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橋本徹の『Folky-Mellow FM 76.4』全曲解説 橋本徹(SUBURBIA)関連記事まとめへ戻る

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2014年6月11日 (水)




現代の陰影ゆらめく心模様を優しく彩り、ロード・ムーヴィー的なイメージで心地よく演出してくれる、フォーキー・メロウな珠玉の名作を収録した絶品コンピレイションが登場です。

Brighten my northern sky〜あのニック・ドレイクの名曲のように切なくも安らか、儚くも甘美なフォーキー・メロウな傑作をたっぷり収録した、現在ヒット中の『Urban-Mellow FM 77.4』に続く待望の新作。
若き日に感銘を受けた映画や小説の一場面、人生の大切な景色がよみがえるようなアコースティック・ギターの爪弾きと センシティヴな歌声。朴訥とした歌い口が過ぎ去りし日々へのノスタルジアを静かに呼び起こすピアノやサクソフォン。
遠い渚への海岸沿いのドライヴや、沈みゆく夕陽に染まる黄金色の光景の中で聴きたくなる、“どんな気分のときにも気持ちがしっくりくる海"(by ベン・ワット)のようなフォーキーかつメロウな音楽。ニック・ドレイク/ニール・ヤング/サンダーキャットといった多彩なカヴァーも絶品揃いの、ジャズとSSWとポップスが瑞々しくしなやかに交錯し、甘やかに心の殻を溶かしてくれる珠玉のコンピレイション!



過去から現在へ、そして未来へつながるフォーキー・メロウな物語。

 『音楽のある風景』シリーズ、『チルアウト・メロウ・ビーツ』、『素晴らしきメランコリーの世界』、USENの大人気チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」の10周年記念作品『Haven't We Met?』、『サロン・ジャズ・ヴォーカル』シリーズ、『ブルー・モノローグ』など常に良質なコンピレイションを発表し続けている橋本徹さん監修の「アプレミディ・レコーズ」より、『Seaside FM 80.4』、『Twilight FM 79.4』、『Urban-Resort FM 78.4』、『Urban-Mellow FM 77.4』に続く、“架空のFM”シリーズ待望の最新作『Folky-Mellow FM 76.4』が登場です。サブタイトルには、ニック・ドレイクの歌詞の一節“Brighten my northern sky”が付けられているように、この作品には彼へのトリビュートの意味もこめられています。近年の橋本さんによるフォーキー・メロウな選曲の集大成であり、「心の調律師のような音楽」をキーワードに描いた『素晴らしきメランコリーの世界〜ギター&フォーキー・アンビエンス』や、“ニック・ドレイク・チルドレン”と言われるフォーキーなSSWを多く収録した『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』の兄弟編ともいえる一枚であり、音楽の心地よさとともに強いメッセージ性も汲みとることができます。

収録内容はフォーク寄りの曲だけではなく、ジャズやソウル、ミナスやアルゼンチンの南米音楽に、世界各地のブラジリアン・ミュージック、さらにアンビエント〜ビート・シーンの知られざる名曲まで織り交ぜながら、その密接に交差する風景を見事に21世紀の空気感で描いているのは、さすがの一言です。さらには今年20周年を迎えたフリー・ソウル・シリーズでも、重要な役割を担った“フォーキー”“メロウ・グルーヴ”な名作たちと時を越えて共鳴しています。つまりこれは過去から現在へ、そして未来へ数珠つなぎのように綿々とつながるフォーキー・メロウな物語なのかもしれません。そして橋本さんもこのコンピについて「2014年上半期ベスト・ソングがずらりと並んだ」と述べているように、やはり珠玉と呼ぶにふさわしいラインナップが顔をそろえています。個人的にも共感できる部分が多く、というか趣味にフィットし過ぎで、ここに収録されたアーティストだけで“Quiet Corner”が作れそうな、そんな興奮を隠しきれませんでした。

山本勇樹 (ローソンHMVジャズ担当)



橋本徹の『Folky-Mellow FM 76.4』全曲解説

黒字 → 橋本徹 青字 → 山本勇樹 


01.Song For Nick / Dana Tupinambá
オープニングはオーストリアの女性SSWによる、ニック・ドレイクに捧げられたフォーキー・メロウ・ブラジリアン。可憐で清楚な歌声、トニーニョ・オルタの影響を感じさせるガット・ギター。オーストリアとブラジルを行き来して録音され、自然の中に佇むグリーンのスリーヴに彩られ2012年に発表された『Leaf』の中で、とりわけ強く惹かれた曲です。タイトル通りニック・ドレイクへの想いがこめられた歌詞には、彼の曲名やゆかりのフレーズも織りこまれ、ニックの母モリー・ドレイクに対し、その娘という印象さえ抱くほどで、“May you be the wind / May you be a wave / May you be the rain”や“Sounding blue, truthfully blue, sounding blue so inside”といった一節は、特に胸に響きます。“木の葉”とともにインナー・スリーヴに綴られた“Music is always floating with the wind to reach us with its magic”という言葉そのままの、そよ風のような音楽。


02. From The Morning / Nicked Drake
“スコットランドのニック・ドレイク”の異名も持つ、昨年来日を果たしたグラスゴーのSSW、ガレス・ディクソンによるニック・ドレイクのカヴァー・プロジェクト“ニックド・ドレイク”より、前曲に引き続きニック・ドレイクへのトリビュート曲です。まるでニック・ドレイクの魂が乗り移ったような歌声と演奏。やはり『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』に収録されたガレス・ディクソンによるアンビエント・フォークの名曲「Two Trains」同様に、そこには孤高のシンガー・ソングライターならではの憂愁の歌心を感じます。全曲ニックのカヴァーを収めたアルバム『Wraiths』ももちろん必聴です。


03. Blood/Chest / William Fitzsimmons
かつて橋本さんが選曲した『素晴らしきメランコリーの世界』の「ピアノ&クラシカル・アンビエンス」と「ギター&フォーキー・アンビエンス」にダブル・エントリーされた米国のSSW、ウィリアム・フィッツシモンズによる今年になって届けられた待望の新作『Lions』より、彼らしい淡々とした静謐なグルーヴを宿した一曲です。“You are the blood in my chest. The bird gathering nest. The sea which won't rest. Till I'm home.”という歌詞の内容もたまらなく胸に切なく響きます。思わず感情の置き場に迷ってしまいそうなくらい、男の哀愁に感極まる名作です。


04. Fire-Scene / S.Carey
『素晴らしきメランコリーの世界〜ピアノ&クラシカル・アンビエンス』には、心震わすピアノが胸に迫る「We Fell」を2010年のファースト『All We Know』から収めたS.キャリーことショーン・キャリーは、ご存じジャスティン・ヴァーノン率いるフォーク・ロック・バンド、ボン・イヴェールのメンバーでもあるマルチ・インストゥルメンタリスト。この曲は、そのジャスティンもゲスト参加してウィスコンシン州の彼のスタジオでレコーディングされた、今春リリースのセカンド『Range Of Light』に収録されていた、僕にとってはいつでも気持ちを落ち着かせてくれる穏やかな海のような逸品。その意味で、ホセ・ゴンザレス「Heartbeats」とベン・ワット「North Marine Drive」を結ぶような存在です。吐息のような歌声、アコースティック・ギターのアルペジオ、ほのかに香るメランコリーと繊細なエレクトロニクス、そしてここでもピアノの響きが奇跡的。ミニマル・ミュージックを聴くように聴けるフォーク、その美しい音とジェントルな佇まいは彼ならではの個性で印象的です。


05. All Your Days / Jesse Harris
レベッカ・マーティンとのワンス・ブルーにはじまり、ノラ・ジョーンズとのコラボレイション、そして最近ではヴィニシウス・カントゥアリア、ダヂと共にトリオ・エストランジェイロスというグループを組んだりして、フォーキーな音楽性を軸にした多彩な活動が魅力的なニューヨークのSSW、ジェシ・ハリス。こちらは彼のソロ・アルバム『Sub Rosa』からの一曲で、得意の耳馴染みのよい軽快なメロディーと、ジャズやソウルのエッセンスを振りまいた、さりげないけど絶妙な都会的アレンジメントが、60年代グリニッチ・ヴィレッジの街角を彷彿させます。


06. Ambitions & War / JBM
JBMはカナダ出身のSSW、ジェシ・マーチャントの個人によるプロジェクトで、以前『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』の全曲解説を行った際も、橋本さんは特別付録の『アナザー・ブルー・モノローグ』に彼の「Going Back Home」を選んでいたので、お気に入りのアーティストのようです。その音楽はやはり同郷のブルース・コバーンやレナード・コーエン直系の胸を打つ内省感が特徴的ですが、それだけでは終わらないメロディー・メイカーとしての魅力もあり、この「Ambitions & War」はその真髄がよく表れていると思います。“Quiet Corner”推薦アーティストでもありますが、ジェシはソンドレ・ラルケのアルバムに参加するなど、幅広い交友関係をもっていることも注目です。


07. Micheline / Sun Kil Moon
こちらは元レッド・ハウス・ペインターズのマーク・コズレックによるソロ・プロジェクトのサン・キル・ムーン。『素晴らしきメランコリーの世界〜ギター&フォーキー・アンビエンス』には「You Are My Sun」が収録されていたように、橋本さんが描くフォーキーな風景には欠かせないSSWの一人です。この「Micheline」が収録された『Benji』は、彼の身近に起きた死をテーマにしたアルバムであり、深い悲しみを背負った者にしか表現できない音楽として強いメッセージをリスナーに投げかけています。カルロス・アギーレも絶賛した彼の陰影美に満ちた音楽、この曲(橋本さんは曲の後半のデヴィッド・ボウイ『Young Americans』が出てくるところが好きだと話していました)、もしくはこのコンピを聴いていると、なぜなのか、ホセ・ゴンザレスの新作はいったいいつ届くのかと、そんなことを思ってしまうのは僕だけでしょうか。


08. Fogo De Palha / Eugenia Melo E Castro feat. Toninho Horta
ポルトガル出身の女性歌手エウジェニア・メロ・イ・カストロが2011年に吹き込んだ、“街角クラブ”周辺のミナス名曲集『Um Gosto De Sol』からのセレクション。ミルトン・ナシメント/ベト・ゲヂス&カエターノ・ヴェローゾ/ヴァグネル・チゾなど、作者本人も迎えながらのコラボレイション〜カヴァーが素晴らしく、中でも白眉は、このトニーニョ・オルタをギター&ヴォーカルでフィーチャーした爽やかな名演。ミナス特有の美しい浮遊感と、甘やかなサウダージ・フィーリングが溶け合い、瑞々しい初夏の風に吹かれるようです。


09. Mirando La Ciudad Vacia / Rompecabezas
スペイン語で“パズル”という意味を持つ、アルゼンチンのインディー・シーンから登場したハヴィエル・アマディーニ率いるクインテットの2013年のデビュー・アルバム『Rompecabezas』からのエントリー。様々な南米のスタイリッシュなリズムをしなやかに解釈し、ジャズの香りをたたえながら、特筆すべきは、ネオ・アコースティック〜ボサノヴァ好きの琴線に触れる、その歌心とメロディー・センス。カルロス・アギーレ周辺、特にルス・デ・アグアやランブル・フィッシュに通じるナチュラルなセンティメント、と書けば伝わるでしょうか。16枚の歌詞カードを並べるとパズルになる、アーティスティックなこだわりと手作りのクラフト感に好感を抱くボックス仕様のパッケージも素敵です。“bar buenos aires”レーベルでぜひ日本盤リリースを。



10. Harvest Moon / Scott Matthew
二ール・ヤングの名曲「Harvest Moon」といえば、過去にも橋本さんのコンピではカサンドラ・ウィルソンやジェーン・バーキン、ショーナ・アンダーソンにプールサイドなど、数々の名カヴァーが収録されてきましたが、このスコット・マシューも負けず劣らず絶品のヴァージョンで、前半の淡々としたウクレレとピアノによるメランコリックな演奏から、中盤に訪れる希望の光というか、ポップに展開するアレンジは、何度リピートしても静かに心を躍らせます。橋本さんは“「Harvest Moon」は人生の大切なシーンとともに記憶されるべき曲”と語っていましたが、選曲の中にこういったささやかな幸福が訪れると、聴いていて嬉しいですね。たとえばビーチ・ボーイズでいえば『Surf’s Up』から『Sunflower』へ、この一曲の中にそんな移りゆく景色がよぎりました。



11. Is It Love? / Diggs Duke
現在最注目のアーティストと言ってもいい、ジャズとソウルの未来を切り拓く黒人SSWにしてマルチ・プレイヤー。2014年上半期に聴いたアルバムの中でベスト3に入る、ジャイルス・ピーターソンのブラウンズウッドからリリースされた『Offering For Anxious』の中でも、ミゲル・アットウッド・ファーガソン以降を感じさせるクラシカルなヴァイオリンがリードする、このサンダーキャットのカヴァーには衝撃を受けました。黒く艶光りしながらもフォーキー・メロウな感触、甘美で優雅な香り高き絶品。ジャズとソウル、そしてJ・ディラ〜マッドリブ〜フライング・ロータスにも通じるモダンなビート・ミュージックのハイブリッド。ピアノを中心とした洒落たアンサンブル、フランク・オーシャンにも例えられる存在感あるヴォーカルは、ジェイムス・ブレイクがポスト・ダブステップの歌もの最高峰なら、ポスト・LAビートの歌もの金字塔と並び称したくなってしまうほどですね。



12. And Then / James Tillman
続いても2014年屈指のニュー・ディスカヴァリーにしてブライテスト・ホープとなるニューヨークの黒人SSW。フォーキー・メロウとはまさにこのこと、と思わず歓喜してしまった温もりに満ちたアコースティック・ジャジー・ソウルで、まず何よりも、優しいストリングスと対話するような歌声が好き。一聴して、こういうのが聴きたかったと思ったEP『Shangri La』は、配信オンリーでしたので、ゆったりしたグルーヴに乗るこの曲も世界初CD化です。ダニー・ハサウェイ〜リロイ・ハトソン〜テリー・キャリアーからジェシ・ボイキンスやクリス・ターナーまでを連想させるジェイムス・ティルマンですが、他の曲も甲乙付けがたく、「Shangri La」は来たる『Free Soul〜2010s Urban-Sweet』のためにライセンス申請中、胸に沁みる「Love Within」にはニック・ドレイクを思い浮かべずにはいられません。



13. Birds In Spring / The Ryan Driver Quintet
このところ充実を極めているトロントのアヴァン・フォーク/ジャズ系インディー・シーンの重要バンドの知る人ぞ知る名盤ながら、とても入手困難だったライアン・ドライヴァー・クインテットの『Plays The Stephen Parkinson Songbook』が、ついに6/22に日本盤リリースされます(しかもオリジナルCDには記載されていなかった歌詞付きで)。1930〜50年代の古いジャズにインスパイアされた、スティーヴン・パーキンソンのペンによるロマンティックな情趣と洒落た言い廻しに胸を動かされる名曲群は、シックでラウンジーな心地よさと前衛的なセンスが絶妙のバランスで両立する彼らの新しい解釈によって、まさに“21世紀のスタンダード”と言うにふさわしい叙情と陰影をまとっています。僕にとって出会いの曲となった「Birds In Spring」のファースト・インプレッションは、ずばり“チェット・ベイカー・ミーツ・エリック・シェノー”。まさにチェットのような憂いを帯びた“Feeling so blue”な歌い口、『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』にフリーキーなギターに陶然となる「Amazing Backgrounds」を選曲したエリック(やはりトロント・インディー・シーンの重要ミュージシャンです)の幽玄と夢幻。“Just dreaming of you. Are you a fantasy? What is reality?”という部分では、ビーチ・ボーイズ「Disney Girls」も脳裏をよぎる、心の柔らかい部分を締めつけられてしまうラヴ・ソングです。



14. A Flower My Love Grows / Heirlooms Of August
前曲を優美に受ける流れは、まさにフォーキー・メロウ。ヘアルームズ・オブ・オーガストという何ともユニークなグループ名ですが、もしかしてUSのインディー・フォーク・シーンを熱心に追っているリスナーならその名を知っているかもしれません。なぜならこの曲が収録された彼らの『Forever The Moon』は、サン・キル・ムーンのマーク・コズレック主宰のレーベル「Caldo Verde」から発表されているからです。さらにその中心人物はレッド・ハウス・ペインターズのベーシスト、ジェリー・ヴェッセルということで、こういうストーリーを感じさせる橋本さんの選曲はいつもながらに大好きです。



15. Icebreakers / Diagrams
続いて収録されたダイアグラムスは英国のフォーク・グループで、この曲は彼らが「Full Time Hobby」レーベルに残したEPに収録されています。「Full Time Hobby」といえばレイジャー・ソサエティーやタンをすぐに思い浮かべますが、そう、実はこのダイアグラムスはタンのメンバー、サム・ジェンダースが率いるバンドなんです。田園風景を彷彿させる、黄金色の木もれ陽系サニー・フォークといった感じで無条件に好きです。そして『音楽のある風景〜冬から春へ』に収録されたタンの「Beautiful And Light」同様に、アコースティックなアンサンブルに優しく寄り添う効果音の使い方もイマジネイションをかきたてます。



16. Pink Moon / Misja Fitzgerald Michel feat. Me'shell Ndegeocello
ジム・ホールに師事したフランス出身のジャズ・ギタリストが2012年に発表したニック・ドレイク・カヴァー集『Time Of No Reply』(表題曲は今年ECMから出たノーマ・ウィンストンのヴァージョンも大好きでした)から、極めつけの一曲。歌っているのは、『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』にはジョー・ヘンリー・プロデュースの「Oysters」を入れた黒人女性シンガー兼ベーシストのミシェル・ンデゲオチェロ。彼女はこの「Pink Moon」がよほど好きなのか、“A Dedication To Nina Simone”と題した昨秋の来日公演でもカヴァーしていました。ブラッド・メルドー「River Man」あたりを皮切りに、『Free Soul〜2010s Urban-Mellow Supreme』にはエリオット・スミス 「Between The Bars」カヴァーを収録したテイラー・アイグスティの「Pink Moon」にも象徴されるように、昨今のジャズ・シーンでは、ニック・ドレイクやその系譜にある内省的な白人SSWの作品をレパートリーにすることが、ひとつの特筆すべき傾向となっていますね。ミシャ・フィッツジェラルド・ミシェルも“A Portrait Of Nick Drake”というタイトルでヨーロッパ各地でコンサートを行い、彼の楽曲やギター奏法を研究していたそうです。このカヴァー・アルバムが“ノン・ジャンル・ミュージック”を標榜する「NO FORMAT!」というレーベル(ゴンザレスの『Solo Piano』やバラケ・シソコ&ヴィンセント・セガール『Chamber Music』も僕の愛聴盤です)からリリースされているのも、素敵な話だと思います。



17. Obsession Never Sleeps / Scott Matthews
ニック・ドレイクの後継者の名を挙げるとしたら、『素晴らしきメランコリーの世界〜ギター&フォーキー・アンビエンス』に「Road」のカヴァーを選んだスコット・アッペルも忘れるわけにはいきませんが、もうひとりのスコットとでも言うべき、この英国のSSWを絶対にはずすことはできません。儚くも美しい残響の効いたアコースティック・ギター、夢幻のようにたゆたうストリングス、ジェフ・バックリーと比較されることも多い(ルーファス・ウェインライトのファンにも薦めたいですね)幽玄ヴォイス。これほど“陰影”という言葉が似合うSSWもいないかもしれません。チェロはダニー・キーン、ダブル・ベースにダニー・トンプソンという布陣の2011年作『What The Night Delivers…』収録のこの曲は、タイトルや弦のアレンジもどこかニック・ドレイク的。このアルバムからは、トム・ウェイツ(そしてレイフ・ヴォルベック「1921」)を思わせる「Piano Song」も『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』にセレクトしましたから、この『Folky-Mellow FM 76.4』は、個人的に最も思い入れの深いコンピレイションである“ブルー・モノローグ”の再プレゼンテイション、という意味合いも、僕にとっては大きいのかもしれません。そうした観点からも、スコット・マシューズは大切な存在です。スミス「心に茨を持つ少年」のカヴァーで初めて衝撃を受けたのは8年前(彼はジョニ・ミッチェルやレナード・コーエンの名曲もカヴァーしています)、そのときのことは拙著「公園通りみぎひだり」に刻明に描かれていますので、よかったら読んでみてください。


18. Lusuki / Tiganá Santana
先日アプレミディ・レコーズより知られざる名盤『The Invention Of Colour』が日本発売されたチガナ・サンタナが、はやくもここにエントリーされました。橋本さんはこのアルバムと『Folky-Mellow FM 76.4』、そして続けてリリースされるライアン・ドライヴァー・クインテットを、三部作のように考えているのでしょう。“アフロ・ブラジリアンのニック・ドレイク”という異名通り、スピリチュアルな魅力にあふれたバイーア出身のSSWです。その深い情感が滲みでたソウルフルな歌声と、豊かで美しく内省的なサウンドを耳にすれば、フリー・ソウル・ファンなら、テリー・キャリアーや、ブッカー・T、ジョン・ルシアンといったレジェンドたちの姿を思い浮かべるはずです。それはアフロ文化に根ざしたリズムやグル―ヴを内包した共通の精神性ゆえかもしれません。独創的なチューニングを施した5弦ギターによる演奏も聴きどころですね。とにかく名曲揃いなので、ぜひアルバム単位で聴いていただきたいアーティストです。


19. Canto Da Água / Sérgio Santos
バイーアからミナスへつながる美しい選曲の流れです。この『Folky-Mellow FM 76.4』が単にSSWを集めたコンピでないことはもはや明確ですが、ラスト2曲の連なりを聴けば、その理由はより一層明らかになります。セルジオ・サントスといえば『素晴らしきメランコリーの世界〜ギター&フォーキー・アンビエンス』に「Saluba」が収録されましたが、やはりここ数年のミナス・ミュージックを代表する音楽家として注目を浴びています。ギターを奏で、歌を紡げば、暖かな風を運んでくるようで、「水の歌」というタイトル通り純真無垢なナチュラルな眼差しが心地よい、瑞々しく叙情にあふれたエンディングです。ゆったりとその安らかな余韻が心の中を泳ぐのを感じたとき、このコンピのキーワードの“メロウ”が“サウダージ”と表裏一体の関係にあることに気付きました。



プロフィール

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは250枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。




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  • 音楽のある風景〜冬から春へ〜

    CD コレクション

    音楽のある風景〜冬から春へ〜

    価格(税込) : ¥2,515
    会員価格(税込) : ¥2,313
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,139

    発売日:2009年12月17日


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  • 音楽のある風景〜秋から冬へ〜

    CD コレクション

    音楽のある風景〜秋から冬へ〜

    価格(税込) : ¥2,515
    会員価格(税込) : ¥2,313
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,139

    発売日:2009年09月17日


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  • 音楽のある風景〜夏から秋へ〜

    CD コレクション

    音楽のある風景〜夏から秋へ〜

    価格(税込) : ¥2,515
    会員価格(税込) : ¥2,313
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,139

    発売日:2009年06月25日


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  • 音楽のある風景〜春から夏へ〜

    CD コレクション

    音楽のある風景〜春から夏へ〜

    価格(税込) : ¥2,515
    会員価格(税込) : ¥2,313
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,139

    発売日:2009年03月26日


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洋楽3点で最大30%オフ このアイコンの商品は、 洋楽3点で最大30%オフ 対象商品です

アプレミディ・レコーズ・アーティスト・シリーズ

  • Plays The Stephen Parkinson Songbook

    CD

    Plays The Stephen Parkinson Songbook

    The Ryan Driver Quintet

    価格(税込) : ¥2,420
    会員価格(税込) : ¥2,226
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,057

    発売日:2014年06月22日


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  • Invention Of Colour

    CD 紙ジャケ

    Invention Of Colour

    Tigana Santana

    価格(税込) : ¥2,640
    会員価格(税込) : ¥2,429
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,244

    発売日:2014年04月27日


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  • Lovers & Dub Classics

    CD

    Lovers & Dub Classics

    The Decoders

    価格(税込) : ¥2,420
    会員価格(税込) : ¥2,226
    まとめ買い価格(税込) : ¥2,057

    発売日:2013年08月08日


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  • Songs Remain

    CD 紙ジャケ

    Songs Remain

    Simon Dalmais

    価格(税込) : ¥2,515

    発売日:2012年08月12日


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  • Lui

    CD 限定盤

    Lui

    Lui

    ユーザー評価 : 3点 (1件のレビュー)
    ★★★☆☆

    価格(税込) : ¥2,515
    会員価格(税込) : ¥1,760

    発売日:2010年08月05日


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  • Crema

    CD

    Crema

    Carlos Aguirre Grupo

    ユーザー評価 : 5点 (2件のレビュー)
    ★★★★★

    価格(税込) : ¥2,750
    会員価格(税込) : ¥2,530

    発売日:2010年07月22日


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