Top 100 Albums - No.59

2004年3月26日 (金)

59位ランク・イン『クロージング・タイム』 。この作品について何から話そう…。普通ならば、『酔いどれ詩人』の謳い文句で始まって簡易なバイオを書くのだろうが、どうもこのトム・ウェイツという人だけは、どっかの音楽業界が作ったキャッチコピーを掲げて説明なんぞしたくない。とは言いつつも、『おっとっと、こんな時間だぜ。飲みすぎちまった』、『おいおい、オレが酔ってんじゃねぇゾ。ピアノが酔ってんだ』、『オレは素面だぜ』、『俺はまっすぐ歩いてんのに、道が勝手に曲がりやがる』と、ひたすら飲んだくれ語録を残している所以からか「酔いどれ詩人」というのは悔しいかなピッタリなコピーだ。

ピアノが弾ける男にめっぽう弱く、オレ流を貫く男がめっぽう好みの私にしてみれば、煙草の煙にまみれるピアノ・バーでポロリンと愛おしそうに鍵盤に触れ、グラスをピアノの上に置き一杯ひっかけながら適当にボヤく…というスタイル、その歌われる詩はまるで人生の哲学そのもので、つい自らの人生を振り返り、自らの生き様に疑問を投げかけてしまいたくなる。遅い夕食が終わり、皿を洗いながら聴くとナンとも人生の酸いも甘いもワビもサビも…てな具合でググっと沁みるんだなぁ。

すでに二十歳そこらにして人生を悟り、哀愁を背負った男トム・ウェイツ、彼は1949年12月07日、アメリカはカリフォルニア生まれ。いくらかの小銭を懐に入れLAは「ザ・トルバドール」を目指し、見事アサイラムと関係のあったハーブ・コーエンにより見出され、当時アソシエイションラヴィン・スプーンフルティム・バックリーらを手掛けていた敏腕プロデューサーであり元MFQラヴィン・スプーンフルの後期メンバーでも知られるジェリー・イエスターと出逢う。そしてジェリーのバックアップのもと、めでたくアサイラムよりデビューすることになる。

ここで紹介する1973年発表のデビュー・アルバム『クロージング・タイム』は、 エルトン・ジョン『黄昏のレンガ路』オールマン『Brothers And Sisters』ピンク・フロイド『The Dark Side Of The Moon』ら音楽性豊かな数多くの傑作が産出され、ビルボードを圧倒していた1973年に発表。本作は当時、そんな華々しい記録や名誉も受けていなし、音楽性という観点から言えば斬新でもないし、さほど衝撃的ではないだろうが、ちょっと待ってくれ、これはそんな風にセールス記録や賞やらで評価される作品ではないのであしからず。

1曲目“OL’55”のイントロ。♪ワン・トゥー・スリー・フォー〜、そして指が鍵盤に触れ♪Well, My time went so quickly〜(時はすぐにいってしまう〜)とのっけからペーソスを醸し、始まって僅か数秒で裏町のシミ汚れたピアノ・バーに居るようなトム・ウェイツの描く世界へ想いを駆り立てられる。トムの盟友であるシェップ・クック(g)、腕利きスタジオ・ミュージシャンとして著名なビル・プラマー(b)、ベニーグッドマン楽団でも演奏していたトニーテラン(tp)ら優れたミュージシャンがバックを固めているのも特筆すべきだろうが、やっぱり、トムのピアノが何より骨身に沁みる…。

♪月と僕、そして真夜中に戯れる怠け猫〜♪とまるで恋をした狼が月に吠えるように歌う“Rosie”、昔愛した女性へのあまりにも美しい愛の詩“Martha”、ジャズ調なサウンドで滑稽なアイスクリーム屋を演じる“Icecream Man”、殺伐とした都会の冷たさを歌った“Lonely”、♪君の愛の翼に乗って天国へ小さな旅をする〜♪とソングライティングのセンスも聴かせる傑作“Little Trip to Heaven”、後半最大の聴かせどこ“Grapefrut Moon”…、どれを聴いても泣けてくる。そして終焉を飾るタイトルトラック“Closing Time”においてはもはや言葉を失う。

リマスターや紙ジャケ、SACDが出ないのが残念だが、つい昨年の12月、このアルバムがアナログ重量盤(盤がブ厚い)にて再発され、そのアナログの音の良さに度肝を抜かされた。針を落としてチョットした質高なオーディオで聴いてみればCDで聴いていたタッチとケタ違いで優劣歴然といった感があったので、チトお高いけどLP重量盤もオススメしておきたい。だって、これイイ金の使いみち。

※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

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Closing Time

CD 輸入盤

Closing Time

Tom Waits

ユーザー評価 : 4.5点 (19件のレビュー) ★★★★★

価格(税込) : ¥1,364
会員価格(税込) : ¥1,019

発売日:1991年01月12日

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