第20位

2005年8月4日 (木)

B.B.キングに敢えてならなかった男

アメリカ黒人社会で絶大なる支持を集め、“ブルーなフィーリング”を歌わせたら天下一品の名士、Bobby“Blue”Bland。

天性的なブルー・ヴォイスとゴロゴロいう「うがいシャウト」と呼ばれるダイナミックな唱法を武器に、 若い頃はブルースにゴスペル唄法を持ち込み、人々を鼓舞するようなダイナミックなシャウトで魅了、ベテランの域に入ってからはそこに円熟味が加わり、聴く者を癒すような懐の深さでブルースの素晴らしさを表現した偉大なるシンガーである。

Bobby Blandは、 あのB.B.Kingと並ぶブルース界の巨頭として評価されてしかるべき人物である。彼は63もの曲をチャートインさせたという記録があり、それはMarvin GayeやStevie Wonderよりも遥かに上に位置しているのだ。

にもかかわらず、なぜ、彼は日本でこんなに知名度が低いのか。

長い歌手生活のはじまり

1930年テネシー州メンフィス市外で生まれた彼は 47年にメンフィスに移住し、すぐにゴスペル・グループで歌い始めたという。メンフィスの歓楽街であり多くのレジェンドが出現したビール・ストリートに出入りし、既に活躍していたRoscoe Gordonらと知り合うようになる。

51年8月に初録音。翌年にはIke Turnerの口ききでモダン・レーベルからシングル2枚を発表している。52年には、メンフィスのDJ、ジョー・マティスが設立したデューク・レーベル入りを果たすが、翌年から2年半兵役に出た後（日本に駐在していたことも）、 55年に復員する。

黄金のデューク時代

このデューク期のブランドこそ長いキャリアの中でも最も輝いていた時期だというファンは多い。 57年にR&Bチャート1位となった初ヒット"Farther Up The Road"をはじめ実に45曲をチャート・イン（内20曲がトップ10入り）させている。それだけヒットを飛ばしていてもブランドは61年頃までJunior Parkerの前座として黒人向けのクラブをまわるチトリン・サーキットをまわっていたというから驚きだ。

ハードな初期の名曲"Farther Up The Road"、 壮絶なゴスペル・ブルース"Cry, Cry, Cry"、No.1ヒットとなった"I Pity The Fool"、同名タイトルのアルバムは必聴の"Two Steps From The Blues"、クールでイカす"Ain't That Lovin' You"、抑えた歌い方が渋い"Queen For A Day"やダイナミックなジャンプナンバーの"Turn On Your Love Light"、スタンダードのカヴァーなら"Stormy Monday Blues"などこの頃のブランドは名曲のオンパレードだ。

マラコ時代

73年にデューク/ピーコックがABCに買収され、ブランドはそのままABCの専属に。ややポップ寄りなサウンドにもなるが、85年、ミシシッピのレーベル、マラコに移籍してから彼の第二の黄金時代が始まる。既にZZ Hillとの"Down Home Blue"のヒットで勢いづいていたブランドは同年、傑作「Members Only」をリリース。特にタイトル曲は優しさとほろ苦さが混ざった大人のためのブルージーなバラッドとして今も尚、人気曲の一つである。

その後もマラコから年に一枚というペースでアルバムを発表し続け、92年には遂にロックの殿堂入りを果たす。そして、98年には齢70にして初となるライヴ・アルバム「Live on Beale Street」をリリース。枯れた味わいも加わり未だ現役であるところを証明してみせた。

ブランドこそホンモノの歌手

ここ数年、何度目かのブルース再評価の波がやってきているが、その動きはロック・フィールドから発せられたものであり、ギターはおろか楽器を一切やらない、いわゆる“スタンダップ・シンガー”であるブランドに対してスポットが当ることは少ない。

一方、 彼とよく引き合いに出される B.B.Kingは、ギタリストであり、彼を崇拝するロック・アーティストたちと積極的にコラボレーションを行うなどポップ・シーンで盛んに活躍してきたが、ブランドはチトリン・サーキットを重要視し、黒人街のスターであることを選んだということが彼の過小評価に繋がったというのもあるだろう。

しかし、よく考えてみて欲しい。あの最も厳しと言われるアメリカのミュージック・シーンでキャリア50年に届こうとしているこのいかつい大男は楽器に頼ることなく、己の喉だけで勝負してきたのだ！その凄まじい事実は、彼の歌を聴けば一発でわかるはずだ。

ブランドこそ、シンガーズ・シンガーという称号が最も相応しいアーティストである。