Top 100 Albums - No.9

Saturday, May 15th 2004

英語を覚えたての中学生でも簡単に訳せるぐらいに随分とシンプルな言葉であるが、典型的な日本家屋に住む庶民派のロック・ファンにとってはとても罪な言葉である。日本の家屋の殆どでは大音量で音楽を浴びるように聴く、なんてアナーキーな行為はご法度中のご法度。遠〜い遠い夢みたいな話だ。しかし、一度でいいからこのアルバムをフル・ヴォリュームの爆音で聴いてみたい！誰しもがそう思ったことであろう。そう、これはデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』のジャケットの裏に書かれている言葉である。

スタイルや音楽性をコロコロと変えていくことで知られるデヴィッド・ボウイが1972年に発表したアルバム『ジギー・スターダスト』（当時の邦題は『屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の郡』）はボウイのグラム・ロック時代の大名盤であり、彼自身の最高傑作でもある。

『ジギー・スターダスト』は5年後に消滅する危機に直面している地球に現れたロック・スター、ジギー・スターダストを主人公とする物語を題材としたコンセプト・アルバムである。名盤と謳われるだけあって無駄な曲などあるはずもないのだが、ハイライトと思える曲を幾つかピックアップしたいと思う。

オープニングを飾る“5年間”は地球に残された時間はあと5年間という報道により人々の精神が徐々に崩壊していくなか、主人公の男は愛しい人を想うというある種究極のラヴ・ソング。後ろから徐々に近づいてくる足音のようなドラムのイントロから始まり、ワウとエコーを利かせたギターにボウイの絶叫交じりのヴォーカルが世界の終わり感を巧妙に演出している。

ポコポコとしたパーカッションの音が小気味よい2曲目の“魂の愛”は全体的に甘いムードが漂うロマンティックなナンバー。幾重にも重ねたコーラスがまたそれを助長している。

3曲目の“月世界の白昼夢”は力強いミック・ロンソンのギターが聴きドコロ。このまま昇天してしまうのではないだろうか？と思えるほどに狂おしく上昇していくギター・ソロが最高！

4曲目の“スターマン”はシングル・カットもされ、ヒットしたナンバー。ポップなメロディと流麗なストリングスの絡みがこの上なく美しい！エコーをかけたボウイの12弦ギターとミック・ロンソンのアコースティック・ギターのアンサンブルも素晴らしい。スズキ「ソリオ」のTVCMソングとして使用されていたので、このアルバムを知らなくても一度は耳にしたことがあるはず。

少し飛ばして8曲目の“君の意志のままに”。ライヴではオープニングに配されていたアップテンポでハードなこの曲は、ドライヴ感たっぷりのギターと息を殺した吐息のようなコーラス、そしてハンド・クラップが熱い！ ルー・リードに触発されたであろう歌詞にも注目。「いかした太腿」などセックスを連想させる言葉が頻繁に使われている。

9曲目の“屈折する星くず”はミック・ロンソンのギターが素晴らしい。イントロのギターの音色の独特さは彼の専売特許。簡単そうでいてこの音色はなかなかコピーできないものだ。

ムーグ・シンセサイザーをサックスの音として使用した“サフラゲット・シティ”は単純に格好いいノれるロック・ナンバー。「ヘイ・メン！」というコーラスも最高！頭を空っぽにして踊り狂いたい！！

ラストの“ロックン・ロールの自殺者”はすっかり頭が混乱し、愛しい人を愛することも忘れたジギーが自殺を考える･･･という物語のラストを締めくくるナンバーだが、曲自体は3分にも満たない短さ。盛り上がってきたところで唐突にそしてあっさりと終わりを告げる。もっと壮大な曲に仕上げることも可能であったと考えられるが、このあっさりとした短さほうが物語の余韻に浸れる、というボウイの狙いだろう。そしてその狙いは見事成功している。

因みに『ジギー・スターダスト』は2002年に発表30周年を記念した2枚組仕様のアニヴァーサリー・エディションでも発売された。限定盤なので中古ショップでの入手が主になると思われるが、貴重な音源を収録しているので探してでも聴く価値はある。また2003年には既存の音楽メディアで最も音質が良いとされるスーパー・オーディオCDという最新のフォーマットでも発売された。これを聴いた人の感想は、「とにかく凄かった。音が最高にイイ！」とのこと。ハイブリッド仕様なので通常のCDプレーヤーでも再生が可能だが、SACD対応のプレーヤーで再生したならばマルチ・サラウンドで楽しむことが出来る。対応のプレーヤーをお持ちの方はぜひこの名盤を最高の音質でお試しあれ。