第7位

2005年8月30日 (火)

Leonard Cohen

「過小評価」の似合うバンド(?)と、いちリスナーのひとりごと

『過小評価されているアーティスト』の第7位…Go Betweens

彼らほど「過小評価」という言葉が似合うアーティストもいないようにも思うが、一方でこの7位という順位は正直なところ、どうなのかな?と思う。個人的には嬉しくもあるが、実力のわりにまっとうな評価を与えられていないという基準で見る限り、連綿と続くポピュラー音楽シーンにおいて、彼らがその上位に位置されるアーティストかというと、実はそうでもないような気がする。いきなりの否定的意見で申し訳ないが、ただ確かに言えることは、Robert ForsterGrant Mclennanという、ふたりの個性的なソングライターの趣向が融合しつつ奏でられた(実は今も奏でられている)、通好みのするユニークな楽曲・サウンドの感触が、ポストパンク〜ニューウェイヴ以降、ネオアコやギターポップを愛する音楽ファンや、ある種の初期米オルタナ系ミュージシャン、あるいは多くのミュージシャン予備軍だった楽器素人リスナーに大きな示唆を与えたことは確かだろう、ということ。例えば、この映画はB級映画だね、という言葉が、ときに誇らしげに、嬉しそうに映画通の口から洩れる瞬間に感じられる、「B級」に対する愛情と敬意に満ちたまなざしが、Go Betweensの音楽にも似合うといえば、大体のところは掴んでもらえるだろうか。

ポストパンクの時代に結成

Go Betweensは、1978年オーストラリアのブリスベンで結成された。オリジナルメンバーはRobert ForsterGrant Mclennanのふたり。ちなみにGrantは結成前に楽器を弾いたことがなかったという。同郷のSaintsの活動に勇気づけられたという話もあるが、当時吹き荒れていたパンクのDIY精神の余波が南半球にも押し寄せていたことを感じさせてくれるエピソードだ。同年デビュー・シングル” Lee Remick”を自身で立ち上げたAble レーベルよりリリース。余談だが、同曲はのちにKing Of Luxembourg ことSimon Fisher-Turnerや北欧のWannadiesにカヴァーされている。続いて2枚目のシングル"People Say"を同レーベルより1979年にリリース。ほどなくして紅一点のドラマー、Lindy Morrissonが加入。彼らはロンドンへと旅立つことになる。

渡英〜ポストカード、ラフ・トレード・レーベルからリリース

地元豪州で2枚のシングルを発表したGo Betweensは、1980年に3枚目のシングル” I Need Two Heads”を、英国のポストカード・レーベルからリリース。ちなみにポストカードは、Aztec CameraOrange JuiceJosef Kといったスコットランド出身のバンドを擁したレーベルで、今でもギターポップ・ファンの間では、伝説のレーベルとして語り継がれている。そして1981年、遂にデビューアルバム『Send Me A Lullaby』をUKラフ・トレードからリリース(豪州ではBirthday Partyらを擁したミッシング・リンク・レーベルから)。ここではポストパンク色の濃い演奏を聴かせてくれる。名作セカンドアルバム『 Before Hollywood 』は1983年リリース。前作でみせたVelvet UndergroundTelevisionTalking Headsといった米バンドにあるような前衛性をダイレクトに感じさせる空気感と、Orange JuiceJosef Kらの音とも通底する、ポストパンク期特有の生硬でヘタウマっぽくはあるが何ともいえないメロディアスな要素が絶妙に融合している。

Spring Hill Fair以降〜メロディアスな後期

ベースのRobert Vickersを加えて4人組となったGo Betweensは最高傑作の誉れ高いサードアルバム『 Spring Hill Fair 』をSireレーベル移籍後の1984年にリリース。この辺りから比較的親しみ易いメロディ志向の作風となってくる。1986年には、4作目『Liberty Belle And The Black Diamond Expres』をベガーズ・バンケット・レーベルから発表。Everything But The Girlと共演した"Head Full Of Stream"はこのアルバムに収録されている。アルバム一曲目”Right Here”の軽快さに代表されるポップさが一層進んだ5作目『Tallulah 』は、1987年発表。ヴァイオリン、オーボエを担当するAmanda Brownを加えた彼らは5人組となっていた。ロンドンを離れ、オーストラリアに戻り制作された第一期のラストアルバム『16 Lovers Lane』は、1988年発表。ベースがRobert VickersからJohn Willsteedに交替。この作品もファンの間で評価が高い。ポストパンク期の混沌とした空気感をたたえた初期から、弦・管までを用いるようになった、この作品に漂うスムースとも穏やかともいえるムードに至るまで、Go Betweensはその音楽性をキャリアの中で無理なく変化させながら、常に素晴らしい音楽を作り続けたのだった。

ソロ活動〜Go Betweens再結成へ

どちらかというとバンドのソフトで渋めな面を代表するGrant Mclennan、もう一方のクールでエキセントリックな側面を代表するRobert Forster。90年代に彼らはそれぞれソロ活動に向かった。また一方でGrant Mclennanは同郷のChurchのメンバーらとJack Frostというユニットを組んだりもしていた。

カルト的な人気は相変わらずでバンド活動期同様、素晴らしい内容の作品を地味に発表し続けていたRobertGrant。1996年のベガーズ・バンケット・レーベルからの旧譜再発を起点として彼らへの再評価の声が高まり、同時期から単発でGo Betweens名義でのツアーなどもあったが、実際コアなファン以外には、そうした動きはそれほど知られるところではなかったので、2000年の復活作『The Friends Of Rachel Worth』の発表は、多くの音楽ファンにとって出会い頭なインパクトに満ちていた。好評を博した『The Friends Of Rachel Worth』のあと、2003年には『 Bright Yellow Bright Orange』、2005年には『Oceans Apart』と、再生Go Betweensはコンスタントなリリースを続けている。2003年にはなんと結成25年目にしての初来日公演があったのはまだ記憶に新しいところだ。

Go Betweensが残したもの、残していくもの

Velvet UndergroundTelevisionなど、ほの暗いNYアート系パンクの流れとBob DylanC.C.R.などのフォーク・ロックやア−シーなロックンロールを同列に置く視点をベースに持ちながら、アマチュアっぽさのある、ちょっとした粋なアイディアや愛すべきメロディ、切ない抒情をその楽曲に込めるソングライティングの妙。ふたりのソングライターの個性が絶妙なバランスで機能し、一見控えめに見えるかもしれないが、堂々とした主張を感じさせるバンドの佇まい…。

Go Betweensは、決して商業的な成功に恵まれたバンドではなかったし(今もそうだ)、結果的に、いわゆるメインストリームの音楽シーンには、引っ掻き傷すら残さなかったのかもしれないが、そのユニークさと「愛しい」という形容がぴったりくる感触とを持った楽曲・サウンドは、ある種のリスナーに、確かにしっかりとした痕跡を残したと思える。また彼らの音楽をいま聴き直してみると、同時期に活躍したバンドの音に比べても、格段に古びていないどころか、未だ瑞々しさを失っていないように感じるから不思議だ。そして何よりGo Betweensは現役のバンドとして、新しいファンを開拓していっている。彼らは今後も「伝説」とは無縁の普段着の音楽を紡いでいき、ささやかだけど確かな影響をリスナーに与え続けていくだろう。

※表示のポイント倍率は、
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

フィーチャー商品