100人の偉大なアーティスト - No. 46

2003年5月7日 (水)

■Fela Kuti (Anikulapo)フェラ・クティ（アニクラポ）

ナイジェリア出身で伝統的アフリカ音楽にジャズ、レゲエ、ソウルを取り入れ、アフロビートと自ら名づけたジャンルを確立、ボブ・マーリィと並んでその後の音楽シーニに大きな影響を与えてきたワールド・ミュージックの巨人、Fela Kutiフェラ・クティ。

自らをナイジェリアのブラック・プレジデントと宣言し、自分の音楽スタイルをアフロ・ビートと呼ぶことをマスコミに宣言したのが1968年、そう、それ以前には『アフロビート』という言葉など産まれてなかったのだ。

彼は1938年にナイジェリアの首都ラゴス北部の、アベオクタで生まれ、10代半ばから音楽の道へ進み20の頃、ロンドンに音楽留学し白人社会、人種差別など社会的情勢などを知り翌年にはアメリカへ渡りサンドラ・イシドア・スミスと出会い黒人解放運動、マルコム・Xなどの思想的影響を受け自身の音楽への反映を始める。この頃ミドル・ネーム「Ransome」を白人らから強制されるも自ら「Anikulapo」（死を制御する者）と改名。

そして帰国後の1970年、同国を訪れたJames Brown＆JB'Sと交流し帰国後、フェラ＆アフリカ７０を結成しアフリカ音楽に根差したサウンドにジャズやファンクなども取り入れたジャズからの影響を大きく受けたポピュラー音楽ハイライフを発展させた「アフロビート」と、ナイジリア政府に反発する政治的なメッセージを強めた歌詞で人々に衝撃を与えた。

Fela Kutiはプロデューサー、アレンジャーでありながら、その歌詞はナイジェリアの非民主的で腐敗した政府たちを罵り、捻じ曲げられた信念の下の政治を支持する一部の裕福なナイジェリア国民・ナイジェリア政府に、音楽という芸術を通じて一人、立ち向かったのだ。その姿は一般市民の希望の糧となり国民たちから愛され、またFela Kuti自信も国民から支えられていた。

Felaと同郷のKing Sunny Adeキング・サニー・アデやChief Ayinde Barristerらは政治批判などを歌うわけがなく、当時、アウトローな姿勢をとっていたミュージシャンはフェラだけだったという。カラクタ共和国という自らのコミュニティーを作り、歌にして世界にナイジェリアの腐敗した政府を批判する歌を歌い続けるも1974年・不当な麻薬不法所持で逮捕、少女誘拐疑惑、といったこれまた不当な逮捕で牢屋生活を余儀なくされる。この不当逮捕を歌にした「Alagbon Close」や「Expensive Shit」で警察を皮肉り全面的に政府を批判した。

反発に恐れた上流階級や政府関係にある人々は遂にフェラを弾圧、不当逮捕は勿論、Felaへだけでなく、彼の家屋や家族・親戚は無残にも襲撃され、それが原因で母が亡くなっている。それでもつかさず「No Agreement」（政府には屈しない！）と歌い戦い続け、27人の妻との合同結婚式も行った（このバイタリティ、凄いっ！）。

1980年代に入ってからRoy Ayersロイ・エアーズと交流し共演作品Music Of Many Colorsを発表、そしてアリスタと契約、バンド名をエジプト80と改名。エレクトリックなサウンドの導入を試みるといった精力的な活動を続け、またしても不当逮捕、政治批判を繰り返し、1997年8月2日、エイズによりこの世を去る。

彼を崇拝するアーティストは数多くおり、2002年に発売されたエイズ撲滅のための慈善アルバムRed Hot + Riot (Fela Kuti Tribute) にはSadeシャーデー、 D'angeloディアンジェロ、Macy Grayメイシー・グレイ、Commonコモン、Meshell Ndegeocelloミシェル・ンデゲオチェロ、ＲＥＳ、アフロ・ジャズ天下のManu Dibangoマヌ・ディバンゴ、Nile Rogersナイル・ロジャーズ、ジャズ界からは、Archie Sheppアーチー・シェップ、らが参加しており、フェラから受けた影響を認め、リスペクトの意を評している。

彼の強いメッセージは海を越えて国境を越えて世界中に伝わった。こんなに強く、こんなに信念を通して音楽活動を続けてきたアーティストはBob Marleyに匹敵するし、以後この男Fela Kuti以外出現していない。彼を突き動かすものは何か？と言われれば恐らく真っ黒に汚れたナイジェリア政界で、彼の音楽は悪への不屈の闘志の表現そのもの。時代・政治背景を踏まえて彼の音楽を是非一度聴いてみて欲しい。何か伝わるものがあるはずだから。