー集の第2作からですね。

橋本:昔からあるジャズのビートルズ・ソングブックみたいな感じで、21世紀に入って、スティーヴィー・ワンダー・ソングブックというものが、ある意味でニュー・スタンダードとして定着してきているし、「usen for Café Après-midi」の選曲などでもピアノ・トリオでスティーヴィーというのはとてもよく映えるよね。

吉本:コンコードのステファン・スカジアリ・トリオの「Golden Lady」の端正なピアノ・トリオ・ヴァージョンとかもね。

山本:このあたりの感覚が『音楽のある風景』ならではの、埋もれた名曲カヴァーに光を当てる、いわゆる“生き返らせ”としての意義がありますよね。




●08. Big Yellow Taxi / Rachel Z

橋本:ジョニ・ミッチェルもスティーヴィー・ワンダーと同様にジャズの世界でもソングブックが増えているね。

稲葉:ハービー・ハンコックのジョニ・ミッチェル・トリビュートなんかも大きな話題になりましたね。今まではシンガー・ソングライターやソウルの世界のものだったものがインストゥルメンタルのジャズの世界でもニュー・スタンダードになっていっています。

橋本:そんなジョニ・ミッチェルの再評価の決定打になったのが「Big Yellow Taxi」だね。ジャネット・ジャクソンのサンプリング以降、どんなヴァージョンでかけてもその場に笑顔の花が咲く絶大な人気曲。

山本:特にこのレイチェル・Zのピアノのタッチはとてもいいですね。

吉本:「usen for Café Après-midi」では、彼女のカヴァー演奏としてはシャーデーの「Kiss Of Life」もよく流れていたね。

橋本:今回も正直どっちにするか結構迷ったんだけどね。思わず山本さんに相談してしまったぐらい(笑)





profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz